話 2
ケインの瞳が一瞬で収縮したが、すぐに無表情に戻った。
「間違いを犯したなら認めろ、オードレト。 」 彼は私を見下ろしながら言った。 「そんな馬鹿げた嘘をつく必要はない。 」
その視線を、私は初めて見たわけではない。
何年も前、白狼族の宮殿で、父も同じように失望した目で私を見たことがあった。
あの頃、私は部族で唯一のクイーンで、誰もが私が白狼部族を継ぐと知っていた。
18歳のあの年、国境の森で傷ついたケインに出会い、月の神様が彼が私の運命の人だと教えてくれた。
私は何度も部族を抜け出して彼に会いに行き、ついにそれが露見した。
両親は怒ってはいなかったが、深い失望の目をしていた。
父の声は低く響いた。 「もしそのアルファを選ぶなら……」
「白狼も、すべてを捨てることになる。 これからは、もうここには属さない。 」
ケインを選ぶことが白狼のすべてを捨てることだとわかっていながら、私は「はい」と言ってしまった。
その夜、私は部族から追い出された。
記憶が薄れる中、 再び彼の目を見た。 かつて私を魅了したその目には、
今や嫌悪しか残っていなかった。
私は突然笑い、心が凍るように思った。 「やっぱり…あの時の決断は間違いだった。 」
ケインの眉が瞬時にひそめられた。
彼にはそれが不貞を認めたように聞こえたのだ。
「やはり不貞を働いたのか。 」彼は低く言った。 「もっと早く気づくべきだった。 」
その時、エリンが突然駆け寄ってきた。
彼女は私の腕から子供を奪い取った。 あまりの速さに私は反応できなかった。
「混血なら、残しておくべきではない。 」
私の心は沈み、全身の血液が一瞬で凍りつくようだった。
次の瞬間、彼女は子供を石の床に叩きつけた。
「やめて!」私は叫びながら前に飛び出そうとした。
隣にいた二人の兵士がすぐに私を制止し、腕をつかんだ。
石の床に鈍い音が響き、子供の泣き声は弱まった。
ホールには死のような静寂が訪れた。
誰もが子供が死んだと思った。
私はその場に崩れ落ちた。
すると突然、かすかな泣き声が再び響き、小さな体が石の床で動いた。
彼の額の白狼の印が月光の下で微かに輝いていた。
エリンは目を細めた。 「さすが白狼、血筋は本当に強いわね。 」
彼女は近くにいたベータから一本の短剣を受け取った。
刃は冷たい白い光を放っていた。
私はそれを一目で見分けた。 それは銀でメッキされた短剣だった。
狼には銀が一番危険。
そして今、それは私の子供に向かっていた。
エリンは優雅な動作で短剣を高く掲げた。
恐怖が私を瞬時に飲み込んだ。
「やめろ!」 私は激しくもがき、 私をつかんでいた兵士たちは無防備で、
私はその手を振り払って子供に駆け寄った。
しかし、エリンの短剣はすでに振り下ろされていた。
ザクッ――刃が肉に突き刺さった。
話 3
背中に激しい痛みが襲った。
喉に苦味が広がり、血を吐き出した。
銀の短剣が私の体に刺さり、傷口から血が滴り落ち続けているが、痛みを感じることはなく、ただ腕の中の子供を守っていた。
アイリーンは短剣の柄を握り、ゆっくりと私の体から引き抜いた。
その瞬間、目の前が真っ暗になり、ほとんど立っていられなかったが、手は少しも緩めなかった。
すべての狼男たちが静かにこの光景を見つめていた。
「もういい。 」
ケインがついに口を開き、私の血に染まった口元を見て、目に一瞬のためらいを浮かべた。 「オードレッド、最後のチャンスを与える。」
「この子を自分の手で殺せば、何もなかったことにして、君はまだ私のルナでいられる。 」
息が詰まった。
私に、自分の子供を殺せと言うのか?
