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高橋美月は背筋をピンと伸ばし、本妻が浮気相手を捕まえるような勢いで中村桃花を睨みつけた。

「中村秘書は悠真の部下でありながら、私と悠真の関係を知っていて何度も度を越した挑発をしてくるけれど、本当にバカなのか、それとも何か魂胆があるの?」

「ごめんなさい、高橋アナ」

桃花は眉をひそめ、慌てて口元を覆った。「また間違えちゃった、藤原夫人ですね、私が悪かったです、今すぐ謝ります。 心の広い奥様、私なんかの言葉を気にしないでくださいね」

いかにも可哀想な被害者ぶった様子だ。

美月は彼女がわざと下手に出て藤原悠真の同情を引こうとしていると見抜き、単刀直入に突いた。「中村秘書の謝罪なんて受け取れないわ、そんなに白々しい態度をとったら、また誰かさんが心を痛めるでしょうからね」

「悠真、藤原夫人はまだ私を許してくれないみたい、きっと昨夜のバーでのことを根に持っているのね。 私の代わりに奥様に説明してくれない?」

桃花は悠真に甘えた。

その声には青葉市の女らしい柔らかさがあり、くすぐったいような痺れが広がった。

美月は鳥肌が立ち、視界の端で悠真をちらりと見た。

悠真の手にはいつの間にかタバコがあり、その目元に温もりはなかった。「事実だ、説明することなど何もない」

「奥様が、私が二人の結婚生活を壊す泥棒猫だと誤解しないか本当に怖いの」

桃花はまたしてもわざとらしく卑屈な言葉を口にした。

悠真は美月の心にさらに塩を塗るように言った。「桃花、薬を取ってきてくれ、無関係な人間に無駄口を叩く必要はない」

桃花と比べれば、藤原夫人である自分はただの無関係な人間だったのだ。

美月は絶え間なくこみ上げる吐き気を必死にこらえ、無言で薬局を出た。

車のドアを閉めた後も彼女の体は小刻みに震え続け、2回目でようやくエンジンがかかった。

彼女は何度も自分に言い聞かせた。怒らない、怒らない――

3ヶ月前の健康診断で左胸に2ミリのしこりが見つかり、明日の午前中に再検査の予約を入れていた。

彼女は婦人科医をしている三浦莉子に、こんなに若いのにどうしてそんなものができるのかと尋ねたことがある。

莉子はきっぱりと言い切った。病は気から、彼女の乳腺のしこりは悠真のせいでストレスが溜まったからだと。

口では莉子のでたらめだと文句を言いつつ、内心では深く納得していた。

悠真に嫁いでの3年間、どれほど理不尽な思いをしてきたか、自分自身が一番よく分かっているからだ。

もし悠真への感情が3年前のままなら、彼が外でどれだけ好き勝手しようと無関心でいられたはずだが、よりによって本気になってしまった自分が恨めしい。

辺りがどんどん暗くなる中、彼女は車で街を当てもなく走り回った。

この時になって初めて、白川市には桜ヶ丘レジデンス以外に自分の居場所が全くないことに気づいた。

桜ヶ丘レジデンスは悠真の持ち家であり二人の新居だが、入籍前に悠真が財産分与の公証を済ませているため、彼女には一時的な居住権しかない。

悠真のよそよそしさと冷酷さのせいで、桜ヶ丘レジデンスに足を踏み入れるたびに居候しているような気分になる。

帰ってもガランとした部屋で一人ぼんやりするだけだ。悠真は週に4、5日は夜の接待で出歩き、深夜を過ぎなければ姿を見せないのだから。

一人の寂しさから逃れるため、残業が美月の日課になっていた。

今日もしアフターピルを急いで買いに行く必要がなければ、今頃はテレビ局で残業していただろう。

予想外だったのは、玄関のドアを開けた途端、むせるようなタバコの匂いがしたことだ。

悠真がリビングの大きな窓の前に立ち、電話をしていた。

彼女に背を向けたその背中は高くまっすぐで、その口調は彼女が一度も聞いたことがないほど優しく思いやりに満ちていた。

『佐伯主任も言っていただろう、君の額に傷跡は残らないって。 どうしても心配なら、明後日東都へ行ってもっと権威ある専門家に診てもらおう…… たとえ傷跡が残っても、君を嫌いになったりしないよ……』

薬局で桃花の額にガーゼが貼られていたのを見たばかりだ、悠真が電話している相手は間違いなく桃花だった。

悠真がいたことへの喜びはあっという間に美月の顔から消え去り、バッグと上着を置いて洗面所へ向かった。

顔を洗い化粧水をつけていると、悠真が入り口に立った。

「明日の午前8時、母の友人が白川市に来るから、俺の代わりに空港へ迎えに行ってくれ」

わかっていた、悠真から声をかけてくる時はろくな事がないと。

「その方は母の親友であり、母の会社のビジネスパートナーでもあるから、この2日間は休みを取って白川市の案内をしてやってほしい。 いくらかかっても、俺が全額経費で落とす」

