2

高井朋穂 POV:

炎が迫りくる中, 私は本能的に勇太を抱きしめた.

熱い梁が頭上から落ちてくるのを避け, 私は彼を覆い隠すように身をかがめた.

背中に激しい衝撃と痛みが走った.

「うっ…」

私は呻き声を漏らし, 視界が歪んだ.

「お母さん, どいてよ! 」

勇太は私の腕を振り払い, 静美の元へ駆け寄ろうとした.

その瞬間, 翔梧が救助隊の装備を身に着けて現れた.

彼の顔には, 安堵と焦りが入り混じっていた.

「翔梧さん! 」

静美が彼の姿を見て, 安堵の声を上げた.

勇太は真っ先に翔梧に駆け寄った.

「パパ! 静美お姉ちゃんが, 静美お姉ちゃんが苦しんでるんだ! 」

勇太は静美を指差し, 必死に訴えた.

「ああ, 分かっている. 静美は大丈夫だ」

翔梧は静美の元へ歩み寄ろうとした.

「パパ, 静美お姉ちゃんは体が弱いんだ. 早く助けてあげて! 」

勇太は私の横を通り過ぎる翔梧の腕を掴み, 叫んだ.

「お母さんは, 他の人に助けてもらえばいいよ! 」

その言葉に, 私の全身から血の気が引いた.

私はゆっくりと, 震える手でポケットを探った.

そこには, わずかに残った喘息の薬があった.

残り, あと一錠.

「これしか…ないのよ」

私は薬を見せながら, かすれた声で呟いた.

私の息は, すでに限界に近づいていた.

これは, 七年前のあの夜を思い出させた.

勇太を産むために, 私は死の淵を彷徨った.

「どうか, この子だけは…この子だけは助けてあげて…! 」

私は翔梧にそう懇願した.

あの時の私は, 命をかけて勇太を守ろうとした.

しかし, 七年後, その勇太は私に言った.

「お母さんは, 他の人に助けてもらえばいいよ! 」

翔梧は私を冷めた目で見つめた後, 静美を抱きかかえて言った.

「待っていろ, 朋穂. 必ず誰か来る」

彼の言葉は, 私には届かなかった.

私の手は, 反射的に彼の服の裾を掴んだ.

「待って…! 私, 妊娠しているの! 」

私の声は震えていた.

翔梧の目に, 一瞬, 驚きの色が宿った.

ここ最近, 翔梧は家に帰ってこなかった. だから, 私はこのことを彼に伝えられずにいた.

3

高井朋穂 POV:

「お母さん, 離してよ! 」

勇太が私の指を力ずくで引き剥がした.

「嘘つき! パパを騙さないで! 静美お姉ちゃん, 可哀想だよ! 」

勇太は私の腕を叩きながら叫んだ.

静美は翔梧の腕の中で, すすり泣いていた.

翔梧の目に宿った憐憫の色は, すぐに消え失せた.

彼は私の手を振り払い, 静美を抱きしめて炎の中を逃げて行った.

私は濃い煙に包まれ, 呼吸が困難になった.

薬はもう, 残っていない.

私はゆっくりと目を閉じた.

私の心は, 深い後悔に苛まれた.

なぜ, 私はこの関係を始めてしまったのだろう.

翔梧が私を愛していないことくらい, 最初から分かっていたはずなのに.

大学時代, 私は四年もの間, 翔梧に片想いしていた.

彼の心には, 常に静美がいた.

静美が家庭の事情で海外へ留学した後, 翔梧は泥酔した夜に私と関係を持った.

その時, 彼は静美の名前を呼んでいた.

私は, その夜の温もりにしがみついた.

しかし翌朝, 彼は私に冷たく言い放った.

「昨夜のことは忘れてくれ」

その後, 私は妊娠が発覚し, 翔梧と結婚した.

勇太の名前は, 静美への想いを暗示するかのように, 彼の口から出た.

翔梧は, 静美が私を挑発する行為を, 見て見ぬふりをした.

私が彼を問い詰めるたび, 勇太は翔梧の味方をした.

「お母さんが悪いんだよ! 静美お姉ちゃんの方が, 僕のお母さんになってくれたらいいのに! 」

勇太の言葉が, 私の心を深く傷つけた.

私の意識は朦朧とし, 体は限界を迎えていた.

その時, 煙の中に小さな影が揺らめいた.

「お姉さん, 大丈夫? 」

怯えたような, しかし優しい声が聞こえた.

今すぐ全編を読む
作者の『Moboreader』を応援して、素晴らしい物語の続きを楽しみましょう!
全話ロック解除

炎に焼かれた私の愛

第2話
エピソード
カスタマイズ
次の章