話 1
イボンヌ・グーが結婚式から逃げだした! マスコミで取り上げられているこの結婚式は、21世紀最大の結婚式であるはずだったが、 今となっては、世間の笑い種になってしまう寸前だった。
オータム・イェは鏡で自分の姿を見て、 床に置かれているウェディングドレスを力強く踏んだ。 イボンヌが滅茶苦茶にしたのに何故私が解決しないといけないの?
「もっとやったら! まだ怒ってるなら、踏みつけれるドレスが後10着もあるわ!」 オータムの母親であるウェンディ・イェが厳しい顔つきで彼女を見た。
オータムの心が沈んでいった。 彼女は立ち尽くし、呼吸を整えてから話し始めた。「お婆様の医療費を払うお金が必要なの。 お金が入り次第イボンヌの代わりに、チャールズ・ルーと結婚するわ」
歪んだ微笑みを浮かべながらウェンディは携帯を取り出し、秘書に電話をした。「チャンさん、病院の理事に連絡をとって」
電話を切った後、ウェンディは振り返ってオータムの方を見た。 素朴なウェディングドレス姿のオータムをうんざりとした顔で見て、 ハサミを手に彼女に向かって歩いて行った。
ウェンディは落胆した表情でハサミを持ち上げながら言った、「そんな顔で見ないでよ。 あなたは私の娘だけど、あなたを見るたびにあの役立たずな父親を思い出すわ。 あなたを見捨てた事を責めないでね。 人間は我が儘になって自分の事だけ気にすればいいのよ」
ウェンディはオータムのドレスを切り、袖に大きな穴を開けた。
そして部屋の外で待っている担当者の方を向き、「ボケっと立ってないで。 ウェディングドレスが破れてるわ。 新しいのを持ってきてあげて! 私のイボンヌは一般人ではないのよ。 彼女は一番素敵なウェディングドレスを着るべきだわ」
オータムは鼻を引き攣らせた。 ウェンディが自分が彼女の娘だと初めて認めたからだ。 しかしそれは、ウェンディが世間にイボンヌが彼女の最愛の娘であり、オータムはただの代理だと公表したことにより落胆させられた。
オータムはひび割れた下唇をかみ、小馬鹿にしたように笑った、「私の父親は確かに頼りない男性だったけど、あなたみたいなグー叔父の愛人になるような女性と結婚したんだもんね。 まぁ、あなたがしたみたいに、別の女性がグー叔父を誘惑してくれるといいけど」
「お黙り! なんてことを!」 ウェンディは激怒し、 手を振り上げ、オータムの右頬を叩こうとしていたが 、オータムの完璧に仕上げられた化粧を見て、 彼女の魅惑的な美しさに落ち尽かされた。 「今日はあなたと言い合いはしないわ。 とにかく、さっさとチャールズと結婚して、騒ぎを起こさないで! グー家とイボンヌに恥をかかせないでよ!」 ウェンディが断固とした態度で言った。
オータムはにやにやと笑った。
チャールズ・ルー? その男は金持ちで権力があった。 1年中毎日違う女を連れているほど、 無数の女性と関係づけていた。 「なぜチャールズはイボンヌと結婚したいのかしら?」 オータムは不思議に思った。
「騒ぎを起こさずに、この結婚式を乗り切ればいい! あなたはチャールズを知らないけど、結婚式はかなりのものよ。 あなたを見捨てた事は本当に悪いと思ってるわ、でも裕福になるんだし、これからはいい人生を送れるわよ。 昔の事は忘れて、新しい人生を送りなさい!」
母親のその言葉を聞き、オータム・イェは長い事押し隠していた感情が涙になり湧き出てきた。 涙が頬を伝い流れ落ちた。 「獰猛な虎ですらこの母親のように自分の子供を扱わないわ」 と、彼女は思っていた。
オータムはまだ体の震た状態で荒々しくウェディングドレスを掴んだ。
「わかったわ! 彼と結婚するわ! イボンヌの代わりにチャールズ・ルーと結婚することを約束するわ。 でも… 今後、私はあなたの娘ではないわ。 だから私の人生の邪魔をしないで。 それに、お婆様に何かあったらあなたのことは許さないから!」
「あなたがチャールズ・ルーと結婚さえしてくれれば、あなたの言う通りにするから」
ウェンディがオータムにこれほど親切だったことはなかった。 彼女はオータムをチャールズに差し出せるのであれば何でもした。 数年後、オータムがこの出来事を思い出し、思いもよらなかった運命に思わずため息を漏らした。 彼女を絶望に落としたこの結婚式は、後々、彼女の人生を守る重大な事となった。 彼女が思いもよらなかった出来事が起こり始めた。
