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私の脚本が, 映画賞のグランプリを受賞した.

けれどスクリーンに映し出されたのは, 婚約者と, その愛人の名前だった.

抗議しようとした私を待っていたのは, 地獄のような監禁と, 絶望の中での死だった.

前世の私は, 孤児院から引き取られた恩義に縛られ, 才能のない婚約者・賢治の「ゴーストライター」として生きた.

私の作品を盗み, 愛人の桃歌穂と栄光を浴びる彼ら.

私が邪魔になると, 彼らは桃歌穂の転落事故を自作自演し, 私を「人殺し」に仕立て上げたのだ.

「死ぬまで離さない」

そう嘲笑う賢治に飼い殺され, 私は自ら海に身を投げた.

死の直前, 死んだはずの桃歌穂が賢治と抱き合って笑う姿を見るまでは.

すべては私を陥れるための嘘だったのだ.

悔しさと憎悪の中で目が覚めると, 私は再びあの授賞式の朝に戻っていた.

鏡に映る自分に誓う. もう二度と, 彼らの踏み台にはならない.

私はドレスを脱ぎ捨て, 授賞式をボイコットした.

そして, 彼らが再び仕掛けてくる「偽装流産」の罠を逆手に取り, 破滅へと追い込む復讐劇の幕を開けた.

第1章

芳賀綾子 POV:

「脚本・桑名賢治 (原案協力・中森桃歌穂) 」. その文字が, 燦然と輝く授賞式の看板に刻まれていた. 私の名はどこにもない. しかし, その歪んだ表記を見るなり, 私の目からは止めどなく涙が溢れ出した.

その涙は, 悲しみからくるものではない.

「ああ, よかった」と, 私は心の底から安堵したのだ.

何度も何度も確認するように, その看板を見上げた. 私の代表作. 私の魂を削って生み出した物語. それが, 私の名前ではなく, あの男と女の名前で飾られている. かつての私なら, 絶望の淵に突き落とされ, この世の終わりを感じただろう. だが今, 私の胸に去来するのは, 純粋な喜びだけだった.

私の名は, 芳賀綾子.

そして, 私は今, 二度目の人生を生きている.

あの忌まわしい事故で命を落とし, 目が覚めたら, この日――私の作品が映画賞を受賞する当日, 婚約者である桑名賢治の誕生日パーティが開かれる日の朝に戻っていたのだ.

前世の私は, 孤児院育ちで, 桑名家に拾われた恩義から, 賢治の言いなりだった. 彼の家柄, 容姿, 全てが私とは雲泥の差. 彼は若手気鋭の映画監督として世間から持て囃されていたが, その実, 私の脚本に頼り切りの, 才能のない男だった. 彼は私を「道具」としか見ていなかった.

私と賢治の婚約は, 幼い頃の軽い冗談から始まったものだ. それが, まるで呪いのように20年以上も私を縛り付けた. 世間は, 家柄も容姿も劣る私が, 桑名家の御曹司と婚約できたことを「幸運」と見なし, 無理やり私に寄り添う賢治を「気の毒な善人」だと同情した. 賢治自身も, この婚約を重荷に感じていたことは明らかだった.

前世では, 私は賢治の誕生日パーティに招かれず, 会場の入口で警備員に「関係者以外立ち入り禁止」と突き飛ばされた. 雨の中, 賢治と, 彼の愛人である人気女優, 中森桃歌穂が腕を組んで現れるのをただ見ているしかなかった. その光景に打ちひしがれ, 私は交通事故で命を落とした.

その死の直前, 私の脳裏を駆け巡ったのは, 賢治からの冷酷な虐待だった. 桃歌穂が崖から落ちた日, 賢治は私を「人殺し」と罵り, 復讐のために私を地獄へ突き落とした. 離婚を懇願しても, 「死ぬまで離さない」と彼は言った. 私は彼の道具として, 20年もの歳月を無為に過ごし, 精神を病み, 自ら命を絶った.

