話 2
私たちの子狼は月の女神の祝福を受けたが、父親の愛情を得ることはなかった。
窒息しそうな感覚が、一気にこみ上げてくる。
気を失いかけたその時、甲高い音が突然鳴り響いた。
私の携帯電話が、一通のメッセージを受信したのだ。
目に飛び込んできたのは、女の裸体と、その体に顔を埋める男の姿だった。
それがアレクサンダーであることは、一目でわかった。
彼は私たちの車の中で、初恋の相手であるセレーナにオーラルセックスをしていた。
「彼の犬みたいな舌は、相変わらず器用ね」
その瞬間、まるで千本の針で全身を同時に突き刺されたかのようだった。
痛い、心が、あまりにも痛い!
アレクサンダーは本当に浮気していたのだ。
なのに、なぜ先ほどは何も感じなかったのだろう。
床に倒れ込んだ剎那、下腹部に生暖かいものが流れ出るのを感じた。
私たちの子が、私から離れていこうとしているのがわかった。
だめ、行かないで!
最後の力を振り絞り、アレクサンダーに電話をかける。
家にある唯一の車は彼が乗って行ってしまった。今はただ、彼が戻ってきて病院へ連れて行ってくれることを祈るしかない。
どうあっても、この子も彼の子なのだ。必ず私たちを助けに戻ってきてくれるはずだ。
私は心の中でそう自分に言い聞かせた。
しかし、立て続けに13回電話をかけても、応答はなかった。
下腹部の痛みは次第に増していき、私は思わず体を丸めた。
仕方なく、法外な料金を払って救急車を呼んだ。
しかし、2時間経っても救急車はまだ来ない。
「車の中でセックスしている者がいまして」
救急隊員から電話があった。「ここは道が一本しかなく、狭くて通り抜けられないんです」
同時に、一本の動画が送られてきた。
動画の中では、大柄な男が裸の女を庇うように立ち、冷酷な声で救急隊員に警告していた。
「誰を助けに来たか知らんが、今すぐ失せろ……」
「アルファ? あなたのルナから緊急の連絡を受けて……」
救急隊員が焦ってそう言うが、アレクサンダーは言葉を遮った。
「あいつに緊急の用などあるものか。 俺の気を引きたいだけだろう」
「今になって俺の邪魔をするとは、ルナ失格の証拠だ」
「言ったはずだ、すぐに失せろと……」
結局、救急隊員は迂回を余儀なくされた。
さらに4時間が経過し、ようやく救急車が到着した。
その頃には、私の全身は冷や汗と血でびっしょりと濡れていた。
涙が頬を伝い、私は心の中で何度も月の女神に祈った。どうか、私たちの子が無事でありますように、と。
しかし、私の体はますます重くなっていく。
手から携帯電話が滑り落ちそうだった。
だが、意識を失う直前まで、私はまだ子供のかすかな心音を感じ取ることができた。
しかし、私が目覚めた時、あのかすかな心音は、完全に消え失せていた。
医師は私を見つめ、深いため息をついた。
「お子さんは……助かりませんでした」
「もし我々がアレクサンダー氏に遭遇しなければ……」
「彼は、あなたと番になった時の誓いを裏切ったのです」
「もしかしたら、お子さんはその命をもって、あなたに真実を伝えようとしたのかもしれません」
私の頭の中は真っ白になった。
涙が目尻から流れ落ち、心臓を鷲掴みにされたかのようだった。
私のアルファ、私の愛する人が、私たちの子を死なせたのだ。
私たちの子が死にかけているまさにその時、その父親は別の女を抱いていた。
あの二人が、私の子を殺したのだ!
苦しい息をつくと、突然、腹部に鋭い痛みが走った。
それに呼応するように、私の中の狼も哀れな叫びを上げた。
感じる。今この瞬間も、あの二人が体を重ねているのを。
目の前が暗くなる。だが同時に、一つの疑問が頭の中を満たしていた。
なぜ、私は彼の裏切りを感じ取れなかったのだろう?
なぜ、私の体は今になってようやく痛みを感じているのだろう?
