話 2
霧島 怜奈 POV:
家までの運転は、滲んだ信号機の光と、胸にぽっかりと空いた虚しさで、何も覚えていない。五年。私の人生の五年、私の忠誠、私の身体、そのすべてを彼に捧げた。彼が犠牲の意味を理解しているという、欠陥だらけの前提の上に、私は自分の世界を綿密に設計してきた。
かつては、彼も理解していると信じていた。事故後の、痛みと混乱に満ちた数週間、世界が万華鏡のように砕けた映像の連続だった時、彼の声だけが私の唯一の支えだった。
「このことは絶対に忘れない、怜奈」無機質な病室で、彼は私の手を握りしめ、そう囁いた。「君は僕を救ってくれた。結婚してくれ。残りの人生をかけて、君に償わせてほしい。軽井沢で、あの山で結婚式を挙げよう。僕たちが忘れないために。永遠に」
私は安堵の涙に濡れ、祈りのように彼の言葉にすがりついた。彼を信じた。あの恐怖を、寒さを、私の人生を永遠に変えてしまった一瞬の決断を、彼が覚えていると信じていた。忘れるはずがないじゃないか。それは私たちの婚約の礎であり、私たちの未来が築かれるはずの、まさにその土台だったのだから。
今、私は悟った。すべてはただの演技だったのだと。櫂は思い出を大切にしていたのではなく、それを振りかざしていたのだ。それは彼の免罪符であり、私の尽きることのない献身の証明書だった。
私の主治医である新城先生は、警告してくれていた。「怜奈さん、あなたの症状は安定していますが、ストレスによって悪化します。極度の精神的苦痛は発作を引き起こす可能性があります。穏やかで、支えのある環境が必要ですよ」
乾いた笑いが唇から漏れそうになった。穏やかで、支えのある環境。今、私の世界は地震の真っ只中にある建物のようだった。足元の土台が、音を立ててひび割れていく。私は胸骨に手のひらを押し当て、自分自身を物理的に繋ぎ止めようとした。私を飲み込もうとする悲しみの波を、必死に押しとどめようとした。心臓が見えない手に握り潰されているようで、その一拍一拍が、苦しいほどの明瞭さで痛みを刻んでいた。
電話が鳴り、私はびくりとした。画面に「櫂」の名前が光っている。四回コールさせてから、私は慎重に、感情を殺した声で電話に出た。
「もしもし」
「怜奈」彼の声は、笑い声とグラスのぶつかる音にかき消されそうなくらい大きかった。「ごめん、会社の方が長引いててさ。クライアントと食事に行くことになった。家に帰るのは、多分、深夜過ぎになると思う」
クライアント。もちろん。そのクライアントの名前は、愛理。
沈黙があった。私が口にできない、すべての言葉が詰まった深い溝。
「わかった」その一言を口にするのに、高層ビルを設計するよりも多くのエネルギーを要した。
「それだけ? わかった、って?」
「ええ、櫂。わかったわ。楽しんできて」
彼は一瞬黙った。私が抗議しなかったことに驚いたのだろう。そして、「わかった。じゃあ、待ってなくていいから」と言った。
彼は電話を切った。私は暗い画面を見つめた。車内の静寂が、突然耳をつんざくように響いた。待ってなくていい。私は五年もの間、彼を待ち続けてきた。彼が私を見てくれるのを、私を評価してくれるのを、私が彼を愛するのと同じくらい、私を愛してくれるのを。もう、待つのは終わりだ。
その夜、眠りは私がたどり着けない遠い国だった。冷たく空っぽのベッドで横たわっていると、真っ白な羽毛布団が、今や嘘となった結婚式のことを残酷に思い起こさせた。午前二時頃、スマホがインスタグラムの通知で震えた。翔太さんからの投稿だった。
アイコンの上で親指が止まる。胃のあたりで嫌な予感が渦巻いた。それでも、私は開いた。見なければならなかった。
その写真は、私の腹の底を抉るような一撃だった。混雑した高級バーでの集合写真。そしてその中央に、櫂がいた。彼は頭を後ろに反らせて笑い、片腕を愛理の腰にしっかりと回していた。彼女は彼の体にぴったりと寄り添い、彼の肩に頭をもたせかけ、酔ってうっとりとした眼差しで半分目を閉じている。彼は、ごった返す人混みから彼女を守る盾のように、彼女を支えていた。彼が病院を自力で歩いて退院したあの日以来、私には決して見せてくれなかった、支える姿だった。
