話 1
「お前のような弱い狼は、ゴミでも食ってろ」
継父は、彼の精子にまみれた果物の皮を私に無理やり食べさせようとしていた。
私は全力でもがき、その魔の手から逃れようとしたが、両腕を折られてしまった。
涙が目に溢れ、心は恐怖と無力感で満たされる。
「やめろ!」
その時、聞き慣れた、けれど毅然とした声が響いた。
いつの間にか、一人の男が部屋の入り口に立っていた。その顔は怒りに満ちている。
強大なアルファだ!
継父は一瞬呆然とし、すぐに私を解放した。その目には、わずかな狼狽の色が浮かんでいた。
私はその隙に逃れ、よろめきながら彼の背後へ隠れ、小刻みに震えた。
「どうして自分の娘にこんなことができる!」
アレクサンダーは私の継父を睨みつけた。
継父は答えず、ただ私を一度だけ鋭く睨めつけると、家から出て行った。
私はアレクサンダーにきつく抱きついた。
彼は私の背中を優しく叩き、「もう大丈夫だ。彼が君を傷つけることは二度とない」と慰めてくれた。
その瞬間、私はこれまでに感じたことのない温もりに包まれた。
その後、私は望み通り彼――アレクサンダーのルナとなり、幸せは永遠に続くと信じていた。
だがその全ては、十周年の記念日に覆された。
彼の初恋の相手が、群れに帰ってきたのだ。
彼は私を捨てて彼女の元へ行き、私たちの最初の子狼を死なせた。
だが彼は気にしなかった。いつか次の子狼ができるだろう、と。
彼が知る由もなかったのは、私がすでに銀毒症に侵されていたことだ。
死まで、あと六十六日。
…………
今日は、私たちの結びつきを祝う記念日だというのに、私のアルファはなかなか家に帰ってこなかった。
テーブルに並べた、心を込めて準備したディナーを前に、私は不安げに自分のお腹を撫でていた。
腹の皮が擦れて少し腫れ上がるほど、その手は止まることがなかった。
アレクサンダーが帰宅したのは、零時を過ぎてからだった。
私は彼がどこへ行っていたのかを問い質すことなく、ただ微笑んで席に着くよう促した。
いつもとは違うテーブルの上のディナーを見て、彼は服を脱ぐ手を一瞬止めた。
私が食事を準備すると、彼はほんの数口食べただけでナイフとフォークを置いた。
「夕食は済ませてきた。君が食べるといい」
私は一つのギフトボックスを差し出した。中に入っているのは、一本の妊娠検査薬だ。
記念日に妊娠がわかるなんて、きっと月の女神からの贈り物に違いない。
私は期待に胸を膨らませて彼を見つめた。指が微かに震えている。
最近、私たちの関係はますます硬直していた。子狼の存在が、この状況を少しでも和らげてくれるかもしれない。
アレクサンダーは怪訝な顔で私を見た。
その視線がギフトボックスに落ち、彼はそれを受け取ろうと手を伸ばした。
アレクサンダーの指が箱に触れる寸前、彼の電話が鳴った。
「アレクサンダー、会いに来てくれない?」
女の声だった。
その聞き慣れた声で、私はすぐに相手が誰なのかを悟った。
アレクサンダーの初恋の相手、セリーナだった。
アレクサンダーの声は、優しく、そして切羽詰まっていた。「どこにいるんだ?」
彼は私を完全に無視し、背を向けてバルコニーへと歩いて行った。
その慌ただしい後ろ姿に、私の心は少しずつ沈んでいく。
電話の声は小さかったが、それでも彼らの会話は聞こえてきた。
「今朝あんなに強くしてきたから、すごく痛かった。まだ怒ってるんだから」
「あなたのルナといるのはやめて、こっちに来てよ」
「もし昔、彼女がいなかったら、今頃あなたのルナは私だったのに」
アレクサンダーはバルコニーに立ち、私に背を向けたまま、無意識に携帯電話の縁を指でなぞっていた。
私は息を殺したが、彼の返事は聞き取れなかった。
だが、彼の顔に浮かんだ甘やかすような笑みは、私の中にいる狼に悲痛な叫びを上げさせた。
私の伴侶は、私を裏切った。
私の中の狼は、それを知っていた。
私は手に持った妊娠検査薬の箱を強く握りしめ、爪が掌に食い込むほどだった。
胃の痙攣が、私を現実に引き戻す。
視線を戻そうとしたその時、アレクサンダーと目が合った。
私は何も言わず、ただ期待を込めた眼差しで彼を見上げた。
