話 1
(※)実験や機能の確認をしながら書いてますので、御見苦しい点が御座いましたら申し訳ありません。
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「ここってゲームの世界かな?」
そう告げるリュウセイの後ろには真っ二つに割れた月の姿があった。
ここはゲームの世界らしい。
異世界転生ってやつの一種だろう。
だが、夢のような世界に来たはずの俺の心は絶望に沈んでいた。
「……これ、始まりから終わってるじゃねぇか」
なぜなら、この世界は『初回プレイ死亡率4000%』と呼ばれる、クリアーが絶対無理な超絶極悪難易度の理不尽ゲーム。
ムリゲーの世界だったからである。
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俺の名は吉弘 鑑理(よしひろ あきなお)。通称『ナオ』。
大分県の府内高校に通う16歳。剣道部に所属している。
「ナオくん。ここは一体どこだと思う?」
と聞いてきたのは幼なじみの流川斉子。(ながれかわ なりこ)ほっぺたのアザがチャームポイントの新聞部の女子部員だ。
星形に箒のようなアザの形から俺はリュウセイと呼んでいる。
家が隣同士なのでいっしょに通学していると、急に空から光が灯り、気が付いたらこうしてゲームの世界に来てしまったらしい。
「月が真っ二つに割れているから、多分ムーンリカバリーの世界だろ…」
出来る事なら間違って欲しい。
だが巨大な月の周りに、さらに衛星があるパッケージデザインと同じ光景は見間違えようがない。
ベンチャー系のメーカーが出したRPGゲームで「リアルさ」を売りにした本格派RPGと銘打って発売された超絶理不尽ゲームの光景とそっくりだ。
「そうだよね!これ、あのゲーム世界と一緒だよね!ナオくん!あそこに羽の生えたウサギ型のモンスターがいるよ!」
と無駄にはしゃぐリュウセイ。
さて、このムーンリカバリー。「リアルさ」を売りにしているくせに絵柄はアニメ調で、かわいい系の世界だったりする。
では何がリアルかと言われれば『世界設定』だ。
例えば…なのだが異世界の神から勇者として召還される存在がいた場合、魔王は黙ってそれを待っているだろうか?
答えは否である。
部下の中でも精鋭を引き連れて、出現確率が高そうな場所を重点的に警戒するだろう。
不法侵入してくる不審者を何もせず放置するような統治者がいればとっくに滅んでいるだろう。
そんな『魔王視点で見た場合のリアルさ』を追求した結果、スタート地点から最初の町に向かう7歩分の移動途中に『初期レベルでは絶対に勝てない敵とエンカウント(戦闘に入ること)する事による死亡率4000%』という凶悪な数値を叩き出したのである。
開発者はこのゲームを『ムンリバ』なる略称で自作を紹介したが、その『通算10万回は死ぬ』という理不尽すぎる死亡率によって『ム・リ』の略称を手に入れた。
ムリゲー。
どうがんばってもクリアーは無理なゲームの代名詞としてゲーム史の片隅にひっそりと咲いたあだ花。
これは、そんな世界にとばされた俺とリュウセイのチートすぎる抜け道バグ技の物語である。
話 2
何で、たかが7歩離れた町に行くだけなのに死亡率が4000%なのか?
