話 2
黒江莉央 POV:
計画を最終決定した翌日、私はかつて我が家だったペントハウスに戻った。
そこはまるで、死んだ女の人生の博物館のようだった。
あらゆるもの、あらゆるオブジェが、樹が消し去った九年間の証だった。
寝室から始めた。
クローゼットから彼の服を methodical に引きずり出す。
オーダーメイドのスーツ、カシミアのセーター、シルクのネクタイ。
床に山積みにした。
次に私のもの。
彼が買ってくれたデザイナーズドレス、かつては愛の証だったが今では鎖のように感じるジュエリー。
すべてを三つの山に分けた。
売るもの。
寄付するもの。
破壊するもの。
メイドたちは、私が高級委託販売サービスにクローゼットの半分を片付けるよう指示するのを、大きく目を見開いて見ていた。
「ですが奥様」
その一人、マリアが、樹が五周年の記念にくれたダイヤモンドのネックレスに手を触れながら囁いた。
「これはお気に入りでしたのに」
「ただの物よ、マリア」
私の声は空虚だった。
「処分して」
最後の山が、最も個人的なものだった。
フォトアルバム、記念日に貰ったドライフラワー、彼が枕元に残した手書きのメモ。
それらすべてを、私は自分で建物の焼却炉に持っていった。
炎が私たちの思い出を飲み込み、笑顔の顔が黒く丸まった灰に変わるのを見ていた。
痛みはなかった。
ただ、空虚で、清らかな無感覚だけがあった。
最後の目的地は、下北沢のタトゥースタジオだった。
スタジオのキャンバスよりも自分の肌に多くのインクを入れている彫り師は、私の肩甲骨にある繊細な文字を見て眉を上げた。
『Amor Vincit Omnia』――愛はすべてに打ち勝つ。
その下には、樹のサインが寸分違わず彫られていた。
新婚旅行で彼自身がデザインしたものだった。
「本当にこれを隠しちまっていいのかい?」
彫り師は尋ねた。
「いい仕事だぜ」
「ええ」
私は言った。
「不死鳥が欲しいの。灰の中から蘇る、何かを」
針が鳴り、肌を刺す間、私はそのタトゥーを入れた日のことを考えていた。
沖縄の離島の小さな店で、私たちは太陽の光を浴び、愛に酔っていた。
「永遠に」
彼は私の肌に囁いた。
「愛はすべてに打ち勝つんだ、莉央。時間さえも」
なんて美しい嘘だったのだろう。
針の音は心地よい痛みだった。
内なる虚無から気を紛らわすための、肉体的な感覚。
愛はすべてに打ち勝たなかった。
外傷性脳損傷には勝てなかったし、ましてや、性悪な幼馴染の陰湿な毒には到底かなわなかった。
古い私は死んだ。
偽りの約束の印を、新しい肌に刻み続けるつもりはなかった。
店を出る時、電話が鳴った。
葬儀社からだった。
怜の葬儀は翌日に予定されているという。
新たな悲しみの波が、鋭く、強く、無感覚を突き破った。
これが最後の仕事。
古い人生との、最後の繋がり。
葬儀は小さく、厳かなものだった。
ほんの一握りの友人や遠い親戚しか来なかった。
私は開かれた棺のそばに立ち、怜の安らかな顔を見つめ、愛した弟の姿を記憶に刻もうとした。
路地裏で壊れていた少年ではなく。
その時、礼拝堂の扉が大きく開いた。
樹が入ってきた。
腕には、デザイナーブランドの寄生虫のように、玲奈がしがみついていた。
彼は警戒しているようだった。
ボディガードたちが彼の後ろに広がり、まるで私が彼に襲いかかるとでも思っているかのようだった。
彼は玲奈の周りに庇護的な腕を回し、彼が事実上殺した少年の、悲しみに暮れる姉から彼女を守っていた。
「ここで何をしているの?」
私の声は、危険なほど低かった。
「玲奈がお前の弟のことを聞いて、心を痛めていたんだ」
樹は、ぞんざいな口調で言った。
「弔意を表したいと」
彼は棺を、まるで怜の死が趣味の悪い迷惑事であるかのように、わずかに苛立った表情で一瞥した。
「残念なことだ。若かったのにな。だが、馬鹿なゲームをする奴は、馬鹿な賞品しか手に入らない」
私の両手は、体の脇で固く握りしめられた。
「馬鹿な賞品?それが人の命に対するあなたの言い方なの、樹?あなたが奪った命よ?」