だが、私を本当に打ちのめしたのは、コメント欄だった。
「お似合いすぎ!」
「キングとクイーン! 最高のカップル」
「大学の頃、みんなこの二人が結婚すると思ってたよね。運命ってあるんだな」
そして、共通の知人であるローレンという女の子からのコメントがあった。「@一条櫂 おい、大胆だな。怜奈さんがこれ見ないといいけど」
私は息を止め、待った。櫂の返信は、ほとんど間髪入れずに表示された。
「@ローレンP 自己責任だろ。生きてるか死んでるか、彼女の勝手だ」
彼の勝手。いつだって、彼の勝手だった。私の痛みも、私の屈辱も、私の存在そのものさえも、彼が対処するか、あるいは捨て去るかを選べる、些細な面倒事に過ぎなかった。
私はそのコメントに「いいね」をつけた。彼の残酷さに対する、静かな、デジタルな承認。そしてスマホを置き、ナイトスタンドに画面を伏せた。彼に私が崩れ落ちる姿を見せるものか。もう二度と。彼の侮辱をただ受け入れるだけの存在でいるのは、もう終わりだ。自分の人生の幽霊でいるのは、もう終わりだ。
翌朝、私は新城先生との定期検診に、自分で車を運転して向かった。雨が、私の中の嵐を映し出すかのように、激しく降り注いでいた。
「今日は、お一人ですか、霧島さん?」看護師さんが血圧を測りながら、親切に尋ねてくれた。
「もう大人ですから」私は目に笑みのない笑顔で言った。「一人で大丈夫です」
クリニックを出ると、雨はさらに強まっていた。ジャケットのフードを深く被ったが、冷気が骨の髄まで染み込んできた。信号が変わるのを待っていると、ふと通りの向かいのカフェに目が留まった。そして、彼らを見てしまった。
櫂と愛理が、一本の大きな傘の下で身を寄せ合い、彼が車のロックを解除するのを笑いながら見ていた。彼は彼女のために助手席のドアを開けていた。私に対してはとうの昔に放棄された、紳士的な仕草。そして彼女の腕には、透明なビニールのガーメントバッグに守られて、白い生地と複雑なビーズ飾りがちらりと見えていた。
ヴァレンティノのドレス。
ヒステリックな小さな笑いが、喉の奥から込み上げてきた。もちろん。彼は愛人の五百万円のドレスを、自分で家に持ち帰る手間さえ惜しんだのだ。彼はそれを彼女の前でひけらかさなければならなかった。彼の愛情のトロフィーとして。
私は土砂降りの中を、水たまりを避けることさえせずに歩いて帰った。玄関のドアをよろよろと開ける頃には、ずぶ濡れで、震えが止まらなかった。
数分後、櫂が玄関ホールに入ってきて、髪から数滴の水を振り払った。彼は私を見て、ぴたりと足を止めた。
「なんだよ、怜奈、どうしたんだ? 溺れたネズミみたいじゃないか」
「歩いて帰ってきたの」私は平坦な声で言った。
彼は眉をひそめた。「歩いて? どこから?」そして、一瞬、束の間の記憶が蘇ったのか、目を見開いた。「ああ、そうか。お前の診察日か。忘れてた」
私はただ彼を見つめた。昨日の朝も、その前の日も、私は彼に伝えていた。冷蔵庫にメモも残した。
「で、どうだったんだ?」彼の一瞬の罪悪感は、すぐに苛立ちへと変わった。「ようやく完治したのか? これで、この…面倒な話も…終わりにできるのか?」
私の目、私の犠牲、私の続く闘い――すべてが、彼にとってはただの面倒な話。
私は彼の視線をまっすぐに受け止めた。私の目は、永遠に感じられるほど長い間、初めて澄み渡り、揺るぎなかった。「いいえ、櫂。治らなかったわ。視神経の損傷は、一生残る。これからも発作が起きるリスクはある。視界が揺らめいたり、見えない部分ができたりするリスクが」
彼は一瞬黙った。そして、うんざりしたようにため息をついた。「つまり、これは永遠に終わらないってことか。お前はこれからもずっと、この…『ネタ』を…俺に突きつけ続けるつもりなんだな」
