話 1
目を覚ましたロッキー・バイは汗だくで、その目は困惑を隠せなかった。 悪夢から目覚めた直後のように感じ、 息を切らして、すぐに何かがおかしいことに気づいた。 そして体を起こすと、 目に入った光景に圧倒された。
彼は古典的な装飾の豪華で素晴らしい部屋にいた。 ランプもライトもなかったが、昼のように明るかった。 横たわっていた快適なベッドは金色の絹のキルトと白いチュールで囲まれていて、 おそらく皇帝のベッドもこのようなものではないかと感じた。 白いチュールの向こうのキャビネットには金と翡翠のオブジェがたくさん並んでいて、 どれもかなり高価な品であることが見て取れた。
視界に入るものすべてにロッキーは驚いたが、ふと「僕はどこにいるんだ?」という疑問に襲われた。 彼の最後の記憶は、会議に行く途中だったということだった。 国際動物ゲノムセンターから基調講演をするために招待されていたのだ。 遺伝子研究の分野で若く才能溢れる学者であるロッキーは、仲間の中でもナンバーワンに注目されていて、 彼を超える学者はいなかった。 飛行機でその会場に向かっていたが、航空機事故が発生したので彼が気を失ったのだ。 そして今、彼は不思議な部屋にいた。
地獄でないことは確かだった。 天国だったとしたら、周りの全てをこんなにリアルに感じられなかっただろう。 誰かが死んだら、魂だけが天国へ行くことができると言われているが、 魂は物理的に何も感じることはできないはずだから、 彼の感覚はまさしくリアルそのものだったのだ。 ベッドの柔らかさと心地よさだけでなく、隣のキルトの下には人の温もりも感じた。
突然、ロッキーは隣に人が横たわっているのに気づいて驚いた。 その人を起こさないよう慎重にキルトを上げると、 そこにはエレガントな女性がいた。 彼女はロッキーの腕の中に横たわっていた。 彼からは彼女の顔の半分しか見えなかったが、 その女性が16歳くらいの少女であることは判別できた。
ロッキーはしばらく彼女をみていた。 白いナイトローブを着て、頭、手首、足に金色の装飾品を身に着けていたことから、 良家の子女と思われた。
ロッキーはソワソワしながらつばを飲み込み、 本当に天国にいるのではないかと思った。 そうでなければ、こんな美女が腕の中で眠ってくれるなんてありえないからだ。 天国で他にどれだけいいことがあるのだろうと思うと、彼の唇に笑みがこぼれてきた。
すると、ロッキーの頭に汚い考えが浮かぶと、 突然、眠っている少女はかすかにうなされ、体の向きを変えた。 彼女の顔はロッキーの肩を離れ反対側を向いた。 ロッキーは彼女の顔を見て凍りついた。 彼女の顔は神が作った傑作とも言える美しさだ!
顔はすっぴんだったが、磁器製の人形のように繊細で、 まつげは、長くカールし、息がかかると揺れた。 そして鼻は信じられないほどかわいい形をしていて、バラのつぼみのような唇はキャンディーのように甘そうに見え、ロッキーは味わってみたくなった。 彼女はまだ若いとはいえ、成熟した女性のような魅惑的な雰囲気を醸し出していた。 彼女が成長した暁には何千人もの男が彼女の虜になるだろうとロッキーは確信した。
「ロッキー、やめろ! その子を見つめちゃいけない! まだ若い少女なんだぞ! その子をどうしようって言うんだ?」 ロッキーはそう自分に言いながら、首を振り、すぐに彼女から目をそらした。 心臓の鼓動は高まり、顔は赤く紅潮した。 幸いなことに、彼の年齢はすでに30を超えていたため、 隣に彼女のような美女がいても、自分自身の衝動をコントロールすることができたのだ。 「彼女は僕から見れば幼い少女に過ぎない」と自分に言い聞かせて落ち着こうとし、そして罪悪感が彼の胸に溢れた。
「でも僕は今どこにいるんだ?」 ロッキーは周りを見回しながらつぶやいた。 論理的には、自分は航空機事故で亡くなったはずだが、今は無事で問題ない状態だった。
ロッキーが自分の考えに夢中になっていると、隣の少女が突然目を覚ました。 彼女は丸い目をゆっくりと開けると、 ロッキーは彼女を見て唖然とした。 その魅力的な目に輝く魔力を否定することは世界中の誰もできないほどの美しさだった。
