話 1
私は姫野雫《ひめのしずく》。20歳。今時の現役女子大生。
今、大学から家に向けて夜の道をゆっくり歩いている。
途中に大きな本屋があって、毎日そこで1時間ぐらい立ち読みをしてから帰るのが、いつもの恒例。
今日も立ち読みをしてから家に帰ろうかなと思ったが、昨日徹夜をしてしまって流石にもう眠いから、素直に家に帰ることにした。
授業中も眠かった。でも授業中はさすがに寝ない。
いや、寝ないんじゃなくて寝れない。寝たくても寝られないだけ。
昨日なぜ徹夜したかは聞かないでください。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって言う。
私は今一人暮らしで、両親は私が19歳の時に事故により他界していて、今は一人で暮らしている。
祖父母は私が15歳の時に亡くなっている。兄弟姉妹もいないし。
でも、元々大学に進学するときに地方から離れて東京で一人暮らしを始めたから、家に誰もいないから毎日寂しいことはないけど、毎年実家に帰らないから、大学が長期休みのゴールデンウィークや元旦は暇だけど。
私の家は、玄関からトイレとお風呂の戸を通過して、すぐにデスクとベッドがある部屋がある。キッチンもその部屋にある。
家に入って、バックを置いて着ていたコートをハンガーかけて、もう眠くて仕方ない頭と体をすぐに休ませるためにベッドに飛び込む。
夕飯を食べなきゃいけないけど、眠くて仕方ない。夕飯どうしよう。お腹が空いているけど、眠くて仕方ないし。
そう考えている内に、睡魔に負けてベッドの上で寝てしまった。
・・・・・
朝、部屋にある窓から太陽の日が差し込んできて、部屋が異様に明るくなってきて私は目を覚ました。
よく寝た気がする。いや、よく寝た。
? 部屋明るすぎないか? 確かに昨日寝るときにカーテンを閉め忘れたけど、なぜか毎日鳴るはずの目覚まし時計の音も聞こえないし。なんで?
不思議を抱えながらベッドの上に起き上がって、閉じていた目をゆっくり開けると周りには見知らぬ壁・家具・天井・照明、そしてベッドのサイドテーブルの上に黒紫の三角帽子に黒と白が上下に別れているワンピースに、紫のローブがたたんで丁寧に置いておって、机には何やら木の棒――いや魔法の杖と金色のバッチに名前が刻まれたブローチが置いてあった。
なにこれ。状況が把握できない。でも、パッと見た感じ、魔女の衣装っぽいけど。
まさかハロウィンの仮装? でも今は2月だし・・・・、
まぁ、こんなところで不思議がっていても仕方ないから、ベッドから降りて机に向かって足を進める。
机の前に立って、置いてある金バッチを手に取って、金バッチに書かれている文字を読むと、
「アリーシャ? 私の名前?」
机の上に置いてあるブローチに「アリーシャ」と刻まれている。
私の名前は姫野雫だけど?
もしかして、このバッジとブローチは魔女である証なのかも。転生したのであれば。
そういえば、今更だけど起きて着ている服も寝た時と全然違う。私が持っているはずのない、白のワンピースを着ている。
なんで?
少しこの部屋から出ていろいろ見てみたけど、普通の一軒家っぽい。
状況がわからないけど、こんなところで居座っているよりか外に出たほうが状況は把握出来るから、置いてある服に着替えて外に出てみることにしようかな。
置いてある服に着替えて、私の身長より少し高い鏡に向かって立ってみると、いかにも「魔女!」って服装をしている。
体系はおのずと分かっていたけど、鏡を見て分かった。すべてにおいて昨日のまま。貧乳なのもすべて。
転生しているなら、もう少し胸が大きくなってもいいのに。
そういえば、この世界のお金はどうなっているのかな? 杖の隣に小袋に入ったコインが、置いてあるけど。
でも、どこを見てもそれらしきものは見当たらないから、きっとこれだと思う。
「とりあえず、この小袋と杖を持って行けばいいかな? そういえば、杖はあっても魔法の使い方がわからないから魔女と言えないな」
そう独り言をつぶやきながら杖を手に取る。すると、机の引き出しの中がガタガタと動き始めた。
「⁉ なに?」
ガタガタ言っている引き出しをゆっくり開けると、中には1冊の本が入っていた。
なんの本だろう?
