Logo
不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!
不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!

不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!

47 エピソード
完結
「不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!」は、伝説の外科医・竹内汐月が記憶と脚の自由を失った財閥御曹司・清水晟暉を救う物語。世間が彼女を素人と侮る中、汐月は婚姻届を手に冷徹な彼のリハビリと執刀に挑む。最新のbillionaire向けromance novelとして、医療の最前線で繰り広げられる再生と逆転のドラマ。男が再び立ち上がった時、主治医と患者の関係は甘い独占欲へと変貌する。web novelで人気の最強タッグが贈る、運命を切り拓く愛の軌跡。
『不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!』第1話

三月の北央市は、立て続けに報じられたいくつかのニュースに揺れていた。

一つは、市随一の富豪である清水家の長男、清水晟暉が交通事故で下半身不随の身となったこと。

そしてもう一つは、その名門・清水家が、成り上がりの竹内家と縁談を結んだという報せ。

さらに、この縁談の当事者こそが、人々の憶測を掻き立てていた。

一方は、事故で未来を断たれ、下半身不随となった清水晟暉。

もう一方は、竹内家が「田舎に預けていた」という名の、忘れられた長女。

その頃、世間の噂の中心にいる竹内汐月は、まだ静かな田舎町にいた。

居間で静かに座っていると、携帯電話がメッセージの着信を告げた。

画面に目を落とせば、アシスタントからの連絡だった。

「先生、少々特殊な症例の患者様が、半年ほど前から先生の診察を心待ちにしておられます。 もしご都合がつけば、一度診てはいただけませんでしょうか?」

白く細い指が、ためらいなく電源ボタンを長押しし、画面の光を闇に沈めた。 うつむいた拍子に、その透き通るような瞳からふっと光が消え、言いようのない哀しみが影を落とした。

たとえ「鬼医の手」と称され、世界的な名医であろうと、それが何になるというのか。

自分は、たった一人の祖母さえ救えなかった。 メスを握る覚悟を決めた時には、祖母はもう待ってくれなかったのだ。

背後の寝室からは、両親の口論が漏れ聞こえてくる。 田舎の家の壁は、都会のそれよりずっと薄い。

「奈美!いい加減にしろ!母さんが亡くなって、葬式が終わったばかりなんだぞ。 もう帰るだなんて、騒ぐんじゃない!」

「泰輝!会社には仕事が山積みで、優桜の成人式も控えているのよ!死んだ人間より、生きている人間のことの方が大事でしょう! あの子を早く連れ帰って、都会の常識を叩き込まないと。あんな田舎娘が清水家に嫁いだら、竹内家の恥になるわ!」

「奈美、さっきから田舎娘、田舎娘と……あの子だってお前の腹を痛めた娘だろうが!」

「実の娘じゃなきゃ、わざわざこんな所まで迎えに来るもんですか」竹内奈美は鼻で嗤う。

“……”