それは、7歩の間に魔王軍から派遣された精鋭部隊と戦闘になって平均40回は殺されるためである。
「あのデビルナイトから逃げ回れるわけがないだろ!呼び出すならもっとマトモな世界に呼び出せや!責任者!」
俺は絶叫した。
ここで出会う敵の名前はデビルナイト。
強そうな名前の敵である。
それもそのはず。こいつはゲーム後半にも登場する敵であり、特殊攻撃は全て無効。2回攻撃に全体攻撃まで持つ凶悪すぎる強さに、ここで出会ってしった瞬間リセットを押すのは確定だ。
そしてやりなおすと、また途中でデビルナイトに出会ってリセット。
運良くこの地方に住んでいるゴブリンと出会えば死なずに住むので、やっと町にたどり着けるという凶悪具合だ。
ムンリバは このゴブリンに運よく遭遇できる確率が2.5%とも言える。
これにより「魔王軍ってさー、何で序盤の町に強力なモンスターを配置しないのかなー」という陰口を完璧に叩き潰す『リアルさ』を実装したと開発者は言っていた。
開発者はリアルじゃないとか言ってた奴らへの仕返しにこのゲームを作ったのだろう。
「ナオ君。ここってムンリバの世界なのかな?」
絶望敵世界にたたき込まれて頭を抱える俺に、リュウセイが目をキラキラ輝かせて聞いてくる。
「たぶんな」
「うわー。異世界だよ!すごいね!」
すごくねぇよ。こんな極悪非道難易度のゲーム世界 絶対に来たくなかったよ。
特に最悪なのが職業だ。
このゲームは戦死…もとい戦士や魔法使いなどの職業があるが俺の職業は『補助魔法使い』である。
よしひろあきなお 職業;『補助魔法使い』
HP;15 MP;25
力;2 体力;2 知恵;7 早さ;6 魔力;6
スキル;補助魔法LV1 攻撃力強化LV1 防御力強化LV1
ごらんの通り、攻撃力は皆無。パーティーの補助役としてサポートに回る職である。
これに対して唯一のパートナーであるリュウセイは
流川斉子 職業 吟遊詩人
HP; 9 MP;15
力;3 体力;4 知恵;5 知識;によてふ 早さ;5 魔力;3
スキル;うたってみた 全ての行動に4%の補助効果
こちらも攻撃力は皆無に近い。(一部ステータスがおかしいが…)
ちなみに、デビルナイトのステータスは以下の通りである。
デビルナイト 属性 悪魔
LV66
HP;666 MP;666
力;666 体力;666 知恵;666 早さ;666 魔力;666
スキル;悪魔の雷(防御無視の全体攻撃) おたけび(相手を行動不能にする)
これが序盤、それも装備すら整えてない勇者パーティが遭遇する敵なのだ。
運営は頭が悪いと言われるのがおわかりいただけるだろうか?
「スタートと同時に終わってんじゃねぇか!!!!」
改めて、現実の酷さに絶叫する。
「ねぇナオ君。せっかくゲームの世界にきたのになんでテストで0点取った時みたいな顔してるの?」
「だって、『あの』ムンリバ世界だぞ。あの凶悪難易度で死んだら終わりのムリゲーだぞ!どんなに上手くやっても死亡エンド確定じゃねぇか!!!」
説明すればするほど絶望的な状況に頭が痛くなってくる。そんな俺にリュウセイは不思議そうな顔で
「えー。このゲーム、それほど難しくはないよー」
などと言った。
………………え?
「ムンリバの最初の町でしょ?ミスなしでいくのはコツがあるんだよ」
大したことでもないかのようにリュウセイが言う。
まじか?
「そんなのムンリバプレイヤーなら基本中の基本だよ」
と大して大きくもない胸をはって答える。そんなニッチな基本あるのか?
「じゃあ、さっそく始めるね」
そういうとリュウセイはその場にしゃがみ、地面を調べだした。
なるほど、これは盲点だった。
スタート地点に何かアイテムでも埋まっていたのだろうか?『ノーヒントで見つけられるわけがないだろ』と突っ込みたいが、命が助かるなら何でもいいや。
「ううん。何もないよ」
ないんかい。
じゃあ、何で地面なんてみてるんだよ。
「乱数を調整してるんだよ」
「乱数?」
なんか聞いたことのある言葉をリュウセイは話す。
それと、この凶悪な荒野の踏破(約7歩)に何の関係が有るのだろうか?
話 3
「これで、よし。じゃあナオ君、行こう」
「え?」
地面を調べていたリュウセイは立ち上がると、俺の手を引いて南へ歩きだした。
おい。町は東だぞ。
「あ、あの7歩分のゾーンは敵の出現率が通常の3倍になっているから通ったらダメだよ」
え?