「結婚式が始まります。 新婦さん、急いでください!」
結婚式は予定通りに行われた。 白いウェディングドレス、レッドカーペット、花、そしてゲスト… その結婚式は映画で見るような華やかなものだったが、 オータムの心は氷のように冷たかった。 彼女は無表情だった。
豪華な結婚式だったにも関わらず、彼女は夫の顔すら見たことがなかった。 出席者たちは微笑んでいたが、オータムは周りにいる皆が式の初日に夫に愛されていない自分を嘲笑っていると感じていた。
チャールズが彼女の手をしっかり握っているにも関わらず、彼女は彼と話をしようともしなかった。 式の後、チャールズは乱暴に彼女の手を振り解いて言った。「先に帰るんだ。 俺は終わらせないといけない仕事がある」
チャールズの運転手がオータムを送り届けた。 彼女は運転手にチャールズがどこへ行くのかを聞いた。 運転手はチャールズがどこに居るのかよく知っているようだし、彼女に言わないような指示も受けていないようだから、 無関心に「リリーヴィラ」と言った。
「リリーヴィラ?」 確かにセレブのレイチェル・バイがリリー・ヴィラに住んでいるという噂があった。なるほど。 オータムはそう考えながら無関心な笑顔を見せた。 レイチェル・バイが私の夫となった男のガールフレンドだと言う噂は本当だったようだ。 今この瞬間にも、チャールズはレイチェルを抱きしめ、そして宥めているに違いない。 つまり、チャールズには既にガールフレンドがいたのだ。それで、彼が私の提案を受け入れるのはそんなに困難ではなかっただろう。
オータムは長い間チャールズをウェディングルームで待っていた。 その部屋は結婚式ムードで飾られいたが、オータムはそんなロマンチックな気分ではなかった。
彼女はチャールズは今夜は戻ってこないだろうと思ったので、 着替えをし、気分転換をしようと浴室へ向かった。
彼女は肉体的にも精神的にも疲れていたので、浴室で長い時間過ごした。 今日は色んなことがあり過ぎ、じっくり考えたかったからだ。
浴室の温度は高く、鏡は蒸気で曇っていた。 オータムは混乱していた。
ウェンディ、イボンヌ、チャールズそしてレイチェルのことが頭から離れなかった。
考えれば考えるほど、彼女はより混乱になった。
温かい湯船に浸かり落ち着きを取り戻してから、 彼女はタオルで身を包み、 別のタオルで髪を拭いた。 浴室から出て来た時、チャールズがまっすぐ自分を見ているのに気がついた。
部屋は暗く 壁ランプだけが点けられていた。 しかし、部屋のその暗さは無表情なチャールズよりましであった。
この20数年の人生で、男性の前でこれほど体をあらわにしているのは初めての事だった。
彼女はチャールズを見るや否や、服を取りに向きを変えた。 しかし、チャールズは彼女を捕まえ、 ベッドに投げ入れた。 「お前、どうしても俺と初夜を過ごしたいようだな??」 チャールズがバカにしたような口調で言った。
彼女の体はタオルで覆われているだけで 濡れた髪からは水滴が落ちていた。 分厚い結婚式用メークは既に洗い落とされていたが、チャールズは彼女の素顔から目を離せなかった。
チャールズは彼女の体から石鹸の香りがするのに気がついた。 その石鹸は彼がいつも使っているものであったから、 彼のにおいが彼女に付いていると感じ、彼の欲望に火をつけた。
が、レイチェルの涙目が頭に浮び、すぐに落ち着きを取り戻した。
彼とレイチェルは2年も付き合っている。 彼女をがっかりさせたくない。
話 2
「そんな…」オータムが目を見開き、答えようとした。 彼女はうぶであるように見えた。
しかし、チャールズが彼女の話を遮った。「イボンヌ、俺がお前を妻として迎えたのはお祖父様のためだ。 もしお前が俺との関係を確かにするために俺と寝ようと思っているなら諦めろ。そんな事はお前の夢の中でしか起きない」
