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榊原春菜 POV:

私のパソコンが故障した. 急ぎの書類があったため, 私は浩太の書斎に足を踏み入れた.

「浩太さん, パソコン借りてもいいですか? 」

私の問いかけに, 浩太は顔を上げることなく,

「ああ, 使え. 」

とだけ答えた.

彼のパソコンを開くと, メールの通知が目に飛び込んできた. 差出人は「沢井真子」. 思わずクリックしてしまった.

そこには, 真子の友人からのメールが届いていた.

「真子, 来月のホームパーティー, 浩太くんも誘うんだよね? みんなで会えるの楽しみにしてるよ! 」

私の手は震えていた. ホームパーティー. 浩太は私に, そんな話は一切していなかった.

この結婚は, 戸田屋の跡継ぎ問題と, 浩太が真子に失恋した傷を癒すために, 秘密裏に進められたものだった. 公には, 私たちはまだ結婚していることを発表していない. 彼の家族以外, 誰も知らない, 私と浩太の結婚.

浩太は, 私との結婚を公表するつもりはないのだろうか. いや, きっとそうだろう. 彼は, 私との結婚を, 真子に知られたくないのだ.

私は, 彼がいつか私を選んでくれると信じていた. しかし, それはただの幻想だった.

「春菜, どうしたんだ. 顔色が悪いぞ. 」

不意に, 浩太の声が聞こえた. 私は慌ててメールを閉じ, 平静を装って笑顔を作った.

「ええ, 大丈夫よ. 少し疲れていただけ. 」

私はそう答えた. 浩太は私の顔をじっと見つめていた. 彼の視線が, 私を貫く.

「そうか. 無理はするな. 」

彼の言葉は, 私にとってはもう何も響かなかった.

「浩太さん, 来月のホームパーティー, 私も一緒に行ってもいいかな? 」

私は震える声で尋ねた. 浩太は一瞬, 言葉に詰まった. その沈黙が, 私の心に深く突き刺さる.

「... いや, あれは, 男だけの集まりだから. 」

彼の言葉は, 私を拒絶していた.

「そう. 分かったわ. 」

私は無理に笑顔を作った. 心の中では, もう二度と彼に期待しないと誓った.

浩太は, 真子とのパーティーへと出かけて行った. 私は一人, 部屋に残された.

彼の同僚が, 浩太に真子のことを詰問している声が聞こえる.

「浩太, お前, 真子ちゃんのことどう思ってるんだよ! ? 」

「俺は... 」

浩太の声が, 途切れた.

「真子ちゃんは, お前のこと, ずっと待ってるんだぞ! 」

同僚の声が, さらに感情的になる.

浩太は, 沈黙していた. その沈黙が, 私を深く絶望させた.

真子から, 浩太に連絡が入る.

「浩太くん, 今どこ? 早く来てよ! 」

真子の声は, 懇願するように響いた.

浩太は, 迷うことなく, 真子の元へと駆けつけた.

彼は, 私を選ばなかった. いや, 最初から, 私を選ぶつもりなどなかったのだ.

私は自分の愚かさを自嘲した. それでも, 私は彼を愛していた. 彼の愛を, いつか手に入れられると信じていた.

しかし, もう無理だ. 私の心は, 完全に壊れてしまった.

私は, もう一度離婚届を取り出した. 彼の署名された文字が, 私を嘲笑っているように見えた.

私は立ち上がり, クローゼットを開けた. そこには, 浩太との思い出の品々がしまわれている. 私はそれらを一つ一つ, 丁寧に箱に詰めていった.

「春菜, 何してるんだ? 」

不意に, 浩太の声が聞こえた. 彼はいつの間にか帰ってきていた.

「ああ, 少し模様替えでもしようかと思って. 」

私は平静を装って答えた. 彼は私の手元を見て,

「まさか, 勝手に捨ててないだろうな. 」

そう言った.

「私が捨てたのは, もう必要ないものだけよ. 」

私は淡々と答えた. 彼は気にする様子もなく,

「そうか. 」

とだけ言い, シャワーを浴びに向かった.

私が箱に詰めたのは, 彼が私にくれた, もう二度と使うことのないものばかりだった.

私の心はもう, 何も感じない. 彼の無関心も, 彼の初恋に対する執着も.

私は, もう過去の榊原春菜ではない. あの頃の自分は, 彼の全てを受け入れた. しかし, 今の私は違う. 私は, 私自身の幸せを掴むために, この結婚に終止符を打つことを決意したのだ.

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愛なき結婚の果て

第3話
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