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個展のオープニングパーティーで, 長年の婚約者と親友の情事を目撃した. 絶望の淵にいた私を救い, 結婚してくれたのは, 大学の先輩, 一朗さんだった.

しかし, 彼の優しさの裏には恐ろしい計画が隠されていた. 私のお腹の子は, 彼が密かに想いを寄せる親友の卵子を使った代理出産であり, 子供が生まれたら私には死産と偽り, 彼女に渡す計画だったのだ.

「琴莉は絵にしか興味がない. 子供がいなくなっても, また次の治療をすればいいとでも思わせれば, 簡単に諦めるだろう」

書斎から聞こえてきた彼の声. 私の信じていた全てが, 音を立てて崩れ落ちていく.

優しい夫の仮面の下に隠された, 冷酷な裏切り. 私の両親までもが, この計画に加担していた.

私は, この偽りの家族と, 彼らの汚れた計画の証である子供を捨てることを決意した.

これは, 私を嘲笑い, 利用した彼らへの, 私の宣戦布告だ.

第1章

琴莉 POV:

展覧会のオープニングパーティーの裏で, 長年寄り添ってきた婚約者の上原厚樹と, 親友のはずの松本藍が情事に耽っている姿を目撃した. 私の心は, 凍りつくような冷たさに襲われた.

目の前の光景は, あまりにも現実離れしていた.

厚樹の無責任な笑い声と, 藍の甘えた声が, 真っ白なキャンバスに描かれた私の作品の前で響いている.

彼らが私を裏切っていることは, 一目で分かった.

私の世界が, 音を立てて崩れていく.

私はその場に立ち尽くした.

会場のざわめきが遠のき, 耳鳴りがする.

呼吸がうまくできない.

全身が震えて, 立っていられなくなりそうだった.

突然, 数人の客が私に気づいた.

彼らの視線が, 私の足元に刺さる.

囁き声が聞こえた.

「あれ, 牧野先生じゃない? 」

「一体, 何が起きてるの? 」

厚樹と藍は, 私の視線に気づいて体を離した.

藍の顔は青ざめ, 厚樹は狼狽している.

彼らの視線は私を突き刺し, 私を嘲笑っているようだった.

私は, 世間の嘲笑の的にされる.

それは, 私の芸術家としてのキャリア, そして人間としての尊厳を, 根底から破壊するものだった.

その瞬間, 強い腕が私の肩を抱いた.

「琴莉, 大丈夫か」

聞き慣れた声が, 私の耳に響く.

大学時代の先輩, 夏目一朗だった.

彼は私の個展にも毎回足を運んでくれる, 数少ない理解者の一人だった.

一朗は, 会場にいた全員に向かって, はっきりと宣言した.

「皆さんに大切なご報告があります」

彼の声は落ち着いていて, それでいて力強かった.

彼は私の手を握り, 彼の瞳が私を見つめる.

彼の目は, 私の混乱と絶望を深く理解しているようだった.

「牧野琴莉さん」

彼は私の隣で跪いた.

そして, ポケットから小さな箱を取り出した.

中には, まばゆいばかりのダイヤモンドリングが収まっている.

会場は一瞬にして静まり返った.

「私と, 結婚してください」

彼はそう言った.

私の頭は真っ白になった.

状況が理解できない.

これは夢なのだろうか.

彼のプロポーズは, 私を衆目の嘲笑から救い出した.

私は彼を救世主だと思った.

彼がいなければ, 私はあの場で完全に崩れ落ちていただろう.

彼の腕の中は, 温かくて, とても安心できた.

結婚後, 一朗は私にこの上なく優しかった.

彼の存在は, 私の荒廃した心に, 少しずつ光を灯していく.

彼は私の作品を褒め, 私の意見を尊重した.

私は, 彼こそが私の運命の人だと信じ始めた.

ただ, 一つだけ, 奇妙なことがあった.

彼は, 決して私と体を重ねようとしなかった.