しかし, 私が海に身を投げたその瞬間, 信じられない光景を目の当たりにした. 桃歌穂が, 何事もなかったかのように賢治と抱き合い, 世間から祝福されている姿を. 彼女は死んでなどいなかった. 私だけが, 彼らの嘘と欺瞞に弄ばれ, 愚かにも命を散らしたのだ.

その屈辱と絶望が, 私に新たな生を与えた.

私はもう, あの愚かな私ではない.

この二度目の人生, 私は決して彼らの言いなりにならない.

私は, もう二度と, 彼らのために涙を流さない. この人生は, 私のものだ.

2

芳賀綾子 POV:

私は授賞式の会場には向かわず, 桑名邸へと引き返した. 重いドレスを脱ぎ捨てると, 体から何かが剥がれ落ちたような解放感があった. 前世で賢治のために捧げた日々が走馬灯のように脳裏をよぎる. 賢治のために世界中の旅行を計画し, 彼にサプライズを仕掛けたこともあった. しかし, 彼は私の計画を冷たく拒否し, その代わりに桃歌穂と旅に出たものだ.

一度, 彼らの旅行に無理やり同行させられた際, 私は悪天候の中で崖から転落し, 数ヶ月間寝たきりになった. あの時の絶望感は, 今でも鮮明に思い出せる. もう二度と, あんな思いはしない. 賢治から完全に離れること. それが, 私の新しい人生の第一歩だった.

私は素早く荷物をまとめ始めた.

「綾子さん, どこへ行かれるんですか? 」

賢治の声が, 突然背後から響いた. 彼は誕生日パーティに間に合うはずなのに, なぜここに? 彼の顔は怒りに歪み, その手には, 私が詰めかけたスーツケースが握られていた. 次の瞬間, 彼はそれを床に叩きつけ, 中身が散乱した.

「賢治さん, 何をするんですか! 」私の声は怒りで震えた.

彼は冷笑し, 私を幼稚だと非難した. 「また自殺でも企んでいるのか? 僕を引き留めるために, またくだらない真似をするつもりか? 」彼の目には, 私への軽蔑と嫌悪が露わだった.

「自殺なんてしません. 私はこの人生を, 大切に生きたいんです. 」

そう言うと, 彼は鼻で笑った. 「どうせまた, 僕に気を引かせようとしているんだろう」

その時, 廊下の奥から桃歌穂が現れた. 彼女は賢治の腕にそっと触れ, 優しく言った. 「賢治さん, 綾子さんも辛い思いをしているんです. きっと, 賢治さんの気を引きたいだけですよ. 昔みたいに, すぐに飛び降りるなんて言わないでくださいね? 」

桃歌穂の言葉に, 賢治の私への嫌悪感がさらに深まるのを肌で感じた.

ああ, そうか.

高校時代, 桃歌穂に夢中になった賢治が私を避けるようになり, 私は彼を引き留めるために, 本気で川に飛び込もうとしたことがある. その一件で, 賢治の両親が介入し, 彼と桃歌穂の関係を強制的に終わらせた. それ以来, 賢治は私を憎み, 一切口を聞かなくなった. 桃歌穂の取り巻きからは, 陰湿な嫌がらせを受け, 賢治はそれを見て見ぬふりをした.

「私は旅行に出るんです. 」私は賢治の目をまっすぐ見て言った.

彼はまた鼻で笑った. 「旅行? どこへ行くんだ, お前ごときが. 」

桃歌穂がため息をつき, 私の手を掴んだ. その指先が, 私の肌に爪を深く食い込ませる.

「綾子さん, 賢治さんの誕生日パーティに行きましょう? みんな綾子さんが来るのを待っていますよ. 」

その言葉に, 背筋が凍りつく. 桃歌穂の狙いは明らかだった.

私は本能的に彼女を突き飛ばした.

