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幸江 POV:

修作は私の返事を待つことなく, 私の手を取った. その力強い握力に, 私は逆らう気力もなかった. 彼は私を車に乗せ, 夜の街へと連れ出した. 行き先は, 華やかな社交パーティーだった.

「さあ, 幸江. 楽しもう」

彼は運転手にドアを開けさせ, 私をエスコートした. その手は, まるで私を所有物であるかのように強く握られていた.

会場に入ると, まばゆいシャンデリアの光が目に飛び込んできた. 着飾った人々がグラスを片手に談笑し, 会場は熱気と喧騒に包まれている.

私は, その中に桜の姿を見つけた. 彼女は, 何人かの友人と楽しそうに話している. 修作の隣に立つ私に気づくと, 彼女は一瞬, 動きを止めた. そして, 私と修作が手をつないでいるのを見て, その口元に奇妙な笑みを浮かべた. その笑みは, かつて私が病室のドア越しに見た, あの嘲笑と同じだった.

彼女は知っていたのだ. この復讐ゲームの全てを.

私の心臓が, 再び重く脈打った.

修作は, 私と交際している間, 桜とはほとんど連絡を取らなかった. 私が彼の浮気を疑わないように, 細心の注意を払っていたのだろう. だが, 真実は違った. 彼は, 桜を心から愛していたのだ. 私を欺き, 弄びながら, 彼の心は常に桜の方を向いていた.

彼は私の手を握りしめていた. その手は, まるで私を舞台に上げるための小道具のようだった.

桜は, 私たちの手を見て, 笑った. その笑みは, 私を嘲るものであり, 同時に勝利を確信するものでもあった.

意識が遠のきそうになる. 呼吸が, 浅くなる.

修作は, 私の手を強く握りしめた後, ふと, その手を緩めた.

「少し電話をしてくる. ここで待っていてくれ」

そう言い残し, 彼は人混みの中へ消えていった. まるで, 私から逃げるかのように.

私の心は, どんどん冷えていった. まるで, 深海の底へ沈んでいくかのように.

私は彼が出ていった方向を目で追った. 桜も, 彼の後を追うように, 人混みの中に消えていく. 二人の姿は, あっという間に私の視界から消えた.

私は一人, 会場に取り残された. すると, 修作の幼馴染たちが, ニヤニヤと笑いながら私の周りに集まってきた.

「幸江ちゃん, 久しぶり! 」

「修作に捨てられたかと思ってたよ」

彼らは私にグラスを差し出し, 嘲るような笑顔で言った.

「乾杯しようぜ, 修作を解放してくれたお礼に! 」

その言葉に, 私の全身の細胞が怒り狂った.

「遠慮します」

私は冷たく言い放った.

すると, 幼馴染の一人が, 無理やり私の手にグラスを押し付けた.

「なんだよ, 気取ってんのか? 飲めよ! 」

彼は私の肩を強く突き飛ばした.

私はバランスを崩し, よろめいた. 彼らは面白そうに笑い声を上げる.

「おい, もっと遊んでやろうぜ! 」

別の幼馴染が, 私の背中に手を回した.

私は必死に抵抗した. 彼らの手から逃れようと, 体を捩る. だが, 酔った男たちの力は強く, 私は身動きが取れない.

「離して! 」

私の声は, 彼らの笑い声にかき消された.

その瞬間, 一つの大きな力が私の背中に加わった.

私は, あっという間にもつれ, バランスを完全に失った.

「キャッ! 」

水しぶきが上がった.

私は, 冷たい水の中に投げ込まれていた.

会場の中央にある, 小さなプールの底へと沈んでいく.

冷たい水が, 私の全身を包み込んだ.

私は, 泳げない.

手足を必死に動かすが, 水は私を容赦なく深みへと引きずり込んでいく.

口を開けば, 冷たい水が流れ込んでくる. 鼻の奥がツンと痛み, 呼吸ができない.

「苦しい... ! 」

私の意識は, 薄れていく.

水面には, 幼馴染たちの楽しそうな笑い声が聞こえる.

彼らは, 私を助けるどころか, 嘲笑しているのだ.

体が, 重い. 腕が, 足が, 思うように動かない.

意識が, 完全に途絶えた.

次に目を覚ました時, 私は見慣れた部屋のベッドに横たわっていた.

頭がガンガンと痛み, 全身が熱い. 体の節々が軋むように痛んだ.

喉もカラカラに乾いていた.

「... 幸江」

優しい声が聞こえた. 視線を向けると, 修作がベッドサイドに座っていた.

彼の顔には, 微かな憔悴の色が浮かんでいる. 手には, 水と薬を持っていた.

「目が覚めたか. 薬を飲んで, もう一度眠るといい」

彼の声は, あの日の病室で聞いた優しい声と瓜二つだった.

私は朦朧とした意識の中で, 彼が差し出した薬を飲み込んだ. 喉が焼けるように痛かったけれど, その薬が救いのように思えた.

再び, 意識を手放す.

どれくらい眠っていたのだろう. 目が覚めると, 熱はさらに上がっていた. 全身から汗が噴き出し, 頭は激しく脈打つ.

修作の姿は, どこにもなかった. 彼はもう, この部屋にはいなかった.

私は何とか体を起こし, 洗面台へ向かった. 鏡に映る自分の顔は, 真っ赤に紅潮し, 目はうつろだった.

高熱だ. このままでは, 本当に死んでしまうかもしれない.

私は震える足で, 病院へ向かった.

病院に着くと, すぐに処置室に通された. 点滴が始まり, 体温は少しずつ下がっていく.

「もう少し遅れていたら, 命の危険がありましたよ」

医師が心配そうに私に言った.

「でも, 薬は飲んだはずなんです... どうしてこんなことに? 」

私は震える声で尋ねた.

すると, 医師は怪訝な顔をした.

「どんな薬を飲んだんですか? それを見せていただけますか? 」

私はカバンから, 修作がくれた薬の瓶を取り出した.

医師はそれを受け取り, 中身を確認した.

そして, 彼の顔色が変わった. 驚愕, そして怒り.

「これは... 薬ではありません」

医師の声は, 怒りに震えていた.

「ただの糖衣錠です. しかも, 体に有害な成分が含まれています. これを飲んだせいで, 症状が悪化した可能性があります」

私の心臓が, 再び止まった.

修作がくれた薬は, 私を治すためのものではなく, 私をさらに苦しめるためのものだった.

その瞬間, 私のスマホが激しく震え出した.

画面を見ると, メッセージが何件も届いている. 差出人は, 修作の幼馴染のグループチャットだった.

「幸江, 最高の演技だったな! プールに落ちた時の顔, マジで最高! (笑) 」

「修作の薬, 効いてるかな? もっと苦しめ! 」

「あいつ, まだ生きてんのか? 今夜で完全に壊してやろうぜ! 」

そして, 最後の一件.

「やべっ! 間違ってグループチャットに送っちまった! 」

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死んだはずの妻、舞台へ

第3話
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