本をゆっくり持ち上げて開いてみると、魔法の使い方が書いてあった。
よかった、魔法の教科書的なものがあって。「なかったらどうしよう」って思っていたから。
少し読んでみようかな。
本を適当なところで開いて、少し読んでみるといろんな魔法の使い方が書いてあって、この本に書いてある魔法を全て覚えるのは少し大変そうだから、実用的に使える魔法と面白そうな魔法を覚えると楽しいだろうな。
そう考えながら本を読んでいると、安心したからなのかお腹が空いてきた。
そういえば、昨日帰ってきて夕飯を食べようかどうしようかで悩んで寝ちゃったんだっけ。
外の状態が未だにわからないから、一回外に出てみたいし。
杖と本と小袋を斜め掛けのかばんに入れて玄関ドアをゆっくり開けると、
「わぁー。綺麗!」
外は「イギリスの町!」って感じの雰囲気で、昔からイギリスに行ってみたいなって思っていたから、テンションが上がってきた。
そうだ私の家ってどうなっているんだろう?
後ろに振り向くとレンガ造りの一軒家。
玄関ドアには魔女の家であると知らせるような、丸い表札がかけられている。
私が身に着けているブローチの大きいバージョン。こう見ると少し可愛く見える。
てっきりどこかのホテルかマンションかと思っていたから、普通の一軒家でびっくりしている。
自分が転生した場所が確認出来たから、何か買いに行こう。
と言っても、この世界にはパンが主流だろうけど。
別にパンが嫌いじゃない。むしろ好きな方。
どんなパンがあるんだろう。楽しみだな。
そう思いながら住宅街から抜けて、いろんなお店が並ぶ通りに出た。
商店街を眺めながらゆっくり歩いていると、なんだかおいしそうなパンを売っているお店があった。
さすが異世界。パンがおいしそう。
別に日本のパンがおいしそうに見えないってわけじゃなくて、この世界の雰囲気とここに売っているパンが相まって、おいしそうに見えるってだけ。
ゆっくり種類豊富のパンを見て、その中から私はクロワッサンを買うことにした。
「このクロワッサンをください」
店番をやっている小太りで、とてもやさしそうなおばあさんに言う。
「はいよ! ・・・・ん? あんた魔女かい」
「はい、魔女です」
「魔女です」って言ったけど、今日なったばっかりだし、魔法も使えない魔女だけど一様魔女だからいいでしょ。
「そうかい。じゅあ、半額にしておくね」
「ありがとうございます」
どうやらこの街の魔女は優遇されているのか、このおばあさんだけがそういう人なのかもしれない。
おばさんが紙袋にクロワッサンを入れてくれた。
そっか、この世界の紙袋は無料か。日本だと有料なのに。有難い。
「どこか、パンを食べられそうなところはないかな? ・・・・どこかで地図を買って探そうかな」
あたりを見回しながら歩いていると、雑貨屋さんらしきお店があった。
「ここに地図売っているかな?」
このお店に地図が売っているかわからないから、とりあえずお店の中を歩いてみよう。
いろんな商品があるな。
こんなところに地図は売っているのかな?
そんなことを思いながら棚に並べてある雑貨を見ながら歩いていると、いかにも異世界って感じの紙が巻かれて箱の中に入っている。
これって地図かな?
