話 1
わたし、本山明日美は、死の都を歩いていた。
友里亜さんからもらった武器の大鎌をその手に握りしめる。
すると、鼻をつく腐敗臭がした。同時に不規則な呼吸音。
危険を感じて、振り返ると、一体のスーツを着た、サラリーマンのゾンビが、此方に襲い掛かっていた。
腐敗して、変色した腕をわたしに伸ばしくる。
変色した歯をカチカチと不気味にならしながら、噛みつこうとしてくる。
死者が生者の脳ミソを求めて.....。
大鎌をゾンビに振り落とそうとしたが、もう遅い。
ゾンビはわたしの体をがっしりとつかんでいたのだ。
もうダメだ。わたしは大好きな人の前で死んでしまうだろう。
ゾンビは顎が外れたように大口を開けながら、わたしに再び、噛みつこうとした。
わたしは、最期を悟った。
・・・みんな、ごめんね・・・。
死ぬって思ったその時だった。
ドサッと音を立てて、何かが崩れ落ちた。それにゾンビの気配はもう感じない。
恐る恐る目を開けてみると、ゾンビが倒れていた。切り落とされたであろう、ゾンビの首が足元に転がっていた。
ー助かったー
目の前に日本刀を手に握りしめて立っている義経がいた。
「明日美殿!!」
日本刀を鞘に戻して、わたしに駆け寄ってくる。
「ありがとう。」
親しき中にも礼儀あり。せめてものお礼を言ってあげた。
「おい、大丈夫か!?」
心配して、祐太や、一翔、季長が飛んでくる。
「うん、大丈夫だよ。ありがとね。」
今まで怖かった。何度も襲われ、死にそうになっていた。でも、ここまでこれたのはみんなのおかげだ。
「里沙と奈央、佐藤君たち、伊勢君、戻って来ないね。」
「大丈夫だって。きっと戻ってくるよ。」
祐太が優しくなだめてくれる。
「行こっか、明日美ちゃん。」
一翔が優しく背中を押す。
「きっとまた、平凡な幸せが戻ってくるわよ。」
未来人の女子高生、友里亜さんが励ましてくれる。
みんな、ありがとう。わたしは心から誓った。
この世界を救うって。
そして分かった。平凡何てものは無いと。みんなが今どこかで過ごしている何気ない日常は、決して何気なくない。
平凡な日常こそが本当の幸せだってことが分かったのだ。
でも、誰かがこのゾンビパニックで命を落としてもおかしくはない。
何があっても後悔しないように伝えたい思いを伝えなきゃ。
自分だって死んでもおかしくはない。
そして、義経だって歴史的に永遠の別れを迎えるのだ。
つまり、みんなと過ごすことは、いつかくる別れへと近づきながら、共に歩むと言うこと。
すると、この状況に似合わない優しい風が吹き抜ける。
まるで、その風は、みんなの願いを遠くまで運んでいるようだった。
思い出すのは、幸せだったあの頃のことだった。
ーまたみんなで遊びたいな。ー
うちに明日何てあるのかないのかわからない。
でも、祐太たちの明日がありますように。
そう願わずにはいれなかった。
話 2
ピピピピピピピピ・・・。
目覚まし時計が音を立ててなる。時間を見ると、時計の針はもう6時を指していた。
「えぇ・・・。もう、6時なの?」
昨日は幼馴染み物の小説に夢中になっていて、夜遅くまで起きていたからなあ。
その本は、学校で新しく入荷された本で、男女共に大人気で、昨日、やっと借りれたのだ。
いざ読んでみると、面白くて、夢中になって時間を忘れてしまった。
(やっぱり幼馴染みっていいなぁー)
顔を洗いながら、わたしはそう思ってしまう。
いけない、いけない、わたしにも幼馴染みがいるじゃないか。