彼は千という候補者からイボンヌを選んだのは2つの理由からだ。 一つ目はイボンヌは実家が金持ちだが、 我が儘で無知でバカな女の子だと噂されている。 二つ目は、欲深い彼女の父親であるサイモン・グーは少しだけの餌で満足できる。 さらに、グー氏の会社だけが彼にとって脅威となることはない。
しかし、何が起こった? 帰宅した途端、彼女はその美しさをセミヌードで見せつけ、彼を誘惑しようとした。 彼らが彼女を間抜けだと言っているのが嘘のようだ。
彼女が自分の体を使って人を誘惑しようとしていることを知っているのに。
オータムは契約書についてどうしてもチャールズに話したかったので、落ち着きを取り戻そうとしていた。 チャールズの早とちりで彼女の行動をバカにしている間、彼女は酷く怒っていた。
彼女はベッドから起き上がってしゃがみ込み、チャールズの目を見た。 彼の暗い目が彼は彼女には価値がないものだと言うことを表していた。
オータムの怒りが頂点に達した。
「ルーさん、 あなたには美しいレイチェル・バイがいるわ。 ごく普通の私はあなたには物足りない事は確かよ」オータムは薄ら笑みを浮かべた。
「私は自分をよく解っているわ。だからあなたに愛されようとなんて思っていない。 でも、もしこの僅かなお願いを聞いてこれにサインをしてくれたら、 ありがたいわ」 オータムは片手でしっかりとタオルを持ち、空いている手で鞄からファイルを出し、 チャールズに見せた。
「ルーさん、 私は何者でもないわ。 あなたが私と結婚したがったから、そうした。 そして、あなたがやむを得ずに私と結婚するとわかってる。 だから、私が必要になくなった時は私を解放してくれる? そうしてくれればありがたいよ」と語った。 彼女の口調は戯けてたり、誤魔化したりしている素振りはない。
チャールズは彼女の勇気を見て驚いた。
契約書には2文のみ書かれていた。
項目1:当事者A(チャールズ・ルー)は、グー氏の会社がこの危機を乗り切る事に支援をする。
項目2:いかなる場合でも、当事者AとBはセックスをしてはいけない。
オータムが当事者B欄の下に署名した。 チャールズは、彼女の字がきれいだと気がついた。 そのインクの出かたは雲やタバコの煙のように調和のあるものだ。
彼女は思いやりがあり、しっかりしている女性であるに違いない。
「ルーさん、 早く署名してくださらない?」ペンを渡しながら彼女は言った。
チャールズはまだショック状態だった。 彼女は悪戯をしていると思っていた。
彼はイボンヌを使うことに罪悪感を感じていたので、彼女に真実を伝えたかった。 彼女を愛していないから、何とか別の方法でその埋め合わせをするって。 でも、この契約書については彼を混乱させた。
「何を計画しているの?」
「ルーさん! 」 オータムは声をあげた。 彼はどうしてこんなに傲慢なんだろう? 私は陰謀なんか企んでないし。 実際、彼とは何の関係も望んでないわ。 だから、この契約書 を書いたんだ。
「あなたは人生の中で数え切れない人に会ったと思うわ。 私があなたを騙そうとしてるかどうかくらい簡単に見抜けるだろう? それに、この契約書にサインしてもあなたには損はないよね?」
チャールズは瞬きをする事なくオータムを見ていた。 彼女の無垢な目が騙すつもりはない事を表していた。 すると、彼は契約書に項目を追加した。 「君はこれに異論がなければ、俺が署名する」
オータムは契約書に目を通し、チャールズが書いた項目を見た。 「当事者B イボンヌ・グーは当事者Aが求めるような良い妻としての行動をしなければならない」
チャールズは、オータムが慎重に検討してうなずくまで署名をしなかった。
オータムは彼が署名欄にサインをしたのを見て安心した。 彼女はチャールズの気が変わる前に契約書を取り上げた。 いつかこの契約書を額縁に入れると彼女は決めた。
契約書に気が入っていたので体を覆っていたタオルが床に落ちていることに気がつかなかった。
チャールズは憂鬱で無表情でいながら彼女を見ていた。
彼女の目は星のように明るく、透き通っており、 長いまつげは揺めき、木目細く透き通った肌は薄っすらと赤みを帯びており、唇は薔薇の花びらのように美しかった。
そのため、彼女の体を見たチャールズは一瞬ぼうっとした。
彼女の姿は…なんと素晴らしく魅力的だ!