いつも優しく, いつも近くにいたが, その一線だけは超えなかった.

私は少しだけ寂しかったが, 彼が私を尊重してくれているのだと解釈した.

数年後, 私たちは不妊治療に踏み切った.

私の体に問題があるわけではなかったが, なかなか子を授からなかった.

一朗は「焦らなくていい」と言ってくれたが, 私は彼の子が欲しかった.

治療は辛く, 何度も諦めかけた.

それでも, 私たちは諦めなかった.

そして, ついにその日が来た.

検査薬の二本線を見た時, 私の胸は喜びでいっぱいになった.

「一朗, 私, 妊娠したわ! 」

私は彼に抱きつき, 涙が止まらなかった.

一朗も, 心から喜んでくれた.

彼は以前よりもさらに優しく, 私の体調を気遣ってくれた.

毎朝, 私のお腹にそっと手を当て, 「おはよう, 赤ちゃん」と語りかける.

彼の愛情は, 私の心を深く満たしていった.

私は, 一朗との絆を運命だと確信していた.

あの忌まわしい個展の日, 一朗は私を地獄の淵から救い出してくれた.

そして彼は, 壊れた私を, まるで宝物のように大切に扱ってくれた.

この子は, 私たち二人の愛の結晶なのだ.

ある日, 私は一朗の秘書が彼と電話しているのを偶然耳にした.

秘書の声は小さかったが, 私の耳には良く聞こえた.

「松本様の件, 順調に進んでおります. 牧野様は何もご存知ありません」

松本様?

藍のことだろうか?

私の胸に, 嫌な予感がよぎった.

次の日, 私は偶然, 一朗の書斎で彼のパソコンが開いているのを見つけた.

画面には, 見慣れないファイルが開かれている.

タイトルは「プロジェクト・ブルー」.

好奇心にかられてクリックすると, それは衝撃的な内容だった.

私の名前, 藍の名前, そして「代理出産」という文字.

そこには, 恐ろしい計画が記されていた.

私のお腹の子は, 一朗が密かに想いを寄せる藍の卵子を使った代理出産であり, 子供が生まれたら藍に渡し, 私には死産だったと偽る計画だった.

「琴莉は絵にしか興味がない. 子供がいなくなっても, また次の治療をすればいいとでも思わせれば, 簡単に諦めるだろう」

一朗の声が, 書斎のスピーカーから流れてきた.

これは, 彼と秘書の録音データだった.

優しい夫だと信じていた一朗の愛情のすべてが, 藍に向けられたものだったと知った瞬間, 私の世界は再び粉々に砕け散った.

いや, 今回は, 砕け散るどころか, 塵一つ残らず消滅した.

私が見ていた「一朗の優しさ」は, すべて演技だったのだ.

私は, 彼らの計画を完遂するための道具でしかなかった.

私の心は, 深い絶望の淵に沈んだ.

しかし, その絶望の底で, 冷たい復讐の炎が静かに燃え上がった.

私は, この汚れた子供を産むつもりはない.

彼らに, 私の体と心を弄ばせた代償を払わせる.

私はすぐに, 堕胎手術の予約を入れた.

この偽りの結婚生活と, 彼らの汚れた計画の証拠である子供を捨てる.

私を嘲笑し, 利用した彼らに, 私はもう二度と振り回されない.

一朗は, 私が何も知らないと思っている.

彼は満面の笑みで, 私の体調を気遣う振りをするだろう.

「琴莉, 最近顔色が良くないよ. 無理をしてはいけない」

夕食時, 一朗は私の顔を覗き込んだ.

「琴莉, 何かあったのかい? 元気がないようだけど」

彼の心配そうな瞳は, かつての私を安心させた.

しかし今, その瞳の奥に見えるのは, 私を愚弄し, 利用しようとする冷酷な魂だった.

私の胃が, 吐き気を催す.

