話 2
第2章 花嫁交代山口梓がすっと立ち上がった。 「そんなはずがないでしょう!?」
山口尚矢も突然、狼狽した。 「……何か間違いじゃないのか?」
山口家はかつて、桜井陽葵の母である桜井理恵の伝説的な薬方と医術によって財を成した。 しかし、理恵が亡くなって以来、その基盤は徐々に弱まり、高木家という大木にすがりつくことを切望していた。 この縁談だけは、絶対に失敗するわけにはいかない。
陽葵も山口家の令嬢ではあるが、その意味合いは違う。 山口莉子こそが、彼らの宝である娘なのだ。
固く握りしめた拳が内心の焦燥を物語っていたが、莉子はなおも淑やかさを装った。 「お父さん、お母さん、落ち着いてください。 きっと何か誤解があるはずです」
「システムには確かにそのように登録されています」 職員が再度確認した。
人々がパソコンの画面に顔を寄せると、確かに高木峻一と陽葵が夫婦関係にあり、登録日は一昨年の某日、場所は漣国と記されているのが見えた。 その年、陽葵は十八歳だった。
尚矢と梓は、ただ呆然と立ち尽くした。
莉子は完全に取り乱し、もはや令嬢としての体面を保つことができなかった。
人々の視線が一斉に峻一に集まる。 高木おじい様は険しい表情で尋ねた。 「峻一、これは一体どういうことだ?」
「知りません」
「知らん?」 高木おじい様は怒りで髭を逆立てた。 「他の女と結婚登録しておいて、知らんとはどういうことだ!」
峻一は顔を上げ、向かいに立つ陽葵に視線を向けた。 その瞳は、一切の人間味を帯びないほど冷え切っていた。
人々は彼の視線を追って、再び陽葵に目を向けた。
未だ衝撃から抜け出せずにいた陽葵は、無邪気に両手を広げた。 「私も知りません」
彼女の言葉を疑う者はいなかった。 一日中裏庭に閉じ込められ、物置を住処とし、小学校すらまともに通えず、おまけに醜いことこの上ない。 そんな彼女が、漣国まで行って誰かと結婚する機会などあるはずがない。
「誰かが仕組んだに違いない!」
梓は歯ぎしりした。 「真相究明は後回しだ。 吉時を逃すわけにはいかない。 すぐに離婚手続きを済ませ、峻一と莉子の婚姻登録を行うんだ」
「そうだそうだ、結婚式が先決だ」尚矢も同調した。
「峻一は、莉子を妻として迎えることはできん」 高木おじい様は、やむを得ないといった様子で言った。 「高木家には家訓がある。 高木家の男は、妻に先立たれることはあっても、離婚は許されん。 今日の花嫁は、陽葵に代わってもらうしかない」
「そんなこと、許されるわけがない!」
莉子はついに令嬢の仮面を剥ぎ捨て、すっと立ち上がると、目を真っ赤にして叫んだ。 「汐風市中の誰もが、私が高木家に嫁ぐことを知っているのよ!結婚式の直前になって陽葵に代わるなんて、私がこれからどうやって生きていけばいいの!?」
梓もまた、慈愛に満ちた継母の仮面を剥ぎ捨てた。 「汐風市一の富豪の妻の座は、うちの清音のものよ!陽葵というこの小娘に、一体どんな資格があるっていうの!?」
怒り狂う母娘の姿を見て、陽葵は心底おかしくなった。
もともと、どうやって峻一を奪い、彼女たちを狂わせようかと考えていたところだった。 自分が既に結婚登録されているとわかり、何もする必要がなくなった。この結婚がどうやって成り立ったのかは謎だが、今のところ手放すつもりはまったくない。
彼女は目元に笑みを浮かべ、峻一を見つめた。 その声は甘く、とろけるようだった。 「あなた、ごめんなさいね」
あなた?