悠真は彼女が承諾したと決めつけ、踵を返して向かいの書斎へ入っていった。

彼女の瞳にうっすらと涙が浮かび、顔を拭いた使い捨てタオルをゴミ箱に強く投げ捨てた。「他の人に頼んで、明日の午前中は用事があって抜けられないの」

「もう手配は済んでいる。 拓海がずっと付き添って食事や移動の手配をするから、君は話し相手になって退屈させないだけでいい」

悠真は彼女の言葉に全く耳を貸さず、席に座ってパソコンを開いた。

彼女は数歩先にいる男を恨めしそうに見つめた。「明日の午前中はお医者さんに再検査の予約を入れているの」

「何の再検査だ?」

「前にも言ったでしょ、この前の健康診断で左胸にしこりが見つかったって。 明日はその再検査の日なの」

「ただの小さなできものだろう、2日ほど遅らせて再検査に行っても何の問題もない」

悠真の意識はずっとパソコンの画面に向いており、声のトーンは冷たくも熱くもなかった。

美月は食い下がった。「やっと専門医の予約が取れたの、延期するつもりはないわ」

「君と母はずっと折り合いが悪いが、今彼女の友人が来ているんだ、しっかりもてなせば嫁姑関係も少しは改善するかもしれないぞ」

悠真は依然として譲る気がなく、冷たい声で言い放った。「これで決まりだ」

彼女は反論しようとしたが、悠真の瞳の奥に拒絶を許さない強引さを見て取り、十数秒の沈黙の後、かすれた声で「わかった」と答えた。

主寝室に戻って初めて、彼女は自分の目が潤んでいることに気がついた。

スマホの着信音が鳴り、画面の番号をちらりと見て着信拒否を押した。

続いて桜川市の発信元から別の電話がかかってきたが、彼女はそのまま着信拒否リストに入れた。

その夜、悠真はずっと書斎にこもったままで、主寝室のドアすら開けなかった。

翌朝起きると、悠真はすでにスーツをビシッと着こなし出勤の準備をしていた。

昨夜はよく眠れなかったのか、悠真の目の下にはうっすらとクマがあり、少し疲れているように見えた。

それでも整った顔立ちを隠すことはできず、一挙手一投足に大人の男の色気が漂っていた。

「30分後、拓海が駐車場で待っている」 悠真は腕時計をつけながら彼女をちらりと見た。

ほんの一瞬の視線で、彼女が何かを感じ取る間もなく目を逸らした。

彼女は納得がいかず、すでに玄関のドアを開けていた男を意地になって呼び止めた。「中村秘書の方が人のお世話に慣れているから、私より適任よ」

悠真は足を止めたが、振り返ることはなかった。「君がまだ藤原夫人の座にいる以上、もし桃花が母の友人の接待をすれば、外に知れ渡った時に浮気相手という悪評が確定してしまうだろう」

なんてことだ、こんな時に自分を矢面に立たせるのも、結局は桃花を守るためだったのだ。

おそらく昨夜、彼がミッドナイトクラブで桃花のために人を殴った件は、彼が既婚者だと知る人間たちの間でとっくに陰口を叩かれているのだろう。

玄関のドアが閉まる時に北風が吹き込み、美月は身震いして一気に目が覚めた。

空港へ向かう道中、彼女は拓海に、ネット上でますます炎上している桃花とのスキャンダルを悠真はどう処理するつもりなのかと尋ねた。

世渡り上手な拓海は、笑って知らないと答えた。

彼女が遠回しに探りを入れても、拓海は全く隙を見せなかった。

空港で9時まで待っていると、拓海に電話が入り、彼は眉をひそめて相手が搭乗直前に急遽予定を変更し、来週白川市に来ることになったと伝えてきた。

美月はまた腹が立ったが、拓海に笑われるのを恐れて、わざと気にしない素振りを見せた。

拓海に病院まで送ってもらい、受付を済ませて初めて、前に十数人の患者が待っていることに気づいた。

待つ以外に方法はない。

乳腺エコーの結果が出たが、プリントされた画像を見ても彼女にはわからなかった。しかし、文字で左胸のしこりが2.5ミリとハッキリ書かれていた。

彼女はなぜか少し焦りを感じた。

なぜなら3ヶ月前のしこりは2.0ミリで、この0.5ミリの成長は絶対に良くない兆候だからだ!

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離婚予定の妻に完全飼育される暴君

第3話
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