超有名人の幼馴染みが。剣道の大会で全国制覇しまくりの天才少年、山崎祐太。その兄の一翔も弓道の大会で優勝している兄弟揃って有名人なのだ。そして、源平合戦で大活躍したあの超絶有名人の源義経。元寇のときの一応歴史の教科書に載っている竹崎季長。
義経の家臣の佐藤兄弟の兄、佐藤継信弟の佐藤忠信。に、伊勢三郎義盛とも親交がある。
なんでこんな事になったかと言えば何らかのアクシデントで時空の歪がみが生じて過去の時代から現代へと自由に行き来できるようになったからである。
彼らはとても頼りになるけれど、わたしのことをからかってるっていうか、女子扱いしてないし。まぁ、自分が男子以上に男勝りだからかもしれないけど。
でも、本当にいつの時代でも、男子って人をからかうのが好きだよなってつくづく思う。
それに比べて奈央と里沙は本当に十四才!?って思うくらい性格も大人びて、何があっても冷静で、本当にすごいし、カッコいいと感じる。
まぁ、祐太も一翔も義経も季長も奈央も里沙も10年以上一緒だし。
祐太なんか赤ちゃんの頃から一緒の一番の理解者でもあるし。
いくら有名人だからって、幼馴染みだから、一緒が当たり前になって、特別感なんて皆無だ。
顔を洗いながらそんなことを考えていると、母親から、
「こら!明日美、いつまで顔を洗っているの!?朝ごはんできたわよ。」
あー。ずっと変な考え事してたから、結構時間がたっている。
すぐに乱れた髪を整えるため、プラスチックの櫛を片手に鏡の前にたつ。
わたしは生まれつき、髪がほんのり銅がかかった淡い茶色だ。
幼馴染みたちはみんな黒髪ストレートなのに・・・。
一人だけ髪色が違いすぎるから、近所のおばさんに、染めてるって噂されてひどい目にあっているし。
肩までの茶髪をコームで解かしていく。髪が整ったら、朝ごはんを食べに台所のテーブルへ向かう。炊きたての白米に、半熟の目玉焼きに、味噌汁にジューシーなウインナー。
今日も美味しそうだ。
「いただきまーす。」
朝ごはんを食べ終わると、歯を磨いて、セーラー服に着替えて準備完了。
余った時間でめざましテレビを見てから、午前7時30分に家を出た。
いつもの通学路を通っていると、後ろから、祐太と一翔に声をかけられる。
祐太は身長が高くて、顔立ちも整っている。その兄、一翔も頭がよく、眼鏡がよく似合うへ偏差値75の高校に通っている。高校二年生だ。
「おっはよー。」
「明日美ちゃん、おはよう。」
「おはよう、祐太、一翔。」
幼馴染みに挨拶を交わし、一緒に並んで歩く。
祐太とは赤ちゃんの頃から一緒の仲良し。
祐太のお兄ちゃん、一翔とは顔見知りだったけど、眼鏡をかけて、勉強ばかりしているから、堅物で取っつきにくいと思っていた。
でも、保育園の頃、思いきって話かけたのが始まりだ。それで今に至っている。
里沙と奈央は保育園のとき、横浜へ引っ越してきて、わたしたちが通う保育園へやって来たのだ。
わたしは大人びた性格の奈央と里沙とすぐに仲良くなった。なぜなら、一緒にいるとすごく安心するからだ。
そして、あれは、三才の頃だった。近所の石碑の前で転んで、平安時代末期にタイムスリップしちゃったのだ。
その時に、幼少時代の義経に出逢ってしまったのだ。あのときは彼にくっついてばっかりで、いつも勉強や武芸の稽古の邪魔をしていたっけ。
次は、四歳の頃、石碑の前で遊んでいたら、鎌倉時代にタイムスリップして、竹崎季長に出逢っちゃって・・・。
どれも唐突な出逢いだ。保育園のわたしに出逢っているから幼馴染みだろう。
よく両親が言っていたっけ。
ー保育園頃に出会った彼ら彼女らは幼馴染みだよー
って。
わたしはそう言われたとき、小学校低学年だったから、幼馴染み?