その一言は、莉子の尻尾を踏みつけたかのようだった。 彼女はすぐに陽葵に襲いかかろうと、金切り声を上げた。 「このクソ女!あれは私の夫よ!あんたにそんな呼び方をする資格があるわけないでしょう!」
陽葵は機敏に峻一の背後に隠れ、彼の肩に両手を回して、ひょっこりと顔を覗かせた。 「莉子お姉ちゃん、落ち着いて。 令嬢としてのイメージを大切にしないと……」
莉子は空を切った。 再び陽葵に掴みかかろうとしたが、その言葉にぴたりと動きを止めた。
感情的になりすぎて、自分が汐風市一の令嬢であることを忘れていた。 この称号を得るために、どれほどの努力を重ねてきたことか。 ここで台無しにするわけにはいかない。
こうして人々は、先ほどまでまるで市場の女のように喚き散らしていた莉子が、突然涙ぐみ、見るからに哀れで、胸を打たれるのを目撃した。 「峻一、私を捨てないで。 あなたを愛しているのは、この世で私だけよ……」
尚矢と梓も、峻一が口を開くのを、切なげな眼差しで見つめていた。
誰もが高木おじい様が家訓を何よりも重んじていることを知っていた。 彼を説得するのは不可能だ。 今や、峻一が立ち上がり、頑固な高木おじい様に反抗してくれることを願うしかなかった。
事件の中心人物である峻一は、しかし、終始石像のように冷たく、落ち着き払い、すべてを見下ろすような態度を崩さなかった。
彼は肩に掴まる陽葵を一瞥すると、無表情に視線を戻した。 「私は高木家の後継者だ。 一族の模範となるべき者が、率先して家訓を破るわけにはいかない」
その言葉を聞き、梓と莉子は顔面蒼白になり、今にも倒れそうになった。
尚矢は不安げな表情で高木おじい様を見た。 「高木おじい様、これは……」
高木おじい様は、けばけばしい化粧をした陽葵に目をやり、次に才気煥発な峻一に目を移すと、小さくため息をついた。
孫に辛い思いをさせるのは忍びない。 だが、家訓だけは守らねばならん!
「尚矢、私はお前の父に恩義がある。 だからこそ、両家の縁談を許したのだ。 だが、婚約を交わした際に、山口家のどの娘を娶るかまでは取り決めなかった。 今、陽葵に代わっても、家訓に背くことにはならん。お前とて、娘を嫁がせることに変わりはないだろう。私の高木家の家訓を破らせるな!」
違いがないだと? 大違いだ!
尚矢は万感の思いで拒絶したかったが、もはや高木おじい様に逆らう勇気はなく、恨みを込めて頷くしかなかった。
こうして、花嫁交代は揺るぎないものとなった。
陽葵は莉子に代わって、ウェディングドレスに身を包んだ……
話 3
高木家の跡取りの結婚式は、あらゆる面で贅を尽くし、花嫁のために用意されたウェディングドレスは、かつてないほど高価なものだった。
伝えられるところによると、そのドレスには40万個のダイヤモンドと真珠がちりばめられ、価値は数億円を超えるという。 山口莉子は、それを着て人前で輝くことを夢見ていた。
山口家と高木家には身分の差があった。 山口梓と山口尚矢は体面を保つため、高木家の格式に合わせようと最大限の努力をし、100億円もの持参金を用意した。 盛大に娘を嫁がせ、汐風市の羨望の的となるはずだったが、結局すべてが桜井陽葵のために用意されたものとなってしまった。
空輸されてきたウェディングドレスが陽葵の身にまとわれ、山口家の半生をかけた持参金もまた、陽葵の懐に収まるのを見て、三人は怒りのあまり血を吐きそうだった。
一方、陽葵は何度か笑い出しそうになったが、隣にいる氷山のような高木峻一を気にして、必死にこらえた。
この男は危険人物だ。 慎重に対処しなければならない。 結婚登記の件も、徹底的に調査する必要がある。
山口家の屋敷の外には大勢のメディアが待ち構えていた。 花嫁がすり替わったことがメディアに好き勝手に報道されるのを避けるため、峻一はウェディングカーを捨て、プライベートジェットで花嫁を迎えに来た。
ヘリコプターが陽葵と峻一を乗せて山口家を飛び立つと、莉子は親を亡くしたかのように泣き崩れた。 「お母さん、私の富豪夫人になる夢は、こうして砕け散ってしまったの?」