私は何も言わなかった。もう言うべきことは何もなかった。私が知っていると思っていた男、私が救った男は、もういなかった。あるいは、最初から存在しなかったのかもしれない。
「ああ、本当に疲れる」彼は吐き捨てるように言った。声が荒くなる。「お前はいつもそうだろ? 頭痛だの、視界がぼやけるだの、何か新しいクソみたいな症状だの。被害者でいるのが楽しいのか?」
その時、私は見てしまった。彼の真っ白なシャツの襟についた、小さな、淡いピンクのシミ。カフェで愛理がつけていた口紅と、まったく同じ色合いだった。
「襟に、口紅がついてるわ」私の声は、かろうじて囁きになった。
彼は凍りつき、パニックと罪悪感に満ちた反射で、手が首元に飛んだ。
「それから、愛理に伝えておいて」言葉が毒のように口の中に広がった。「五百万円のドレス、もっと気をつけた方がいいって。今週はずっと雨の予報だから」
彼の顔は、一瞬で青ざめ、そして真っ赤になった。「俺をつけてたのか? お前、どうかしてるぞ!」
「彼女は取り乱してたんだ、怜奈!」彼は私に詰め寄りながら叫んだ。「飼い猫が死んだんだ! 俺は彼女を慰めてただけだ!」
「彼女の猫が死んだのは、先月の話よ、櫂」
「それは…悲しみが後からぶり返してきたんだ!」彼は嘘がばれた男の絶望で目を血走らせながら、しどろもどろに言った。「お前には分からないんだ、お前は彼女ほど繊細じゃない。彼女は俺を必要としてるんだ! 俺には彼女に対する責任がある!」
「責任?」私は壊れた、笑いのない笑いをようやく漏らした。「じゃあ、私に対するあなたの責任は? あなたの婚約者に対する責任は? 自分の命を救ってくれた怪我の診察のために、土砂降りの中を一人で歩いて帰ってきた女に対する責任は?」
「それは違う!」彼は叫んだ。「あれは事故だ! これは…これは愛理なんだ!」
まるで合図でもしたかのように、彼の電話が鳴った。彼はそれをひったくった。画面に「愛理」の名前が光る。彼は電話に出た。彼の声は、即座にあの柔らかく、心配そうなトーンに変わった。
「愛理? どうしたんだ? 大丈夫か?」
スピーカーから、芝居がかった、くぐもったすすり泣きが聞こえてきた。「櫂…ごめんなさい…また、パニック発作が…」
彼はためらわなかった。私を見ることさえしなかった。
「すぐ行く」彼はそう言うと、もうドアに向かって振り返っていた。ドアノブに手をかけ、彼は立ち止まり、最後にもう一度、軽蔑に満ちた視線を肩越しに投げつけた。
「ここにいろ。体を乾かせ。それから、頼むから、俺が帰ってきた時に、そんなに大げさに騒ぐのはやめてくれ」
彼はドアをバタンと閉めて出て行った。その音は、私たちが築き上げてきた人生の、静かで、がらんどうの空間に響き渡った。
大げさ。彼は私が大げさだと思ったのだ。
そしてその瞬間、私は真実を悟った。五年間、私は神経の損傷のせいで目が見えなかったのではない。見ようとしなかったから、盲目だったのだ。
話 3
霧島 怜奈 POV:
結婚式前の週末を過ごすはずだった沖縄へのフライトは、凍てつくような沈黙に包まれていた。私は窓際に座り、ノイズキャンセリングヘッドホンをつけて、果てしなく広がる雲をただ見つめていた。それは、隣に座る男に対する、目に見える障壁であり、盾だった。
櫂は落ち着きがなかった。座席で身じろぎし、肘掛けを指で叩き、ほとんど滑稽なくらい不安げな表情で、何度も私をちらりと見た。彼は私の許しと、最終的な降伏に慣れきっていた。私の沈黙は彼が理解できない言語であり、それが彼を苛立たせていた。
「いい天気だな、上は」彼は少し大きすぎる声で話しかけてきた。
私は動かなかった。
彼は咳払いをした。「客室乗務員が言ってたけど、定刻に着陸するらしい。遅れはないって」
私は視線を水平線に固定したまま、流れてもいない音楽のせいで聞こえないふりをした。
「怜奈」彼の声は苛立ちで鋭くなった。彼は手を伸ばし、私の耳からヘッドホンを一つ引き抜いた。「聞いてるのか?」