なにそれ、おいしいの?くらいにしか思ってなかったのだ。
最近は幼馴染みのことばかり気になっている。一体、どうしたのだろう....。
すると、大勢の小学校低学年くらいの男女が、三人の青年を囲んでいた。
どうやら、質問責めにあっているようだ。
「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃんたちって時代劇の人?」
それもそのはず。三人の青年の年齢は高校生~大学生くらい。
でも、服装が違いすぎる。三人とも、平安時代末期~鎌倉時代の男性の服装の直垂を着ていたからだ。頭には折烏帽子をかぶっている。
しかも、義経と継信、忠信じゃん。
「あー、そこの坊っちゃんとお嬢ちゃん、そんなに質問責めにしたら、お兄ちゃんたち、困るでしょう?」
うちが小学校低学年の子達に言うと、
「じゃあ、このお兄ちゃんたち誰なの?」
まだ小学校低学年の子達に歴史を教えても、わからないよな。
「小学校六年生になったら学ぶから、そしたら、お兄ちゃんたちが誰か分かるよ。」
そう言って、義経たちの背中を押した。
「そんな所にいたら目立つでしょ?」
「そんなに目立つのか?」
ありゃりゃ、全く分かってないみたいだ。
「だから、あんたたちは、この世界では、すごく目立つの。」
「全く・・・。なんなんだ、あの童子たちは..。」
目立つなんて気にしていないみたい。その服装でうろついたら、みんな驚くに決まってるでしょうに・・・。
源義経。1159年生まれる。誕生日は不明。1189年に衣川の合戦で自ら命をたつ。
彼は今、満19才。彼はあと満10年くらいで死んでしまう。別れるのは嫌だな。
幼馴染みたちには幸せになってほしい。そうやってセンチメンタルな考え事をしていると、
「おい!!なにさっきからなにボケてるんだよ❗」
祐太に声を掛けられて気づいた。
「大丈夫?明日美殿」
忠信にも心配されたし。
こうなってしまったのは、あんたたちのせいだよ。
最近、あんたたちのことばかり考えちゃうんだよ。
「最近、考え事ばかりするんだよ。」
「鈍い明日美殿が考え事したら余計に鈍くなるだろうに。」
義経が余計なことを言う。
「いい加減、運動神経良くないんだから、考え事なんかしてたら、チャリごと川へ落っこちるぞ。」
「祐太もよっちゃん(義経のニックネーム)もさっきからひどいよ。あと、継信君も、忠信君も笑わないでよ❗」
だいたい、あんたたちのせいで、考え事してるって気づいてないくせに。
つーか、うちはからかわれるほど、運動神経悪くないから。そっちが良すぎるだけでしょ。
あと、義経は、女子も羨ましがるくらいの色白だから、うちだって少し嫉妬する。身長はわたしよりちょっと低いかな。
体型は、男子としては、華奢な方。キリッとした切れ長の目が特徴。
「あー悪いけど、建物の裏を通って帰ってね。」
自分達は学校へと向かった。
学校へ着いたのは、ギリギリ遅刻じゃない八時半だった。
義経たちと喋りすぎた~!!
学校が終わり、帰ろうとしていると、いない。祐太がいない。
里沙と奈央に、
「祐太は?」
「あっ祐太君なら、おばあちゃんが病院にいって、家には誰もいないって。」
そう。祐太には両親がいない。祐太も一翔もおばあちゃんに育てられたのだ。
義経も父親が殺され、母親とも、幼い頃、別れて、以来、あってないって言う。
季長だって、家が落ちぶれて、竹崎家復興のために頑張らなきゃならない。
一番の幸せものは自分だ。
わたしは、帰るとき、チーズケーキ2つと草餅10個を買った。
勿論、彼らにあげるためだ。わたしの家に居れば、の話だけど。季長もわたしの家にいるのかな?
やがて、家につくと、いつものように、家の扉をあける。
「お帰り~。」
あっ!!しまった!!ただいまを間違えて、お帰りって言ってしまった!!
