話 2
月詩:SIDE
三日が過ぎた。蓮は戻ってこなかった。思念通話で一度もメッセージを送ってくることもなかった。まるで、私たちが共有した五年という歳月が、彼が目を覚ました夢に過ぎなかったかのように。
私は、私たちが家と呼んでいた小さな木造のキャビンの前に立っていた。その隅々までが、今や嘘となった愛の記念碑だった。私の忠実な戦士たちが、無表情で後ろに控えている。
「燃やして」
私は平坦な声で言った。
隊長がためらった。
「未来のルナ、よろしいのですか?」
「そこにある全ての記憶を灰に変えたいの」
私の声には、議論の余地はなかった。
「私が事を終えた時、この場所も、そこに住んでいた男も、まるで存在しなかったことになる」
彼らは頭を下げ、作業に取り掛かった。私は炎が上がるのを見届けることなく、その場を去った。
私はアルファの本邸、要塞のようにも感じられる壮大な石造りの邸宅に戻った。父、アルファ・高坂は、隣接する群れとの条約の最終条件を詰めるため、まだ遠征中だった。彼の顔が執務室の大きなスクリーンに映し出される。何百キロも離れた私たちを繋ぐビデオ通話だ。
「月詩、様子が違うな」
父の金色のアルファの目が、心配そうに私を見つめている。
「冷たくなった、と」
「大人になったのです、お父様」
私は答えた。
「結婚同盟に関する私の条件ですが…」
「ああ」
「月光の指輪が欲しいのです」
父の眉が跳ね上がった。月光の指輪はただの宝飾品ではない。それは私たちの群れのルナたちに代々受け継がれてきた指輪であり、力と継承の究極の象徴だった。アルファの娘が番いの儀式の前にそれを求めるのは、大胆不敵、ほとんど傲慢とも言える野心の表明だった。
ゆっくりとした笑みが彼の顔に広がった。
「いいだろう」
純粋な誇りの響き。
「それでこそ私の娘だ。それはお前のものだ。銀月の群れは、お前と、お前が選んだアルファによって導かれることになる」
「ありがとうございます、お父様」
「彼は今夜、そこにいるだろう」
父は続けた。
「月読神社で毎年恒例の舞踏会がある。全ての群れにとっての中立地帯だ。お前の婚約者、黒曜の群れのアルファ・ヴィクトル・冴島も出席する。良い印象を与えろ」
通話は終わった。私は何時間もかけて準備をした。かつて好んで着ていた無垢な白いドレスとは対照的な、私の曲線美を際立たせる深紅のガウンを選んだ。
月読神社に到着すると、大広間はすでに十数個の異なる群れから来た人狼たちの入り混じった香りでざわめいていた。しかし、何かがおかしかった。注目の中心は、訪れたアルファでも群れの長老でもなかった。私の異母妹、愛蘭だった。
彼女は淡い青のドレスを着て、どこからどう見ても無垢な乙女を装っていた。そして、オープニングダンスのために音楽が高まると、蓮が現れた。彼は愛蘭のもとへ大股で歩み寄り、彼女の目だけを見つめ、その手を取った。
彼らがフロアの中央に移動すると、会場全体からどよめきが起こった。彼らは踊り、その体は完璧にシンクロし、彼らの香り――彼の松と彼女の甘ったるいバニラ――が絡み合い、紛れもない主張を放っていた。それは、親密な関係にあった二匹の狼の香りだった。公然の宣言だった。
私の周りで囁き声が eruptedした。
「あれはアルファのもう一人の娘か?」
「彼が彼女を寵愛していると聞いたわ。銀月の次のルナは彼女に違いない」
「見て。二人の匂い、もう番になったみたい」
熱く、苦い屈辱が私を襲った。私は蓮に、これらのイベントに一緒に参加してほしいと何度も懇願したことを思い出した。彼はいつも断った。人混みが苦手だとか、彼の低い生まれを快く思わない長老たちを刺激したくないとか。公の場で私の隣に立つ資格がない、と彼は言った。
しかし、彼はここにいる。彼女と共にオープニングワルツを踊り、彼がいつも嫌いだと言っていたスポットライトを浴びている。彼は資格がなかったわけではない。ただ、私と一緒にそこにいたくなかっただけなのだ。
話 3
月詩:SIDE
ダンスが終わり、蓮は愛蘭を腕に絡ませたまま、まっすぐ私の方へ歩いてきた。彼の顔は冷たい傲慢さの仮面で覆われていた。
「月詩」
彼の口調は見下すようだった。
「愛蘭に挨拶くらいしたらどうだ。彼女はこの群れの未来の姫君なんだからな」
冷たく、鋭い笑いが私の唇から漏れた。その音は近くのおしゃべりを切り裂き、いくつかの頭がこちらを向いた。
「姫君?」
私は皮肉たっぷりに繰り返した。
「私が知る限り、彼女は父上がまだ正式に認めていない妾の子に過ぎないわ。群れの長老たちはもちろん、認めていない」
私たちの周りの空気が静まり返った。愛蘭の顔は青ざめ、蓮の顎がこわばった。
「口を慎め、月詩」
彼は唸るように言った。彼の目は怒りで光っていた。
「嫉妬しているだけだろう」
「嫉妬?」
私は一歩近づき、声を張り上げた。
「貴方はこういう祝賀会が嫌いだと言ったわよね。私と一緒に見られる資格がない、長老たちに噂されたくないと言った。五年もの間、私の隣に立つことを拒否したじゃない」
私はダンスフロアを指差した。
「なのに今は? 今は『彼女』とオープニングワaltzを踊っているの? 貴方は私との約束を破ったのよ、蓮」
「見世物にするな」
彼は低く、脅すような声で警告した。
「俺は愛蘭の…助けが必要なんだ。俺の地位を固めるために」
その言い訳はあまりにも哀れで、侮辱的で、私の中の何かがぷつりと切れた。
「彼女の助け?」
私は吐き捨てるように言った。その言葉は毒の味がした。
「彼女に何ができるっていうの? 彼女はヴェクシアの娘よ。彼女が這い出てきた泥と同じくらい汚れた血筋の、汚らわしいはぐれの!」
蓮の顔に怒りが爆発した。私が反応する間もなく、彼の手が空を切った。
パァン!
突然の静寂に包まれたホールに、その音が響き渡った。その一撃の力で私はよろめき、一歩後ずさった。頬が燃えるように痛む。しかし、肉体的な痛みは、私の魂を引き裂く苦痛に比べれば何でもなかった。番が番を殴ることは、女神が与えた神聖な絆に対する究極の裏切り、冒涜行為だ。私たちの間の繋がりは砕け散り、吐き気と心痛の波が私の全身を駆け巡った。
私は彼を見つめた。視界がこらえきれない涙で滲む。私の番。私が愛した男。彼が、私を殴った。彼女のために。
私の心はただ壊れたのではない。塵になった。
私は彼の怒りに満ちた目を見つめ、震えながらも折れない声で、人狼が口にできる最も強力で、破滅的な言葉を口にした。すべてを変える言葉を。
「私、高坂月詩は、貴方、佐藤蓮を、我が番として拒jectionする」