優雅な顔立ちで チャールズ好みの大きな胸と尻で完璧な体の曲線を表していた。 そして、彼女の肌は柔らかく瑞々しいそうだ。
チャールズは彼女をじっと見つめていた。
オータムが彼の前で全裸でいたことに気づいたのはかなり経ってからだった。 気まずい静けさだった。 彼女は頭を上げ、チャールズを見たが、 彼にじっと見られていると気づいた時、恥ずかしさのあまり赤面し、慌ててバスタオルを拾い上げて体を覆った。 恥ずかしかった。
わざとバスタオルを落として誘惑しようとしていたと思われたかしら?
彼女は恥ずかしそうに隣に立っていたチャールズを見た。 彼は落ち着いているように見えた。 それに、彼の表情は何も起こらなかったかのように見えた。
そんな冷静なチャールズを見て、オータムは明らかにがっかりしていた。
自分が完璧なスタイルでも素敵なお尻でもないと思っていたから、 自分の体付きに満足していなかった。 そして今、チャールズの反応にはさらに失望させられた。
残念なことに、チャールズがどれだけ感情を堪えていたのか彼女は知るはずもなかった。 彼はこの少女の前で面目を失いたくなかったため、自分の表情を一生懸命コントロールしてきた。
しかし、彼は彼女の失望した目を見逃さなかった。
チャールズはレイチェルとのこの2年間、肉体関係はなかった。 例え同じベッドで寝ても、彼は紳士的に振る舞った。 もちろん、彼らが一緒に過ごした夜は多くなかった。
レイチェルはそういう彼をよく知っている。 チャールズが言うには、レイチェルが一番思いやりのある彼女だ。 彼は結婚前に彼女と肉体関係を持ちたくなかった。
彼は彼女を尊敬し、お互いの愛を尊重したからだ。
チャールズはオータムを見つめ続けたが、頭の中はレイチェルの事で一杯だった。
オータムは彼の視線に耐え切れずに、 「ルーさん、もう遅いわ。 もう寝に行った方がいいと思うわ」と言った。
チャールズと同じ部屋で寝たくなかったので、「行く」という言葉を強く言った。
彼に出ていって欲しかったことに、 あからさま態度をとった。
チャールズは気が付ついた。 オータムにわかったと言い、慌てて書斎に戻った。 彼女にキスし、抱きしめたい衝動をかろうじて抑えられた。 この思いを断ち切るため、三十分も冷たいシャワーを浴びた。 火が付いてしまった欲望を抑える方法が他になかった。 この何年間、レイチェルを腕に抱いて寝ていても、欲望をコントロール出来なかったことは無かった。
翌朝、オータムは目覚ましの音で目が覚めた。 結婚をしてミセス・ルーになったと言う 現実感が出てきた。 しかし、それは一時的なもので、いつかそれがガールフレンドのレイチェルに取って変わられるだろうということを彼女は知っていた。
結婚式のために3日間の休暇をとっていたので、仕事に戻らなければいけない。
気を取り直して部屋を出て行き、ダイニングルームに座っているチャールズを見かけた。
昨日は結婚式で忙しかった。 それに、昨夜は薄暗い部屋の中では彼の顔をはっきり見ていなかった。 そして今となって、こっそりと彼の顔を見た機会があった。
彼女は息を呑むほどハンサムな男性と実際に結婚したと言う事を認めざるを得なかった。
話 3
黒のスーツが彼の力強い体を強調させた。 彼の強烈な色白で彫りの深い顔が、彼女の目を釘付けにした。
「俺を見つめるのをやめてくれないか? 座って朝食を食べたらどうだ」 チャールズは彼女を見もせずに言った。
オータムは心の中を見透かされているようで恥ずかしかった。 彼女はそっと彼の左側に座った。
豪華な朝食だったが、彼女はお粥一杯で満腹になった。 器とスプーンを置いた時、チャールズに見られていることに気づいた。 「どうしてもっと寝てないんだ? そんなに早く起きる必要はないだろう」と彼が話しかけた。