母親の嘲笑に、汐月もまた唇の端を歪めて自嘲の息を漏らす。

――これが、血の繋がった実の両親。そんな両親との記憶を、汐月は静かにたどる。

もとはごく普通のサラリーマンだった両親は、裸一貫で事業を興し、一歩ずつ成功への階段を上ってきた。

事業の初期段階で子育てに割く時間などあるはずもなく、汐月は生後一ヶ月で祖母の元へ預けられた。

それでも、以前はまだ両親の愛情を感じられた。 多忙な合間を縫っては、気にかけてくれることもあった。

すべてが変わってしまったのは、いつからだったか。

事業が軌道に乗り、会社を設立し、そして汐月が七歳の時に妹が生まれた。

その日を境に、両親の関心は急速に汐月から離れていった。 一方で、竹内家の事業はうなぎ登りに拡大し、やがて名家と呼ばれるまでになった。

たまに母からかかってくる電話は、決まって妹がいかに家の「福の星」であるかの自慢話ばかり。 汐月の学業や健康を気遣う言葉は、一言もなかった。

まるで、幸運をもたらす娘が自分たちにはいるのだと、世間に知らしめるためだけの道具のように。

妹が三歳の時、一度だけ両親が帰省したことがある。

その時、父が祖母と汐月を北央市に引き取ろうと提案したが、母の浮かべる笑顔がひどく強張っていたのを、汐月は見ていた。

母が父に何を吹き込んだのかは知らない。 結局、父が二人を連れて行くことはなかった。

実家に戻った母は再び身ごもり、今度は弟が生まれた。

それ以来、あの夫婦の関心は完全に二人の子供へと注がれた。 仕送りこそ途絶えなかったが、十五年間、一度として顔を見せることはなかった。

祖母が逝かなければ、あの夫婦は自分たちに母親がおり、そしてもう一人娘がいたことすら、記憶の底に沈めたままだったのかもしれない。

*

祖母の葬儀を終えると、汐月は両親と共に北央市へ向かうことになった。

両親はしきりに北央市へ来るよう求め、その言葉はどこまでも懇切で、まるで心の底から娘を案じているかのようだった。

彼らの魂胆など、汐月にはお見通しだった。 北央市のニュースは、ネットで検索すればすぐに出てくるのだから。

北央市の邸宅に到着する直前、後部座席の汐月に奈美が声をかけた。

「汐月、いいこと?誰かに大学を聞かれたら、『景原市医科大の修士課程を修了して、これから研修医になるところです』と答えなさい」

奈美は、娘が碧山町という山間の田舎町で、小さな診療所の手伝いでもしているのだろうと高を括っていた。

大学にも行かずに、そこの医者から見よう見まねで医術を学んだ程度だろう、と。

祖母が何度か「汐月は医学の道に進んだ」と口にするのを聞いて、勝手にそう決めつけていたのだ。

景原市医科大学は、全国屈指の名門。 そう言わせるのも、ひとえに自分の面子のため。

竹内家の娘が田舎の医者見習いなどと知られれば、物笑いの種になる。 その言葉に、汐月は内心で鼻白んだ。

母、竹内奈美は見栄と虚飾の塊だ。 そして、娘のことなど何一つ理解しようとしない。

何を隠そう、その景原市医科大学から、一ヶ月前に学生への講演依頼が届いたばかりだというのに。

母親でありながら、娘の学業に一度も関心を示さず、病気で主要二科目を欠席し合計点が低かったというだけで、大学には到底受からないと決めつけた。

祖母が電話口で名門校合格の吉報を伝えようとしても、「仕事が忙しい」の一言で無下に電話を切った。

彼らが関心を示さないのなら、と祖母も汐月も、いつしか共有することを諦めてしまった。

汐月は母を一瞥し、冷ややかに答えた。 「私は、景原市医科大の学生ではありません」

その融通の利かない返答に、奈美は苛立ちを隠せない。 まるで木偶の坊だ。

もちろん、娘が景原市医科大の学生でないことくらい承知している。 本当にそうなら、嘘をつかせる必要もない。

大した能もないくせに意地っ張りで、口にするのも恥ずかしい。 それに引き換え、優桜は。

容姿こそこの姉には一歩譲るが、出来は比べ物にならない。

奈美が何か言おうと口を開きかけたが、前の席から泰輝の咳払いが聞こえ、ぐっと言葉を飲み込んだ。

仕事の話はさておき、と奈美は掌中の珠である末娘に思いを馳せ、その声に甘い響きが混じる。

「そうそう、優桜は少し甘やかして育てたから、わがままなところがあるの。 あなたが姉さんとして譲ってあげてね。 あの子の機嫌を損ねたら、ご飯も食べなくなるんだから」

