1

寒い冬の夜。お湯割りの焼酎を飲みながら、過去を懐かしむ。

「出会ったのも冬だったね」

 ポツリと呟く。湯気が浮かんでは消えていく。

「あの時キミが、あの言葉を言わなかったら今こうしていないんだろうな」

 学生時代の事だ。同じ学校に通っていた彼女とボク。学年もクラスも違っていたけれど図書室でお互いちょこちょこ見かけているくらいの認識はしていた。

「貴方と居ると、寒い冬も暖かい、か」

 彼女に言われた言葉を頭の中で繰り返す。実際この言葉がプロポーズのセリフみたいなものだ。

 みたいな、というには理由がある。実際には結婚はしていないという事だ。

「今も暖かいかい?」

「もちろん」

 彼女は頷き返す。それだけでボク達は幸せだ。ボクはお湯割り焼酎、彼女はぬる燗を。おつまみは二人でチーズを食べている。

 これから語るのはボクの過去。既に過ぎ去った事だ。

2

「さて、今日も大学に行くかぁ……」

 ボクは憂鬱なのを隠さずに呟く。時期は冬、マフラーを巻いてトコトコと駐車場まで歩く。そして愛車の軽のドアを開けると鍵を差し込み回す。

 最近バッテリーが弱っているのか寒さのせいなのか少しエンジンに火が入るまで時間がかかる。来年の春に車検なのでその時に見てもらう事にして、今はなんとか走って貰う。

「寒っ」

 幸いフロントガラスは凍結していなかったものの車内は極寒。エンジンがかかって暖房を入れる。本当はあんまりバッテリーには優しくはないけれども寒さには代えがたい。

「行きがけにコンビニでも寄ってコーヒーでも買っていくか……」

 そして駐車場から出て大学へ。

 やはり通勤通学時間だからか道路にはそこそこの活気があり、歩道には学生の姿が多い。

 欠伸を噛み殺しながらコンビニに入り、車を止める。

「いらっしゃいませー」

 コンビニの店員さんがこちらをチラッと見てから挨拶してくる。

 ボクはペットボトルのお茶とパン、そしてレジ横でホットコーヒーを購入する。まぁこれがいつものルーチンワークだ。

「ありがとうございましたー」

 店員さんに見送られボクは車に戻りコーヒーを一口飲んでホルダーにセットする。パンとお茶はバッグの中に入れておく。

「さて、と。行くか」

 ボクは再び車を走らせて大学へ向かう。

 退屈な教授の講義を聞きながら、なんとなく空虚な感覚を胸に抱える。

 何故ボクはこんなにも虚しいのか、と。そして、それを埋めるにはどうすればいいのか、と。

 それを自分で把握できるのであれば苦労はない。わからないから空虚で、苦しいのだ。

 そんなボクはよく図書室に通う。好きなアーティストが言っていた言葉。

「学校の勉強がイマイチなら本を読みな」と。

 嘘をついて、自分に害を与えるヤツを見分ける事ができるようになる、との事。

 そして今日もボクは先週借りた本を返却しに図書室へと向かうのだった。

「あの、返却なのですけど」

「ああ、カードを読ませてくださいね」

 ここは学生証とレンタルしている本を紐付けしているので学生証を提示して本を返却すればそれで終わりである。

「はい、ありがとうございます。返却確認しました」

 係員さんの言葉を聞いてボクは図書室を後にしようとした。

「ん?」

 視界の端にこちらを見ている女子生徒が映る。そちらを向こうとすると彼女はすぐに目をそらして手元の本へと視線を向けるのであった。

 まぁ気にしていても仕方ないのでこちらも図書室を出る。そして帰宅するべく駐車場に向かう。

「なんか眠いな……。少し体もダルい」

 風邪でも引いてしまったかな、と考えながら車に乗り込み帰り道を走らせる。風邪だったら久々なので熱とかそこそこ出るかもしれない。

3

「やっぱ風邪かぁ……」

 帰宅してすぐに体温計を脇の下に入れて、ピピピと鳴ってから取り出すと、微熱と言うには高すぎる39℃ほどあった。

 ボクは病院があまり好きではないのだけれど、流石にこの熱が出たら行かざるを得ない。ちょっと体がフワフワするので車の運転は控えて徒歩圏内のクリニックに向かう。

「もしかしたらインフルエンザかもしれないので一応検査受けてもらえますか?」

「あ、はい。わかりました」

 インフルエンザの可能性を失念していた。もしインフルエンザだったら更に酷い事になるのだろうか……?

「ふむ、インフルエンザではなさそうですね。とりあえず風邪薬と解熱剤を処方しておきますので風邪薬は毎食後に、解熱剤は熱が出た時に飲んでください」

 とりあえず一安心である。会計と薬を受け取り家に戻り塩おにぎりでも少し食べて薬を飲んで眠る。

 翌朝、寒気がして目が覚める。体温計を脇の下に入れてしばらく待つと昨日と同じ39℃。今日は大学を休もうと思い解熱剤をなんとかスポーツドリンクで飲み込みぐったりと横になる。

「なんだかなぁ……」

 ボクは独り言を呟いて再びベッドに潜り込む。

「こういう時って妙に不安になるんだよね」

 今度は敢えて独り言。少しでも不安を口にして吐き出しておけばメンタルにもいいかななんて思うからだ。

 そこからうだうだと時間を過ごして気が付いたら意識は落ちていた。

 目覚めると外はもう日が傾きかけている。処方薬と睡眠のおかげか多少体調が回復しているような気がする。

 食べられるうちに食事をするためご飯をセットして、マスクしてコンビニへと向かう。

「いらっしゃいませー」

 いつものコンビニだ。ボクはお茶漬けのもとやら簡単に食べられるものをカゴに入れてスポーツドリンクも多めに入れて会計を済ませる。

 帰宅して炊けているご飯にお茶漬けのもとを入れてお湯を入れて混ぜる。少し冷ましてから胃の中に入れる。そしてスポーツドリンクで風邪薬を飲んですぐに横になる。

「お風呂は明日入れるようなら入ろう」

 そんな独り言をこぼしてボクは再び眠りにつく。ちょっとした事でさえ今のボクの体力を削るのは容易いらしく、ボクはそのまま意識を手放す。

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