「いいえ、十分寝たわ」 オータムは首を振った。 彼女はチャールズの態度が昨日と違うことに気づいた。 彼はまだよそよそしかったが、礼儀正しかったので、 彼女も礼儀正しく彼と話すことにした。 「それに、私、3日間の休暇しかもらわなかったから、 もう仕事に戻らないと」
「仕事?」 チャールズは混乱した。 彼はこの無知な女性が仕事をしているなど思っても見なかった。それに、彼女を調べに行かせた部下からは何も聞いていなかった。
「ええ、仕事よ!」 オータムは時計を見て言った、 「遅刻するわ、すぐ行かないと」
「待って」 チャールズは立ち上がってスーツのボタンを留めた。 「俺も仕事に行く。 俺たちは一緒の方向に行くのだから 仕事場まで乗せて行ってやるよ」
同じ方向? 彼は彼女がどこで働いているのを知らないはずだが、 どうやって送っていくのかしら?
彼女は不安を感じていたが、彼は送っていくと諦めなかった。 車に乗った後、彼女は住所を渡した。 そして、少し休むため座席に寄りかかった。
チャールズは何も言わなかったが、彼の中ではたくさんのことが渦巻いていた。
オータムが渡した住所はY市にある広告関係の有名企業だった。 中小企業だが、有望な会社だ。
彼の知る限りでは、この会社はグー家と何の関わりもないはずだし、 なぜ無学無知のイボンヌがここで働いているのか謎だった。
偶然にも彼の会社はこの会社と協同していたのだ。 彼は彼女が何をしたいのか知りたかった。
オータムは会社に着く直前に「目を覚ました」 そして、通りの角で止めるよう言った。
リムジンから降りるところを同僚にでも見られたら、何が起こるか予想できるからだ。
チャールズは何も聞かず、言われた通りに車を止めた。 彼女は気分良さげに車を降りてオフィスビルに駆け込む前に彼に手を振った。
チャールズにとって、誰かが楽しそうに仕事に行くのを見るのは初めてのことだった。
3日間の休暇のせいで少しだらけ気味だった。 彼女はクラウド広告会社のドアの前で自分に喝を入れた。
彼女は今、ルー夫人となったが、 仕事は一生懸命するつもりだった。 彼女の人生がどう変わろうとも、仕事だけは諦めないと心に決めていたからだ。 この仕事だけが彼女の唯一の収入源だから。 それに、祖母の医療費を払わなくてはならない。
「イェ、やっと帰ってきたのね!」 マネージャーのライアン・チョウは、彼女が入ってくるなり声をかけた。 3年前、オータムはただのアシスタントだったが、今ではこの会社の最も優秀な広告プランナーだ。
彼女はあまり学歴が高くなく、素直でもなかった。 しかし、彼女は間違いなくライアンの有能なアシスタントだった。
オータムは目の前のこの男を見て驚いた。 彼は何日も剃られてない無精髭で覆われていたのだ。 3日しか不在にしなかったのに、彼女が長い事居なかったような様子で、 彼は酷く疲れていた。
ライアンは彼女を抱きしめ、「イェ、これ助けてくれないか」と懇願した。
彼の辻褄の合わない言い方を聞き、大きなプレジェクトを抱え込んでいるだと知った。 会社一体となり作業し、5回も見直しをしたのにも関わらず、クライアントを満足させることが出来ないでおり、 社内の皆が苛立っていたが、ライアンはそれ以上だった。
彼の会社はかなり前に設立された。 しかし、彼が失敗したのはこれが初めての経験だった。
「このクライアントは誰ですか?」 オータムは眉をひそめた。
「他に誰がいると思う? シャイニングカンパニーだよ…」 ライアンはため息をついて続けた。 「来月8日に会社設立記念日のお祝いがあるんだけど、この会社のワインパーティーを企画してるんだ」
「シャイニングカンパニー?」 チャールズの会社じゃなかったかしら?