汐月は馬鹿馬鹿しいと思った。 もうすぐ十八にもなろうというのに、分別もつかないとは。 確かに、甘やかされすぎている。

言葉が終わるか終わらないかのうちに、車は豪奢な邸宅の門前に滑り込んだ。

汐月が先に車を降りる。

そこへ、制服姿の少女が駆け寄ってきた。 竹内優桜だ。

「パパ、ママ!やっと帰ってきたのね!」

汐月を見るなり、優桜の弾んだ声がふと途切れ、値踏みするような視線が注がれる。

汐月は、シンプルなオフホワイトのパーカーに淡い黄色のカジュアルパンツ、足元は白いスニーカーという出で立ちだった。

ごくありふれた服装だが、彼女の整いすぎた顔立ちと、透き通るような肌の白さが、清らかな気品を醸し出していた。

とても長い間、田舎で暮らしてきた人間には見えない。

この人が、竹内汐月。 自分と同じ父母から生まれながら、一度も共に暮らしたことのない姉。

北央市で常に「お嬢様」として蝶よ花よと育てられてきた優桜の胸に。

汐月の突然の帰宅は、名状しがたい不快感を広げた。

「まあ、優桜!心配したじゃないの。 こんな薄着で飛び出してきて、風邪をひくわよ」

優桜が薄いTシャツ一枚しか着ていないのを見て、奈美は見るなり慌てて自分の上衣を脱ぎ、その肩にかけてやる。

優桜は嬉しそうに母の腕にじゃれついた。 「えへへ、ママ、全然寒くないよ」

母と娘が睦まじく笑いさざめきながら家に入っていく。

その光景に、初めてこの家を訪れた長女の存在など、とうに意識の外だった。

その途中、優桜が一度だけ振り返り、意味ありげな視線を汐月に投げかけた。

泰輝もまた愛娘の姿に顔をほころばせ、つい口を滑らせて汐月に紹介する。

「あれがお前の妹の優桜だ。 とても優秀でな、大学入試の成績も良かった。 もう景原市医科大学の合格通知も受け取っているんだ……」

続きを読む
話数を選択
CH. 1CH. 2CH. 3
CH. 4
CH. 5
CH. 6
CH. 7
全て
小说の全編を読むならこちら
moboreader
今なら無料で読める!

こちらもおすすめ

追い出された果てに、億の愛が始まる
追い出された果てに、億の愛が始まる
20年間尽くした家から追放された恩田寧寧。しかし、貧乏だと思われていた彼女の正体は、海城一の名門のお嬢様だった。億単位の資産と才能を持つ兄たちに溺愛され、華麗な転身を遂げる現代のbillionaireストーリー。彼女を捨てた元婚約者が後悔する中、名門家同士の新たな縁談が動き出す。真実を知り愕然とする周囲をよそに、運命を切り拓く彼女の逆転劇が今始まる。人気のromance novelとして、家族の絆と真実の愛を描く。
逃避行:政略結婚
逃避行:政略結婚
5年間支え続けたIT企業のbillionaire、湊の愛が偽りだと知った主人公。常に元カノを優先し、自分を使い捨ての代用品として扱う彼への復讐と絶望の果てに、彼女は身代わりの政略結婚という道を選びます。大人気romance novel『逃避行:政略結婚』は、嘘に塗り固められた関係を捨て、自らの運命を切り拓く女性の変革を描くmodernな愛憎劇です。無料のweb novelで今すぐ彼女の決断の行方をチェックしましょう。
追放されたら、私が億万長者の万能チートだった件!
追放されたら、私が億万長者の万能チートだった件!
偽の令嬢として追放された清辞。だが、彼女の正体はハッカー界の伝説にして億万長者の万能チートだった!billionaire romance novelsの世界観を覆す圧倒的スペックで、溺愛する4人の兄と共に自分を捨てた者たちを逆転。現代を舞台にしたこのmodern novelでは、元婚約者や身勝手な家族を実力で圧倒する痛快なadventure storyが展開されます。真の才能を隠し持つ彼女が、愛と復讐の果てに掴む真実の結末とは。
偽装婚の花嫁を失い、御曹司は愛を乞う
偽装婚の花嫁を失い、御曹司は愛を乞う
幼なじみの角膜を守るため、7年間献身的に尽くした末に待っていたのは偽りの結婚だった。『偽装婚の花嫁を失い、御曹司は愛を乞う』は、裏切りを知り姿を消した女性と、失って初めて執着に気づいた御曹司の運命を描くbillionaireジャンルのromance novelです。本物の妻は別にいるという残酷な真実を前に、彼女は決別を選びます。後悔に苛まれる男が愛を乞う、現代を舞台にした切ないmodern novelをぜひお楽しみください。
灰の中から立ち上がる:消された天才令嬢の帰還
灰の中から立ち上がる:消された天才令嬢の帰還
『灰の中から立ち上がる:消された天才令嬢の帰還』は、夫の裏切りに遭った天才研究者が復職し、真実を暴く姿を描くbillionaireジャンルのromance novel。命の危機に瀕した自分を冷遇し、両親の仇である従妹を寵愛する夫に絶望したヒロインは、離婚届にサインし封印していた数億円の資産を解放する。略奪者の正体と事故の真相を追う、華麗なる逆転劇。web novelで人気の痛快な復讐劇が幕を開ける。
「私があなたを一生養う」と誓った相手は、世界で最もミステリアスな富豪でした
「私があなたを一生養う」と誓った相手は、世界で最もミステリアスな富豪でした
結婚式当日に婚約者に裏切られた神崎澄玲は、自分を救った無一文の整備士と電撃結婚を決意する。元婚約者や妹の嘲笑をよそに、夫を養うと誓い再起を図る彼女だったが、その夫の正体は世界を支配するミステリアスな大富豪だった。人気の大富豪やマフィアの要素が絡み合う、逆転劇が爽快な現代ドラマ。本作は、運命の選択から始まる愛と復讐を描いた注目のbillionaire romance novelsです。実力派ヒロインが真実の愛を掴む物語を、今すぐwebnovelでチェック。

