話 1
結婚式当日, 両親は私の双子の妹, 楓枝を連れて現れた.
希少な心臓病で余命わずかだという彼女の最後の夢は, 私の婚約者である純斗と結婚することだと言い放った.
「莉紗, お願いだ. 楓枝にこの最後の夢を叶えさせてやってくれ」
父は震える声で懇願し, 母は私を力ずくで控室に閉じ込めた. 婚約者の純斗は, ただ黙ってそれを見ていた.
私は抵抗も虚しく, 見知らぬ男に刺され, 命を落とした.
魂となった私が式場へ向かうと, そこでは私のウェディングドレスを着た楓枝が, 純斗と愛を誓っていた. 両親は満面の笑みで二人を祝福している.
なぜ? なぜ私だけがこんな目に?
その瞬間, 私はすべてを理解した. 楓枝の病気も, 純斗の愛も, すべてが私から全てを奪うための嘘だったのだと.
再び目を開けると, 私は血まみれのドレスのまま, 式の控室に立っていた. 刺されたはずの胸の痛みは, まだ生々しく残っている.
第1章
沢村莉紗 POV:
結婚式当日, 両親が莉紗の双子の妹, 楓枝を連れて現れたとき, 私の心臓が凍りついた. 楓枝は青白い顔をして, 呼吸が荒かった. 両親は私に, 楓枝が希少な心臓病で余命いくばくもないと告げた. そして, 彼女の最後の夢は, 私の婚約者である黒川純斗と結婚することだと.
「莉紗, お願いだ. 楓枝にこの最後の夢を叶えさせてやってくれ」父の声は震えていた. 母は私の手を握りしめ, 懇願するような目で私を見つめた.
私の頭は真っ白になった. 何が起こっているのか理解できなかった. これは冗談? 悪夢?
「そんな…ありえない」私は声にならない声で呟いた. 純斗は, 私の隣でただ黙って立っていた. 彼の顔は蒼白で, 私を見ることもできなかった.
「莉紗, 楓枝はもう長くはないんだ. お願いだ, たった一度でいい, 楓枝に幸せな思い出を作ってやってくれ」母が涙ながらに訴えた. 彼女の言葉は, まるで鋭い刃物のように私の心を切り裂いた.
「でも, 今日は私の結婚式よ. 純斗は私の婚約者なの! 」私は叫んだ. 震える声が, 空虚な控室に響き渡った.
その瞬間, 純斗がゆっくりと口を開いた. 「莉紗, すまない. でも, 楓枝の命がかかっているんだ. 僕も, 君を裏切りたくはない. でも, このままでは楓枝が…」
彼の言葉は, 私の心を打ち砕いた. 裏切り. その言葉が, 私の頭の中で何度も反響した. 彼は私を裏切るのか? 私たちの愛は, これほどまでに脆かったのか?
「純斗, あなたもなの? 」私は信じられない思いで彼を見上げた. 彼の瞳には, 迷いと苦痛が入り混じっていた. しかし, その迷いの奥には, 私への愛情よりも, 楓枝への同情が深く根付いているように見えた.
「莉紗, 後でちゃんと説明する. これは, 楓枝のためなんだ」彼はそう言って, 私から目を逸らした. その瞬間, 私の心の中に, 冷たい虚無感が広がった.
「嫌よ! 私は譲らない! 」私は必死に抵抗した. この結婚式は, 私が長年夢見てきたものだった. 純斗との未来を信じて, これまで全てを捧げてきたのだ.
しかし, 私の抵抗は無意味だった. 両親は私を力ずくで引っ張り, 純斗は無言でそれを傍観した. 彼らは私を奥の部屋に押し込み, 鍵をかけた. 暗闇と沈黙が, 私を包み込んだ.
「大丈夫だよ, 莉紗. 式が終わったらすぐに迎えに来るから. 楓枝の最後の願いなんだ」父の声が, ドアの向こうから聞こえた. その声は優しかったが, 私には全く響かなかった.
私は暗闇の中で震えていた. 裏切り, 絶望, そして底知れない孤独. なぜこんなことになったのか, 理解できなかった.
その直後, 突然ドアが乱暴に開け放たれた. そこに立っていたのは, 見知らぬ男だった. 彼は私の顔を見るなり, 無表情な顔でナイフを振り上げた.