「ワインパーティーにしろって言われたんですか?」 オータムは聞いた。
ほとんどの企業がこうやって記念日を祝っている。 一つ目は、それが習慣となっていること。 そして二つ目は会社の為に惜しみなく働いてくれた従業員へ豪勢な食事をご馳走するためだ。 しかし彼女は、スーツを着たチャールズがスタッフ達と次々乾杯しているところを想像できなかった。
だから聞いたのだ。
「おや、まぁ。 そうじゃない」 ライアンは注意深く思い返した。 シャイニングカンパニーはお祝いのプランの依頼をしてきたが、ワインパーティーとは言っていなかった。
「よし、会社の書類を渡してください。 やってみます」 ライアンは数え切れないくらいの礼を言った。 この最優秀なプランナーまで相手を満足させないのなら、彼は間違いなく賠償しなければならないだろう。
それ故、初日からこの宴会の件でオータムは忙しくしていた。 忙しすぎて昼食を取るのも忘れたくらいだ。 ウェンディからの電話により、彼女はそのことに気づいた。
しかし、ウェンディの連絡は心配というより、むしろ借金の催促のようだった。
「オータム、昼食は済ませたの?」 ウェンディは心配している母親のふりをしていた。
もし昨日、自分がチャールズとの結婚を無理強いしていなかったら、きっと彼女の親切に対して感心したと思うが、 今となっては…
オータムはウェンディへの愛情と尊敬を無くしていた。
「何かあったら言って。 今、 仕事で忙しいの」
「何ですって?」 ウェンディが「結婚式の翌日に仕事に行くって?」と叫んだ。
「だから何?」 オータムは冷かに笑った。 「チャールズが私にお金をくれるとでも思うの?」
「彼がそうするのは当たり前でしょ、あなたは彼の妻なのよ」 ウェンディがそう呟いた。 しかし、オータムはそんなナンセンスな言葉を聞いている時間はなかったので、 ウェンディの言葉を遮った。 「私にどうして欲しいの? 言わなければ切るからね」
「待って、待って、切らないで…」 ウェンディが止めようとした。 正直、ウェンディはオータムの事など気にしていなかった。 彼女が知りたかったのは、チャールズとの約束がどうなっているかということだ。 「オータム、あなたはもう彼と結婚したのよ。私の義理の息子に約束はどうなっているのか聞いて。 いつ約束を果たすの? あなたの祖母は… 次の段階の医療費が支払われるのを待っているのよ」
オータムは先が白くなるほど指を握りしめた。 彼女はウェンディと衝突することなく、感情をコントロールしようとした。 「安心しろ。私、約束は守るから。 でも、もし祖母に何かあったら、あなたを破滅させるから。 覚えておいて」
ウェンディが彼女の機嫌を取るような声で、 「彼女のことは心配しないで。 彼女は私の義理の母でもあったし…」と言った。
オータムは手短に会話を終わらせた。
家族の絆が良くなれば、と夢見たこともあったが、今では何も望んでいなかった。