勿論、お母さん大爆笑。母の笑い声に混じって、少年や青年の呆れた感じの声が混じっていることに気づいた。
あっ家に来てたんだな、と思った。母が笑いながら、
「あと、祐太君たち来てるから。」
和室へ行くと、いたいた。
祐太に一翔に義経、継信、忠信、義盛、季長。
「お帰り~とか、相変わらず面白いな。お前。」
和室に入った瞬間、からかわれた。
「はーい。これ、買ってあげたんだから、食べてよね。」
チーズケーキを祐太に、草餅を義経たちにそれぞれつき出す。
母が、ジュースやお茶を持ってくる。
「おいしい?」
チーズケーキや草餅を美味しそうに食べる彼らに聞いた。
「あぁ、うまいよ。ありがとな。」
「うまい!!京にも奥州にもこんなものはないよ。」
素直に喜んでて良かった。
「ねえ、明日美ちゃん、。」
「ん?どうしたの?みんな早速、お腹壊したの?」
「早速って、下剤でも入れたのかよ!?」
「毒でも盛ったのか!?」
んな訳ないでしょ。祐太や季長、考えすぎ。
「まっ明日美が出来るわけないもんな。」
「はっ!?」
「明日美殿は鈍いからすぐに分かる。」
「明日美ちゃんはドジだもんね。」
さっきから失礼なことをばっかり言うよ。祐太に一翔に義経に季長。
しかも、忠信君に継信君に義盛君だって同情しないでよ。
色々とからかわれるけど、こうやって、幼馴染みと一緒に居られるだなんて幸せだな。
ずっとこんな未来があればいいのに。
「なぁ、今度の土曜日、俺たちで遊びにいかないか?」
「うん!!いいよ。」
「よっしゃ~決まり~。」
「他の六人もちゃんと来てね。」
「あぁ。」
今週の土曜日が楽しみだなあ。
でも、楽しみは絶望に変わることを彼ら彼女らは知るはずもなかったのだ。
話 3
幼馴染みが帰ったあと、わたしはふと、考えた。
幼馴染みと出掛けるのって、どんな感じなのかって。もちろん、祐太たちも行く。後で確認したら、里沙と奈央も行くって。ますます楽しみだ。早く土曜日来ないかな~。
お風呂に入り、歯を磨いて、ベッドに横たわる。
気づいたら寝ていたようだ。
「明日美~起きろ!」
階下から、父の呼ぶ声がした。しまった!!目覚まし時計をセットするのを忘れた。
あわてて、時間を確認すると、目覚まし時計の針は、7時15分を指していた。
ーーヤバいじゃんーー。
大急ぎで、ご飯を食べる。そして、歯を磨いて、セーラー服に着替えて、7時40分に家を出る。
ーー間に合ったーー。
まだまだ十分余裕があるので、ゆっくりと自転車を走らせる。
すると、川の近くの橋に、祐太、一翔、義経、忠信、継信、義盛、季長がいた。
ーーだからその格好で出たらヤバいでしょーー。
わたしは、彼らの方を向いた。
彼らはすぐに気づいて、こちらに、手
を振ってくる。
わたしも、自転車のハンドルからてを離して、彼らにてを振り替えした。
次の瞬間だった。そのまま、バランスを崩し、チャリごと川へダイブしたのだ。
ーーザッブーンーー。
すごい音がした。まだ四月。水に入るのはまだまだ寒い。ましてや川なんて余計に寒い。
突然の出来事で、祐太たちはキョトンとしている。
やっと状況が理解できたのか、今度はうちを助けようとする。
「さむーい。」
「おーい、上がってこれるか!?」
祐太に声を掛けられ、上がろうとするけど、セーラー服が大量の水を吸って、思うように体が動かない。
「うん、今、上がる。」
しかし、足を滑らせて、また、落ちてしまった。
ーーザブーンーー
「明日美ちゃん、大丈夫?引き上げようか?」
一翔に聞かれ、
「うん、引き上げてぇ 、、、。」
と、みっともない声で言ってしまった。
引き上げてもらい、一応お礼を言う。
でも、寒い。
スカートの水を絞りながら、ぶるぶる震えている。
ーー朝からろくなことがない。ーー
「もう、なんでわたしばっかりついてないの・・・。」
「まっ、頑張れ。」
「朝からこれだもの。頑張る気力皆無だよ。」
はぁー。風邪引いちゃうよ。
「ねぇ、祐太、タオル持ってない?」
「持ってないなー。」
「じゃあ、よっちゃん、タオル持ってる?」
「たおる?何だ、それ?」
あっまたやってしまった。義経の時代にタオルなんてないよなー。
って、誰も持ってないんだな。
だいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?