「やあ! 目を覚ましたね! 僕がどこにいるのか教えて欲しんだ。 そして、なぜ僕たちは一緒にここに横たわっているの? 僕たちは... ? 僕たちは... ?」 ロッキーはぎこちなく言葉を詰まらせた。 少女が目覚めるのを見るやいなや、彼は無意識に微笑んだ。
少女はロッキーの声を聞くと動きを止め、 不安げな表情になった。 象牙のような手を伸ばし、ロッキーの熱を確認しようと彼の額に手を置き尋ねた。「バジル、大丈夫? 熱で頭が変になった? 何を言ってるの? 池からハンカチを拾わなくてもいいと私は言ったのに、あなたは私の言うことを無視して拾うと言い張ったのよ。 今の自分をよく見て! 司祭長は、『神様でもこの熱病から彼を救うことはできない。 そして、遅かれ早かれ死ぬことになる』とおっしゃったのに。 神様ありがとう、 あなたは今目覚めたのよ!」
少女の言葉はロッキーをさらに困惑させた。 彼女が言ったバジルとは誰だろう? 僕だろうか? 彼女は僕をよく知っているようだったが、僕は間違い無く彼女には一度も会ったことがなかったのに。
「もう一度司祭長に診てもらう方がいいから、呼んでこようかしら」と少女は言い、ベッドから降りた。 そして服や髪を直しもせずに急いでドアに駆け寄った。
「ねえ! ねえ!」 ロッキーが彼女を呼び止めようとしたが、彼女はすでに部屋を出ていた。
ロッキーもベッドから出て 部屋を見回すと、古代の宮殿の個室にいるように感じた。
突然、ロッキーは自分の体に違和感を感じた。 まるで空中を歩いているようだった。 腕を上げると、たくましかった腕が小枝のように細くなっていて、 おまけに身長も変化していることもわかった。 背が低くなったように感じたのだ。
鏡がベッドの右側にぶら下がっているのに気づくと、自分の感覚を確認すべくその鏡に向かった。 彼が近づくにつれて、か弱く、骨っぽい姿が、ダイヤモンドがはめ込まれた楕円形の鏡に徐々に現れはじめた。 鏡に映った顔は若いが青白く、まるで死人のようで、 体も突風に吹き飛ばされそうな若木のように痩せていた。
「何てことだ! 一体誰なんだ! ?」 ロッキーは鏡に映った自分を見て叫んだ。
話 2
ロッキーが叫んでいると、鏡の中の少年も口を開けたので、 彼は目を丸くした。 次はゆっくりと、手を顔に向けて上げると、 鏡の中の少年もその動きを正確にまねた。 額からあごまで細い顔にゆっくりと触わったが、 どの部分も自分のそれらとは違っていた。
ロッキーは唖然とした。 彼の顔ではなかったからだ。 目を凝らして鏡を見ても、 鏡に映っているのは見たこともない少年だった。 きっと自分の目がおかしくなったに違いない。
「司祭長、急いでください!」 彼がそう考えているとき、部屋の外ではやさしくも不安げな声が響き渡った。
「殿下、あなたのためでなければ、バジル王子の魂を体に呼び戻すドラゴン宗家のスピリチュアル・メソッドを使うために、私のドラゴン・スピリチュアル・パワーを無駄にすることなどなかったのですよ。 王子はすでに目覚められているのです。元気におなりになりますから、 そのようにご心配なさる必要はありません。 その上、バジル王子は王子とは言え、王室の血統ではないから、 何者でもないのです。陛下でさえ王子を無視されているのに、 どうしてそんなに王子のことをお気になさるのですか?」 ロッキーの耳にまた一人、知らない人の声が聞こえてきた。老人の大きな声だったが、その声からは明らかに傲慢さと苛立ちが感じられた。
「そんなことおっしゃらないでください。 バジルは生まれつき体が弱かったというそれだけの理由で、ドラゴン・スピリチュアル・パワーが備わらなかったのですから。 だからといって、今後もそのままというわけではありません。 さらに、彼の奥様が亡くなる前に彼女からバジルのことをよろしくと頼まれているので… 急いでください」と、優しい声の主は彼を急かしたが、その声には司祭長への怒りが見え隠れしていた。
「殿下、明日は我が聖ドラゴン帝国の神聖な儀式があるため、 今日の私はとても忙しいのです。 ドラゴン宗家の使節が30個のドラゴン・スピリット・ビーズをここに持ってくるのです。私は30人の候補者全員がそれらと結びつくかを確認しなければならないのです。 彼らは我が国における若き血統たちなので、 もし失敗するようなことがあれば、私の責任になってしまいます。 それに、陛下に許してもらうことがどれほど難しいかは、殿下もご存知でしょう。 さらに、国土が再び混乱しているのです。そのことをご承知おきいただきたく存じます..」 老人の声が答えた。