「大げさに言うな」
彼は鼻で笑った。
「俺は奴に触れていない。奴自身の悪い決断が奴を殺したんだ。玲奈はただ、俺を奴の…好ましくない繋がりから守ろうとしていただけだ」
彼の言葉はあまりにも無神経で、現実からかけ離れていたので、喉の奥から笑いがこみ上げてきた。
それは壊れた、ヒステリックな音で、誰もが振り返って私を見た。
私は玲奈を見た。
彼女は小さな、ふわふわした白い犬を腕に抱き、天使のような悲しみの仮面をかぶっていた。
彼女の手首に、ほとんど見えない小さな引っかき傷があるのに気づいた。
「あなたを守る?」
私は笑い、その音は嗚咽に変わった。
「彼はあなたを尊敬していたのよ、この人でなし。彼はあなたを神だと思っていた。私があなたと一緒になれてどれだけ幸運か、いつも言っていたわ」
私の声は途切れた。
「それであなたは何をしたの?彼女の手首の引っかき傷のために、彼を殴り殺させたのよ」
「玲奈にそんな口をきくな」
樹は唸り、彼女の前に立った。
「どうして葬儀場に犬がいるの?」
私の悲しみは、白熱した怒りへと変わった。
玲奈は慌てたふりをした。
「あら、ごめんなさい。マロンは一人にすると不安になるの。失礼なことをするつもりはなかったのよ」
彼女が話している間、犬を抱く彼女の腕が、微妙に、ほとんど気づかないほど緩んだように見えた。
小さな白い犬は、自由を感じ取り、彼女の腕から飛び出した。
それはスローモーションで起こった。
犬は前方に駆け出し、その足は磨かれた床を引っ掻いた。
誰も反応する前に、それは飛び上がった。
怜の棺の中に。
礼拝堂に、一斉に息を呑む音が響いた。
小さく、無邪気な犬は、私の弟の顔を嗅ぎ始め、その爪は、葬儀屋が痣を隠すために施した丁寧な仕事に引っかかった。
それは尻尾を振りながら嬉しそうに鳴き、私が弟に対して持つ最後のイメージを冒涜した。
「あら、マロン、だめよ!」
玲奈は、偽りの恐怖に満ちた声で叫んだ。
私の喉から、原始的な叫びが引き裂かれた。
私は前に飛び出し、怜の体から犬を突き飛ばした。
「彼から離して!ここから出して!」
樹は玲奈のそばに駆け寄り、起こったばかりの恐ろしい冒涜を無視した。
彼は彼女を庇護的に抱きしめ、その髪を撫でた。
「大丈夫だ、ダーリン。事故だったんだ」
彼は彼女の肩越しに私を睨みつけ、その目は軽蔑に満ちていた。
「事故?」
私は怜の頭を抱き、彼の髪を元通りにしようとしながら叫んだ。
「彼女はわざとやったのよ!」
彼は棺を見下ろし、私の弟の遺体、彼が死に追いやった少年の体を見て、鼻で笑った。
「それがどうした?どうせ、あのクズには何も感じやしないだろう」
話 3
黒江莉央 POV:
「もうやめろ、莉央」
樹は、ヒステリックな農民を相手にする王様のような、うんざりした焦燥感を声に滲ませて命じた。
「事故だったんだ。玲奈はひどく心を痛めている」
彼は、私が知る限り偽りの嗚咽で肩を震わせながら彼の胸に顔を埋める彼女の髪を撫でた。
「もっといい棺を買ってやる。金で買える最高級のものをな。だから、もう騒ぎ立てるな」
もっといい棺。
彼は金でこれが解決できると思っている。
彼は私の沈黙を、私の許しを買えると思っている。
私の弟の死という、叫び声を上げる傷口を、彼の血塗られたドルで覆い隠せると。
私の中でくすぶっていた怒りの火は、超新星のように爆発した。
それは私の涙を、悲しみを、衝撃を焼き尽くし、冷たく硬い確信だけを残した。
流れるような動きで、私は振り返った。
私の手が宙を舞い、玲奈の頬を打つ乾いた音が、静まり返った礼拝堂に響き渡った。
彼女の頭が横に振られ、青白い肌に赤い手形が咲いた。
彼女の偽りの嗚咽は、本物の痛みと驚きの悲鳴に変わった。
誰もが凍りついた。
参列者も、ボディガードも、樹でさえも。
彼らはまるで私が二つ目の頭でも生やしたかのように私を見つめていた。
悲しみに打ちひしがれた、壊れた姉はもういない。
復讐の女神が、その場所に立っていた。
「あんた」
私は、震える指を玲奈に向け、毒々しい囁き声で唸った。
