1

隔離姫と下僕の少年

 御子柴聖 七歳 あたしの家は明治時代から歴史のある御子柴家の末裔。

 代々古くから伝わる陰陽師一家。

大妖怪八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を封印し続けている。

屋敷の地下に岩に封じ込めた八岐大蛇が眠っている。

札と縄が部屋中に巻かれている。

あたしは一族の中でも逸材だったらしく、あたしの存在を外に漏らさないように御子柴家の別荘地の古屋に隔離されていた。

 3つ下の弟、御子柴楓(みこしばかえで)が居たけれど中々会わせてもらえなかった。

 鉄格子から見える太陽と月だけが部屋を明るくする。

 部屋にはお札と妖怪退治専用の武器だけ。

部屋の扉は鍵が何重にも巻かれ分厚い扉。

ある時、楓が鍵を開けてくれて外に出た事があった。

 御子柴家の敷地内にある花畑で遊んでいた事がお婆様にバレてしまい、楓がこっ酷く怒られ一週間水業の罰が与えられた。

 あたしは楓を庇ったけど聞き入れてくれなかった。

両親でさえも弟を庇おうとしなかった。

御子柴家党首の御子柴陽毬(みこしば ひまり)父型の祖母には誰も逆らえ無かった。

 陰陽師としも活躍していた祖母は御子柴家の子供達を陰陽師として育てる為に厳しい教育をあたし達にしてきた。

 才能が無いと見出された子供は親共々、御子柴家から追放されていた。

そんな祖母に誰も逆らおうとしなかった。 両親はあたしの部屋に一度も顔を見せに来なかった。

 顔を見せにくるのは弟の御子柴楓(みこしばふうと)とあと1人…。

コンコンッ 。

「お嬢、起きてますか?」

布団に入って眠っていたあたしはドアのノック音で目が覚めた。

 「お嬢、開けますよ。」

 ガラガラ 声の主が何重にも巻かれた鍵を開け重たい扉を開けた。  

茶髪に白い肌、紫の瞳の男の子。

 「蓮(れん)!!どうしたの?お仕事だったんじゃ無いの?」

 「今帰りました。お嬢にお土産です。」

 そう言って蓮はあたしに綺麗な枝付きの桜の花を渡した。

 「折ったら駄目なんだよ?」

 「拾い物だから大丈夫ですよ。」

 蓮はあたしに優しい笑顔を見せてくれた。

そう、もう1人とはこの本城蓮(ほんじょうれん)だ。

 代々御子柴家の護衛をしている本城一族の本家の次男坊だ。

蓮と契りを交わしたのは今から二年前の事だ。

 本城家は御子柴家の手となり足となり、主従関係を結ぶのが敷きたりであった。

 人を信用しなかったあたしは蓮の事を拒否していた。

 だけど蓮は何度もあたしに会いに来て信用を築こうとしてくれたそれが何より嬉しかった。

 あたしの誕生日の日に蓮と契りを交わした。

 弟以外に心を開いた相手だった。

「今日はどんなお話聞かせてくれるの?」

 「そうですね…今日は…。」

蓮はこうやって本城家を抜け出してあたしに会いに来てくれる。

 蓮と他愛の無い話をするのが嬉しかった。

「そうなんだぁ!!いいなぁ…あたしも普通の生活したいな…。」

「お嬢。僕はお嬢を此処から連れ出したいよ。」 そう言って優しく手を握って来た。

 「蓮…。」

 「お嬢にこんな場所は似合わないよ。」

 「ありがとう蓮。だけどお婆様には逆らえないよ。蓮が酷い事されちゃうよ。」

「お嬢…。」

「いつかあたしを連れ出してね?」

「約束します。必ず…。」

 蓮と指切りをした。

 お婆様に逆らったら蓮が酷い目に合う。 楓の時に思い知らされた。

 あたしが我慢すれば良い…。

 蓮が帰った後にまた扉がノックされた。

 「聖様。出陣のご用意を。」

あたしは寝衣の服を脱ぎ、巫女服を身につけお札と部屋に置いてあった武器を手に取った。

 「準備は出来ている。」

 あたしがそう言うと重たい扉が開かれた。

何人かの使用人があたしに跪いていた。