私は悲鳴を上げる間もなく, 鋭い痛みに襲われた. 視界が急速に暗くなり, 意識が遠のいていく. 私の人生は, こんなにもあっけなく終わってしまうのか. 純斗, 両親, 楓枝…彼らの顔が走馬灯のように脳裏をよぎった.
次に目覚めたとき, 私は宙に浮いていた. 自分の体が, その場に横たわっているのが見えた. 血まみれのドレス, 冷たくなった肌. ああ, 私は死んだのだ.
私の魂は, そのまま式場へと向かった. そこでは, 私の結婚式が執り行われていた. しかし, 花嫁の座にいるのは, 楓枝だった. 彼女は, 私のために用意されたウェディングドレスを身につけ, 純斗の隣で微笑んでいた.
祝福の拍手と, 幸せそうな人々の声. その全てが, 私には遠い幻のように聞こえた. これは, 私の結婚式のはずだったのに.
純斗は, 楓枝の手を握り, 愛の誓いを立てていた. その声は, 私に誓ったときと同じくらい, いや, それ以上に情熱的に聞こえた. 私の心は, 凍りついたままだった.
両親は, 楓枝の隣で満面の笑みを浮かべていた. 彼らの目には, 私への後悔の念など微塵もなかった. ただ, 楓枝が幸せそうであることに, 心から満足しているようだった.
私はその光景をただ見ていることしかできなかった. 痛みも, 悲しみも, もはや感じなかった. ただ, 深い虚無感が私を支配していた.
楓枝は, 純斗の胸に顔をうずめた. 彼女の耳元で, 純斗が何かを囁いている. 楓枝は顔を上げ, 満面の笑みで純斗を見つめた. その笑顔は, 病弱な妹のそれとはかけ離れた, 悪意に満ちたものに見えた.
私は, あのドレスが, 私のためにデザインされたものであることを知っていた. 純白のシルク, 繊細なレース, そして手刺繍のパール. 純斗が私に贈ってくれた, 世界に一つだけのドレス. なのに, 今それを身につけているのは楓枝だ. まるで, 私の存在が最初からなかったかのように.
祭壇の上の純斗は, 楓枝の腰に手を回していた. その指輪は, 私が選んだデザインだった. あの時, 純斗は「君に似合う最高の指輪だ」と言ってくれたのに. 私の心は, 粉々に砕け散った.
式は滞りなく進み, 二人は誓いのキスを交わした. その瞬間, 私の魂は激しく震えた. 純斗は, 私とキスをする時よりも, もっと深く, もっと情熱的に楓枝とキスをしているように見えた.
両親の顔は, 喜びで輝いていた. 彼らは, 楓枝の病気が治ったかのように, 心から安堵しているようだった. その姿を見て, 私は確信した. 楓枝の病気は, 嘘だったのだ. 全ては, 私のものを奪うための, 巧妙な策略だったのだと.
私は, 私たちの出会いを思い出そうとした. 純斗は, 私に一目惚れしたと言っていた. だが, それは真実だったのか? もしかしたら, 彼は最初から楓枝に惹かれていたのかもしれない. 私との交際は, 楓枝の病気を隠すための, あるいは私を油断させるための偽装だったのかもしれない.
結婚式の準備中, 純斗は時折, 奇妙な行動をとることがあった. 私が忙しい時に限って, 楓枝の様子を尋ねたり, 彼女の体調を気遣ったりする回数が多かった. 当時は, 優しい人だと思っていたが, 今思えば, 全ての言動が不自然だった.
私は死んだ. 私の全てを奪われた. なぜ? なぜ, 彼らは私を犠牲にしたのか? 私が何をしたというのか? 私は, あの男に殺された. あの男は, 誰の指示で私を殺したのか? 楓枝なのか? 純斗なのか?
私は自分の死に, 深い怒りと絶望を感じた. しかし, それ以上に, 彼らが私の死を, 自分たちの幸せの踏み台にしたことへの, 激しい憎悪に駆られた.
式が終わり, 純斗と楓枝は, 拍手喝采の中, 堂々とバージンロードを歩いていく. 彼らは, 私という存在が, まるで最初からなかったかのように振る舞っていた. 私の魂は, 冷たい風に吹かれ, 彼らの後ろをただ虚しく漂うしかなかった.
話 2
沢村莉紗 POV:
式が終わると, 純斗と楓枝は, まるで新婚旅行のように豪華なホテルへと向かった. 彼らの後ろを, 両親も続く. 私は, 彼らの後を追うように, 宙を漂った. 私の魂だけが, この世に残され, 彼らの行動を見続けることしかできなかった.
