話 2
紗良side:
魁はハンドルを握る手に力を込めた。ダッシュボードの光に照らされた彼の端正な顔に、苛立ちの影がよぎる。
「莉央、自分の立場をわきまえろ!」彼の精神的な返答は鋭く、アルファから部下への明確な叱責だった。
私は暗い満足感を覚えた。彼がようやく彼女を然るべき場所に置こうとしている。
だが、彼女の返答は、計算され尽くした弱々しさに満ちていた。「わかっています、アルファ。理解しています。あなたと…あなたのオメガが、素敵な夜を過ごされることを願っています」
「オメガ」という言葉には毒が込められていたが、見せかけの服従は功を奏した。魁の肩が落ち、彼の怒りが風船のようにしぼんでいくのが見えた。彼はいつも、彼女のか弱い乙女を演じる芝居に弱かった。
彼は重く、疲れたため息をついた。彼は私の方を向き、その嵐のような灰色の瞳は、口に出せない謝罪で曇っていた。
「すまない、紗良。アルファとして、組内の争いを仲裁するのは俺の義務だ。このままにしておくのは…不適切だろう」
その言い訳は、あまりにも薄っぺらで透けて見えた。
「一緒に来てくれ」彼は言った。言葉は誘いだったが、口調は命令だった。「彼女を迎えに行って、彼女の立場を理解させる」
私の胸の中で、小さく、愚かな希望の火花が散った。也许、彼は私をそこに連れて行くことで、何かを表明したいのかもしれない。今夜は私と一緒にいるのだと、莉央に見せつけるために。それは七年間、私がしがみついてきた愚かな希望だったが、死ぬことを拒んでいた。
「わかりました」私は囁いた。
彼は車をクラブハウスへと戻した。莉央は歩道で待っていて、涼しい夜気の中で大げさに震えていた。車が止まるやいなや、彼女は魁のそばに駆け寄り、彼の胸に顔を埋めて身を投げ出した。
彼は一瞬ためらった後、彼女の背中を慰めるように軽く叩いた。彼はその抱擁を許した。
そして、車の中から、私はそれを嗅いだ。魁の香り――雷雨の後の森のような、あの心を惑わす香り――が、すでに彼女にまとわりつき、彼女自身の甘ったるい花の香水の香りと混じり合っていた。それは私のものになるはずだった香り。アルファが彼のルナとだけ分かち合い、彼女を自分のものだと示す香り。その光景、その匂い…それはまるで物理的な打撃のように、私の肺から空気を奪った。
魁は優しく莉央を自分から引き離した。彼は彼女のために後部座席のドアを開け、そして私を見た。
「紗良、頼めるか?」彼は運転席を指差して言った。それは質問ではなかった。
私は麻痺したように、硬い動きで車を降りた。私は車の前を回り、外にまだ残っている数人の組員の同情的で軽蔑的な視線を避けた。魁が莉央と一緒に後部座席に落ち着くと、私は運転席に滑り込んだ。彼が革シートに残した温もりが、残酷な嘲笑のようだった。
一条家の屋敷までのドライブは、私の人生で最も長い十分間だった。後部座席で魁に寄り添う莉央は、独身の男性を誘惑するための甘く、暗示的なフェロモンを微妙に放ち始めた。彼女は低い、喉を鳴らすような声で話した。
「魁、私が大好きなあの湖畔の別荘、覚えてる?プライベートドック付きの。明日、もう一度見に一緒に行ってくれないかしら?新しい巣が欲しいの、ちゃんとしたやつが」
「もちろん、莉央」魁の声が後部座席から響いた。柔らかく、甘やかしている。「お前の望む通りに」
私はバックミラーに目をやると、魁の目と合った。彼は申し訳なさそうな顔をしていて、まるで「こんなところを見せてすまない」とでも言うかのように、かすかに眉をひそめていた。
だが、謝罪だけではもう十分ではなかった。七年間、打ちのめされ、傷つけられてきた私の心は、ついに冷たく暗い深淵へと沈んでいった。
私は一条家の広大な屋敷の門の前に車を停めた。莉央の両親、組の筆頭ベータとその伴侶が待っていた。彼らは車に駆け寄り、降りてきた魁に媚びへつらった。
「アルファ!莉央を無事に送り届けてくださり、ありがとうございます!」
彼らは魁を中に案内し、ぺちゃくちゃと喋り続けた。その体で、私の視界を物理的に遮った。彼らはアルファの車の運転席に座っているオメガに、一瞥だにしなかった。私は見えなかった。道具。運転手。
私はそこで、エンジンが静かに唸る中、永遠に感じられるほど長く座っていた。五分が過ぎた。十分。
そして、魁の声が私の心に響いた。遠く、無関心に。
「もう戻っていい」
話 3
紗良side:
雨が降り始め、街の灯りがフロントガラスに長く、泣いているような筋となって滲んだ。私はハンドルを握りしめ、指の関節が白くなるほど力を込めて運転した。静かなエンジンの唸りだけが音で、それは私の心の中で荒れ狂う記憶の嵐とは対照的だった。