桃歌穂は, まるで糸が切れたようにぐらりと傾き, そのまま床に崩れ落ちた. その顔は苦痛に歪み, 私を指差して, か細い声で叫んだ. 『あなた... 何をするの... ! 』

3

芳賀綾子 POV:

桃歌穂が床に崩れ落ちるなり, 賢治の目が血走った. 「お前, 桃歌穂に何をした! 貴様は本当に悪魔だな! 」彼は怒鳴りつけ, 私の胸を激しく突き飛ばした.

私の頭は壁に激しく打ち付けられ, 鈍い痛みが走った. 視界がぼやけ, 世界が歪む. 賢治の怒鳴り声が耳鳴りのように響く. 「お前はいつもそうだ! 誰かを傷つけずにはいられないのか! 死ね! 」

「私は... 私はもう, あなたのものじゃない! 」痛みに耐えながら, 私は彼を遮った. 「私は出ていく! あなたの家からも, あなたの人生からも! 」

賢治は私を睨みつけ, 呻く桃歌穂を抱き抱えて部屋を後にした.

私は後頭部に触れた. ねっとりとした感触. 指先を見ると, 血が滲んでいた.

十五歳の頃の賢治を思い出した. あの頃の彼は, 私を心から守ってくれた. 私が少しでも怪我をすれば, 怒り狂ったように震え, 私を傷つけようとした相手に殴りかかった. あの時は, 私たちはずっとこのままの関係でいられると信じていた.

しかし, 今の賢治には, 微塵もそんな優しさは残っていない. 私の心は, 彼に対する最後の未練が消え去るのを感じた. もう, 賢治のことなどどうでもいい. 私の人生には, 彼など必要ないのだ.

賢治の両親が帰ってきたら, 婚約破棄を申し出よう. そう心に決めた. しかし, この頭の痛みが酷い. 私は使用人に助けを求めた. 「病院に行きたいのですが... 」

使用人は賢治の命令を受けているのか, 冷たい目つきで私を見て, 首を横に振った.

苦笑した. この家では, 私がどんなに苦しんでも, 誰も助けてはくれない. 賢治の両親は常に不在で, 家は賢治の絶対的な支配下にあった. 彼は使用人たちに, 私を「いないもの」として扱うよう命じていた. 私の食事は捨てられ, 私の存在は無視された. もう慣れっこだった.

私は一人で病院へ向かい, 脳震盪と診断された. 二日間の入院を経て退院し, 再び桑名邸へ. 散乱した荷物を拾い集める私を, 使用人たちはまた冷たい目で見下ろしていた. 彼らの助けを借りることなく, 私は残りの荷物をまとめ, 新しいアパートへと引っ越した.

卒業, 就職, そして婚約破棄. この街を出て, 新しい人生を送る. それが私の唯一の願いだった.

引っ越して三日後, 賢治から電話がかかってきた. 泥酔しているのか, 彼の声は呂律が回っていない. 「今すぐ来い, 綾子! 」

私は苛立ちを覚え, 冷静に彼の意図を尋ねた. 電話の向こうが, 一瞬静かになった. 周りの騒がしい音も止まる.

「お前, どこにいるんだ? 」賢治の声は, 驚きと困惑に満ちていた.

「もう, あなたの家にはいません. 」私は淡々と答えた.

彼は鼻で笑った. 「何を言っているんだ. また僕に仕返しをするつもりか. お前が桃歌穂を傷つけるようなことをすれば, 二度と許さないぞ. 」

彼の言葉の裏にある支配欲が透けて見えた. 私は何も言わず, 彼の言葉を待った.

「何も言えないのか? どうせまた, 僕の気を引きたいだけなんだろう. 謝れば家に帰れるぞ. 」

「ええ, この街を出ます. もう二度と, あなたの前に現れません. 」

私は彼の返事を待たずに, 通話を終了した. もう彼との間に言葉は必要ない. 私の心は, 彼から完全に離れていくのを感じた.

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私の脚本、彼の裏切り、二度目の人生

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