ホテルの一室で, 楓枝は純斗に尋ねた. 「莉紗は, どうなったの? まさか, まだ怒ってる? 」
楓枝の声には, わずかな不安と, それ以上の期待が混じっていた. 彼女は, 本当に私を心配しているわけではない. ただ, 自分の計画が完璧に進んでいるかを確認したいだけなのだ.
純斗は, 楓枝の頬を優しく撫でながら言った. 「大丈夫だよ. 君の病気のことを話したら, きっと理解してくれる. 少し時間がかかるかもしれないけど, 僕がちゃんと説得するから」
「本当に? 莉紗って, 頑固だから…」楓枝は, わざとらしく弱々しい声を出した. 彼女は, これまでもずっと, そうやって両親や純斗を操ってきたのだ.
純斗は, 楓枝を抱きしめた. 「心配ない. 僕が君を守るよ. もう二度と, 寂しい思いはさせない」彼の口から出る言葉は, かつて私に言った言葉と全く同じだった. 私は, 吐き気がした.
その後, 彼らは両親と共に, 地元の高級レストランで食事をとった. テーブルの上には, 見たこともないような豪華な料理が並んでいた.
父が, 少し不安そうに言った. 「こんなに高い店で, 大丈夫なのか? 莉紗もいないのに…」
母は, 父の言葉を遮るように言った. 「いいのよ, お父さん. 今日は楓枝の結婚式なんだから. それに, 純斗さんが全部払ってくれるんでしょ? 」
純斗は, 笑顔で頷いた. 「もちろんです. 今日は, 楓枝とご両親への感謝の気持ちですから」
楓枝は, 得意げに微笑んでいた. まるで, これが当然の権利であるかのように. 私は, 彼女の顔から, かつての病弱な面影が完全に消え去っているのを見た. 彼女の目には, 輝くような生命力が宿っていた.
食事を終え, 彼らは再びホテルへ戻った. 私は, 彼らの後を追って, 純斗と楓枝が泊まる部屋に入った.
楓枝は, 純斗に甘えるように言った. 「純斗さん, もう寝ましょう? 」
純斗は, 少し困ったような顔をした. 「楓枝, まだ早いし, ご両親もいるから…」
「いいじゃない. もう夫婦なんだから」楓枝は, 純斗の腕に絡みついた.
純斗は, 楓枝の誘いをかわすように, ベランダに出た. 彼は, そこでタバコに火をつけた. 夜空を見上げ, 深く息を吐き出す. 彼の顔には, 疲労と, 何かを迷うような表情が浮かんでいた. 彼は, 何を考えているのだろう? 私のことか? それとも, 楓枝のことか?
私は, 純斗の隣に立った. 彼は私を見ることはない. 私の存在は, 彼には認識されない. 私は, 彼の苦悩を間近で見た. しかし, 彼の苦悩は, 私の死に比べれば, あまりにも軽すぎる.
私は, 彼の隣を離れ, 両親の部屋へと向かった.
父が, ベッドに横になりながら言った. 「今日の食事は, ずいぶん高かったな. 純斗さんが払ってくれたからいいものの…」
母は, ため息をついた. 「楓枝は, ああいう贅沢なものが好きなのよ. それに, 病気で苦しんできたんだから, たまにはいいじゃない」
「でも, 莉紗には…」父が言いかけたとき, 母は彼の言葉を遮った. 「莉紗には, 後でちゃんと埋め合わせをしてあげればいいのよ. 純斗さんともう一度, 結婚式を挙げてもらうとか」
私は, 母の言葉に, 激しい怒りを感じた. 埋め合わせ? 私の命を奪っておいて, 埋め合わせができるとでも言うのか?
父は, 携帯電話を取り出し, 私の番号に電話をかけた. しかし, もちろん繋がるはずがない. 私の携帯電話は, あの部屋に置き去りになっている.
「莉紗, 出てくれないな…」父は不安そうに呟いた.
「どうせ, まだ怒ってるんでしょ. 莉紗は, いつもああやって拗ねるんだから」母は不満そうに言った. 「でも, どうせすぐに機嫌を直すわ. お金でも渡せば, すぐに許すわよ」
私は, 母の言葉に, 背筋が凍るような思いがした. 彼女は, 私をずっとそう見ていたのだ. お金で釣れる, 単純な人間だと.
「だけど, 楓枝のあの病気は, いつまで続けるんだ? 」父が尋ねた.