それは拒絶されるずっと前から始まっていた。子供の頃、小さくて痩せていた私は、いつも組の輪の外にいて、莉央とその取り巻きの格好の標的だった。彼らは母の聴覚障害を嘲笑った。それは、ならず者の襲撃で負った傷で、母の狼の魂をも打ち砕いた悲劇だったが、彼らの残酷な心の中では、それは娯楽の源だった。
私がいつも受け身だったわけではない。十二歳の時、莉央の豪華な巣に忍び込み、彼女の絹の枕の下に狼が嫌う植物であるトリカブトの小枝を隠したことを覚えている。彼女の嫌悪の叫び声は、小さく、満足のいく勝利だった。
だが、私の反抗は彼女の残酷さをさらに悪化させるだけだった。
最も鮮明な記憶が目の裏で燃え上がった。私は十六歳だった。莉央とその仲間たちは、訓練場で私を押さえつけた。他の者たちが笑う中、彼女は剪定用の銀メッキの鋏を手に取り、私の長い黒髪をめちゃくちゃに、屈辱的なほど不揃いに切り刻んだ。
「汚いオメガ」と彼女は吐き捨て、切り落とした髪を私の足元に投げつけた。「あんたなんかが綺麗になる資格なんてないのよ」
私はただそこに横たわり、震え、無力な怒りの涙が頬を伝った。
そして、彼が現れた。魁。彼は当時十八歳で、強力なアルファの姿に変身したばかりだった。
「やめろ!」彼のアルFA・コマンドが彼女たちに叩きつけられ、莉央とその取り巻きは膝をつき、くぐもった声で泣きじゃくった。
彼は私を見なかった。ただ彼女たちを睨みつけた。「俺の目の前から消えろ」
彼女たちは怯えたリスのように逃げ去った。そして彼は向き直り、その嵐のような瞳がようやく私を捉えた。彼は私のめちゃくちゃにされた髪と顔の涙を見た。一言も言わずに、彼は私を立ち上がらせ、組のヒーラーのところまで歩いてくれた。
私の前を歩く、その広く、守ってくれるような背中。その時、私は初めてそれを感じた。引き寄せられる力。月の女神が私たちの運命を共に織り成したという、魂のかすかな、響き渡る認識。私の内なる狼が、初めてざわめき、たった一言、所有欲に満ちた言葉を囁いた。「私のもの」
彼が莉央と婚約していることは知っていた。それは二つの強力な家族間の政治的な取り決めだった。だが、私の胸に咲いた希望を抑えることはできなかった。私は遠くから彼を見つめ始め、決して口にできない愛に胸を痛めた。
そして、私の十八歳の誕生日の夜が来た。私の覚醒の儀式の夜。それはまた、莉央が魁との婚約を正式に受け入れるはずだった夜でもあった。
だが、莉央は現れなかった。彼女は置き手紙だけを残して逃げ出した。退屈だった、と彼女は書いた。出会った「野良のローグ」と人生を経験しに行く、と。
魁は打ちのめされた。彼のプライドは粉々に砕かれ、未来のルナは組全体の目の前で彼を捨てた。その生の怒りと屈辱の瞬間に、私自身の狼が完全に覚醒した。長い間眠っていた私たちの間の絆が、否定できない、白熱した繋がりとなって燃え上がった。彼は振り返り、彼の目が私の目と合った。私は彼の顔に浮かんだ認識の衝撃、そして夜明けのような恐怖を見た。月の女神が私を選んだのだ。卑しい、忘れられたオメガを。彼の真の番として。
彼は冷たい怒りの仮面をかぶって私に向かって歩み寄った。組全体の目の前で、彼は私の前に立ち止まり、私の人生の判決となる言葉を口にした。
「俺、黒木魁は、お前、月城紗良を『運命の番』として拒絶する」
世界が砕けた。新しく、輝いていた私たちの間の絆が、ギザギザの爪で胸から引き裂かれるように感じた。私は苦痛で息も絶え絶えだったが、儀式を知っていた。私は応えなければならなかった。
「私、月城紗良は、あなたの拒絶を受け入れます」私は声を詰まらせながら言った。
だが、彼はまだ終わっていなかった。自分のプライドを守るため、組に自分が支配者であることを示すため、彼は付け加えた。「だが、お前は組に残る。俺の縄張りから出ることは許さん」
長老の一人が、青ざめた顔で前に進み出た。「アルファ、彼女の血筋は…それを完全に拒絶することは、女神のご不興を招きかねません。何らかの…結果が伴うやもしれません」
魁は彼に氷のような視線を送った。「俺の命令に疑問を呈するのか?」
長老は頭を下げ、沈黙した。そして、私の七年間の監禁が始まった。
雨はガラスを激しく叩いた。私の記憶は先月へと飛んだ。私は彼の書斎の外の廊下を掃除していた時、彼が彼のベータと話しているのを聞いた。
「莉央が戻ってくる」とベータは言った。「紗良のことはどうする?」
魁の声は冷たく、無関心だった。「彼女はただの格下のオメガだ。繋ぎだよ。この組に必要なルナは莉央だ。紗良が問題を起こすようなら、何の躊躇もなく追放してやる」
その言葉が私の頭の中で響き渡り、ついに最後の希望の残り火を消し去った。格下のオメガ。繋ぎ。追放。
彼は私を愛したことなどなかった。彼は私を尊重したことすらなかった。すべてが嘘だったのだ。