「今日は何体だ。」

「はい。三体程。」

 廊下を歩きながら妖怪の数や特徴を聞いた。

 「何級クラスだ。」

「弐級で御座います。」

「分かった。」

あたしを車に乗せ妖怪が出没した場所に向かった。 到着すると人間を無差別に襲い喰っていた。

 お寺に続く道が血に染まり、倒れている人は頭を無理矢理引き抜かれた者や、目玉を抉り取られた者に体の中身が出てしまっている者も居た。

 「おいおい!!子供が居るぜ?」

 妖怪の一人があたしを見つめて興奮していた。 「子供の血肉は美味いんだよぁ。」

「俺が先に行くぜ!!」

 涎を垂らしながら一体の妖怪が向かって来た。

あたしは空中に自分の札を浮かせ札から沢山の刃を出し向かって来た妖怪の体を串刺しにした。 「ギャァァァァォァ!!!」

妖怪が呻き声を上げる。

 「おいおい…このガキ…。」

 「普通のガキじゃねぇ!?」

 「五月蝿いな…今すぐ送ってやるよ。」

 そう言ってあたしは手を素早く動かした。

 「式神破軍。」

白い狼と黒い狼を召喚した。

「「主人よ御命令を。」」

「シロ、クロ。あの二体を喰らえ。」

 「「御意」」

そう言ってシロとクロは残り二体の妖怪に噛み付いた。

 あたしは札を一枚取り出し星の円を空中で描いた。

星の円から無数の光の玉が現れ串刺しにされている妖怪の体を光の玉が貫く。

 「ギャァァァァ!!」

 光の玉が当たった部分が灰になり体の一部が剥がれ落ちた。

 そして持って来た日本刀を抜き妖怪の頭を切り落とした。

 「な、なんだよ…。強すぎだろ…!?」

 シロとクロは妖怪の体を喰らい尽くす。

妖怪がシロとクロに攻撃をしても微動だにしない。 「っこの狼、全然離れねぇ!!」

 「アンタ達よりこの子達の方が強い。」

 あたしはそう言って妖怪達の額に札を貼り付けた。

そして口に人差し指を付け唱えた。

 「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)。」 ブジャァァァァ!!!

妖怪達の頭が弾け飛び血が噴き出した。

 「流石で御座います。」

使用人があたしに駆け寄る。

 そしてまたあの隔離部屋に戻される。

 御子柴家の中であたしはこう呼ばれている。

 "隔離姫"(かくりひめ)と…。

2

二○○X年 四月四日。

「今…何て言ったの?」

 あたしは母の服を掴んだ。

 「楓を追い出したって…本当なの!?」

 「陽毬様の御命令なの。」

「な、何で…。」

「陰陽師としての能力が陽毬様に認められなかったのよ。」

「ど、何処に行ったの!?」

そう尋ねても母は答えてくれなかった。

「そんな…どうして…?」

あたしは膝から崩れ落ちた。

「これ。楓からの手紙。」

そう言ってあたしに手紙を渡して部屋に鍵を掛けた。

ガチャンッ!!

あたしは手紙を読んだ。

 [ 姉ちゃんへ お婆様から御子柴家を出るように言われちゃった。

東京に居る叔父さんの所に行く事にした。

 姉ちゃんとお別れするのはすごく嫌だけど… オレ強くなって姉ちゃんの事迎えに行くから!! 絶対迎えに行くから待っててね。   楓     ] 「楓…。」

 手紙を握り締めながら涙を流した。

「「聖様…。」」

式神のシロとクロがあたしの側を離れないで居てくれた。

「ありがとう…シロ、クロ。」

あたしは二匹の頭を撫でた。

コンコンッコンコンッコンコンッ!!

 「聖様!!!」

 使用人がドアを勢いよくノックしていた。

 「「ガルルルルッ。」」

 シロとクロが威嚇している…。

 あたしは札と妖怪退治専用の銃を持ち扉に近付いた。

「何かあったの?」

「八岐大蛇の封印が解かれました!!」

「!?」

 封印が解けた…?

「今すぐお逃げ下さい!!」

 ガチャガチャガチャ!!!

