話 2
私が許婉晴との面会の場所に選んだのは、高級産後ケアセンターだった。
大きなお腹を抱えた彼女は、二人のヘルパーに甲斐甲斐しく支えられながら、私の前に姿を現した。
その顔には、勝利者としての自信が隠すことなく浮かんでいる。
「蘇さん、あなたから会いに来てくれるなんて、思ってもみなかったわ」
私の向かいに腰を下ろすと、彼女はこれみよがしに、大粒のダイヤモンドが輝く手をテーブルに置いた。その輝きが、私の目を刺すように痛い。
それは、私がデザインした世界でたった一つの婚約指輪。
周翰はかつて言った。『君の手には、最高のものしか似合わない』と。
今、その『最高のもの』は、別の女の指で輝いている。
「周翰はあなたのことを賢い人だと言っていたけど、本当みたいね」 許婉晴はツバメの巣のスープを手に取ると、優雅に一口啜った。「私には敵わないと悟って、自ら身を引くつもり?」
私は彼女の蠱惑的な顔を見つめ、ふっと笑みを漏らした。
「許さん、どうして私があなたの存在を知ったのか、気にならない?」
彼女は一瞬虚を突かれたが、すぐに軽蔑したように唇を歪めた。「別に不思議じゃないわ。周翰はずっと前からあなたに本当のことを話したがっていたもの。私が止めていたのよ、あなたが取り乱したら可哀想だと思って」
「あら、そうなの?」
私は例のスマートフォンを彼女の前に滑らせた。画面には、あの『ベビーダイアリー』が表示されている。
「でも周翰は、これは彼の友人のメモだと言っていたけど」
許婉晴の表情が、一瞬で凍りついた。
彼女はスマートフォンと私を交互に見つめ、その瞳にわずかな動揺が走る。
「そ、それは……あなたを傷つけないための、彼の嘘よ!」
「そうかしら?」 私はゆっくりと椅子の背にもたれかかった。「でも、もう一つ、復元したものがあるの」
そう言って、スマートフォンの横に、一枚のエコー写真をそっと置いた。
「これは、アルバムの『最近削除した項目』から見つけたものよ」
「周翰はこれを削除して、友人の話だと嘘をついた。許さん」私は彼女の目をまっすぐに見つめ、一言一言、区切るように尋ねた。「あなたは、彼が私を守りたかったんだと思う?それとも、あなたを?あるいは……自分自身を守りたかったのかしら?」
許婉晴の唇が震え、言葉を発することができない。
私の口元の笑みは、さらに深くなった。
「彼は言ったのでしょう?子供が生まれたら、私と離婚してあなたと結婚する、と」
彼女は無意識に頷く。
「それから、会社の資産はすべてあなたの名義に移し、私を無一文で追い出すとも?」
彼女はまるで悪魔でも見るかのような目で、恐怖に怯えながら私を見つめた。
「許さん、一つ考えたことはある?」
私は身を乗り出して彼女に顔を寄せ、耳元で囁くように声を潜めた。
「結婚して三年連れ添った妻に、これほど非道な仕打ちができる男よ。どうして自分だけが例外だなんて思えるの?」
「あなたのお腹の子は、彼が周家の跡継ぎという地位を手に入れるための、ただの駒に過ぎない」
「目的を果たしたとき、あなたの末路が、私よりマシなものになると思う?」
許婉晴の顔から、さっと血の気が引いた。その白さは、まるで紙のようだ。
彼女はテーブルに手をつき、ぜえぜえと息を切らし始める。額にはびっしりと冷や汗が滲んでいた。
それでいい。
城を攻めるは下策、心を攻めるは上策。
私が望むのは、彼女と男を取り合うような痴話喧嘩ではない。
私が欲しいのは、彼女という最も使いやすい駒を使って、彼らの砦を内側から崩壊させることだ。
話 3
親友の仕事は、驚くほど早かった。
一日も経たないうちに、暗号化されたファイルが私のメールボックスに届いていた。
「度肝を抜かれたわ。今年のクズ男・オブ・ザ・イヤーね。八つ裂きにしても飽き足らない」そんなメッセージが添えられていた。
ファイルを開くと、その内容は想像を絶するほど衝撃的だった。
周翰――私の、あの優しくて思いやりのある、一代で成功を築いた夫は、根っからの詐欺師だったのである。
彼は、山奥から大学に出てきた貧しい青年などではなかった。
彼の父親はかつて小さな建設業を営んでいたが、手抜き工事で死亡事故を起こし、全財産を失ったばかりか、高利貸しから莫大な借金を抱えていた。
そして、その借金の返済に充てられたのが、私の両親が遺してくれた遺産だったのだ。
結婚して二年目のこと。将来性のあるプロジェクトに投資したい、と彼に言いくるめられ、私はそれを信じ、口座のパスワードまで教えてしまった。
彼はその金で、実家の底なし沼を埋めたのである。
それだけではない。私たちが共に立ち上げた「雅翰デザイン」にも、彼はとうの昔に不正な手を伸ばしていた。
職権を濫用し、プロジェクト費用を水増し請求したり、偽の購入契約書を作成したりする手口で、三年もの間に会社の利益の七割近くを海外口座に移していたのだ。
その口座の名義人は、彼の母親だった。
そして、あの許婉晴も、偶然出会った運命の相手などではなかった。
彼女は周翰の故郷にいる遠縁の娘で、高校を卒業するとすぐに社会に出ていた。周翰と彼の母親が、私のために周到に用意した「代理出産のための道具」だったのである。
彼らの計画は、まさに天衣無縫だった。
許婉晴が子供を産んだ後、周翰は私が「子供を産めない」上に「精神的に病んでいる」ことを理由に、離婚訴訟を起こす手はずだった。
そうなれば、彼が捏造した「私が会社に損害を与えた証拠」と、「感情のコントロールができないという事実」が決定打となり、裁判官は子供の親権と財産の大部分を彼に認めるだろう。
そして私には、莫大な借金と、地に堕ちた評判だけが残る。
なんという壮大な筋書きだろうか。
パソコンの画面に映る、一枚一枚偽造された署名を見つめながら、私は全身が冷たくなっていくのを感じた。
私が三年間愛し続けた男が、私に近づいたこと自体、初めから周到に計画された詐欺だったのである。
彼の愛の言葉の一つ一つ、その抱擁の一つ一つの裏に、最も悪質な企みが隠されていたのだ。
携帯電話が鳴った。周翰からだった。
「ハニー、煮込みの材料は全部買ってきたよ。今下ごしらえしてるから、最高のディナーを楽しみにしてて」
彼の声はいつもと変わらず優しく、まるで私たちが今もなお、深く愛し合っている夫婦であるかのようだった。
私は胃から込み上げてくる吐き気を必死にこらえ、とろけるように甘い声で言った。「あなたって本当に素敵。愛してるわ」
「僕も愛してるよ、僕の小雅」
電話を切ると、私はすべての証拠をまとめて弁護士に送信した。
それから、周翰が一番好きだと言っていた赤いロングドレスに着替え、念入りに化粧を施した。
今夜、この食卓で繰り広げられるショーの主役は、私なのだから。