試しに一つ手に取って開いてみる。
「お! これは地図だ」
この巻かれた紙は地図だった。しかも詳しく書かれていて、しかもとっても見やすい。
これを買おう。
地図を持って、お金を払いに行く。
「これを下さい」
地図を店員さんに渡す。
「魔女様ですね。魔女様はこちらの地図をお持ちください」
そう言って、定員さんが後ろの棚にある紙を取った。
「これは、魔女様専用の地図です」
「魔女専用ですか」
見た目は普通の地図に見えるけど、魔女専用ってことは何かが違うってことなのかな?
まぁ、何が違うのかわからないから買ってみようかな。
「じゅぁ、その地図をください」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます。お代はいくらですか?」
「お代は結構です。魔女様は大切な存在なので」
本当にこの街は、本当に優遇されているらしいです。
この街っていうか、もしかしたらこの国自体が魔女に対して優遇されているのかも知れない。
「ありがとうございます。また来ます」
そう言ってお店を出る。
お店を出て、少し歩いた所で立ち止まってさっき買った魔女専用地図を開いてみた。
すると、地図に何か青い点がある。汚れかな? それともこの紙特有のものなのかな? どうなんだろう?
あれ? これよく見ると今ここにいる所に点がある? 少し動いてみよう。
青い点の謎を突き止めるために10メートルほど歩いてからもう一回地図を見てみると、地図上にある青い点がさっきと違う所から動いていた。
「これって、今私がいる所だ」
どうやら、この魔女専用の地図はスマホの地図みたいに自分がいる現在地を示してくれるらしい。
まさかこの世界でこんなものがあるとは。魔法の力はすごいな。
さて、この周辺でゆっくりパンが食べられそうなところはないかな。
そう思って地図と睨めっこしていると、なんだか良さそうな河川敷があった。
「この河川敷で食べられそう。ここに行ってみよう」
地図を見ながら目的の河川敷に歩く。
地図を見ながら歩くこと約10分。目的の河川敷に到着したらしい
「おー、綺麗な川」
河川敷にある川の水はとっても透き通っていて、まるで日本の四万十川みたい。
四万十川は高知県の西部を流れる一級河川で、本流には大規模なダムが建設されていないことで有名な川。
河川敷に降りて、座ってパンが食べられそうなところを探していると、座りやすそうな所があった。
「ここで買ったクロワッサンを食べよ」
優しそうなおばあさんの所で買ったクロワッサンを紙袋から出す。
「いただきます」
紙袋から出したクロワッサンにかぶり付く。
このクロワッサン美味しい。
こんなおいしいクロワッサンを食べられたの久しぶりだな。
私が一人暮らしを始めて数日後に美味しいパン屋があって、そこのクロワッサンが美味しかった。でも、半年ぐらいしてそのお店がいきなり辞めていた。
あそこのクロワッサンは美味しかったな。また食べたいな。
河川敷でクロワッサンを食べ終えて、まるで四万十川みたいな川を少し見て、家に帰ることにした。
私は道を覚えるのが得意。だから、帰りは何も迷わずに家に向かって歩いて行ける。
「やっぱりこの街は綺麗でいい雰囲気だな。もっといろんなところに行ってみたいな」
そう呟きながら家に帰る。
なんだかんだ言って、この世界に転生して魔女になって、まだ1日しか経ってないのに、すごく楽しく感じる。
これからどんな事を体験しながら冒険していきたいな。
話 2
転生してから3日経って分かったことは、この街は魔女に対してとても優遇されていて、いろんなものが半額や無料になる事が多く、しかもこの街には私以外の魔女を見たことが無い。もしかしたらいないのかも。
空を飛んでいる魔女もいないし。
そういえば、私って飛べないのかな? 飛び方も知らないし、ほうきも無いし。
そもそもほうきで飛ぶのかどうかもわからないし。
でも、魔女と言ったらほうきで空を飛ぶと言うのが定番だよな。
夜に魔法の本を少しずつ読んでいるけど、飛び方すら見つけていないし。
朝、いつものように朝日で起きて魔女服に着替えて、朝ごはんを作りに行く。
この家は転生して一日目にすべての部屋を見て回ったから、ある程度把握している。
見て回って分かったことは、この家は一人で暮らすには、もったいないくらい広い家。
転生してから思ったけど、この家って家具やいろんな道具がそろっていて「誰か住んでいたのかな?」って思っていたけど、家具と道具が新しいから多分違う。
でも、冷蔵庫が無いのは不便だけど、異世界だから仕方がないことだとわかっているし、そんなに困っていないから問題ない。
あ、魔法は毎日少しずつ練習していて、黙々と成長している。
杖だって魔法の力で刹那の時間で出すことが出来るようになった。
でも、杖を刹那の時間で出せられるようになっても、ほうきで飛んでみたいな。
せっかく魔女になったし。
魔女って言ったら「ほうきで空を飛ぶ!」って言うイメージがある。私だけかな? そんなことないよね。
さて、今日は何をしよう? 魔法の練習は毎日夕方にやっているし、今日はお昼から始めようかな?