あの女を拒絶してくれることを、私は期待していた。
だが、現実は私を裏切る運命だった。
彼は私の視線を避け、「先に休んでいてくれ。少し出てくる」と低い声で言った。
私はその場に立ち尽くした。
アレクサンダーは私を一瞥もせず、もちろん私の手にあるギフトボックスを受け取ることもなかった。
彼は行ってしまった。
がらんとしたダイニングを見つめ、箱を握っていた手から力が抜けた。
この瞬間、心を込めて準備した贈り物は、まるで一つの冗談のようになってしまった。
十年経っても、アレクサンダーは私を愛してはくれなかった。
初恋の相手が帰ってきた瞬間、私は彼にあっさりと捨てられるゴミになったのだ。
話 2
私たちの子狼は月の女神の祝福を受けたが、父親の愛情を得ることはなかった。
窒息しそうな感覚が、一気にこみ上げてくる。
気を失いかけたその時、甲高い音が突然鳴り響いた。
私の携帯電話が、一通のメッセージを受信したのだ。
目に飛び込んできたのは、女の裸体と、その体に顔を埋める男の姿だった。
それがアレクサンダーであることは、一目でわかった。
彼は私たちの車の中で、初恋の相手であるセレーナにオーラルセックスをしていた。
「彼の犬みたいな舌は、相変わらず器用ね」
その瞬間、まるで千本の針で全身を同時に突き刺されたかのようだった。
痛い、心が、あまりにも痛い!
アレクサンダーは本当に浮気していたのだ。
なのに、なぜ先ほどは何も感じなかったのだろう。
床に倒れ込んだ剎那、下腹部に生暖かいものが流れ出るのを感じた。
私たちの子が、私から離れていこうとしているのがわかった。
だめ、行かないで!
最後の力を振り絞り、アレクサンダーに電話をかける。
家にある唯一の車は彼が乗って行ってしまった。今はただ、彼が戻ってきて病院へ連れて行ってくれることを祈るしかない。
どうあっても、この子も彼の子なのだ。必ず私たちを助けに戻ってきてくれるはずだ。
私は心の中でそう自分に言い聞かせた。
しかし、立て続けに13回電話をかけても、応答はなかった。
下腹部の痛みは次第に増していき、私は思わず体を丸めた。
仕方なく、法外な料金を払って救急車を呼んだ。
しかし、2時間経っても救急車はまだ来ない。
「車の中でセックスしている者がいまして」
救急隊員から電話があった。「ここは道が一本しかなく、狭くて通り抜けられないんです」
同時に、一本の動画が送られてきた。
動画の中では、大柄な男が裸の女を庇うように立ち、冷酷な声で救急隊員に警告していた。
「誰を助けに来たか知らんが、今すぐ失せろ……」
「アルファ? あなたのルナから緊急の連絡を受けて……」
救急隊員が焦ってそう言うが、アレクサンダーは言葉を遮った。
「あいつに緊急の用などあるものか。 俺の気を引きたいだけだろう」
「今になって俺の邪魔をするとは、ルナ失格の証拠だ」
「言ったはずだ、すぐに失せろと……」
結局、救急隊員は迂回を余儀なくされた。
さらに4時間が経過し、ようやく救急車が到着した。
その頃には、私の全身は冷や汗と血でびっしょりと濡れていた。
涙が頬を伝い、私は心の中で何度も月の女神に祈った。どうか、私たちの子が無事でありますように、と。
しかし、私の体はますます重くなっていく。
手から携帯電話が滑り落ちそうだった。
だが、意識を失う直前まで、私はまだ子供のかすかな心音を感じ取ることができた。
しかし、私が目覚めた時、あのかすかな心音は、完全に消え失せていた。
医師は私を見つめ、深いため息をついた。
「お子さんは……助かりませんでした」
「もし我々がアレクサンダー氏に遭遇しなければ……」
「彼は、あなたと番になった時の誓いを裏切ったのです」
「もしかしたら、お子さんはその命をもって、あなたに真実を伝えようとしたのかもしれません」
私の頭の中は真っ白になった。
涙が目尻から流れ落ち、心臓を鷲掴みにされたかのようだった。
私のアルファ、私の愛する人が、私たちの子を死なせたのだ。
私たちの子が死にかけているまさにその時、その父親は別の女を抱いていた。
あの二人が、私の子を殺したのだ!