「私は気にしません! まずバジルのどこが悪いのかを突き止めてください」と優しい声の主が叫んだ。
ロッキーは彼らの奇妙な会話を聞いて異常なまでに混乱した。 そして彼がドアを見ると部屋に入ろうとする2つの人影があった。 そこにいたのはさっき彼の隣で目覚めた少女で、腰まで伸びるほど長いあごひげを生やした老人を伴っていた。 彼は頭に銀の冠をかぶり、派手な紫と金のローブを身にまとっていて、 その鋭い目から、位が高い長老のように見えた。 どうやら、彼が少女が言っていた司祭長らしい。
「バジル、どうしてベッドから出たの? 横になってないと」少女はそう言うと、ロッキーに近づき、そっと彼の腕をとった。
「大丈夫です。 僕は大丈夫です」 ロッキーは答えると、少女の後ろにいる司祭長に目を向けた。
「殿下、ご気分はいかがでしょうか?」 司祭長は少し頭を下げ尋ねた。 彼の言葉は習慣的に丁寧だったが、その表情はとても傲慢そうで、バジルを見下ろしているように見えた。
「気分はいいです」と全く気分が悪くなかったロッキーは何も考えずに答えた。 しかし、彼の前で起っている何もかもが違和感そのものだった。
「わかりました。 ほら、バジル王子は大丈夫だと申し上げたでしょう。 他に御用がなければ私は失礼して仕事に戻ります」と司祭長はバジルを見もぜずに形式的な口調で言った。
「でも、バジルは目覚めたとき私に奇妙なことを言ったんです。まるで私をまったく知らなかったように」と少女は大きく明るい目でバジルを見ながら司祭長に言った。
「恐らく、王子が回復したばかりだったからでしょう。 1日、2日休めば元気になられますよ。 正直申し上げて、バジル王子は十分幸運です。少なくとも今は生きてらっしゃるのですから」バジルをちらっと見ながら、司祭長は答えた。
「おそらくあなたの言う通りでしょう」 司祭長の推測が理にかなっていると思った彼女はロッキーの方を向いて、「バジル、ベッドに戻ってもう少し休んでいなさい」と命じた。
ロッキーにとって、彼らの奇妙な会話は衝撃的だった。 今起こっていることすべてが夢ではないとわかったからだった。それはもはや常人の想像の域を超えていた。 彼らは僕を何度か「バジル王子」と呼んでいたが、それは僕がロッキーではなくなっていることを意味していたのだろう。 そして唯一の解釈は、理由は分からないが、僕が死んだ後、魂がこの王子の体に入り込んだというものだった。 途方もない話だったが、これが解釈としては最もうなずけた。
さらに悪いことは、宮殿のような部屋、妻に関する話、または昔の服を着た司祭長などから、彼が今いる世界は彼が以前住んでいた世界とは違うということがわかったことだった。
「バジル、大丈夫?」 少女は、ロッキーがじっと立ち、茫然としているのを見て、心配そうに尋ねた。
ロッキーは落ち着こうと、こう考えた。 飛行機墜落事故さえも経験したんだ。他に奇妙なことが起こっても大したことはない。 自分は生まれ変わったのだろうか? 死ぬにはタイミングが良くなかったのかもしれないが、 これから別の人間として生きなければならなかった。 だが今、この少年については何も知らなかったので、うまくごまかすための口実を見つける必要があった。
「えー.. 実は、僕は大丈夫ではないのです」とロッキーは突然少女と司祭長に言った。
「どうしたの? また気分が悪くなった?」 少女は心配そうに彼の腕を取りながら尋ねた。
「僕は記憶を失いました。 あなたが誰なのか、彼が誰なのか思い出せません。 何も思い出せないのです。 僕は誰ですか?」 ロッキーはしどろもどろのふりをし、苦痛にゆがんだ顔を見せた。
少女と司祭長はロッキーの言葉を聞いて唖然とし、 衝撃のあまりお互いを見つめあった。
「バジル、あなたは何もかも忘れたというの? 冗談でしょう。私が誰なのかわからないの? そんなことがあってはならないわ。 私はレナ、レナ・ロンよ!」 少女はロッキーの手をつかんで心配そうに言い、 その目には涙が溢れた。
「僕は本当にあなたを知らないのです。 あなたのような魅力的な美女に出会ったら、忘れることなどあり得ません」とロッキーは冗談めかして言った。