とりあえず朝ご飯を食べてから考えよう。
ゆっくり朝ごはんを食べて、魔女服に着替えて外に出る。
今日もいい天気だ。まるで5月の上旬のような風と気温。とても過ごしやすい。
「今日もいい天気だな」
私はいつも一日目にパンを食べた河川敷で魔法の練習をしている。
意外と広くて、いい風がたまに吹いてきてとっても気持ちいから。
それにあんまり人はいないから。
河川敷に行く前にパン屋さんに行って、お昼ご飯を買ってから行こう。
最近いつもお世話になっているパン屋さんに足を運ぶ。
今日は何のパンがあるかな。
このパン屋さんにあるクロワッサンがとっても美味しい。
「こんにちは。今日はどんなパンがありますか?」
「魔女さん。今日も来てくれたのかい。ちょうどバゲットが焼きたてだよ」
パン屋さんのおばあさんが、バゲットの乗ったプレートを持ちながら言った。
確かにおばあさんの持っているプレートから「焼きたてだよ!」と言っているかのような匂いがしてきた。
「おいしそうですね。そのバゲットといつもクロワッサンを一つずつください」
「はいよ」
おばあさんが紙袋にバゲットとクロワッサンを一つずつ入れて、渡してくれた。
「ありがとうございます」
パンを受け取ってお金を払う。
「まいど」
お金を払って、2種類のパンの入った紙袋を持っていつもの河川敷に向かう。
そういえば、このお金って無くなる前に稼ぐ方法を考えなくてはいけないな。
思ったより小袋のお金は沢山あるし、この街は魔女に対して優遇されているから、すぐには無くならないけど、いずれはなくなる代物だからどこかで稼がないといけない。
転生する前は、近くの喫茶店でバイトをいて生活していたし、大学は両親が亡くなってからは奨学金でないと通えないから、奨学金で通っていた。
河川敷に到着して、ちょっとだけこの焼きたてのバゲットを食べてみることにする。
せっかく焼きたてだと言うし、紙袋の上からでも焼きたてだと言うことがわかるくらい温かい。
紙袋からバゲットの半分より少し少ないくらいの量を千切り取って、ちょっと大きく口を開けて頬張る。
美味しい。小麦粉の香りがするし、やっぱり焼きたてのパンだから美味しいな。
朝ご飯を食べたて2時間ちょいくらいして、バゲットを約半分食べてしまった。これは太るかな。
まぁ、夕飯を減らせばいいだけなんだけど。
でも、そんなこと言ったら転生してから、転生する前に比べて食べる量が増えたんだよな。
転生してからも自炊はいているけど、つい作りすぎてしまう。
転生する前は作りすぎても、冷蔵庫に入れておけばよかったけど、ここには冷蔵庫が無いから作りすぎたら食べちゃわないといけないから、転生前に比べて食べ過ぎてしまう。
冷蔵庫の有難さがよくわかるな。
バゲットを食べ終えてやっと魔法の練習を始める。
最初に昨日練習した魔法を一通りやって、ちゃんと出来るか確認する。
出来なくなっていたらいざと言う時に困るから。
昨日出来るようになった魔法を一通りやって、ちゃんと出来ることを確認して、新しい魔法の練習に取り掛かる。
「えっと、昨日はこのページまでやったから、今日は次のページっと」
本を1ページめくって題名を読むとそこには「ほうきでの飛び方」と書いてある。
おう、これでようやく魔女らしいことが出来るようになる。
「ほうきでの飛び方」を読む。
「なになに。【ほうきで空を飛ぶにはほうきが必要です。】・・・・要するにほうきが無いと飛べないということか」
あれ? 買わないといけない?