新作ウェブ小説

MiniShortで大人気

元夫は私の後継者の身元を疑って?
元夫は私の後継者の身元を疑って?
離婚後、元夫は彼女をただのシンデレラと見なしていましたが、彼女の富裕を知りませんでした。故郷に帰り、彼女の億万長者兄弟たちは彼女を抱擁しました。元夫はさらに、彼女が金持ちの恋人を持っていると誤解していました。真実が明らかになると、彼女は皆を軽蔑されて後悔させました。
狂龍の帰還
狂龍の帰還
彼は家族を養うために一生懸命働いていたが、妻に裏切られ、ライバルの罠にまんまとハマってしまった。彼は投獄されただけでなく、闇市に売られてしまった。死を前にし、彼は思わず莫大な財産を受け取ることになってしまった。
ただ、あの時は惘然として
ただ、あの時は惘然として
恋人を救うも裏切られ命を落とした歌手マット。生まれ変わった彼は、スターへの道を駆け上がりながら、非情な復讐を誓う。
ワイナリーの真実
ワイナリーの真実
川口咲良と上田隆史は結婚して三年になる。夫婦は表面上は非常に仲睦まじく見えていたが、上田隆史は裏で川口咲良のお金を使って自分の愛人である伊藤明美を養い、さらには川口咲良名義の価値なん百億円のワイナリーを伊藤明美に贈っていた。ある偶然の機会に、川口咲良は上田隆史と伊藤明美の不貞な行為を発見し、果断に不実な夫と卑劣な女を叩きのめした。
神のように降りた彼
神のように降りた彼
ある貧しい少女は、親友の叔父と一夜を共にした後、偶然妊娠してしまった。
裏切りの色 復讐の筆で塗り潰す
裏切りの色 復讐の筆で塗り潰す
"妊娠中のフェニックスは、夫アダムの元恋人ミランダが子供を連れて現れたことで言葉を失う。 だが本当の地獄は、ミランダに階段から突き落とされたその瞬間。流産した彼女を、アダムは信じることなく見捨てた。 誰も知らなかった、フェニックスこそ、世界的に名を馳せる芸術家「エンジェル」、そして莫大な資産を持つ財閥の令嬢。 偽りの仮面を捨てた今、彼女はそのすべてを取り戻す。 芸術の舞台で、圧倒的な才能と美しき復讐が始まる"