心の中で文句を言っておいた。
「これから、どうしよう・・・。」
「とりあえず、一回、家へ帰るか?送っていくよ。」
「えっ!?祐太に一翔、学校はいいの!?」
「まっ、良い言い訳を考えるから。」
ありがとう・・・。はぁー、なんでわたしって人に迷惑ばっかり掛けちゃうのか・・・。
自分に嫌気がさす。
わたしのせいで、祐太と一翔は、学校に遅れるし、わたしは見事に風邪を引いた。
ーーだいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?ーー
そんなことを思った自分に吐き気がする。
友達に向かって手を振るのは当たり前だ。幼馴染みなら、なおさら。
わたしって、酷い奴だな。
ベッドに横たわりながら、そんなことを思った。
熱も出てるし、土曜日は行けるのかな?
すると、コンコン、とドアがノックされた。
お母さんだ。
「明日美、奈央ちゃんと里沙ちゃん来ているよ?」
「うん。部屋に入れて。」
暫くすると、母が、奈央と里沙を連れて、やって来た。
「大丈夫?熱はない?」
里沙が聞いてくる。
「うん。微熱。」
「じゃあ、はい、これ。」
渡されたのはいかにも美味しそうな焼きたてのクッキー。見ているだけで香ばしい香りがしてきそうだ。
「美味しそう。ありがとう。」
「後ね、祐太君たちなんか言っていたよ?」
あー。そうですか。っておい!!あのときは慌てて、助けてくれたくせに…!!
「うん、明日美ちゃんらしいってみんな言ってたよ。」
はぁー。後で文句を言ってやる!!
「みんなって誰が?」
「祐太君に、一翔君に、佐藤さんに、伊勢さんに、義経さんに、季長さん、みんなそろって言っていたよ。」
まじか、。まぁなんて言っていたか容易に想像がつくよ。
祐太なんかやっぱりドジの女王とか、一翔は明日美ちゃんらしいやとか、義経とか、
やはり明日美殿は鈍いとか、季長は猪娘とか言ってたりして…。
「うん。確かにそういってた。」
里沙は可笑しそうにしていた。覚えとけよ。必ずあんたたちをからかってやるんだから。
「早く元気になってね。」
「ありがと、奈央。」
「私達、塾だからごめんね。」
「うん、じゃあね。」
幼馴染みも帰って、暇だった。今すぐ、風邪治らんかな~。
「あぁ~誰か食べ物持ってこないかなー。」
「さっきから何、独り言言ってるんだよ。」
聞き慣れた声にびっくりしてドアの方に顔を向けると、いたよ。祐太に一翔に義経に季長が。佐藤君に伊勢君はいないみたいだね。
すると、お母さんが、階下から
「いい忘れたけど、祐太君たち来てるわよ。」
でも、ナイスタイミング!!何か持ってきてくれたかなぁ~。
すると、祐太がなんでもお見通しとでも言うように
「なんだよ。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃ。さては、なんか食べ物持ってきてくれたとでも思ってるんだろ?」
す、鋭い。
「な、なんで分かったの!?」
「明日美殿のことだから。」
義経にしれっと言われた。
「お前、食いしん坊だもんな。」
そういって、祐太が抹茶チョコレートを差し出してくる。
「受け取りなよ。」
一翔はココアを差し出してくる。
「はい、明日美殿。」
義経は干し柿を差し出してくる。
「早く良くなれよ、明日美殿。」
季長は魚の干物を差し出してくる。
「あ、ありがとう・・・。」
どういう訳か、彼らを仕返しにからかってやろうという思いは消え失せていた。
しかも全部うちの好物を持ってくるなんて、さすが幼馴染み。他の人なんか、お見舞いに嫌いなものを持ってくるなんてこともあったし。
「あっ、もうねだったって俺たちなにも持ってねーからな。」
祐太に冷たく言われて、
「はっ!?最初な~。」
「でも、お前の表情からして、何か欲しそうにしてたけどな。」
だから、なんで分かるの!?