読み進めていくと「ほうきは魔法協会に売っています」と書いてある。
魔法協会? そんなものがこの世界にあるとは思わなかった。
まぁ、魔女がいるくらいだから、魔法協会の一つや二つはあるのか。
魔法協会ってどこにあるんだ?
バックから魔女専用の地図を出して魔法協会の位置を調べる。
魔法協会はこの国「リエルジー」ではなく、隣の国の「魔法国マーキスクロック」という所にあるらしくて、ここから歩くと2日はかかりそうな所にある。
これは旅の準備をしないと買いに行けないな。
何かネット通販的なものはないかな。
あったら使いたいけど、流石に無いだろうな。
もしかしたら、魔法で出来るのかもしれないけど、その方法を探さないといけないな。
まぁ、一回家に帰って準備をしないと、魔法協会に行けないから家に帰ろ。
河川敷で魔法の練習をやめて、パンが入った紙袋を持って家に帰る。
家に着くと、玄関の前に木箱が置いてある。
そっか、この世界には段ボールなんてないから、箱と言ったら木箱なのか。
なんの箱だろう?
木箱を家の中に待ち運んで中を開けてみる。
すると中には手紙と何やらいつも付けているのと別のバッチが入っている。
何かよくわからないけど、中に入っている手紙を読んでみよ。
手紙には、
【魔女アリーシャ様。
この世界の魔女は魔法協会の名簿に名前を刻むようになっております。
ですが魔法協会の名簿にアリーシャ様の名前がありませんので通知させて頂きました。
魔法協会にお越し頂いて、魔法協会の名簿に名前と魔女名を登録して下さい。
なお、同封してあるバッチは、魔法協会に入るときに必要になりますのでお付けになってから入ってください。
よろしくお願いします。】
と、書かれてある。
魔法協会に名前が刻まれてない? 転生したから?
転生したときに、そういうこともやっておいて欲しかった。
てか、私が転生して3日くらいしか経ってないのに、私がいるってよくわかったな。
魔法の力って言われてしまったら、それまでなんだけど。
ん? 魔女名? 私にはそんなはないと思うけど?
ブローチには名前しか書いてないし、魔女名なんて初めて聞いた。
なんて説明したらいいんだろう。
勝手に付けていいものなのかな。でも、勝手に付けたらどうせすぐわかるだろうし、でも「転生しました」なんて、誰の信じてくれないだろうし。
ま、そんなことは行ってから何とかなるかな。
ほうきを買いに行って、名簿に名前を刻んで帰ってくるか。
今日は魔法協会に行く準備をして、明日の朝から歩くか、なんか公共交通機関的なのがあったらそれを使って行こう。
手紙を読んで、お昼を食べて魔法協会に行く準備をしていると、外が徐々に暗くなってきた。
よし、夕飯を食べて今日はもう寝ようかな。
魔法国マーキスクロックって一体どういう所なんだろう。楽しみだな。
話 3
魔法国マーキスクロック。
ここは魔法使いのみが住める街で、特に魔女・魔女見習いが多くいる国らしい。
なにせ、この世界の事は何もわからないから、その国に行ってみないとなにも分からない。私は転生者だから。
魔法国マーキスクロックにリエルジーから馬車や徒歩で、約1日かけてのんびり周りの風景を見ながら来た。
ところで、なんで私が魔法国マーキスクロックに来ているのかと言うと、昨日家に帰ったら魔法協会から木箱が届いて、中に入っている手紙に魔法協会に来るようにと言われたから。
なんで呼ばれたかって言うと、どうやらこの世界には魔女の名簿があるらしくて、そこに私の名前が入っていないから呼ばれたらしい。でも、名前が入っていないのは私がつい4日ぐらい前にこの世界に転生したからだ。てっきりそれに対しての手続きも済んでいるものだと思った。
まぁ、この世界に名簿というシステムがあることを転生して3日経った時に知ったんだけど。
あれ? そういえば、日本語でもない文字がなんで読めるんだ?