「あの病気は, 莉紗のものを奪うための口実よ. 莉紗は, 純斗さんと結婚すれば, あの会社の後継者になれたはず. 楓枝にこそ, あの地位が必要なのよ」母は, 冷酷な目で言った.
私は, 彼らの会話を聞いて, 全てを理解した. 楓枝の病気は, 最初から嘘だった. 全ては, 私が築き上げてきたものを奪うための, 完璧な策略だったのだ.
彼らは, 私を犠牲にして, 楓枝に富と地位を与えようとした. 私の命は, 彼らにとって, 何の価値もなかったのだ.
私は, もはや彼らへの怒りさえ感じなかった. ただ, 深い絶望と, 虚無感だけが残った. 私の死は, 彼らにとって, 何の意味も持たなかった.
この世に未練など, 何一つない. 私は, 初めて, 死が私にとっての解放であると感じた.
半月後, 純斗と楓枝は新婚旅行から帰ってきた. 彼らは, 私の家, いや, もはや楓枝の家となった場所へと足を踏み入れた.
楓枝は, 私のために純斗が買ってくれた上質なシルクのナイトガウンを身につけ, 堂々とこの家を歩き回っていた. 彼女の顔には, この家の女主人としての自信が満ち溢れていた.
純斗は, どこか落ち着かない様子で, 家の中を歩き回っていた. 彼は, 何かを探しているようだった. 私の痕跡を.
しかし, 私の痕跡は, どこにも残っていなかった. 私の私物は, 全てどこかに片付けられていた. まるで, 私が最初からこの家に存在しなかったかのように.
純斗は, 私の書斎の前で立ち止まった. そこは, 私が唯一, 自分だけの空間として大切にしていた場所だった. 彼が, そのドアノブに手をかけようとしたとき, 楓枝が言った.
「純斗さん, その部屋, 私に衣裳部屋として使わせてくれない? 莉紗の趣味って, ちょっと古臭いし, いらないものばかりでしょ? 」
純斗は, 一瞬ためらった. 「でも, 莉紗が大切にしていた場所だから…」
「いいじゃない. もう莉紗はいないんだから. それに, 私にはあの部屋が必要なの. ね? 」楓枝は, 純斗の腕に絡みつき, 甘えた声を出した.
純斗は, 楓枝の言葉に抵抗することができなかった. 彼は, 結局, 頷いてしまった. 私の書斎は, 楓枝の衣裳部屋に変わることになった.
楓枝は, 使用人たちに指示を出した. 「あの部屋にあるもの, 全部捨ててちょうだい. 特に, 莉紗が使っていたものなんか, 全部ね! 」
使用人たちは, 淡々と私の私物を運び出していった. 私の思い出が詰まった本, デザイン画, 写真…それら全てが, ゴミのように扱われた.
純斗は, その光景をただ黙って見ていた. 彼の目には, かすかな悲しみが宿っていた. 彼は, きっと私の夢を思い出していたのだろう. 私が, この書斎で, どれほど多くの時間を過ごし, どれほど多くの夢を育んできたかを.
しかし, 彼の悲しみも, 私を救うことはなかった. 私の存在は, この家から, 完全に消し去られようとしていた.
話 3
沢村莉紗 POV:
純斗は, 両親が楓枝を偏愛し, 私に不公平な扱いをしてきたことを知っていたはずだ. 彼は, 私の苦しみを理解していたはずなのに, なぜ私を裏切ったのか? 私を愛していると, 何度も言ってくれたのに.
私は, 彼が私を選んでくれることを, 心から願っていた. 楓枝の病気が嘘だと知っても, 彼は私を選んでくれると信じていた. しかし, 彼は楓枝の救世主となる道を選び, 私を捨てたのだ.
私の書斎は, 完全に楓枝の衣裳部屋へと変貌した. 私の思い出は, 一つ残らず消え去り, そこには楓枝の派手な服やアクセサリーが所狭しと並べられていた. 私の夢は, この部屋と共に, 完全に消滅したのだ.
その日, 純斗は, 私の書斎だった場所から, 一枚の写真を拾い上げた. それは, 私が笑顔で写っている社員証の写真だった. 彼は, その写真をポケットにしまい込んだ.
翌日, 純斗は会社に出勤した. 彼がオフィスに入ると, 同僚たちがざわついていた.
「黒川さん, 沢村さんって, いつから休んでるんですか? 」同僚の一人が尋ねた.