「ゲームの厳しさを表現するための特殊処置だったんだろうね。あそこだけ平野でしょ?『そんな見つかり易い場所を歩いていたら敵に見つかるのは当然』って感じで通常よりも敵に出会いやすくなってるんだって」
不自然なリアルさを演出してるんじゃねぇよ。
2歩南に歩くと森がある。
「ここで森に入るとモンスターの出現パターンが変わるから、乱数の下一桁が6を越えるように4回『しらべる』コマンドを使って0に変更。東に6マス歩くまで敵とは遭遇しないよ」
よくわからない理論を述べると南アフリカの紛争地帯より危険な森をスタスタと、自分家の庭でも歩くように進むリュウセイ。
「…お、おい」
あわてて後をついていく。
もしも敵に遭遇すれば死亡確定だが、一人で生き延びる自信もない。銃弾飛び交う戦場のど真ん中をハイキングでもするような気分で恐る恐る歩いて行くと
「はい、ここでストップ」
とリュウセイが立ち止まる。
「どうした?」
「えっとね、ここで再び乱数が6を越えるから『しらべる』を4回使えば5マス分移動したのと同じだけ乱数が動くんだよ。そうすれば敵とは遭遇しないから…うん。町まで4マス。大丈夫。これで入れるよ」
そう言うと再び歩き始める。
おい!待てよ。命がけの移動を鼻歌交じりに進むんじゃない!だいたい乱数ってなんだよ!
「何言ってるの。ムンリバプレイヤーなら、乱数調整は知ってて当然の常識だよ?」
そんな特殊技能を常識にするゲームってなんだよ。
「乱数ってのは、ランダムに配置された数字の列で、たとえば今歩いている時は211って数字のくじを引いたと考えればいいのかな?」
ほうほう。
「で、ここで一歩歩くと072ってくじを引いた事になるのね」
ほうほう…はい?
「次は…ええと023、次は044と規則性のない数字のくじを引くの」
どうやら、この数字の下一ケタが6を超えると敵が登場するらしい。
その乱数とやらを地面を『しらべる』ことで1つ進めるらしい。
いや、規則性がないとか言ってるけど、下一桁だけはしっかりと1増えてるよね?無茶苦茶規則性あるよね?
某ボードゲームみたいにサイコロの出目が最初から決まっているレベルで規則性しかないよね?
「うん。普通なら『random』とかの関数を入れてランダムにするんだけど、プログラムの人が敵と会うのが面倒だったから適当に乱数表を作って進めてたらそれがそのまま販売されたそうなの」
なんだその
『ここに文章が入ります』
『ああああああああああああああああ
ああああああああああああああああ
ああああああああああああああああ
ああああああああああああああああ』
みたいなサンプル文章をゲームのパッケージ裏にそのまま印刷して全国販売してしまった事故事例は。
見た感じランダムに見えるから、誰も気がつかなかったんだろう。
「ムンリバのプログラムを解析してた人が見つけたんだけど、隠しメッセージとして『こんなクソゲー売れるわけがないんだよ』とか『徹夜8日目。帰りたい』とか『やろう、ぶっ●してやる』とか書かれてたから、色々大変だったんだと思うよ」
とリュウセイが補足する。
そんな最悪な状態で造られたゲーム世界を攻略しなきゃいけないのか…俺達。
そう思いながら、平野にでる。
すると、遠くで漆黒の鎧をまとった騎士がものすごい速さで迫って来る。
あれに遭遇したら死ぬのだろう。
まあ、だいぶ距離が空いているから大丈夫だろうが。
そう思いながら街に歩いていくと、
「あれ?」
そこには街への入口はなく、冷たい石の壁が延びているだけだった。
ゲームだと街のマップに重なれば簡単に入れる街も、現実っぽい世界なら街をまもる壁や門があるらしい。
………………………………………………余所者は入れないってことじゃねぇか。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
侵入者を見つけたデビルナイトはものすごい速度で迫って来る。
安全なはずの街は門を閉ざし、余所者の侵入を堅く拒んでいる。
「ど、どうする?このままじゃ戦いになっちまうよ!」
遠くからでも見える巨大な剣に巨大な馬。
私服しか着てない俺たちじゃ戦いにすらならないかもしれない。
そんな俺にリュウセイは
「困ったねぇ。どうしようか?」
と、笠が無いのに雨が降って来たような口調で言った。
……命がかかってるかもしれないんだから、もう少し緊迫感を持ってくれよ。
あと5秒くらいで終わるかもしれない人生を振り返りながら、俺はこの のんき者にぼやいた。
これが最後の言葉になるなんていやだ。