使用人が慌てた様子で鍵を開けた。

 部屋の外を見てみると廊下が沢山の血で濡れていた。

 「聖様。こちらに!!」

「お嬢、私の背中に。」

 クロがあたしの首元を噛み背中に乗せてくれた。 「ありがとうクロ。」

 あたしはシロと共に使用人に付いて行った。 「く、来るなぁぁぁ!!!」 「ギャァァァァ!!!」

 「!?」

目の前を横切ったのは使用人の頭が飛び血が噴き出している光景だった。

 そして八頭の頭を持った巨大な蛇。

 一目で分かった。

 あれが八岐大蛇の大蛇だと…。

 「お嬢!!!」

 「蓮!!」

日本刀を持った血塗れの蓮がこちらに向かって来た。

 蓮があたしの前に跪いた。

「すいません!!遅くなりましたお嬢!!」

 「沢山血が付いてるけど…平気なの?」

 「これは返り血だから平気です。八岐大蛇の下っ端の妖怪が屋敷の制圧を図ろうとしています。」 「やっぱり封印が解かれたんだね…。お母さんとお父さんは?」

「僕が本城家に避難させました。」

 ホッと息を吐いた。

 「陽毬様と大西様(たいせい)が八岐大蛇と対戦をしています。」

そう言って使用人が跪いた。

 大西とはあたしのお父さんである。

 「分かった。あたしもお婆様とお父さんの所に行くわ。」 

「お嬢!!それは駄目です。僕と一緒に本城家に行きましょう。」

「蓮…。お婆様とお父さんが…。もし殺されてしまったら八岐大蛇はどうするの?」

 「そ、それは…。」

楓が居なくて良かった…。

万が一お婆様が殺されたら八岐大蛇が暴走し京都全体を支配する可能性が高い。

 あたしはお婆様とお父さんを援護しないと…。 「お嬢。」

蓮があたしを真っ直ぐ見つめた。

 「僕はお嬢の手と足だ。お嬢が行くのなら僕も付いて行きますよ。何処までもお供します。」

 「蓮…ありがとう。一緒に来てくれる?」

 「御意。」

 そう言って蓮が頭を下げた。

あたしは使用人の方を振り返った。

「手の空いている結界師を本城家に配置して。

あたしと蓮はお婆様の所に行く。」

「かしこまりました。」

 使用人が血塗れの廊下を走って行った。

 「蓮、行くよ。」

あたしと蓮はお婆様の所に向かった。

3

二○○X年 四月四日 午後23時25分。

長い廊下を走っていると八岐大蛇にやられてしまった陰陽師の無惨な死体が転がっていた。

 血の生臭い匂いが充満しているせいで吐き気がする。

「お嬢。大丈夫ですか?」

シロが心配そうな顔をして見てきた。

 「だ、大丈夫…。」

「はぁぁぁぁ!!!」

 庭からお婆様の声が聞こえた。

 廊下を抜け庭に出てみると。

 そこには悲惨な光景が広がっていた。

 白い石に囲まれた庭地が血と人間の血肉で汚れていた。

 横に転がっている死体の数を数えた。

 御子柴家の陰陽師がほぼやられていた。

 「これだけの陰陽師が居ても止められなかったって事?」

 「聖!!!」

札を持ったお父さんがあたし達の方に向かって来た。

「良く来てくれた。状況は…見ての通りだ。陽毬様に結界師を張り俺達は援護をする。蓮は聖の事を死んででも守れ。」

「御意。」

 蓮がお父さんに頭を下げた。

 お婆様の周りには沢山の式神が居た。

「急急如律令!!!」

お婆様は札を八岐大蛇の周りに貼り光の玉を放った。

「あははははははは!老ぼれの攻撃が我に通用すると思ったか!!!」

そう言って光の玉を八頭の口が開き光の玉を飲み込んだ。

そして八頭の口から紫のオーラを放った。

 「結果戦線(けっかいせんせん)!!」

あたしはそう言って指で横に線を書いた。

 お婆様の前に黄色のオーラが壁を作り攻撃を弾いた。

「何だ?我の攻撃を防いだのか?」 八岐大蛇がゆっくりと振り向いた。

 「お嬢。下がってください。」

 蓮はそう言ってあたしを後ろに下がらせた。

 「小僧に用は無いぞ。」

 「式神破軍。」

蓮は式神を召喚させた。

「妾の主人に文句か?」

白い大きな狐が八岐大蛇を威嚇する。

「小白(こはく)。行くぞ。」 蓮は刀を抜き八岐大蛇に向かって走って行った。

「聖!!大西!!準備をするのじゃ!!封印をするぞ!!」

 あたしとお父さんはお婆様の横に並び封印の札を八岐大蛇の周りに配置させた。

「行くぞ!!」

お婆様の言葉に続き素早く手を動かした。

蓮が八岐大蛇を引き付けている間に早く!!

蓮は小白の背中に乗り札から炎を出し八岐大蛇の体を焼き尽くす。

「はぁぁぁ!!」

小白の背中から飛び降り蓮は八岐大蛇の体を斬りつけた。

「グァァァ!!!」

 蓮は地面に着地し直ぐに刀を構え斬りかかった。 「「「急急如律令!!!」」」

 3人の声を合わせて唱えた。

 札から光の玉が現れ八岐大蛇の体に浴びさせた。 「あはははは!面白い!!」

 笑っている…?