純斗は, 一瞬言葉に詰まった. 「莉紗…? ああ, 彼女は, しばらく休むことになったんだ」
「でも, 連絡が全く取れないんですが…」別の同僚が言った.
純斗は, 苛立ちを隠せない様子で, 私の携帯電話に電話をかけた. もちろん, 電源は入っていない. 彼は, 何度もリダイヤルしたが, 繋がることはなかった.
「もういい! 沢村莉紗は, 今日付けで解雇する! 」純斗は, 突然怒鳴りつけた. オフィスの空気が凍りついた. 誰もが, 彼の突然の豹変に驚きを隠せないようだった.
「そして, 後任には, 楓枝が就任する! 」彼は, そう言い放った.
私は, 彼の言葉に, 激しい嫌悪感を覚えた. 私を解雇し, 楓枝を私のポジションに就かせる. これほどまでに, 私を侮辱するのか.
その夜, 純斗はオフィスで楓枝といた. 楓枝は, 私の椅子に座り, 得意げな顔で純斗を見つめていた. そして, 二人は人目をはばかることなく, オフィスで抱き合った.
私は, その光景を見て, 激しい吐き気を催した. 彼らの裏切りは, 私をここまで追い詰めたのだ.
その瞬間, 私の体の奥で, かすかな鼓動を感じた. それは, 私の中に宿っていた, 小さな命の鼓動だった. 私は, 妊娠していたのだ.
私は, 純斗との間に, 子供を授かっていた. その子は, 私と共に, この世を去ってしまったのだ. 私は, 二重の悲劇に打ちのめされた.
純斗は, 私の死後も, 私に何度もメッセージを送っていた. 「莉紗, どこにいるんだ? 早く帰ってきてくれ. 君がいないと, 僕は…」
彼のメッセージは, 私には届かない. 彼の後悔は, もはや私には関係ない.
ある日, 純斗が楓枝と話しているとき, 楓枝が言った. 「純斗さん, 私, お腹に赤ちゃんがいるみたい」
純斗は, 驚きと喜びの表情を浮かべた. しかし, 私の魂は, 激しい皮肉を感じた. まさか, 楓枝も妊娠しているとは. 私の子供は死んだというのに.
楓枝は, 幸せそうに微笑んでいた. 純斗も, 彼女の妊娠を心から喜んでいるようだった. 彼は, 楓枝の嘘に, 完全に騙されているのだ.
しかし, その夜, 純斗は楓枝の首元に光るものを見て, 顔色を変えた. それは, 私が大切にしていた, 純斗が贈ってくれたネックレスだった.
「楓枝, そのネックレス…どこで手に入れたんだ? 」純斗の声は, 冷たく響いた.
楓枝は, 少し慌てた様子で言った. 「ああ, これ? たまたまお店で見かけて, 可愛いから買っちゃったの」
私は, そのネックレスの思い出を思い出した. 純斗が, 私の誕生日に贈ってくれたものだ. 彼は, 私のために, この世に一つしかないデザインをオーダーしてくれたのだ.
「嘘だ. そのネックレスは, 莉紗にしか似合わない」純斗は, 怒りを露わにした.
楓枝は, 純斗の怒りに怯えたように言った. 「そんなことないわ. 私だって, 似合うわよ」
楓枝は, 話題を変えようと, 純斗を夕食に誘った. 「純斗さん, 今夜は美味しいものを食べに行きましょう? 私の妊娠のお祝いも兼ねて」
私は, 楓枝の言葉に, 嫌悪感を覚えた. 彼女は, 私の死の影で, 自分だけの幸せを築こうとしている.
私は, あのネックレスが, 楓枝の手に渡ったのは偶然ではないと確信した. 楓枝は, 何らかの形で, 私の死に関与している. 彼女は, 私を殺した男と共謀していたのではないか?
夕食の席で, 両親は楓枝の妊娠を心から喜んでいた.
「これで, 沢村家も安泰だわ」母は, 得意げに言った. 「楓枝は, 本当に私たちに幸せをもたらしてくれる」
彼らの言葉は, 私の魂を深く傷つけた. 彼らは, 私という存在を完全に忘れ去り, 楓枝だけを愛している. 私は, 彼らにとって, 何だったのだろう?
純斗は, 複雑な表情をしていた. 彼は, 楓枝の妊娠を喜んでいるようにも見えたが, どこか深い闇を抱えているようにも見えた. 彼の心の中には, まだ私への思いが残っているのだろうか?