2

腹黒い一家が去った後、私は部屋の隅でうつむく少年に視線を注いだ。私のただ一人の弟、楚風華である。

母の死後、私自身も心を閉ざし、病の床に伏せりがちだったこともあり、弟を気遣う余裕がなかった。

継母の穏やかな仮面を信じ、弟の養育を任せきりにしていたのだ。

今思えば、なんと愚かな過ちであったことか。

弟が家で反抗を繰り返し、学堂で揉め事を起こしてばかりいたのも、今となってはすべて合点がいく。弟を廃人にするための、あの継母の周到な企みだったのだ。

「皆、下がりなさい」 私が命じると、部屋にいた使用人たちは静かに退出していった。

母が亡くなった後も、生前から仕える忠実な者たちがこの離れを守ってくれている。

父が後妻を迎えようと、その継母が偽善者であろうと、私の暮らしは表面上、何一つ変わらなかった。

だからこそ、奴らは表立って私を害することができず、ゆっくりと命を蝕み、病死に見せかけようとしていたのだ。

「風華、これからは私の部屋で暮らしなさい」

弟は顔を上げ、その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 「姉さん……あの人たちは、悪い人たちだ」彼はしゃくりあげながら言った。

私はそっとその頭を撫でる。

「わかっている。もう心配いらないわ。姉が必ずあなたを守る」

昏睡の淵をさまよったあの日々、私は全てを知った。継母が献身的な看病を装い、私の薬湯に密かに手を加えていたことを。それは毒薬ではない。でなければ、私の薬師が見抜かぬはずがない。

極上の滋養強壮薬――しかし、長年病に苦しむ私にとって、それは死を早める毒薬も同然であった。

継妹はといえば、私が歯牙にもかけないあの婚約者と密会を重ね、陰で「あの女はいつ死ぬのか」と囁き合っている始末。

私が死ななければ婚約は破棄できず、かといって彼の方から破談を切り出す度胸もないくせに。

だが、何よりも私を絶望させたのは、父である。継母や継妹など所詮は他人。彼女たちの仕打ちに心を痛めたりはしない。しかし、父だけは違った。幼い頃から、母の次に私を慈しんでくれた、ただ一人の父が……。

その父が、継母が私を害し、弟を歪ませ、虐げるのを、ただ黙って見ていたとは。

私は、手元にあった薬湯を床に叩きつけた。

――お前たちが非情に徹するならば、こちらも容赦はしない。この命が尽きるまで、決して。

3

私の母は、常州の名家である常氏の嫡女。その祖先はかつて皇帝に従って戦地に赴き、武将軍の位を賜ったほどの家柄である。

天下が泰平の世となると祖先は官職を辞して故郷へ戻ったが、皇室からの恩寵は絶えることがなかった。

それにひきかえ父は、当時官職もない一介の書生に過ぎなかった。母が身分を落として嫁いできたのだ。

半日も経たぬうちに、弟の荷物はすべて私の部屋へと運び込まれた。

「風華、姉さんに教えてちょうだい。どうして学堂で何度も揉め事を起こすの?」

弟はおずおずと私を見上げ、ぽつりと答えた。「楚泰が……あいつ、いつも人をけしかけて僕をいじめるんだ。それに、姉さんはもうすぐ死ぬ、なんて……」

楚泰。継母の息子である。

母が世を去って間もなく、継母は子を連れて楚家に嫁いできた。前の夫が亡くなってから、五年以上が過ぎていたという。

都合の良いことに、彼女の父親がかつて楚家に恩を売ったことがあったため、父は彼女を後妻に迎えた。家事を取り仕切り、私達姉弟の面倒を見るため――というのは、あくまで名目上の話だ。

魂が体から離れていた時、私は聞いてしまったのだ。楚玫と継母の会話を。――あの二人は、父の実の子であると。

もし二人が本当に父の子だというのなら、母の死も、そして継母の夫の死も、単なる偶然では片付けられない。

楚玫は私より二つ年下で、楚泰は弟と同い年だ。

父よ、あなたが母を裏切り、あまつさえその死に関わっていたなどと、この私に突き止めさせないでほしいものだ。

「姉さん、学堂へ行くよ。もうあいつとは喧嘩しないから」 弟はもともと素直で芯の強い子だ。継母の元でどれほど歪んだ教育を受けても、その心根は変わらない。

「我慢することはないわ」 私は母の形見である玉のかんざしにそっと触れた。「お前こそが楚家の若君。あの子はただの継子、言うなれば使用人と同じ。お前と肩を並べられる存在ではないわ」

「良一、若君に護衛を二人付けなさい。ちょっかいを出す者がいれば、容赦は無用です」

「わかったよ、姉さん!あいつをぎゃふんと言わせてやる!」 弟は目を輝かせて答えた。

弟が学堂に戻った初日、早速楚泰と一悶着あった。いや、正確に言えば、弟と護衛が楚泰とその取り巻きを一方的に打ちのめしたのだ。

家に逃げ帰った楚泰は、泣き喚きながら父と継母に、弟を罰するよう訴え出た。

だが、私が広間に姿を現すことまでは、想定していなかったようだ。

「これはどういうことかしら。私が意識を失っている間、継母は王泰が弟をいじめるのを、ただ見て見ぬふりをしていたとでも?」 私はあえて「王泰」と呼んだ。彼が楚家の一門ではなく、血の繋がりもない赤の他人であることを知らしめるために。

継母は虚を突かれたように固まり、慌てて楚泰を床に跪かせた。「今日はまた何があったのです?なぜ殴られたのですか?」 弟に非があるようにと、巧みに話を誘導しようとする。

楚泰は声を限りに事の経緯をまくし立てた。

父は苦々しげに眉をひそめ、私を問い詰めた。「お前が風華に護衛を付け、楚泰を殴らせたというのか?」

「王泰、です。あの子は継子。楚家の祠堂に入ることも、楚の姓を名乗ることも許されぬ身」 私は冷笑を浮かべて父を見据える。「そうでしょう、父上?」

「あの子が幾度となく風華を辱め、嘲笑っていたことを、父上はご存じなかったと?それとも、知らぬふりをなさっていたのですか?」 私の声には、隠しきれない棘があった。

私の剣幕に、継母は血相を変えて王泰に頭を下げさせた。「なんて聞き分けのない子でしょう!」 そして、なだめるように私に言った。「子供同士の些細な喧嘩ですわ、憶柳さん。どうかお気を鎮めて。お体に障ります」

「私を呪っておいでなの?」私はすっと立ち上がり、刃のような視線を投げかける。「今後、この楚家で、あの子を楚泰と呼ぶことは誰であろうと許しません」

父は黙り込み、ただじっと私を見つめていた。

その視線が、私を通り越して亡き母の面影を追っていることに、私は気づいていた。

私と母は、容姿だけでなく気性までそっくりなのだ。

その夜、王泰は罰として祠堂で夜通し跪かされた。

継母もたいした食わせ者だ。こうすることで、「私が義理の弟を虐げている」という噂が、見事に広まることになるのだから。

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魂が見た真実——裏切りの家

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