「もし拒否したら?」と歯を食いしばりながら反問した。
「その場合、パートナーとしての絆を断ち切る。 」 ケインは少し間を置いて、さらに冷たい声で言った。 「今後、君は狼の群れの奴隷になるだけだ。」
心が引き裂かれるような痛みを感じた。
その時、アイリーンは軽く笑いながら私の前に歩み寄り、血に染まった銀の短剣を私の手に押し付けた。
「簡単なことよ、オードレッド。 」 彼女は身をかがめて私を見つめ、優しく言った。 「この子を自分の手で殺せば、君はルナのままでいられるし、ケインも君を許すわ。」
腕の中の子供が少し動き、短剣を握る手が震え始めた。
ケインはそこで私を見つめ、目の冷たさが少し和らいだようで、私が動けばすべてが元に戻るかのようだった。
私はゆっくりと短剣を持ち上げた。
アイリーンの笑みがますます深くなった。
次の瞬間、銀の刃が直接振り下ろされた。
血が飛び散った。
アイリーンは悲鳴を上げた。
短剣は彼女の腕を激しく切り裂き、血が彼女のドレスを真っ赤に染めた。
私は目を見開き、叫んだ。 「誰も私に自分の子供を傷つけさせることはできない!」
ケインの顔色が変わった。 「アイリーン!」
すぐに、彼は私を憎しみの目で見た。 「彼女を捕まえろ!」
数人の狼男がすぐに駆け寄った。
ケインは地面からその銀の短剣を拾い上げ、冷たい声で言った。 「君がその混血を守りたいというなら……」
「私が自ら彼を死に追いやる。 」
彼が一歩一歩私に近づいてくるのを見て、心臓が激しく鼓動し、叫んだ。 「来るな!」
胸に突然激痛が走った。
その時、銀白色の光が突然私の体に現れた。
その場にいた全員が固まり、ケインも足を止めた。
信じられないという声が上がった。 「今のは何だ?」
「白狼の印か?」
「彼女は嘘をついていない、本当に白狼なのか?」
「でも彼女には狼がいないはずだ。 」
私は自分の体を見下ろした。
その印は一瞬しか現れなかったが、それが私の白狼であることはわかっていた。
極度の悲しみの中で、あの時の封印が少し緩んだようだった。
ケインは大股で私の前に来て、私の手首を掴み、初めて動揺を見せた。
「さっきのは何だ? 君は白狼の部族の者か?」
私は答えなかった。
あの時の誓いが鎖のように喉を締め付けていた。
アイリーンはすぐに傷を抑えてケインに寄り添った。 「ケイン、あなたは本当に信じたの?」 「狼もいない者が、どうして白狼の部族の者なの?」
「でも……可能性がないわけではない。 」 彼女はゆっくりと再び口を開いた。 「雑種の狼には、もともと少し白狼の血が混じっていることもあるわ。 」
ケインの目の中の希望が少しずつ消えていった。
「だから君は本当に雑種の狼を探して交配し、この子を産んだのか?」
その屈辱的な問いを聞き、爪が掌に深く食い込んだが、一言も言えなかった。
ケインは突然自嘲気味に笑った。 「私は本当に愚かだった。 また君を信じそうになった。」
アイリーンはケインの感情に気づき、目の奥に一瞬の焦りを見せたが、すぐに怨恨に取って代わられた。
彼女は突然ケインの襟を引き、つま先で立ち上がって情熱的にキスをした。
ケインは最初は少し驚いたようだったが、視線が私に移ると、動揺はすぐに怒りに押しつぶされた。
次の瞬間、彼はアイリーンの後頭部を掴み、さらに深く応えた。
その瞬間、体と心の二重の苦痛が私を襲った。
私は苦しみで目を閉じた。
そしてついにわかった。 私が愛したあのケインはもういないのだと。
再び目を開けた時、もう未練はなかった。
「ケイン。 」
「私は自分からあなたとの関係を断ち切りたい。 」