「司祭長、何が起こっているのですか? バジルは本当に何もかも忘れてしまったんですよ!」 レナは感情的になり、すぐに司祭長に尋ねた。
司祭長はすぐには答えなかった。そしてバジルが元気であるかどうかはあまり気にしていないように見えた。 しばらく冷たく難色を示しながらもついに答えた。 「たぶん、王子の魂があまりにも長い間、体を離れていたことが精神に影響を与えたのでしょう。 十分休息すれば回復するかもしれません。 そして、秘薬をいくつか処方しますので、 秘薬を飲まれた後の様子を見てみましょう。 では殿下、私はこれで失礼します」 そう言うと、横柄な態度でバジルをちらっと見てから、彼はドアを出た。
話 3
司祭長が去ると、レナはロッキーをベッドへ連れて行き座らせた。 二人が話していると、召使い姿の少女が部屋に入ってきた。
少女はレナにうやうやしく頭を下げて言った。「殿下、陛下はメインホールで殿下と面会されたい、とのことです。 明日行われる盛大な儀式についてお話されたいそうです」
「わかったわ。 後で行くから、 もう行っていいわ」 レナはうなずき、召使いを行かせた。 そしてロッキーの方を向いて、「バジル、ここで休んでいてね。 逃げてはいけませんよ! 忘れないでね。 すぐに戻るから」
「はい!」 ロッキーは答えた。
レナが部屋を出た後、ロッキーはしばらくベッドに座り、 色んなことを考えたが、 あまりにも新たな情報が多すぎて、処理することなどできなかった。 自分が王子であることは確認できたものの、まだ信じるのは難しかった。 激しい頭痛に襲われていたので、痛みを和らげようと、こめかみをさすった。 そして、司祭長とレナが話していた「スピリチュアル・メソッド」というものについても疑問に思った。 それはどんなものなのか? しばらく考えても答えが出ないので、ロッキーはため息をつくと、立ち上がり、部屋から出た。
外には長い廊下があり、突き当たりには、まばゆいばかりの光が輝いていた。
ロッキーがゆっくりと光源に歩いていくと、 近づくにつれて、光は徐々に明るくなった。 廊下の突き当たりまでたどり着くと、暖かいそよ風が吹き、太陽が広い大地を照らしていたが、 ロッキーはその次に見たものに度肝を抜かされた。
周囲の建物はどれも高くそび立ち、壮麗なものばかりだったのだ。 彼は荘厳な王宮にいたのだが、彼が立っていたのは大邸宅のドームの中だった。 隣にはらせん階段が下まで伸びていて、階段の下は薄暗くなっていた。
その階段の下まで方を目を追っていくと、風景画のような景色があった。 外では広い堀が宮殿を取り囲み、太陽の下で輝いていた。 堀の向こうには、見渡す限り多くの家が点在していて、 遠くから見ると、家々が扇の形に広がっていた。 そして、そこには黒い点のような何千もの人影が家々の間の通りを行き来していた。
突然、ロッキーを照らす日光が遮られた。 訳が分からず見上げると、衝撃のあまり叫んでしまった。「何てことだ。 何なんだ、あの怪物は?」
巨大な生物が彼の頭上を飛んでいたのだ。 両翼を広げると数十メートルにもなろうかという巨大な生物が、上空に完璧な形の弧を描きながら急降下してきたかと思うと、 その巨大な体の影がドームを覆った。 その頭の形はワニに似ていて、2本の鋭く長い牙が口から突き出し、 その巨大な鼻孔からは煙がずっと噴き出ていた。
「あれは恐竜だろうか?」 最初にロッキーの頭に浮かんだのは、先史時代に生息していた生物のイメージだった。 多くの共通点があったからだった。
そして人間がその生物の上に座ってベテランパイロットのように乗りこなしていたのを見て、ロッキーは心臓が飛び出るほど驚いた。 乗り手の指示で、空飛ぶ怪物は完璧で息をのむような空中アクロバットのパフォーマンスを見せた。
ロッキーがショックから立ち直る暇もなく、空飛ぶ怪物は突然向きを変えて、彼に向かってきた。
何でも簡単に引き裂くことができそうな怪物の4つの鋭い爪は、ロッキーの度肝を冷やした。 そして怪物が自分に向かってくるのを見ると、青ざめた 彼は本能的に後ずさりしたが、つまずいて床に倒れた。 そのため、彼は怪物の爪が自分に近づいてくるのを見つめる以外に出来ることなど何もなかった。
「ああ! なぜだ! 僕はまた死ぬというのか! 生き返ったばかりなのに!」 ロッキーは心の中で思った