「大丈夫よ. 少し疲れているだけ」

私は震える声で答えた.

体中の血液が凍りつき, 心臓が鉛のように重い.

私の体は, この残酷な真実に, 正直に反応していた.

私は, この家から逃げ出したかった.

その夜, 私は一睡もできなかった.

ベッドの中で, 一朗の隣で, 私は静かに泣き続けた.

彼の腕が, 私の肩に触れる.

「琴莉, もし何か辛いことがあったら, いつでも私に話してくれ. 私はいつも琴莉の味方だ」

その言葉が, 私の耳に届くたびに, 私の心はさらに深く切り裂かれる.

私は, 彼の偽りの優しさに, もう二度と騙されない.

夜が明ける頃には, 私の心は, 冷たい鉄のように固まっていた.

私は, もう弱い私じゃない.

復讐の炎が, 私の全身を包み込んだ.

これは, 彼らへの, 私の宣戦布告だ.

2

琴莉 POV:

私は, 彼らの計画を完遂させるふりをした.

演技は得意ではないが, この状況で生き残るには, 顔に感情を出してはならない.

冷たくて硬い仮面を被らなければ.

私は, 彼らが私に期待する「夫を愛し, 子供を望む妻」を演じ続ける.

「一朗, 昨日から少し体調が悪いの. 今日の家事は, 少し休ませてもらってもいいかしら? 」

私は声を震わせ, 弱々しく言った.

疲労にやつれた顔を作るために, 一晩中眠らなかった.

目の下には, くっきりと隈ができている.

一朗は, 心配そうに私の顔を覗き込んだ.

「ああ, もちろん. 琴莉は何も心配しなくていい. ゆっくり休んでくれ」

彼の声は優しさに満ちていた.

その優しさが, 私の胸を深く抉る.

彼は, 私が彼の言葉を信じ切っていると思っているだろう.

なんて愚かな男だろう.

彼が書斎に戻っていくのを確認し, 私は静かに心の中でカウントダウンを始めた.

あと, 数時間.

私の自由への道が, もうすぐ開く.

私は, この偽りの世界から, 必ず抜け出してみせる.

数日後, 一朗と一緒に産婦人科を訪れた.

エコー検査のモニターには, 小さな命の姿が映し出されている.

「順調ですね. 赤ちゃんも元気に育っていますよ」

医師は笑顔で言った.

一朗は, 私の手を握り, 感動したような表情を浮かべている.

「琴莉さん, 旦那様は本当に優しい方ですね. 毎回, こんなに熱心に付き添ってくださって」

医師は一朗を称賛した.

私の心の中で, 冷たい嘲笑が響く.

彼のこの演技は, プロの俳優でも及ばないだろう.

私は, ただ微笑んでみせた.

「琴莉, 赤ちゃん, こんなに大きくなったんだな. 早く会いたいものだ」

一朗は私のお腹にそっと手を当て, 優しい声で語りかけた.

その言葉を聞くたびに, 私の胃の奥から吐き気が込み上げてくる.

この子供は, 彼にとっては藍との愛の結晶であり, 私にとっては, 彼らの裏切りの証だ.

早く, この体から, 引き離したい.

病院の廊下を歩いていると, 聞き慣れた声が聞こえた.

「あら, 琴莉じゃない. 偶然ね」

松本藍だった.

彼女は, 数ヶ月前にはなかったはずの, ふっくらとしたお腹を抱えている.

その腹は, 私たちの産院の受付で, わざとらしく膨らんでいた.

藍の顔色は, 健康的で, 喜びにあふれているように見えた.

しかし, 彼女の視線は, 私のお腹ではなく, 私の顔に注がれていた.

その視線の中に, 見覚えのあるどす黒い嫉妬の炎が揺らめいている.

彼女は, 私を徹底的に利用し尽くした上で, 私の全てを奪い去ろうとしているのだ.

私は, 彼女の完璧な演技に, 心の中で冷たい笑みを浮かべた.