「砕け散るものか!」
梓の瞳は悪意に満ちていた。 「高木峻一が、醜い女を、しかも策略にはめられて娶ることを甘んじて受け入れるはずがない。 初夜も終わらないうちに、桜井陽葵は非業の死を遂げるかもしれない!」
莉子の目が輝いた。 「お母さん、それって、シイが喪偶を仕組むってこと?」
梓は微笑んだ。 「桜井陽葵が死ねば、高木峻一はあなたの元に戻ってくる。 汐風市一の令嬢という肩書きを守り通せば、富豪夫人の座は遅かれ早かれあなたのものよ」
梓と莉子が峻一が喪偶を仕組む可能性を考えたように、陽葵も当然それを考えていた。
彼女は以前、峻一に会ったことはなかったが、その名は轟いていた。 彼は冷酷非情で、生きる閻魔のようだと噂されている。 彼を怒らせた者は、死ぬか、死ぬより辛い目に遭うかだ。 この大魔王をあまり怒らせたくはない。
結婚式の間、彼女は終始おとなしく、新居に入ってからも行儀よくベッドに座り、一言も発しなかった。
峻一は黒いスーツを脱ぎ、ベッドの向かいにあるソファに腰を下ろすと、陽葵に視線を向けた。 その視線はまるでX線のようで、彼女の毛穴の一つ一つまでスキャンするかのようだった。
昼間はアフロヘアにタトゥー顔で、目を覆いたくなるほど醜かった彼女が、今、豪華なウェディングドレスをまとい、顔と頭は精巧なベールに覆われている。 そのしなやかな体つきと輝くような白い腕は、息をのむほど美しかった。
彼女は5歳の時、いたずらで火を放ち、屋敷を全焼させ、実の母親を火事で亡くしたと噂されている。 彼女自身も顔に傷を負い、占い師に災いの星だと言われたという。
彼女は世間知らずの愚か者だと噂されているが、彼にはそうは見えなかった。 この娘の澄んだ瞳の奥には、どれほどの狡猾さと計算が隠されているのだろうか。
莉子が彼女を捕まえようとした時、彼女は素早く彼の後ろに隠れた。 普通の人間には分からないかもしれないが、彼には彼女の並外れた身のこなしが見て取れた。 武術の心得がなければ、あのような軽やかさは出せない。
しかし、彼が関心があるのはそんなことではない。 彼が関心があるのは、どうやって二人の名前が結婚証明書に載ったのかということだ。
一体誰が、彼の知らないうちに、彼に妻をあてがうほどの力を持っているのか。 そうする目的は何なのか。 陽葵本人は本当に何も知らなかったのか。
「昼間は随分と口が達者だったが、今はどうして黙っている?」
男の声が静かな部屋に響き渡った。 陽葵は、その言葉と共に冷たい風が吹き付けてくるのを感じ、身震いした。
「ええと、私が高木さんに高望みしてしまったので、気が引けて……」
彼女は今、高木家という場所で生きていかなければならない。 おとなしくすべき時はおとなしくし、お世辞も言えるようにならなければならない。 そうすれば、多くのトラブルを避けられるはずだ。
「フン」峻一は鼻で笑った。
嘘八百を並べる詐欺師め。 莉子の前で彼を夫と呼んだ時、気が引けているようには見えなかった。 いつまで芝居を続けられるか、見てやろうではないか。
陽葵は彼が信じていないことを知っていた。 信じてもらえるとも思っていない。 ただ、彼に弱みを握られて、やり込められないようにするだけだ。
彼女がそんなことを考えていると、男が突然立ち上がり、長い脚で彼女の方へ歩いてくるのが見えた。
彼女が状況を理解する前に、彼は身をかがめて彼女を横抱きにした。
不意打ちのお姫様抱っこ 、陽葵は心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。 「高木さん、何をするんですか?」
男は彼女を見下ろし、唇の端に邪悪な笑みを浮かべた。 「高木夫人、新婚初夜に、私たち新婚夫婦が何をすべきだと思う?」
突然、視界がぐるりと回り、彼女は彼の体でベッドに押し倒された。
柔らかいマットレスが上下に揺れ、鼻腔には彼の男らしい匂いが満ちる。 陽葵は完全に呆然とした。 今の自分のこの醜い姿で、高木峻一はよくも手を出せるものだ。