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直也は, 私が出て行った後の静けさに戸惑っていた.

「静穂は, 一体どうしたんだ? 」

彼には, 私の態度が理解できなかった.

いつものように, 私をなだめるために, 彼は秘書に命じた.

「最高級の宝石を用意しろ. 静穂に贈る. 」

彼は, 金で女の心を操れると信じていた.

かつては, 私もそうだった.

彼が贈ってくれた宝石に, 私は喜びを隠しきれなかった.

しかし, それは, 私を縛り付ける鎖でしかなかった.

秘書は, 彼に報告した.

「奥様は, 特に喜んでいらっしゃいませんでした. 」

直也は, その言葉に眉を顰めた.

彼は, その意味を深く考えることはなかった.

ただ, 今は目の前の仕事に集中するだけだ.

彼の頭の中は, 新しいプロジェクトのことでいっぱいだった.

私は, 論文のテーマを提出していた.

卒業は, もう間近に迫っている.

論文の執筆は, 私にとって苦ではなかった.

むしろ, 私の才能を思う存分発揮できる場所だった.

しかし, 私には, 一つだけ問題があった.

言葉の壁.

聴力を失っていた間, 私の言語能力は著しく衰えていた.

私は, 必死に勉強した.

フランス語, 英語, そして日本語.

すべてを, 一から学び直した.

私は, 友人に電話をかけた.

「もしもし. ちょっと, 相談したいことがあるのだけれど... 」

私の声に, 友人は驚いていた.

「静穂? 本当に, 聞こえるようになったの? ! 」

彼女の声は, 震えていた.

私は, 微笑んだ.

「ええ. また, 会って話しましょう. 」

私たちは, 近いうちに会う約束をした.

友人を待っている時, 直也から電話がかかってきた.

「静穂, ハーブティーの作り方を教えてくれ! 」

彼の声は, ひどく焦っていた.

私は, 困惑した.

なぜ, 今更?

電話の向こうから, メイドたちの慌てた声が聞こえる.

「坊ちゃま, それは危険です! 」

直也は, メイドたちの制止を振り切り, 必死にハーブティーを作ろうとしているようだった.

「なぜ, 俺には静穂のような味が出せないんだ! 」

彼の声は, 苛立ちに満ちていた.

「理央が, 熱を出しているんだ. いくら薬を飲ませても, 熱が下がらない. 」

彼の言葉に, 私は静かに耳を傾けた.

理央.

彼の心を支配する女.

彼の頭の中は, 今, 理央のことだけでいっぱいなのだろう.

私は, 想像した.

彼が, 理央のために, 必死にハーブティーを作っている姿を.

そして, 彼が, 私のためには, 一度もそうしなかったことを.

直也は, 普段, 料理など一切しない男だった.

私のために, 食事を用意してくれたことなど, 一度もない.

私が, 高熱を出して寝込んだ時も, 彼は私を看病しようとはしなかった.

ただ, メイドに看病を任せ, 自分は遊びに出かけていた.

私は, 異国の地で, 一人孤独に病と闘った.

その時のことを思い出すと, 今でも心が痛む.

しかし, 理央のためなら, 彼は変わる.

初恋の相手.

その言葉が, 私の心を深く抉った.

私は, 冷たいコーヒーを口に含んだ.

苦いはずなのに, 何も感じない.

私の心は, 完全に麻痺していた.

私は, 電話を切った.

もう, 彼らに関わる必要はない.

友人が, 息を切らして駆け寄ってきた.

「静穂, ごめんね. 直也に捕まってしまったの. 」

彼女は, そう言って, 直也の文句を言った.

「あの男, 理央のために, また宝石を探しているのよ. 私に, 夜中に無理やり付き合わせるなんて! 」

私は, 彼女の言葉に驚いた.

直也が, 理央のために, また宝石を贈ろうとしているのか.

友人は, 私に一枚の写真を見せた.

そこには, 直也が理央に贈る予定の, 豪華なネックレスが写っていた.

私は, それを見て, 静かに頷いた.

私は, もう彼らのことを, 何とも思わない.

私の耳は, 全てを聞き取っていた.

彼らの悪意. 彼らの嘲笑.

全てが, 私の心を冷たくする.

私が, 留学の費用について話すと, 友人は呆れた顔をした.

「静穂, あなたは何を言っているの? そんなもの, お金で解決すればいいじゃない. 」

彼女の言葉に, 私は驚いた.

「お金で? 」

「そうよ. あなたは, あの貝塚家の婚約者だったのよ. タダで出ていくなんて, もったいないわ! 」

彼女は, そう言って, 私の肩を叩いた.

私は, 静かに頷いた.

彼女の言葉に, 私は救われた気がした.

友人は, 真剣な顔で私に尋ねた.

「静穂, 本当にあいつと別れるの? 」

私は, 迷うことなく頷いた.

「ええ. 」

私の心に, 迷いはなかった.

「そう. なら, この指輪, 売ってしまいましょう. 」

友人は, そう言って, 私の指輪を指差した.

私は, 驚いた.

「いいの? 」

「もちろんよ. あなたには, もっと良い指輪が似合うわ. 」

彼女の言葉に, 私は微笑んだ.

友人は, 一枚の招待状を私に差し出した.

そこには, 「チャリティオークション」の文字が書かれていた.

「このオークションで, あなたの指輪を売れば, 高値で売れるはずよ. 」

私は, 彼女の言葉に驚いた.

彼女は, 本当に私のことを考えてくれている.

私は, 心の中で深く感謝した.

数日後, 私は直也の家を出た.

私は, 彼に電話をかけた.

しかし, 電話に出たのは, 桃香だった.

「あら, 静穂. どうしたの? もしかして, お兄様の様子を探っているの? 」

彼女の声は, 嘲笑に満ちていた.

「お兄様は, 今, 理央とウェディングドレスを選んでいるわ. あなたには, もう関係ないことなのよ. 」

その言葉に, 私の心は凍りついた.

桃香は, 私に警告した.

「二度と, お兄様の邪魔をしないで. あなたは, もうこの家族とは関係ないのよ. 」

私は, 電話を切った.

私の心は, 空っぽだった.

私は, 自嘲するように笑った.

直也は, 私が消えても, 何も感じないだろう.

私の存在など, 彼にとっては, どうでもいいものだったのだから.

私は, オークション会場に向かった.

私の服装は, 周りの華やかな人々と比べて, ひどく地味だった.

でも, 私は, もう気にならなかった.

私には, 私が手に入れた自由がある.

その時, 会場がざわめいた.

皆の視線が, 舞台に向けられる.

そこには, 直也と理央が立っていた.

理央の指には, あの豪華なネックレスが輝いていた.

直也が, 理央のために用意した, あのネックレス.

かつて, 私が彼から贈られたのは, ありふれたものだった.

私は, 彼の愛が, 私にとっては偽りだったことを知った.

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私は耳の聞こえないお飾り

第3話
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