その鋭い爪が彼の顔からほんのわずかのところまで近づくと、ロッキーの頭の中は真っ白になった。 しかし怪物は彼をかすめて通り過ぎ、彼は顔に強い風を受けた。 すると、床に横になっていた彼は落ち着こうと息をはずませた。
「くそっ! 僕をもてあそんでいるだけなのか ? このくそったれ! バカヤロー...」 ロッキーは自分を取り戻すと大声で罵った。 それから彼は立ち上がり、後ろの高台に降り立った空飛ぶ怪物を見ると、 軽快に飛び降りた乗り手を見た。
ロッキーは、このような屈辱をやり過ごすような臆病者ではなかったので、 怒りながら高台まで歩いていった。しかし乗り手の端正な顔立ちを見て、彼は凍りついた。 それはあまりにも美しい顔立ちだった。 しかし、服装から見て男の子のようだった。 年の頃は17くらい、かなり背が高く、高貴な雰囲気を醸し出していた。 こんなに美しくて魅力的な顔立ちなのに、女の子ではなく男の子だったことをロッキーは残念に思った。
「ああ! バジル王子じゃないですか! 高熱で亡くなりそうだと聞きましたけど。 亡くならなかったのは王室にとっては何と残念なことでしょう。 あなたのようなくそ野郎がまだ生きているなんて」 その美少年はその中性的な声を響かせると、嫌悪感をにじませながらロッキーを見た。
「おい! このおかま野郎! 言葉に気を付けろ!」 ロッキーは怒鳴り、にらみつけたが、 彼の痩せこけて弱弱しい姿では迫力に欠け、全く脅かすことはできなかった。
「おかま野郎? どういう意味ですか?」 美少年は質問すると、軽蔑した目でロッキーをにらみ付けた。
「鏡を見れば答えがわかるさ」とロッキーは胸の前で腕を組んで軽快に答えた。
「あんたって人は! よくもそんなことが言えますね!」 ロッキーに悪口を言われていることがわかると、彼の眼は怒りを帯びた。
「はあ? 何か問題でも? 少しは敬意を示せ、このくそったれ! 面倒を起こすんじゃないよ」 ロッキーは微笑んだ。
「何を言ってるんですか? あなたの病気はそれほど深刻なのですか? 自分が何を言っているかわかってるんですか? ばかばかしいですよ! もはや病気で死ぬべきですね! 王室の犬も同然なんですから。 なぜ神々はあなたのような何の役にも立たない男を生き残らせたのだろう?」 美少年はロッキーをさげすむような目で見ながら言った。
「ははは! そう言えば、僕は王子だ! 僕を犬にたとえたのは王室の人間と王室全体を屈辱するということなのね、 なんていい度胸をしてるな!」 ロッキーは嘲笑した。
「あ、 あなたは…」 美少年は怒りのあまり目を細めると、 ロッキーをにらみつけその体を震わせた。
突然、彼の右腕から明るい光線が出てきたかと思うと、 彼の服の袖はどういうわけかバラバラに引き裂かれ、不思議で強力なパワーで焼かれ灰になった。 そして少女のような白くて細い腕が見えると、 キラキラ輝く線が彼の腕の周りに次々と現れ、繊細で独特の形になった。
そんな異様な光景を目にしたロッキーは茫然とし、 今見たものを信じることさえできなかった。 「これは魔法か?」 しかしロッキーはすぐに自分が間違っていたことに気づいた。 少年が右腕を振ると、ロッキーは不思議な力で持ち上げられ、 空中で一瞬止まると、放り出された。 彼は固い石の壁にぶつかる直前に悲鳴を上げたが、 地面に倒れ、痛みに悶えた。
しばらくして、ロッキーは壁に寄りかかりながら、ようやく立ち上がると、 怒りを込めて少年に怒鳴った。「おかま野郎!」 僕をこんな目に合わせるなんて、 お前は正気か?」
「それがどうしたというのです? あなたは役立たずのくそ野郎だ。 もし気に入らないなら、僕が使ったようなスピリチュアルメソッドで、復讐してもいいんですよ! そうそう。あなにはその能力がなかったことをすっかり忘れてしまいましたよ。 だからあなたは役に立たずなんですよ! ハハ!」 少年は怒鳴り返すと、唇の周りに笑みが広がったが、 まだ満足していないようだった。 彼は右腕を上げて回転させると、 ほんの数秒で、彼の腕の周りに渦巻きが発生した。 そしてその渦巻きが高速でロッキーに向かってきた。 ドリルのように速く回転する渦巻きを見ると、ロッキーは恐怖でつばを飲み込んだ。 彼は本当に僕を殺そうとしていたのだ!