「そりゃ、保育からの付き合いだからね。明日美ちゃんの気持ちくらいわかるよ。」
一翔って堅物かと思ったら意外と気さくだもんね。
「あっ、そろそろ。」
「えっ!?もう帰っちゃうの?」
「あぁ。あまり長く居たら、忠信たちに心配されるからな。」
「じゃあな、明日美、早く治せよ。」
「じゃあね。」
彼らも帰って、もらった物を食べていると、
「明日美、晩御飯よ。降りてらっしゃい。」
「うん、今すぐ行く。」
晩御飯はハンバーグだった。
「もう、自転車ごと川へダイブするなんてね。」
お母さんがおもしろそうに言う。
「明日美、お前、幼馴染みとばかりじゃなくて他の子とも仲良くしろよ。」
お父さんに言われて、他の子かぁ~。まぁそこそこ仲良しの子もいるけど。
「まっそこそこ仲良しの子もいるよ。」
「そうか、ならいいが。」
そして次の朝、体調はすっかり良くなっていた。
学校について、すると、クラスメートの女子が、
「ねぇ明日美ちゃん、この前一緒にいた純和風のお兄さん誰?」
えっ!?見られていたの。
「祐太君や、一翔さんと一緒に明日美ちゃんの家を訪ねていたよね?」
彼女の名前は江本夕菜でクラスメートで中学3年になってからわたし達の通う中学校に転校して来た。女子に対しては素っ気ないのに、男子に対してはぶりっこだから彼女のことは苦手だ。
「なんか、教科書で見るような、鎌倉時代の服装だよね。格好はあれだけど結構カッコいいじゃん。」
あぁ........................。義経たちも面倒臭いのに目をつけられちゃったな。
「ねぇ、一体誰なの?」
幼馴染みですって言っても大丈夫かなぁ。
「幼馴染みだよ。」
「明日美ちゃんずる~い。あたしにも紹介してぇ~。」
なんかとんでもないことになったよ。
「ねぇ明日美ちゃん?」
「どうしたの?」
「あたしと友達になってぇ。」
夕菜と友達かぁ・・・・。
「うん・・・。いいよ・・・。」
「本当?ありがとう!!明日美ちゃんって優しいよね!!」
案の定、噂は広がっていた。みんなに和風のお兄さん誰?って聞かれまくって大変だ。
「お……幼なじみです……。彼氏じゃないよ。」
言い訳には苦労する……。
「明日美殿。」
ふと、窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。もう……。なんなの~と思って見てみると、
直垂姿のわたしより少し歳上の青年がいた。
「ちょ、ちょっと……よっちゃん!?なんであんたが此処にいるのよ!?」
ちょうど義経達のことが噂になっていたので、みんな大騒ぎだ。
「あっ!!噂のお兄さんだ!!」
「噂すればなんちゃらっていうのは本当みたいね。」
「すげー!!本当に大河で見るような格好してるー」
「あの人、絶対女装似合うよね?」
女装か……。確かに、義経は女子、男子どちらとも取れる顔立ちだし、色白だし、髪の毛だって長いし(当時は男性でもロングヘアーは普通。)
絶対似合うよ……。
裕太や一翔だって結構似合いそうだし、別にうちが男の娘に興味があるわけじゃないけどね……。
そしたら夕菜が彼に近づいて、
「明日美ちゃんと仲良しって本当ですか?」
げ……。とんでもない事を聞いてるし……。
「あぁ、鞍馬寺にいた頃からの友だ。」
おい!!みんなの前でそんなこと言うか!!
このKY武将!!