「琴莉, あなたも妊娠したの? まあ, 私と同時期なんて, 本当に奇遇ね」

彼女は, わざとらしい驚きの声を上げた.

私のお腹を, いかにも親しげに触ろうと手を伸ばしてきた.

私は, その手が触れる寸前で, さっと体をかわした.

私の体に, 彼女の汚れた手が触れることなど, 絶対に許さない.

「ええ, そうみたいね. でも, 藍は何だか, 随分と元気そうね」

私は, 冷たい声で言い放った.

藍の顔が, 一瞬にして凍りつく.

彼女の目は, 私を睨みつけた.

「何よ, その言い方. 私が妊娠して, 嬉しいんじゃないの? 」

「あら, そんなことないわ. ただ, 少し驚いたのよ. だって, 藍は確か, 体が弱いって, いつも言っていたものね」

私は, 微笑みながら突き放す.

藍は, 私の言葉に激しく動揺した.

彼女の顔は, 赤くなったり青くなったりしている.

彼女は, 私の態度に苛立ちを隠せないようだった.

「琴莉, どうしたんだ. 藍にそんな言い方をして」

一朗が, 藍を庇うように私の前に立った.

彼の腕が, 私の背中に回される.

私は, その腕を振り払うことはしなかった.

彼の温かい手が, 私の背中から, ゆっくりと離れていく.

私は, わざとらしく顔をしかめた.

「ごめんなさい, 一朗. 急に気分が悪くなってしまって... 」

私の言葉に, 一朗は慌てた.

「大丈夫か, 琴莉. 顔色が悪い」

彼は私を支えようと, 肩に手を置いた.

その瞬間, 一朗の視線が, 藍に向けられた.

彼の目の中に, 微かに後悔と, そして「大丈夫だ」と語りかけるような優しい光が宿っていた.

藍もまた, 彼の視線に応えるように, 小さく頷いた.

彼らの間に流れる, 密やかな共謀の気配.

私は, その全てを見逃さなかった.

「一朗, 私, 先に帰らせてもらえるかしら. もう, 我慢できないわ」

私は, 悲劇のヒロインを演じるように, か細い声で頼んだ.

一朗は, 一瞬ためらった.

彼の視線が, 藍と私の間をさまよう.

しかし, 私の顔色の悪さに, 彼は最終的に折れた.

「分かった. 無理はするな. タクシーで帰りなさい」

一朗は, そう言って私を送り出した.

私は, 彼らに背を向け, ゆっくりと歩き出す.

病院の出口に向かう途中, 私は振り返り, 彼らを盗み見た.

一朗は, 藍の傍らに寄り添い, 彼女の肩を抱きしめている.

藍は, 一朗の胸に顔を埋め, 泣きじゃくるように言葉を紡いでいた.

「琴莉が, 私を馬鹿にするのよ. 私の妊娠を, 信じてくれないの」

その声は, 私にははっきりと聞こえた.

彼女の演技は, 見事なものだった.

一朗は, 藍の頭を優しく撫で, 何かを囁いている.

「藍, 大丈夫だ. そんなことはない. 琴莉は今, 体調が優れないだけなんだ. 君のことは, 僕が守るから」

一朗の声は, 藍を慰めるように, 甘く響いていた.

彼は藍の頬に触れ, 彼女に何か小さな箱を渡している.

藍は箱を開け, 中に入っていたネックレスを首にかけた.

それは, 以前一朗が私に贈ってくれたものと, よく似ていた.

「一朗, ありがとう. これで, また少し, 元気が湧いてきたわ」

藍は, 涙を拭い, 満面の笑みを浮かべた.

彼女の指には, まばゆいダイヤモンドリングが輝いている.

それは, 私が一朗から贈られたものと同じデザインだった.

私の心臓が, 冷たい氷で締め付けられるような痛みを感じた.

私は, 彼らの会話から, 藍が最近, 投資で大きな利益を得たことを知った.

「一朗のおかげで, また一つ, 夢が叶ったわ. 本当に感謝しているわ」

藍は, そう言って一朗に抱きついた.

私は, 自分が彼らの計画の駒でしかないことを, 改めて思い知らされた.

私の存在は, 彼らの幸福を踏み台にするためのものだったのだ.

私は, タクシーを捕まえ, すぐに病院を後にした.

車内では, 震える手でスマートフォンを取り出し, 産婦人科に電話をかけた.

「あの, 堕胎手術の予約を取りたいのですが…」

私の声は, ひどく震えていた.

受付の女性は, 淡々と日付と時間を告げた.

電話を切った瞬間, 私のスマートフォンの画面が点灯した.

「琴莉, 無事家に着いたか? 」

一朗からのメッセージだった.

その時, 玄関のドアが開く音が聞こえた.

一朗が帰ってきたのだ.

私は, 慌ててスマートフォンを隠した.

「琴莉, 大丈夫か? まだ顔色が悪いようだが」

一朗は, 心配そうに私の顔を覗き込んだ.

私は, 精一杯の笑顔を作った.

「ええ, 少し休んだら, だいぶ良くなったわ. ありがとう, 一朗」

彼の視線が, 私の手に向けられた.

私は, 握りしめた手のひらに, 深く爪を立てた.

3

琴莉 POV:

「そうか, 良かった. 心配したよ」

一朗は, 安堵したように息をついた.

彼の表情は, 私には読めない.

本当に私を心配しているのか, それとも演技なのか.

しかし, 今の私にとっては, どちらでも良いことだった.

「ねえ, 一朗. 明日は私の実家に帰らせてもらってもいいかしら? 」

私は, 平静を装って尋ねた.

「最近, あまり顔を出せていなかったから」

母と父の顔が, 脳裏に浮かぶ.

彼らもまた, この裏切りに加担していることを, 私は知っていた.

一朗の顔に, わずかな動揺が走ったように見えた.

「実家か…もちろん構わないが, 体調は大丈夫なのか? 」

彼は努めて冷静を装っている.

私は, 彼の心の奥底にある不安を, 敏感に感じ取っていた.

彼は, 私が実家で何かを嗅ぎつけることを恐れているのだろう.

「ええ, 大丈夫よ. 少し気分転換になるかもしれないし」

私は, 笑顔で答えた.

「それに, 藍も妊娠しているのよね. 母も喜ぶと思うわ」

わざと, 藍の名前を出した.

彼の顔が, 一瞬にして強張る.

「ああ, そうだな. 藍も喜ぶだろう」

一朗は, ぎこちなく答えた.

彼の視線が, 私の腹部に向けられる.

私は, 彼の視線の意味を, 痛いほど理解していた.

彼は, 私が彼の計画通りに, 子供を産むことを期待しているのだ.

「分かった. 無理はするなよ. ゆっくり休んでくるんだ」

一朗は, そう言って私の頭を優しく撫でた.

その手つきは, 本当に私を愛しているかのようだった.

彼の演技は, 完璧だった.

私は, 彼に感謝の言葉を述べた.

「そういえば, 琴莉. これを君に」

一朗は, ポケットから小さな箱を取り出した.

中には, まばゆいばかりのダイヤのネックレスが収まっている.

それは, 藍が身につけていたものと, 全く同じデザインだった.

私の心臓が, ドクンと音を立てた.

「ありがとう, 一朗. とても綺麗だわ」

私は, 震える声で言った.

しかし, その心は, 冷たい怒りで満たされていた.

彼は, 私をどこまで愚弄すれば気が済むのだろうか.

彼は, このネックレスを, 私と藍, 両方に贈るつもりだったのだろうか.

それとも, 藍に贈るはずだったものを, 間違って私に渡したのだろうか.

「琴莉には, 本当に良く似合うよ. 僕の選んだものは, 間違いないな」

一朗は, 満足げに微笑んだ.