私はゆっくりと彼の方を向いた。私の表情は、何の感情も映さない壁だった。「聞こえてるわ」
彼は私の冷たく、死んだような声のトーンにたじろぎ、びくりとした。彼は座席に深く沈み込み、首筋が赤く染まっていく。「わかったよ。好きにしろ」
私たちが再び口を開いたのは、タクシーに乗り、信じられないほどお洒落な南部のビーチエリアに向かっている時だった。この週末のすべては彼の演出であり、私はただ出席することを期待されているだけの観客だった。
「それで」その言葉が、張り詰めた静寂を切り裂いた。「結婚式の計画は、すべて最終決定したの?」
それはテストだった。最後の最後に、彼が告白するかもしれないという、最後の、揺らめく希望。私たちが築き上げるはずだった人生に対して、彼が一片でも敬意を示すかもしれないという、淡い期待。
彼は私の目を避け、無理に明るい笑顔を作った。「すべて手配済みだよ。こういうことは、君の判断を信頼してるって知ってるだろ、ハニー。君は建築家で、マスタープランナーなんだから」
その嘘はあまりにも見え透いていて、あまりにも侮辱的で、息が詰まった。彼は、自分が密かに解体した計画、私から盗んだ結婚式の手柄を、私に帰しているのだ。私が惜しみなく与えた信頼は、武器として使われた。彼が私の公然の屈辱を準備している間、私の服従を確実にするための道具として。
私の手は、膝の上で固く握りしめられた。冷たく、硬い決意が骨の髄まで染み渡り、私の心のひび割れを固めていった。これを終わらせなければならない。
彼は私の内面の変化を感じ取ったのだろう、不安の影が彼の顔をよぎった。彼は私が会場の変更を知ったと思ったのかもしれない。おそらく彼はすでに言い訳を練習し、後で大げさで空虚なジェスチャーでどうやって事を丸く収めるかを計画しているのだろう。私が、そんなことのはるか先に行ってしまったことなど、彼は知る由もなかった。
最初の目的地は、高級ケーキの試食ブティックだった。空気は砂糖とバタークリームの香りで満ちていた。部屋の中央の台座には、見本のケーキが飾られていた。白いフォンダンと、繊細な手作りのシュガーフラワーの見事な作品。軽井沢の白樺の花。私の胃がねじれた。
シャンパン風味のケーキの試食を口に運ぼうとしたその時、聞き覚えのある、甘ったるい声が空気を切り裂いた。
「櫂! 怜奈さん! すごい偶然!」
振り返る必要もなかった。愛理の声は、今や私の悪夢の定番となっていた。彼女は、ベテラン女優のような手際の良さで驚いたふりをしながら、こちらに婀娜っぽく歩いてきた。
「ちょうどこの辺にいたの! 櫂、覚えてる? あのギャラリーオープンの後、ここに来たこと。ここのレッドベルベットケーキ、死ぬほど美味しいって言ってたじゃない」
私の手は、空中で凍りついた。また一つ、秘密の逢瀬。また一つ、彼らの隠された生活のかけらが、私の人生の真ん中に、手榴弾のように無造作に投げ込まれた。
「怜奈さん、ハニー、パッショングアバを試さなきゃ」愛理は私の硬直した態度を完全に無視して、甲高い声で言った。「ビーチウェディングには最高よ」
私は手を引っ込め、フォークを置いた。「結構です」
「あら、遠慮しないで」彼女はそう言って、さらに一歩近づいてきた。
私は意図的に一歩後ろに下がった。「もう、決めましたから」
愛理の笑顔が揺らいだ。彼女は胸に手を当て、目にワニの涙を浮かべた。「あら…ごめんなさい。ただ、手伝いたかっただけなの。私…帰るわ」
彼女が一歩も踏み出す前に、櫂の腕が伸び、その手が彼女の手首を掴んだ。「馬鹿なこと言うなよ、愛理。どこにも行かせない」
彼は私の方を向き、その目は硬かった。「どうしたんだ、怜奈? 彼女はただ提案してくれただけじゃないか」
そして、まるで最後の一撃を加えるかのように、彼は付け加えた。「それに、彼女がいることに慣れておいた方がいい。言い忘れてた。彼女に、ブライズメイドをお願いしたんだ」