英語はそれなりに読めるけど、筆記体は読めないし。
転生した影響かな?
でも、そうとしか考えられない。
魔法国マーキスクロックに到着して魔法協会を探さないと。
この国意外と大きくて、いくら魔女用の地図があっても迷っちゃいそう。
魔法国マーキスクロックを少し歩いて分かったことがある。
この国の魔法使いは全然空を飛んでいない。禁止しているのかも。
そういえば魔法協会の位置が分からないな。
地図には「魔法協会」とも書かれた所がどこ見てもないから。
そう困っていると、
「アリーシャさんですか?」
「はい。そうですが」
だれ?
ぱっと見魔女だけど。いや、魔女しかいないのか。この国は。
「私は魔法協会の魔女サラです。アリーシャさんを案内するために来ました」
私に声をかけてきた人は魔女のサラさんらしい。
見た目は魔女・・・だけど、ローブの色が赤紫色に近い色のローブを着ている。
ローブの色ってなんでもいいの?
私はこの色のローブしかなかったからこれだけど。
てか、ローブの色はどうだっていいや。
「ありがとうございます。魔法協会の場所がわからなくて困っていたので助かります」
「そうだったんですか。良かったです。ご案内します」
魔女のサラさんに案内されて、魔法国マーキスクロックの街並みを見ながら魔法協会を目指して歩く。
ゴミが一つも落ちていない綺麗な街だし、今日は快晴で日の光でマーキスクロックの街並みが綺麗に見える。それに、ときどきいろんなところからいい匂いがしてきて、だんだんお腹が空いてきた。そういえば、朝に少し朝食を食べたっきり何も食べてないし、今ちょうど太陽が空の真ん中に来ているからお昼の時間だ。用事が済んだら、お昼食べて帰ろうかな。
サラさんに連れられて15分程度で魔法協会の門の前に着いた。魔法協会はとっても大きくて、ドイツのケルン大聖堂みたいでいかにも魔法国の象徴に相応しい建物だ。それにしても大きいな。どのくらいの高さあるんだろう。
「アリーシャさん。ご自宅に届いたバッジはありますか?」
「今付けています」
「ありがとうございます。これから魔法協会に入るのに必要となるので、無くさないようにしてください」
「分かりました」
門の前に立つと、門を開ける人がいないのに自動で門が開いた。この世界に自動ドアは無いだろうから、おそらく魔法の力だろう。
魔法にこんな使い方があるんだ。
門をくぐって、魔法協会の庭に出た。
魔法協会の庭はとっても広くて、いろんな形をした花壇がたくさんあって、いろんな花が植えてある。
その中には私が見たことのない花が植えてあったり、私がよく知っている花もある。
ここでお昼を食べたいな。楽しそう。
「とってもきれいですね」
「この庭はここの魔法協会の会長さんの趣味なんです。すべて魔法で管理しているのではなく、会長を含めた10人程度の魔女が手作業で管理しています」
「なんで魔法で管理しないんですか?」
「この規模を魔法で管理すると、膨大な魔法陣と魔力が必要になってしまうのです。だから魔女の手で管理をしているのです」
確か魔法の本に「魔法を使いすぎると自身の魔力が無くなって、自身の一部分・記憶・命を代償にして魔力を補うことが出来る」って書いてあったな。
てことは、魔法で管理するには一人分の魔力では足りないってことか。
でも、一人だと魔力が足りないってことは、他人の魔力を使うっていうのは出来ないのかな?