「地獄に落ちなさい」
樹の衝撃は、雷鳴のような怒りへと変わった。
彼の顔は深紅に染まった。
「そいつを捕まえろ」
彼はボディガードたちに怒鳴った。
「今すぐだ!」
二人の大男が、ためらいがちな表情で私に向かってきた。
彼らは何年も樹のために働いてきた。
彼らは私を彼の妻として、彼が大切にしていた女性として知っていた。
「何をぐずぐずしている!」
樹は、怒りで声を震わせながら叫んだ。
「やれ!」
彼は私を指差した。
「玲奈に謝らせろ。膝まずいてな」
私は、荒々しく鋭い音で笑った。
「謝る?死んだ方がましだわ」
葬儀社の、小柄で禿げ上がった男が慌てて前に出てきた。
「五条様、どうか、ここは神の家です。これ以上の騒ぎはご勘弁を」
樹は彼に、男が物理的に後ずさりして影に溶け込むほど致命的な一瞥を放った。
礼拝堂は今や彼のものだった。
ここで神は彼だった。
「最後のチャンスだ、莉央」
樹は、危険なほど静かな声で言った。
「謝れ」
私がただ魂のすべての憎しみを込めて彼を見つめ返すと、彼は部下たちに頷いた。
「そいつの脚を折れ」
ボディガードたちは、恐怖に満ちた表情を交わした。
「旦那様」
その一人が言いかけた。
「彼女は…」
「彼女は無だ」
樹は、彼の声を北極の冷たさにまで落として遮った。
「邪魔なだけだ。言う通りにしろ。さもなければ、お前らも彼女の弟の仲間入りだ」
それだけだった。
生々しく、原始的な恐怖が、彼らが私に対して抱いていたわずかな忠誠心を消し去った。
彼らは私の腕を掴んだ。
その握力は容赦なかった。
私はもがいたが、無駄だった。
彼らは筋肉の山で、私はただ悲しみに打ち砕かれた女だった。
彼らは私を冷たい大理石の床に膝まずかせた。
私は樹を見上げた。
かつて命よりも愛した顔を。
そこには虚無しか見えなかった。
愛も、記憶も、ただ冷たく、残酷な空虚さだけがあった。
警備員の一人が、最前列の席から重い木製の跪き台を持ち上げた。
彼は一瞬ためらい、その目は私にただ一言、謝罪の言葉を口にするよう懇願していた。
私は彼の視線を受け止め、ゆっくりと首を横に振った。
絶対に。
樹は再び鋭く頷いた。
跪き台が振り下ろされた。
自分の骨が折れる音は、静かな礼拝堂の中で吐き気を催すほど大きかった。
今まで経験したことのない激痛が、白く熱く、目もくらむほど脚を駆け上がった。
私は叫んだ。
長く、途切れ途切れの、純粋な獣の痛みの叫びを。
彼らは止まらなかった。
もう片方の脚にもそれを振り下ろした。
また別の亀裂音、私を丸ごと飲み込もうとする痛みの爆発。
私は床に崩れ落ちた。
私の体は役に立たない、壊れた塊だった。
世界が揺れ、目の前で黒い点が踊っていた。
痛みの霞を通して、樹が私に背を向けるのが見えた。
彼は、今や勝利に満ちた、悪意のある笑みを浮かべて私を見ている玲奈を優しく導き、礼拝堂から出て行った。
「これを片付けておけ」
それが、暗闇が私を完全に飲み込む前に聞いた彼の最後の言葉だった。
意識を失いかける中、ある記憶が蘇った。
数年前、あるパーティーで、下品なビジネスライバルが私を追い詰め、その手が私の背中の低い位置に滑り込んだ。
樹は部屋の向こうからそれを見ていた。
彼は声を荒げなかった。
騒ぎも起こさなかった。
ただ静かに歩み寄り、その男の手を取り、男が膝まずいて痛みに呻くまで、指を一本ずつ折り曲げた。
樹は身をかがめて囁いた。
「もし二度と俺の妻の近くで息を吸うようなことがあれば、俺が直々にお前を破滅させてやる」
彼は私の守護者だった。
私の猛々しく、独占欲の強い、愛情深い守護者。
彼は無礼な接触のために、他人の手を折ることも厭わなかった。
今、彼は礼拝堂で、私の死んだ弟の遺体の上で、私自身の脚を折るよう命じたのだ。
愛と憎しみの境界線は、私が暗闇に飲み込まれるにつれて気づいた。
それは線などではなかった。
それは崖だった。
そして、樹は私をそこから突き落としたのだ。
彼への私の愛、私の魂そのものが、下の岩の上で砕け散った。