世界が傾いた。ブライズメイド。私の結婚式で。私の幸せを、私の未来を、組織的に破壊した女が、私の隣に立って、私が彼女から盗まれた男に人生を誓うのを見届けるというのか。彼は私に尋ねなかった。ただ、決めたのだ。いつものように。
「ブライズメイド」私は繰り返した。その言葉は灰のような味がした。
「素晴らしいアイデアね」私は、不気味なほど穏やかな声で言った。
櫂と愛理は、私のあっさりとした同意に驚いて、二人とも私をじっと見つめた。
愛理は、いつものように女優として、その役を演じた。「ああ、櫂、でも、やりすぎじゃないかしら。私、邪魔したくないの…」彼女は彼に寄りかかり、その手は彼の胸の上でひらひらと動いた。
櫂の腕は、所有欲をむき出しにして彼女をきつく抱きしめた。彼は彼女の額にキスをした。その仕草はあまりにも親密で、公然としていて、私は物理的に吐き気を催した。
「馬鹿なこと言うなよ」彼は彼女に囁き、そして私を睨みつけた。「ほらな、怜奈? そんなに難しいことじゃなかっただろ? 最近のお前は、機嫌が悪くて、本当に扱いにくい。疲れるよ」
愛理は彼の腕を撫でた。「しーっ、ダーリン。怒らないで。彼女、ただのマリッジブルーよ」
「マリッジブルー以上だ」櫂はついに我慢の限界に達し、声を荒げた。「もううんざりだ。お前の繊細な感情に気を遣って、腫れ物に触るように接するのはもう疲れた」彼は軽蔑の表情で顔を歪め、大げさに身振りをした。「いつになったら、そのことを手放すんだ? 分かったよ、お前は俺を救った。だからって、いつまでも悲劇のヒロインを演じ続ける必要はないだろ!」
沈黙。馬鹿みたいに陽気な小さな店に、重く、息苦しい沈黙が落ちた。
世界の輪郭が白く霞んでいく。私の犠牲。私の痛み。私の感覚の、永久的な変化。彼にとって、それは私が使うただのカードだった。一つの役柄。悲劇のヒロイン。
彼が私の痛みを何度も無視したことを思い出した。私が恐ろしい盲点とともに目覚めた日、緊急の神経眼科の予約に私を連れて行くことよりも、愛理の犬をトリミングサロンから引き取ることを優先した日。私は一人で、恐怖に震えながらタクシーに乗らなければならなかった。彼は私たちの五年目の記念日、本当の記念日である事故の日を忘れていたが、愛理の半年の誕生日には豪華なサプライズパーティーを開いた。
私は、本当に、本当に疲れていた。骨の髄まで染み渡るほどの、深い疲労感が私を押しつぶしていた。私はすでに死んでいる愛のために戦い、死体を蘇生させようとしていたのだ。
もう、手放す時だ。
私は一言も言わずに振り返り、店を出た。彼らを、彼らの毒々しい小さな世界の中に、絡み合ったまま置き去りにして。
櫂は、私が出て行くのを見て、呆然と立ち尽くしていた。そして、彼は店のオーナーの方を向き、無理に笑いを作った。「女って、大変ですよね? 結婚式前のナーバスなやつですよ」
彼は愛理の肩に腕を回したまま、彼女をさらに引き寄せ、その唇は彼女の髪に触れた。私が歩き去る時、店の窓に映るそのすべてが見えた。
手の中のスマホが震えた。櫂からの、長くてとりとめのないメッセージが表示された。
怜奈、戻ってこい。馬鹿げてる。きつく言い過ぎたなら謝る。でも、俺がどれだけのプレッシャーにさらされているか、理解してくれ。俺は人生で最も重要な二人の女性を、なんとかうまくやろうと努力してるんだ。君は、穏やかで、支えになる方でいてくれなきゃ困る。頼むから、俺の妻になるんだ。妻らしく振る舞ってくれ。
私は歩くのをやめた。メッセージをもう一度読んだ。その言葉は、彼の自己中心的でナルシストな世界観の完璧な結晶だった。
俺は人生で最も重要な二人の女性を、なんとかうまくやろうと努力してるんだ。
ゆっくりとした、冷たい笑みが私の顔に広がった。
あなたの負担を軽くしてあげるわ、櫂。私は思った。方程式から、女性の一人を消してあげる。
私はメッセージを削除し、歩き続けた。奇妙なほどの軽やかさが、胸に満ちていく。五年ぶりに、私は彼から歩き去っていた。そして、私は、絶対的な確信を持って知っていた。二度と、戻ることはないと。