「あの、サラさん。他の魔女の魔力を使って魔法を使うっていうのは出来ないんですか?」
「それをすることは出来ません。いえ、出来ますが魔法協会に定めてある法律によって禁止されているのです。もし、その行為を行った場合、させた側は死刑。した側は10年以上の懲役刑が課せられます」
「そうなんですか。それで手作業で管理しているんですか」
「そういうことです」
魔女サラさんと魔法協会の庭を抜けて、建物の大きな扉の前に来て、一回立ち止まる。
すると、魔法協会から送られてきたバッジと、サラさんの胸に付いているバッジが光って、大きな扉が「ゴゴゴゴ」と音を立てながらゆっくり開いた。
これも魔法の力か。
ここで私は一つ疑問が出た。
もしこれが魔法で開け閉めしているのなら、この膨大な魔力はどうやって発生させているんだろうかと。
他人の魔力を使うことが法律上出来ないのなら、この建物自体に膨大な魔力が存在していることになる。
そしてそう考えると「さっき通った門は一体どうやって開閉しているのか」という疑問も出てくる。
「サラさん。さっきの扉は魔法ですか?」
「魔法です」
「てことは、この協会自体に魔力が存在しているのですか?」
「いえ、この協会はただの建物です。この協会自体に魔力は存在しません」
「じゅぁ、どうやって」
「協会には魔力はありませんが、あの扉と私たちが付けているバッジには魔法陣が組み込まれてて、このバッジが扉に近づくと私たちの魔力が使われて開くようになっています。外にあった門も同じ仕組みです」
つまり、このバッチは現代でいうICカード的なものという解釈でいいのかも。
扉の説明を聞きながら、階段で次の階に上がって行って、一つの扉の前に立ち止まった。
会長室? 扉に付けてあるプレートにはそう書いてある。名簿に名前を入れるのに魔法協会の会長に合わないといけないのかな?
それとも、魔法協会の名簿に名前が無い事が、会長に合わないといけないぐらいの一大事なのか。
「名簿に名前を入れに来ただけ」と思っていた思いが徐々に不安になってきた。
「アリーシャさんをお連れしました」
サラさんがそう言って会長室の扉を開けて、手を差し伸ばした。
「どうぞ」
「し、失礼します」
私が会長室に入ると「では」と言って扉の外に消えていった。
う、会長と一対一。気まずい。
てっきりサラさんもいるものだと思った。
「お座りください」
会長室にあるソファーに手を差す。
「私はこの魔法協会会長のミールです」
「アリーシャです」
「アリーシャさんはなんて言われて魔法協会に来ました?」
なんて言われて来たか? 魔法協会の名簿に名前が無いってあの手紙に書いてあったから来たんだけど。
だから会長のミールさんのところに連れてこられたと思っていたけど。
「えっと、魔法協会の名簿に名前が無いと手紙に書いてあって来ました」
「あ~、サラさんはそう手紙に書いたんですね。あなたをこの魔法協会に呼んだのは、あなたが突如現れたからです」
え? どういうこと? じゃぁ、協会の名簿に名前が無いっていうのは嘘ってこと?
「えっと、じゅぁ、名簿に名前が無いっていうのは」
「嘘ですね。サラさんにはあなたが必ず魔法協会に来るように手紙と、あなたが胸にしているバッジを送るように言ったんです。あなたの名前はちゃんと名簿に書いてあります」
「そうなんですか」
協会の名簿に名前があることについては安心したけど、さっきミールさんが言い放った「あなたが突如現れたからです」については安心していない。
「それでは本題に入ります。あなたは転生者ではないですか?」