ピチャッ 頬に何かが跳ねた感触がした。

「お嬢!!!離れて!!」

蓮が慌てた様子であたしの所に向かって来る。

 振り返るとそこに居たのは、紫色の長髪を後ろに立たせ赤い目の鬼が立っていた。

右手にはお父さんの頭を持っていた。

 パタンッ!!

頭の無いお父さんの体が地面に倒れ千切れた所から血が流れ落ちる。

「お、お父さん…、う、嘘…。」

「大西!?お、お前は…まさか!?」

 あたしはお父さんから目が離せなかった。

 「酒呑童子(しゅてんどうじ)!?」

大妖怪と呼ばれている妖怪で八岐大蛇の仲間でもある。

「お前は大阪に封じられて居ただろう!?どうやって此処に来たんだ!?」

お婆様が酒呑童子に尋ねた。

 「あ?何だこの婆さん。おい!大蛇、殺しても良いよなぁ?」

左手に持っていた徳利の酒を飲みながら八岐大蛇に尋ねていた。

 「構わん。」

そう言うと酒呑童子が不敵な笑みを浮かべた。 「婆さん。俺とやろうぜ?」

「ふん。この糞妖怪!!」

 酒呑童子は右手を鳴らした。

 すると酒呑童子の周りに金棒を持った小さな鬼が四体現れお婆様の元に向かって行った。

 「式神破軍。」

巨大な象と朱雀が現れ四体の鬼に向かって行った。 お婆様は刀を構えて酒呑童子に斬りかかった。 「お嬢!!怪我は…?」

 蓮があたしの体を優しく触る。

「へ、平気だけど…。お、お父さんが…。」

 乱暴に投げ捨てられたお父さんの頭を見つめた。 声を上げる暇すら無くて一瞬の出来事だった。 「お嬢。僕が付いています。」

「蓮…。」

「カハッ!!」

 ボタボタボタ…。

「「!?」」

あたしと蓮はその光景を疑った。

 酒呑童子の右腕がお婆様の体を突き抜けていた。 「お婆様!!?」

「な…んだ…と…っ。」

「御子柴家も大した事ねぇじゃん?ん?そのガキ…もしかして?」

酒呑童子があたしを見つめた。

シロとクロが威嚇をする。

キィィィン!

 蓮が酒呑童子に斬りかかった。

「お嬢に近寄るな妖怪。」

「お前…案外やるんじゃねぇの?」

蓮は札を酒呑童子の周りにばら撒き素早く手を動かした。

「音爆螺旋(おんばくらせん)。」

札から光の鎖が現れ酒呑童子を拘束した。 「ッ!?耳が痛てぇ…。」

音波先螺旋とは妖怪の動きを拘束し、妖怪の聴覚を刺激する技。

 その音は妖怪にしか効かないし聞こえない。

「お前を封じ込める。」

蓮が素早く封印の札を出そうとした。

すると酒呑童子の後ろから八岐大蛇が蓮に向かって攻撃をしてきた。

 「蓮!!」

 ドンッ!!!

あたしは蓮を突き飛ばした。

「っ!?お嬢!!?」

ブジャァァァァ!!!

 あたしの視界がグラッと揺れた。

 な、何が起きたの…。

意識が朦朧とする。

「お嬢!!!ってめぇ!」

「よっと。」

バキバキバキッ。

酒呑童子が鎖を引きちぎり蓮を殴り飛ばした。

その衝撃に近くにあった大きな岩に蓮が背中を強く強打した。

バキッ!!

 「ガハッ!!」

骨の折れる音と蓮が口から血を吐いていた。

体が熱くてドクドクと脈を打つ。

 酒呑童子が蓮に近寄ろうとしていた。

 「目的は済んだ。」

八岐大蛇の声が耳に響いた。

 誰かがあたしの前に膝を付いた。

 だ、誰…? 「ようやく見つけた。」

血に染まった手であたしの頬に触れる。

「100越しの月下美人の器を。」  真っ赤に染まった満月がボヤけた視線に焼き付く。

男があたしの口の中に丸い物を入れた。

 ゴクンッ。

抵抗しようにも体に力が入らなかった。

何か…飲まされた…?

「行くぞ、酒呑童子。」

「はいよー。」

空から飛乗物(とびのりもの)が現れた。

八岐大蛇達は飛乗物に乗り空に消えて行った。

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100年越しの月下美人

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