苦しい息をつくと、突然、腹部に鋭い痛みが走った。
それに呼応するように、私の中の狼も哀れな叫びを上げた。
感じる。今この瞬間も、あの二人が体を重ねているのを。
目の前が暗くなる。だが同時に、一つの疑問が頭の中を満たしていた。
なぜ、私は彼の裏切りを感じ取れなかったのだろう?
なぜ、私の体は今になってようやく痛みを感じているのだろう?
話 3
医者は私を解放せず、翌日、山のような検査を受けさせた。
その間、アレクサンダーからはメッセージ一つ届かなかった。
検査を終えた私は、重い足を引きずって屋敷へと戻った。
屋敷の門の前で、見慣れた銀色のスポーツカーが目に入る。
アレクサンダーは車のドアに寄りかかり、黒いコートがその彫刻のような顔立ちを一層冷たく硬質に見せていた。
そして、その隣にはセリーナが立っていた。
私の足は止まり、瞳からは制御できないほどの憎しみが溢れ出た。
セリーナは目に興奮の色を浮かべると、甘えた声で私に挨拶した。
「マグ、やっと帰ってきたのね。アレクサンダー、一晩中あなたのことを心配していたのよ」
私は何も言わず、視線をアレクサンダーへと移した。
彼の眼差しは、すでに氷のように冷え切っていた。
「マグ」彼は数歩で詰め寄り、言った。「セリーナがお前に話しかけているのが聞こえないのか?」
「これがルナとしての貴様の教養か?」
私は呆然とし、喉が締め付けられるようだった。
「私……とても疲れて……」
「言い訳はするな」
アレクサンダーは私の言葉を遮り、その目には嫌悪が満ちていた。
「セリーナが帰ってくるたびに、お前はそんな胸糞悪い態度を取る!」
その言葉が終わるやいなや、下腹部に激痛が走った。
アレクサンダーが、信じられないほどの力で私の腹を蹴り上げたのだ。
私は一枚の落ち葉のように吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。後頭部を道端の石に打ち付け、目の前が真っ暗になる。
生臭い甘さが喉の奥から込み上げ、激しく咳き込んだ。
鮮血が胸元の白いシャツに滴り、目に焼き付くような血の花を咲かせた。
「芝居なら続けろ」
アレクサンダーは私を見下ろし、その声には一片の憐憫もなかった。
「毎回同じ手を使うとはな、マグ。少しは捻ったらどうだ?」
セリーナが傍らでアレクサンダーの腕を引き、泣きそうな声を出した。
「あなた、怒らないで。マグは本当に具合が悪いのかもしれないわ……」
しかし、伏せられた彼女の瞳の奥には、隠しきれない得意の色が潜んでいた。
見かねた屋敷の執事が、慌てて医者を呼んだ。
部屋に運ばれる間も、アレクサンダーがセリーナに親密に語りかける声が聞こえてきた。
「あんな女は放っておけ。執事にお前が一番好きな朝食を用意させた」
検査結果が出て、医者が報告書を手にアレクサンダーの元を訪れた。
その顔は険しい。
「ルナは腹腔内で出血しています。それに、銀毒症を患っているようです」
「今回の外的な衝撃で病状が悪化しました。直ちに全面的な検査と治療が必要です」
アレクサンダーは報告書を受け取ると、一瞥もせずに粉々に引き裂いた。
彼は冷笑する。
「あの女はいくら払った? お前にこんな嘘をでっち上げさせるために」
アレクサンダーはベッドに歩み寄ると、私を腕ずくでベッドから引きずり下ろした。
「それとも、俺に隠れてこいつと寝たのか?」
「マグ、お前が欲しいのは俺の同情だろう。セリーナと俺の関心を奪い合いたいだけだ」
「だが覚えておけ。お前は永遠にセリーナにはかなわない」
医者は呆然と、目の前の冷酷な男を見つめていた。
彼は声を絞り出すように言った。「アルファ、私を侮辱するのはおやめください。そして、あなたのルナを侮辱することも」
「月の女神は、あなたの今の所業に必ずや罰をお下しになるでしょう」
アレクサンダーは蔑むように鼻で笑うと、一言も発さずに身を翻して去っていった。
私はぼろ切れの人形のように床に打ち捨てられ、身じろぎ一つできなかった。
私の内にいる狼も、ますます弱っていく。
さっきまでの自分が何を期待していたのか、もう分からなかった。
何も変わらないことなど、分かりきっていたはずなのに。
私は目を閉じた。疲労と絶望が、心を埋め尽くしていく。
窓の外では風が荒れ狂い、まるで私のために泣いているかのようだった。
理解した。
アレクサンダーの心の中では、私の命は、セリーナの涙一滴にも及ばないのだと。