その笑顔が, 私の目には, ひどく醜く映った.

私は, 彼に首筋にキスをされて, 身震いした.

私の心は, もう彼を拒絶している.

私は, そのネックレスを, そのまま身につけて実家に向かった.

手術の前日だ.

この家には, もう戻らない.

私は, この偽りの家族と, 永遠に決別するつもりだ.

実家のドアを開けると, リビングから母と父, そして藍の声が聞こえてきた.

私は, 足音を忍ばせ, リビングのドアの陰に身を潜めた.

彼らの会話が, 私の耳に飛び込んでくる.

「琴莉は, 本当に厄介な子だわ. いつになったら, 私たちから離れてくれるのかしら」

母の声が, 私の胸を深く突き刺した.

「そうよ, お母様. 琴莉のせいで, 私の計画が台無しになるかと思ったわ」

藍の声には, 苛立ちと, 私への憎しみが込められている.

「あの女, いつまで経っても, 一朗を諦めないんだから」

私は, 耳を疑った.

彼らは, 私のことを, 一体何だと思っているのだろう.

「大丈夫だ, 藍. 一朗も, 琴莉が邪魔だと言っていた. 心配するな」

父の声が, 私をさらに絶望の淵に突き落とす.

「琴莉は, 藍のためなら, どんなことでもすると言っていたからな. まさか, あんなことになるとは思わなかったが」

彼らは, 私を利用することしか考えていなかったのだ.

私の心の中で, 何かが音を立てて砕け散った.

「そうよ, お父様. 一朗も, 琴莉がもうすぐいなくなるって言ってたわ. そうすれば, 晴れて私と一朗の子育てができるものね」

藍の声には, 歓喜が満ちている.

「琴莉は, 私たちにとって, ただの道具でしかないのよ」

私の両親は, 藍を溺愛し, 私を犠牲にすることを厭わなかった.

彼らは, 私を愛していなかった.

私は, その場に立ち尽くした.

私の心は, 冷たい怒りで満たされていた.

私は, 彼らが私に贈ったネックレスを, 引きちぎるように外した.

ダイヤの石が, 床に落ち, 音を立てて砕け散る.

私の心も, このネックレスのように砕け散った.

その音に, リビングのドアが開いた.

父が, 驚いた顔で私を見つめている.

「琴莉, お前, いつからそこにいたんだ! 」

彼の顔は, 恐怖に歪んでいた.

私は, 冷たい視線で彼らを見つめた.

その瞬間, 私のスマートフォンが鳴り響いた.

一朗からの電話だった.

私は, 着信を無視した.

しかし, 彼は諦めずに何度もかけてくる.

彼の声が, 私の耳に届く.

「琴莉! どこにいるんだ! なぜ電話に出ないんだ! 」

彼の声は, 焦りと怒りに満ちていた.

私は, 冷たい笑みを浮かべた.

「一朗, 私, 今, 病院に向かっているわ」

私の声は, ひどく冷たかった.

「病院? 何のことだ! 琴莉, まさか…」

彼の声が, 突然途切れた.

電話の向こうから, 秘書の慌てた声が聞こえてくる.

「夏目社長! 牧野様のカルテに, 堕胎手術の予約が…」

私は, 彼の顔が, 完全に凍りついたのが分かった.

「琴莉! 待て! 何をしようとしているんだ! 」

一朗の悲鳴のような声が, 電話から聞こえてくる.

彼の声は, 絶望に満ちていた.

私は, 冷たく言い放った.

「もう, あなたたちの計画通りにはならないわ」

「琴莉! やめろ! 頼む! やめてくれ! 」

彼の叫び声が, 私の耳に届く.

しかし, 私の心は, もう彼には届かない.

私は, 電話を切った.

そして, スマートフォンの電源を落とした.

これで, 彼らとの関係は, 完全に終わりだ.

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仮面夫婦の残酷な真実

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