話 2
「松本さん。君も良かったら一緒にやらない?」
「ボクも先生の様に輝きたい」
そうだ。もっと先生のことが知りたい。大好きな先生に近づきたい。先生とずっと一緒にいたい…… ボクの心臓は張り裂けそうだ。
真剣な眼差しでボクが答えると春香先生はコクリと頷いて、差し伸べた手を引いてボクを光り輝く舞台へ上げた。
「ようこそ演劇の世界へ」
こうしてボクは演劇と言う異世界へ足を踏み入れるきっかけとなった。
だけどそれから間もなく、ボクの好きな先生は若くしてこの世から居なくなってしまった……
数か月後
冷たい雨が降り注ぐ午前10時。ボクの目の前には頭から血を流して俯せに倒れている先生の姿があった。頭から流れるおびただしい鮮血は雨水に混ざってボクの足元に広がった。
「せ、先生…… 春香先生! 」
先生は校舎の屋上から身を投じた。ボクのせいで大切な人を死なせてしまった。集まる人だかり、遠くから聞こえるサイレンの音と同時に虚しく鳴り響くチャイムの音がスローモーションで耳に入る……
そして僕の頭に響き渡る「さようなら」の一言でボクの瞳から雨の雫と混ざって涙がこぼれた。
「う、うわああああああ! 」
ボクは大切な人を救えなかった。ボクのせいで先生を死なせてしまった……
そして、あの辛い事件から約、6年後……
時は過ぎて高校1年の夏
物陰に隠れた草花にも光が射すときは来るんだ。
世界は周っている、そして秒針と一緒にボク達の青春も時を刻んで廻っているんだ。
先生の母校でボクは今、光と闇が綺麗に調和するステージ上でボクらの青春と言う名の舞台公演が始まったんだ。
「やっと居場所を見つけられたんだ」
今のボク違う。先生が果たせなかった夢と想いを受け継いで必ず夢の舞台に立って見せる。
ボクはそっと胸に手を当ててゆっくりと瞼を閉じた。
「先生の遺志はココで生きているんだ」
そう…… それは高校演劇最高のステージ。全国高等学校演劇大会に行くことだ!
話 3
「何故…… この世界は滅んでしまったの?」
「これは文明の発展によって何度も愚行を重ねた僕達への試練だったんだ」
「そ、そんな…… 私たちはもう助からないの?」
泣き崩れる彼女をボクは優しい笑顔でそっと肩を抱いてあげた。
「大丈夫。君は死なないよ。ボクが命に代えても守ってみせる!」
シリアスな空気に包まれると一気に埋め尽くされた客席からはボクに視線が向けられた。
わずかないセリフの言い回しやトーン。細かな動作や表情で巧みに描写を表すことが試される難しい世界だ。
だがスポットライトに照らされたボクが輝ける舞台(ステージ)という名の異世界が楽しい。 こうしてボクは今日も観に来てくれたお客さんを楽しませた。
パチパチパチ
緞帳がゆっくりと下され、今日も無事公演が終了した。
ガヤガヤガヤ
「今回の劇もよかったわね」
「松本さんって超カッコいいわよね。羨ましいわ」
「何か同じ女子なのに胸がドキドキしちゃったよ」
ホール外では劇を観に来た生徒たちが貼られたポスターを見ながら盛り上がっていた。
ボクは松本(まつもと)、梓(あずさ)高校1年だ。長い黒髪と長身、顔は少し男子(ボーイッシュ)っぽいけど性格は真逆だ。ボクが通うさいたま学院演劇部は昨年、創部されたんだ。
今日も毎月第1土曜日に行う自主公演の日はこうして学校のホールを借りて上演していた
そしてボクが教室へ戻ろうとした時だった。