話 3
医者は私を解放せず、翌日、山のような検査を受けさせた。
その間、アレクサンダーからはメッセージ一つ届かなかった。
検査を終えた私は、重い足を引きずって屋敷へと戻った。
屋敷の門の前で、見慣れた銀色のスポーツカーが目に入る。
アレクサンダーは車のドアに寄りかかり、黒いコートがその彫刻のような顔立ちを一層冷たく硬質に見せていた。
そして、その隣にはセリーナが立っていた。
私の足は止まり、瞳からは制御できないほどの憎しみが溢れ出た。
セリーナは目に興奮の色を浮かべると、甘えた声で私に挨拶した。
「マグ、やっと帰ってきたのね。アレクサンダー、一晩中あなたのことを心配していたのよ」
私は何も言わず、視線をアレクサンダーへと移した。
彼の眼差しは、すでに氷のように冷え切っていた。
「マグ」彼は数歩で詰め寄り、言った。「セリーナがお前に話しかけているのが聞こえないのか?」
「これがルナとしての貴様の教養か?」
私は呆然とし、喉が締め付けられるようだった。
「私……とても疲れて……」
「言い訳はするな」
アレクサンダーは私の言葉を遮り、その目には嫌悪が満ちていた。
「セリーナが帰ってくるたびに、お前はそんな胸糞悪い態度を取る!」
その言葉が終わるやいなや、下腹部に激痛が走った。
アレクサンダーが、信じられないほどの力で私の腹を蹴り上げたのだ。
私は一枚の落ち葉のように吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。後頭部を道端の石に打ち付け、目の前が真っ暗になる。
生臭い甘さが喉の奥から込み上げ、激しく咳き込んだ。
鮮血が胸元の白いシャツに滴り、目に焼き付くような血の花を咲かせた。
「芝居なら続けろ」
アレクサンダーは私を見下ろし、その声には一片の憐憫もなかった。
「毎回同じ手を使うとはな、マグ。少しは捻ったらどうだ?」
セリーナが傍らでアレクサンダーの腕を引き、泣きそうな声を出した。
「あなた、怒らないで。マグは本当に具合が悪いのかもしれないわ……」
しかし、伏せられた彼女の瞳の奥には、隠しきれない得意の色が潜んでいた。
見かねた屋敷の執事が、慌てて医者を呼んだ。
部屋に運ばれる間も、アレクサンダーがセリーナに親密に語りかける声が聞こえてきた。
「あんな女は放っておけ。執事にお前が一番好きな朝食を用意させた」
検査結果が出て、医者が報告書を手にアレクサンダーの元を訪れた。
その顔は険しい。
「ルナは腹腔内で出血しています。それに、銀毒症を患っているようです」
「今回の外的な衝撃で病状が悪化しました。直ちに全面的な検査と治療が必要です」
アレクサンダーは報告書を受け取ると、一瞥もせずに粉々に引き裂いた。
彼は冷笑する。
「あの女はいくら払った? お前にこんな嘘をでっち上げさせるために」
アレクサンダーはベッドに歩み寄ると、私を腕ずくでベッドから引きずり下ろした。
「それとも、俺に隠れてこいつと寝たのか?」
「マグ、お前が欲しいのは俺の同情だろう。セリーナと俺の関心を奪い合いたいだけだ」
「だが覚えておけ。お前は永遠にセリーナにはかなわない」
医者は呆然と、目の前の冷酷な男を見つめていた。
彼は声を絞り出すように言った。「アルファ、私を侮辱するのはおやめください。そして、あなたのルナを侮辱することも」
「月の女神は、あなたの今の所業に必ずや罰をお下しになるでしょう」
アレクサンダーは蔑むように鼻で笑うと、一言も発さずに身を翻して去っていった。
私はぼろ切れの人形のように床に打ち捨てられ、身じろぎ一つできなかった。
私の内にいる狼も、ますます弱っていく。
さっきまでの自分が何を期待していたのか、もう分からなかった。
何も変わらないことなど、分かりきっていたはずなのに。
私は目を閉じた。疲労と絶望が、心を埋め尽くしていく。
窓の外では風が荒れ狂い、まるで私のために泣いているかのようだった。
理解した。
アレクサンダーの心の中では、私の命は、セリーナの涙一滴にも及ばないのだと。