「明日美ちゃんって4股なの!?」
て言うか、わたし彼氏いません……。
「明日美ちゃんはあなたの許嫁ですか?」
なんて質問してんだよ!!と思ったけど、
「許嫁かどうかは分からぬ……。」
曖昧な返事しないで……。しかも何を赤くなってるの……。
まあ、白い頬がほんのり赤くなってかわいいけど……。
「ねえ、なんで来たの?」
彼に小声で聞くと、
「明日美殿がどこで学問しているか気になっただけだ。」
気にならなくて結構だから……。
「お名前は?」
答えなくて結構だよ……。
「我の名は源九郎義経だ。」
素直に名乗ってるし……。
「すごーい!!明日美ちゃんのボーイフレンドってみんな豪華だよね、羨ましい!!」
うるさい……。
「ではそろそろ……。明日美殿、頑張って学問に励むんだそ。」
応援ありがとう……。
そして彼が帰ってがらがらこれまた大変で……。
「キャー、喋っちゃった!!」
と夕菜はご機嫌モード。
「えー、夕菜じゃなくてわたしが喋りたかった……。」
他の女子が夕菜に文句を言う。
「ダメダメ~美晴ちゃんなんかじゃダメだよ。
やっぱり有名人と話すのはこの夕菜じゃなきゃ!!」
「いつも夕菜ばっかり……」
やっぱり優菜ちゃんは苦手かな……?
「めっちゃ仲良しじゃん!!」
そこからわたしの好きな人詮索が始まったのでした……。
好きな人なんかいません……。
そして、授業も終わり、下校の時間になった。
「明日美、大変だな。」
祐太が心配してくれるけど、大変だってレベルじゃないし。
「何かあったらいつでも言ってね。」
理沙に奈央、本当にありがたい。
すると、建物の裏から変な物音がする。きっと気のせいだろう。
わたしは、道に落ちてる小石を蹴った。
その小石が悪夢の始まりだなんて誰も知らなかった。
カッ!!微かに音がした。すると、何かが不規則な足音をたててこっちに向かってくる。
それに、なんか臭い。まるで何かが腐ったみたいな匂いだ。
「ねえ、なんか臭い。」
「確かに臭いな。」
「うぅ、なんかくるみたい。」
するとそいつが姿を表した。それは、ワンピースを着た若い女性だった。
でも、それは生きている人間じゃなかった。
肌は腐敗して変色し、眼球は白く濁っている。明らかに腐敗臭は彼女から漂っていた。
まるで、ホラー映画で見るようなゾンビそのものだった。
「何よ!!これ!?」
「知らないよ!!なんでこんなのが横浜にいるの!?」
いつもは大人びている里沙と奈央でさえ恐怖に怯えていた。
「ねぇ、祐太、剣道の大会優勝してるよね?」
「でも、いまは木刀とか武器になるのは持ってないぞ。」
そんな............。どうしたら..........。
わめいてる間に女は近づいてくる。明らかにうちらを狙っている。
こういう時に義経や季長、佐藤兄弟や伊勢君がいてくれたなら。
でも、そんなに都合よく彼らはいない。
じゃあどうなるの?
バシッ!!気が付くと、女は倒れていて、
背後におじさんが立っていた。どうやら女を張り倒したようだ。
「大丈夫か!?怪我はないか?」
「ありがとうございます。」
助かった、と思ったのはつかの間。女はおじさんを見えているのかわからない白く濁っている眼球でおじさんを見据えていた。
女はよろよろと立ち上がり、おじさんにつかみかかった。
そして、おじさんに噛みついた。おじさんの腕から鮮血が飛び散る。
おじさんは苦悶の表情を浮かべながらも、
「お前たちは逃げろ。おじさんなんかに構うな!!」
「えっでも・・・。」
「いいから行け!!」
おじさんに強く促されて、私たちは逃げた。
誰か、助けて・・・・・・。
「明日美殿!?」
聞き慣れた声がふと聞こえた。そこには、義経と佐藤兄弟が立っていた。
思わずわたしは義経の腕を掴んでいた。
「な、なんだ?」
突然腕を掴まれて驚いている彼。
「ねぇ、怖い。助けて............。」
私たちはまだ知らなかった。これは悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだと。