話 1
ロスラン大陸では武道の能力が最も重要視されており、 生来の才能が豊かな人物ほど、より多くの尊敬を集めていた。
技術レベルによって人々は天、地、黒、黄と等級分けされ、 更に等級ごとに各自の能力がレベル1からレベル9にランク付けされていた。 中でも天の才能を持つ者は、何百年もの修行を重ね伝説の武道の達人となるという言い伝えがあったのだ。
しかし、ほとんどの人々は黄のレベル1にも届いていなかった。
この話は、ドリアス国のヴァルマーから始まる。
「おい、例の噂聞いたか? チュー氏族の酋長が殺されたらしいぜ! びっくりだろ!」
「ああ! 一瞬耳を疑ったよ! 世界にはまだまだ強いやつがいるもんだな。 なんでも、剣で一撃だったらしいぜ。 信じられるか? 何百人という武道家が目指して修行をしている霊界一の人間が いとも簡単に殺されるなんて」
「犯人は財産と武術に関する貴重な本には手をつけていないらしい。 それをもらうために、残された一族はきっと激しい競争を繰り広げるだろうな」
…
「お願いだ! 殺さないでくれ!」
ダレン・チューは薪小屋の中で 全身に汗をびっしょりとかきながら、 悪夢より目を覚ました。
彼は、ヴァルマーの武道氏族の中でも最上位と言われているチュー氏族の酋長、 ギャビン・チューの七男坊だ。
3日前にギャビン酋長が黒ずくめの覆面をした男に殺されたというニュースが流れると、 伝説の武道家の無念の死に、国民はショックを隠せなかった。
その後すぐにチュー氏族内で遺産争いが勃発し、同一族は混乱状態に陥っていた。
争いの刃はまず、酋長の七男であるダレンに向けられた。 特に秀でた才能も無いダレンは一族の恥だと 全員が同意していたのだ。 チュー氏族ほど大きな一族であれば、立場の弱い人間から始末するのが一番手っ取り早いのを誰も知っているからだ。
なので、ダレンは彼らに何度も相続放棄すると訴えたが、誰ひとりとして彼を解放する事はなかった。
「俺は、まだ生きているのか?」
遺産争いが始まりすぐの頃、6番目の兄が目の前に現れ、何かにつけてダレンに嫌がらせをするようになっていた。 兄にどんなに酷い事をされても彼は怒らなかったのだが、それが更にいじめを助長し、 どんどんダレンは追い詰められていった。
挙句の果てに、武道の才能がないただの親不孝者だとダレンを非難し、 彼を始末する口実まででっち上げる始末だった。
その瞬間、火の玉が空から落ちてきてダレンの頭に直撃した。
それを見た兄は彼の死を確信し、攻撃をやめたが、 ダレンはかろうじて逃げ切っていたのだった。
「ちくしょう!」
ダレンは一連の出来事を思い出し、地面を拳で殴りつけた。
「嘘だろう!」
怒りの渦中、頭に火の玉の衝撃が蘇ってくると、 自分は意識を失い、目の前の世界が闇に包まれたことを思い出した。 「なぜまだ生きているんだ?」 彼は自分が生きていた事が不思議で仕方なかった。
額を撫でると、火の玉に当たった場所がかさぶたになっているのが分かった。 あんな物がぶつかってきたというのに、痛みさえ感じなかったのが驚きだ。
「なんだこれは! 痛くもかゆくもないじゃないか! あの火の玉は一体何だったんだ?」
ダレンが頭を悩ませていると、ドアの外で犬の鳴き声が聞こえ、 次には、人の話し声がしてきた。
「ねえ、ベルさん。 やっぱり、あなたは 亡骸を守るため、ここにいらっしゃるのですね」
「あいつとあなたとの間にはさぞかしたくさんの思い出があるだろうから、離れがたいのは分かる。 だがしかし、エヴァン様が 全財産を引き渡すようにおっしゃっているのだから、 さっさと渡せ。 さもないと、大切な兄貴の体が腹をすかした犬の 餌になっちまうぞ。 早くしろ! やつの身体をバラバラにされたくなかったらな!」
わずか13歳のベル・チューは、狂暴そうな犬を見て青ざめた。 彼女は兄の遺体が安置されている薪小屋の外に立たされていたのだが、 この犬達が凶暴な犬種を改良して生まれたものだと知っており、思わず身震いした。 ダレンの死はベルにとってとてもつらいものであり、 彼女は今、その遺体さえ失いそうになっているのだ。
「私の兄は死んだのです! なぜ 放っておいてくれないのですか?」 ベルは絶望を感じ、 彼女の頬を涙がつたい始めた。 チュー氏族内の権力争いが激しくなる中で、 ダレンの死が彼女の孤独感に拍車をかけていた。 「お願い! お願いです! 兄を放っておいてください! 私達に構うだけ無駄です! 私は嘘など言いません、 信じてください」とベルはすすり泣いた。
ベルにとって、ダレンはたった一人の家族であった。 彼らの母親はベルを出産してすぐに亡くなり、 それ以来、ダレンとベルはチュー氏族からのけ者扱いをされていた。
しかし、彼らはどんなにつらい目に遭っても、父親にその事実を伝えようとはしなかった。もし助けを求めるなどすれば、他の兄弟からより酷くいじめられるのが目に見えていたからだ。
他の兄弟達はそれぞれ母方の家系の権力や宗派を利用し、チュー氏族の中でも強い影響力を持っていたのだが、 ダレンにはそのようなものは一切無かった。
「クソ野郎!」 外の様子を伺っていたダレンは、会話を聞いてそのあまりの酷さに激怒し、叫ばずにはいられなかった。
ギャビンの六男であるエヴァン・チューは、ダレンの異母兄弟だった。 エヴァンの母親は、ヴァルマーの地に住むユエ一族の娘であり、 家柄的に地位が高いわけではないが、ダレンの母方の家系よりは良いとされていた。
この場合、彼が他の兄弟達を敵に回す事は権力争いの上でも不利になるのは間違いなく、 だからこそエヴァンはダレンを標的にしていたのだった。 相続人が少なければ少ないほど、エヴァンはより多くの財産を得る事が出来るのだ。
ダレンは、エヴァンが見張りとして残した2人の男を今すぐにでも殺してやろうと思ったが、思いとどまった。 手下など殺したとしても事態は何一つ変わらないと分かったからだ。 なぜなら、真の敵はエヴァン一派であり、さらには他の異母兄弟達でもあるかもしれないからだ。 今は軽率に行動をとってはいけない。
「ベルさん、もう覚悟は出来たか? まさかエヴァン様の命令に逆らうつもりじゃないだろうな?」 ベルに向かって1人の男が声を荒げて言った。
「私達は財産などもらっていません! 本当なのよ!」 ベルは涙を流しながらそう訴えた。
「ふん! お前らにも相続権があるんだから、そんな事あるわけないだろう。 さあ 今だ、かかれ!」
犬達はベルに吠えて威嚇すると、薪小屋に物凄い勢いで入って行った。
「やめて! あなた達最低よ! やめてってば!」 ベルはあまりの恐ろしさに顔を手で覆い、叫び続けた。 兄の遺体を守るために薪小屋へ行き戦う意志もあったが、エヴァンの手下達がそれを阻んでおり、 自らの無力さに彼女は思わず地面に倒れこむと、更に泣き続けた。
一方、緑色に光る目が獲物を探していた犬達は、 薪小屋の中にいるダレンに気が付くと、唾液を口からダラダラと流し始め、酷い臭いが小屋全体に充満していた。 彼らは戦闘の為だけに生み出された、獰猛な獣なのだ。
「ハッ ハッ ハッ!」
すると、犬達はダレンに一気に襲い掛かった。
しかし、一部始終を聞いていた彼は 攻撃のかまえで、最初に襲い掛かって来た犬に拳で激しい一撃を食らわせた。
「バキッ!」
なんとその一撃で、犬の頭は大破した。 いくら彼は才能に乏しいと言われていても、ダレンは3歳から武道の修行を積んでいるため、 飛び掛かって来る犬を殺すなど造作も無い事であった。
渾身の一撃が招いた光景は、あまりの悲惨さに他の犬達が後ずさりするほどだった。
「待て! なんだあれは? 黄色い光の玉がこっちに向かってくるぞ!」
光の飛んで来るスピードはとても速く、ダレンはかわす事が出来なかった。 すると瞬く間に光が彼の頭に飛び込んでいった。
ダレンはそれで怪我をしたかと思ったが、 そうではなくむしろすっきりした気分だった。 そして彼は残りの犬達の方へ向かって行った。
「バキ! バキ! バキ!」
ダレンの動きは信じられないほど素早く、犬達に命乞いの時間さえ与えなかった。
先ほどと同じく、犬達が死ぬと現れる黄色い光の玉がダレンの頭に飛び込んでいった。
これは彼にとって未だかつてない経験だったが、 光の玉が入った後、まるで目の前の世界が光り輝いて見えるようだった。 視力、聴力、知覚など、五感もとても敏感になっている事も手に取るように分かる。
「そういえば、前、何かで読んだ事があるぞ。 これは黄の能力と似ていないか? つまり俺は昇級したのか?」
ダレンは思わぬ出来事に嬉しさを隠せず、 これは火の玉のおかげだと喜んだ。
「確か、この世界に生きとし生けるものは皆、武道の才能を持っていると書いてあった。 あの火の玉によって他の生物の技を同化する能力を俺は習得したのか?」
そう自問自答しながらも、犬達の死後、黄色い光の玉は確かに頭に入り込んできたため、ダレンにはこの理論は正しいという確信があった。 つまり、今の彼は同化スキルを身につけた。
なんて凄い技なんだ! 常に向上心を持って修行をすれば、武道の才能は無限に習得が可能だったのだ。 このままいけば、自分の才能レベルが最高位の天に達する日が来るかもしれない。
そして、もし同化スキルで天の位を超えたら、どうなるのだろうとダレンが考えていた。
これは正に、天から授かったかけがえのない才能だと悟ると、 彼の目は涙に濡れた。
「今まで俺の事を馬鹿にしていた奴らめ、これを知ったら後悔するぞ。 エヴァン、次はお前の番だ!」
一方、薪小屋の外では。
「おい! ジム! いくらなんでも静かすぎないか? あいつらはもう食い終わっちまったのかな? はは!」
「ありえるな。 まったく、笑えるぜ!」 すると、ジムはもう1人の部下に向かって言った。「テッド、ベルを見てみろ! 可愛い娘だろう! スタイルも良くて 最高だ! ちょっとどんな感じなのか興味ないか?」
「ジム! 馬鹿な事を言うなよ。 曲がりなりにも酋長の娘じゃないか。 それに、 エヴァン様からそのような命令は受けていないんだ。 大人しくしていた方がいい」
「臆病な奴だな! やってみたいかって聞いてるんだよ。 ベル様には兄の死を受け入れられず自殺したとか何とでも言い訳が立つだろう。 考えてもみろよ! 俺達があれだけの美人を好きなように出来るなんて滅多にない事だぞ」
2人の男の会話を耳にしてベルは泣き崩れてしまい、 目の前が真っ暗になりそうだった。
「それもそうだな。 たとえ長老達が犯人捜しをしても、 全ての責任はエヴァン様にある。 はは! 可愛い俺のベル、 今行くからな!」 そう言いながら、テッドはベルをいやらしい目つきで見つめた。
「嫌よ! 離れて!」 ついにベルは男達に追い詰められ、あまりの恐怖に身体が震え始め、 もう駄目だと思った。
話 2
バン!
突然、小屋のドアが壊れ、大きな音が聞こえた。
二人の男は少し心配そうに視線を交わし、誰がいるのか調べようとドアがあった場所に向かうと、 そこにはダレンがいた。 二人の心配そうな表情は、即座に驚きの表情に変わった。
「お前か!」 テッドは叫んだ。
「なんてことだ! お前はまだ生きていたのか?」
ダレンは激しい怒りに震えながら二人を睨みつけた。 ベルはこの世界で唯一の自分の家族なので、 彼女のためなら何でもするし、 彼女の安全のためなら自分の人生を犠牲にさえする。 「お前らが俺の妹にしたことを後悔させてやる!」 と彼は怒鳴った。
二人の男は目の前の光景に驚いていた。 ダレンはとても疲れているように見えたが、 それでも紛れもなく生きてそこにいた。
「ダレン?」 部屋の隅から泣きながらダレンを呼ぶ声がした。 ベルは最初自分が見ているものを信じられずその場で固まっていたが、 数秒後、それが現実で、ダレンが本当に生きているのだと気付いた。 心の底から湧き上がる喜びで、ベルはダレンに走り寄ると彼の腕の中に飛び込んだ。
「生きていたのね。 よかった… よかった」 ベルはその言葉を繰り返してつぶやき続けた。そうしなければ、目の前の現実が突然夢のように消えてしまうのではないかと恐れた。 「よかった」 「大丈夫だ、ベル。 泣かないで」ダレンは彼女を安心させようと声をかけた。 「俺はここにいる、大丈夫だ」
ダレンはそれから彼女を傷つけた二人の男を見た。 「お前らに2つの選択肢を与えてやろう。 今すぐ自分で命を絶つか、それとも俺がお前らの命を絶つのを手伝ってやろうか?」彼は鋭い目で二人を睨みつけながら提案した。
ジムはその言葉を聞いて怒鳴った。 「はっ! それは笑えるな! お前はまだ生きているが、それがどうした? 酋長は死んだんだ。 チュー氏族にはお前を守る人間はいない!」 彼は当然のことのように言った。 「テッド、この負け犬を捕まえろ。 最愛の妹をこいつの目の前でいたぶってやろうぜ。 ハハ!」
ジムにはダレンがまだ生きていたことなどどうでもよかった。 その少年がまだプライマリーレルムの最初の段階だと知っていたし、 彼が自分たちと同じ段階だったが、自分たちは二人で有利な立場に立っていると思ったので、 ダレンを殺すことは簡単なことだと思った。
「お前らは最悪だな!」 ダレンは叫んだ。 彼の心臓の鼓動は高鳴り、怒りが心に満ちていった。
すると、風を切る音がした。
ダレンは空中に飛び上がり、ほんの一瞬でジムのそばに移動した。
バン! ダレンは拳を振りかざした。
次の瞬間にはジムの頭が爆発していて、 黄色い光の球がダレンの頭に吸い込まれた。
彼の隣に立っていたテッドはまだ悪魔のような笑顔を張り付かせたまま凍り付いて言葉を失った。強いショックを受けて、今目の前で起こったことを理解できなかったのだ。
しばらくして、彼の体は反応し、驚きで口を大きく開けた。
「お、お前! お前は最初の段階を突破したのか! プライマリーレルムの第2段階に到達した! なんでそんなことができるんだ?」 彼は信じられないというように叫んだ。
通常レベルの負け犬が、今やプライマリーレルムの第2段階に到達したなんて、一体なぜそんなことが可能なんだ? テッドは考えられるすべての理由を探し続けたが、何も思いつかなかった。 だが、ダレンが死ぬ前はプライマリーレルムの最初の段階だったことははっきりと覚えていた。
「ダレン さん! 申し訳ない! お願いだから許してくれ!」 テッドは嘆願した。 「これは...これはエヴァンさんの 命令なんだ! 俺は彼の命令に従うしかないんだ!」 自分とダレンの段階の差を見て、 彼はジムのようになりたくないと思ったのだ。 やはり、彼はそれほど愚かではなかったので、 身の安全が最優先だと考えた。
「エヴァンの命令なのか?」 ダレンは許しを乞うているテッドに尋ねた。 「あいつがお前に妹をいたぶるように命じたのか?」 彼はさらに、自分の怒りがさらに強まっていると言った。
それを聞いて、テッドは言葉を失い、額から汗が流れた。
「ああ、それは... 俺は...」テッドはまだ言い訳を探していたが、警告もなく...
バン!
次の言葉を口にする前に、拳の一撃で彼は命を失った。
ダレンは、あの二人のように憎むべき相手を簡単に許したりはしなかった。 もし自分が実際に死んだら、妹に何が起こったのかすら想像できなかったからだ。
そして、ダレンは振り返って妹を見た。 「ベル、大丈夫か?」 彼が心配と安心の混ざった表情で尋ねると、 ベルは唖然とした表情で兄を見つめた。 彼女は残酷な場面をあまり見たことがなかったのだ。
それに、兄の行動に驚いた。 誰かが人を殺すところを見るのは恐ろしいことで、それが自分の兄ならなおさらだった。 「わ、私は...う、うん! 私は大丈夫よ!」 ベルはようやくそう言った。 「とにかく、最も重要なことは、兄さんがまだ奇跡的に生きていたってことよ! そして、兄さんはとても強くなったわ!」 ベルはダレンに飛びついてハグをした。 「すごく嬉しいわ!」 彼女は言った。
ベルは、通常レベルの修行者であるダレンが領域を突破することがどれだけ困難なのかを理解していた。
領域は、プライマリーレルム、スピリットレルム、ミステリアスレルム、ワンダーレルムなどがあり、 あらゆる領域の人々が第1段階から第9段階までランク付けされていた。 才能が高ければ高いほど、その修行者はより早く段階を突破した。 もちろん、領域の飛躍的進歩には、その人にどれほど天性の才能があったとしても、努力と知恵が必要だった。
伝説によると、ワンダーレルムの上にはグランドレルムとホーリーレルムがいたらしいが、 そんな上級な領域に達する人はほとんど神話や伝説の中の存在だった。 そして、そのうちの1人に会う機会を得られたのは、ほんの数人に過ぎなかった。
ダレンは天性の才能を持った人ではなかったが、誰よりも勤勉で、 いつも一生懸命に努力し、すべてを捧げてきた。
さらに、彼の武道の才能は、通常レベルの最上位で、 犬を殺してその才能を吸収した後、彼は黄のレベル1に達した。
そして、武道のスキルの最近の進化は、おそらく彼のより高い才能によってもたらされたもので、 そのため、領域を突破することができたのだ。
ダレンは、二人の男の才能を吸収した後、自分の武道の才能が大幅に上がったことを感じ、 おそらく黄のレベル2に到達したのだと推測した。 そのことに喜びを感じたが、妹にはその才能の向上について話さないことに決めた。
チュー氏族はヴァルマーの最高の氏族であり、一族の中には才能のある修行者が多くいた。 ギャビンの7人の息子のうち4人は黄のレベル6であり、4人全員がレベルアップのために有名な宗派に加わっていて、 そして、チュー氏族の超天才として称賛されたニコラス・チューは、黄のレベル7だった。 彼らは全員、ダレンの能力や領域を完全に超えていた。
「エヴァンは黄のレベル3にいる。 何年にもわたる養成によって、奴はプライマリーレルムの第4段階に入った。 さらに、エヴァン以外に、おそらくチュー氏族の黄のレベル6か7の他の修行者たちがいる。 その修行者たちのレベルは俺のものを遥かに超えている。 そいつらを倒せるように、もっと頑張らないといけない」
「兄さん、独り言で何を言っているの?」 ベルは尋ねた。 兄が独り言を言っているのを見て、受けた怪我のせいで何か兄に影響があったのではないかと思い、 心配でベルの目に涙が浮かんだ。
「いや、何でもない! ベル、お前は家に帰れ。 俺はまず最初に長老内閣に行かないといけないんだ」
「兄さん、あそこはもう私たちの家じゃないわ」とベルは言って、涙を流した。 家に帰るという言葉に、 ベルは恐怖を感じた。 「兄さん、ここから離れましょう。 安全のために知らない村に逃げましょう。 あそこには帰りたくないわ!」 ベルは叫んだ。 「それとも、兄弟たちが兄さんを殺して、私をチュー氏族から追放したいと思っていることを忘れたの?」
「いいや! 聞いてくれ、ベル。 エヴァンは残酷な男だ! 俺たちがどこに逃げても、奴は俺たちを決して放っておかないだろう。 だが、俺には計画があるんだ。 ベル、俺を信じてくれ! 俺は生き残り、お前を守る」 ダレンは握りしめた拳を通して、彼らを決して許さないことを静かに誓った。 俺は必ず、奴らが長年俺達にしてきたことを後悔させてやる。
ダレンがチュー氏族に居続けたいと思った理由は2つあった。 第一に、彼は現在黄のレベル2なので、長老内閣の保証された保護を受ける資格を持っていた。 そのため、エヴァンは少なくとも彼とベルには手を出すことを止めるだろう。
2番目の理由はより重要な理由だった。 彼は、イルメン宗派で弟子になるという希少な機会を得ることを望んでいた。 イルメン宗派は、ドリアスの他のすべての宗派を上回るトップの宗派で、 10年毎に新しい弟子を募集していて、彼が弟子の一人である限り、強力な支援を得られ、 そしてその支援があれば、彼は復讐することができると思った。
しかし、テストは簡単に合格できるようなものではなく、 不可能に近かった。 超天才だけが合格できるといえるが、 チュー氏族の一番の天才と見なされていた、黄のレベル7のニコラス・チューでさえ、宗派へ参加したいなら、精一杯の努力をしないといけないのだ。
ニコラスが宗派に加わることに運がなかったのなら、黄のレベル2に過ぎなかったダレンにとってはどうだろうか。 そのため、テストの準備をするためにあと2か月しか残っておらず、彼はプレッシャーを感じ始めていた。
「才能だ! 俺は自分の才能をできるだけ早く向上させないといけない。 高ければ高いほど良い!」 ダレンは口を滑らせた。
話 3
ダレンが長老内閣に向かっているのを見て、チュー氏族の外弟子たちは、 彼がまだ生きていたという事実に驚き、ささやきあった。 彼らはエヴァンがダレンを殺したのだと聞いていたので、 彼がどうしてまだ生きているのか理解できなかったのだ。
しかし、ダレンは彼らを無視した。
一方、ダレンはベルが家に帰るように手配していたので、 彼女の身の安全については心配していなかった。 一族の規則によると、女性には相続の権利がなく、 チュー氏族のメンバーにとってはベルは脅威ではなかったので、彼らは誰も彼女を標的とは見なさなかったのを知ったからだ。
しばらくして、ダレンは長老内閣に到着した。
長老内閣は、チュー氏族にとって特別な場所で、 酋長以外の人間は、許可なく立ち入ることはできなかった。
長老内閣の長老たちは皆、スピリットレルムの修行者だと言われていて、 主要な家族に何かあったときしか、彼らは内閣から出なかった。
しかし今回、長老たちは酋長が死んだという知らせを聞いても、 奇妙なことに何の行動も起こさなかった。
ダレンは無地の門をノックして叫んだ。「チュー氏族の9代目のメンバーであるダレン・チューが、長老たちに会う許可を求めている!」
チュー氏族のような偉大な氏族には厳格な規則があり、その規則はときにも残酷だった。
たとえば、長老内閣はなぜ酋長の息子のダレンが誰かの餌食になったという事実を無視したのだろうか。
それは武道の才能が黄のレベルよりも低いメンバーが、一族として認められることは決してなく、 さらにそのような人間は、16歳になるとすぐにチュー氏族から追放されるからだった。
ダレンは今15歳だったので、 武道の才能が低いにもかかわらず、相続の権利を持っていた。 それがエヴァンが彼を攻撃した理由だった。
門はきしみながら開いた。
灰色の服をまとった弟子が出てきて、 ダレンを見て眉をひそめると、「なぜここにいるんだ?」と尋ねた。
「ベルと俺の保護を長老内閣に要請するために来た」 ダレンは目的を率直に伝えた。
「お前にはその資格はない。 黄のレベルより劣っているから、お前はチュー氏族のメンバーとは見なされない」と弟子は軽蔑した表情でダレンに答えた。 その弟子は長老たちに仕えながら長老内閣に何年も住んでいて、 外出する機会はほとんどなかったが、ダレンについては武道の才能は平凡だと聞いていた。
「だが、お前にはそれを決める資格はない。 お前はただの使用人だ。 長老の代わりにお前が決定権を持っているのか? 長老たちですら、チュー氏族の規則に背いたりはしないぞ。 お前のような使用人が規則を変えられると思ったのか?」 ダレンは激しく反論した。
「お前!」 弟子は才能のない武道家が自信に満ちているのを見て、 怒りで顔を歪ませた。 「それじゃ、 ここで待っているさ!」
しばらくすると、中から声が聞こえてきた。
「元いた場所に戻れ。 黄のレベルより劣るお前など、生きようが死のうがチュー氏族には関係ない」
話した人間の姿は見えなかったが、その声は雷のような轟音だった。 長老の領域の強さに、ダレンは驚いた。
すぐに彼は敬意を表してお辞儀をした。「長老、俺は黄のレベルに達しました。 チュー氏族の人々は俺を食い物にしています。 酋長の息子として、長老たちの保護を要請します」
「ん?」 一瞬で門の前に虚弱そうな体格の長老が現れ、 ダレンを疑わしい目つきで見た。
近親者全員の才能は長老内閣に記録されていて、 長老たちは、ダレンが通常レベルの修行者にすぎないことを知っていた。 なぜ彼は黄のレベルに達したなどと言うのだろうか? 彼の武道の才能が変わったなどという話は、おとぎ話のように非現実的だったので、 長老はダレンが嘘をついているのだと思った。
「おい! お前! 長老たちに嘘をつくと厳しい罰が待っていることを知らないのか? 皆、お前が通常レベルの負け犬だと知っているぞ。 そして今、お前は長老たちを騙そうとしている」長老の側に立っていた弟子がダレンを鋭く叱責し、 彼が不誠実であると非難した。 その弟子は、ダレンが長老内閣の保護を求めるために嘘をついたが、内心では怯えているのだと思った。
「おい、若様に対してそんな不遜な態度をとっていたら、お前は死ぬぞ」 ダレンは弟子を鋭く睨みつけながら反論した。
「ははは! お前は死にゆく負け犬だ。 若様? お前は犬とすら比べものにならない。 ふん!」 弟子は再びダレンを軽蔑して言った。 この世界では、生い立ちではなく才能だけが重要なのだ。 こいつのような負け犬には価値がない。
「黙れ!」 長老は弟子の罵倒を聞いていることに耐えられず、彼を非難し、 弟子は恐怖に震え、口をつぐんだ。
「坊主! 俺たちはチュー氏族の長老だが、何もしたいことなどできない。 もちろん、俺たちは一族がお互いを食い物にするところなど見たくはない。 だがこれがこの世界の仕組みだ。 これが弱肉強食だ。 お前は酋長の息子だから、3日間の保護を与えよう。 その3日間に、行ける限り遠くまで逃げられるぞ。 もう行け、坊主」 それから長老は立ち去ろうとした。 彼はダレンに3日間の保護を与えることで規則を破っていた。
「長老! 俺は本当のことを言っています。 俺は黄のレベルに達しました。 俺の武道の才能をチェックするのがあなたの義務でしょう?」とダレンは再び嘆願した。
「お前!」 どうやら、その言葉は長老の忍耐の限界を超えていた。 彼はダレンに向かって叫んだ。「俺はチャンスを与えたが、お前は自分でそれを捨てたんだ。 後で嘘をついていることが分かったら、お前は3日間はともかく、6時間さえ生きられないだろう」
ダレンは長老が嘘を言っているわけではないと分かっていた。 自分が保護されなかった場合、エヴァンはすぐに攻撃を再開するだろう。
長老は話し終えると、ダレンの前で空中に浮き、 彼の頭の上に手を伸ばした。
弟子はただにやりと笑って何も言わなかった。 「あいつはこれでおしまいだ」と彼は思った。
しかし、長老はしばらく何も言わず、 黙ったまま表情を急激に変化させた。 彼は眉をひそめ、 ショックを受けた表情で目を見開いた。
「お前は黄のレベル2だ!」
ダレンを見つめていた長老は、驚いて言葉を失った。 彼はダレンがすでに黄のレベル2だという事実を 信じることができなかった。 以前の記録が間違っていたのか? 彼はそう疑問に思った。 生まれ持った才能か珍しい秘薬だけが武道家の才能を向上させることができたが、そのどちらも、手に入れることは困難だった。
すると、「長老、俺と妹を守ってください」とダレンは落ち着いた態度で頼んだ。
長老内閣の保護はその人の肉親をカバーするので、 ダレンが彼らの保護を受ける場合、そこには妹も含まれることになる。
長老はまだ多くの疑いを持っていたが、規則のせいでダレンの要求を拒否できなかった。 「分かった。 チュー氏族の長老であるこのアブナー・チューは、お前を守る義務を果たそう。 だが、保護は2か月で失効する。 2か月後、お前の人生は運命に委ねられる。 理由は聞くな。 もう行け」
アブナー長老は、さまざまな感情が混ざり合った表情を浮かべると、向きを変え、門の向こうに姿を消した。
しかし弟子は、ダレンが黄のレベル2にいると聞き、 さらに彼が長老の保護を求めることに成功したのを見て唖然とした。 畜生! 今回はしくじった! まずは逃げた方がよさそうだ。
それから弟子は向きを変えて門の向こうに去っていった。
ダレンには長老内閣に入る権利がなかったし、 将来あの弟子を懲らしめてやる機会があることを知っていたので、 門には入らなかった。
「2ヶ月?」
ダレンは長老にその理由を尋ねたかったが、好奇心を抑えた。 最近起こったことはすべて奇妙に思えた。 長老内閣は父の死の報復のために何もしなかったが、 それには何か特別な理由があるはずだった。
「2か月後、イルメン宗派は氏族からの募集を開始する。 俺がテストに合格すると、チュー氏族の誰も俺を食い物にしようとしなくなるだろう。 王室のメンバーでさえ、イルメン派には敬意を表さなければならない」
ダレンは計画を立てていたが、テストに合格できるかどうか、あまり自信がなかった。 イルメン宗派は超天才を望んでいたが、 彼はまだ黄のレベル2でしかなかった。 テストに合格するためには、ニコラス・チューのように黄のレベル7に到達することでのみ、その機会を得られた。
長老内閣の密室にて。
「どうしたんだ、アブナー?」 白い髪の長老は目を閉じたまま尋ねた。
「これはとても奇妙なことなんです。 なぜこんなことが起こったのか分かりません。 通常レベルの修行者が黄のレベル2にアップグレードしたんです」とアブナー・チューは言った。 彼の話を聞いて、他の2人の長老たちは同時に目を開け、 疑いの表情を浮かべた。
「何だって? それは本当か?」 長老の頭もそれを信じることができなかった。
「はい! 本当です。 俺はそれを確かめました」とアブナー・チューは謹んで言った。
「気にすることはない! たまたま彼は珍しい秘薬を手に入れたのだろう。 それで才能が向上したのだろうが、彼はまだ黄のレベル2にすぎない。 この先これ以上才能が上がることはないだろう。 これは重要な時期だ。 あの日、二人もあの黒衣の男のオーラを感じただろう? お前たちはあの力を覚えていると思うが、 あの日俺たちも標的だったとしたら、皆、奴の最初の攻撃で死んでいただろう」
「あの男はミステリアスレルムの強力な修行者だと思います」
「ああ、俺もお前と同意見だ。 酋長はスピリットレルムの第9段階だったが、一撃で首を刎ねられた。 黒衣の男はミステリアスレルムの修行者かもしれない。 そんな強力な存在には滅多に会えないぞ。 王室のメンバーの中でもかなり少ない。 黒衣の男はおそらく他の宗派のどこかから来たのだろう。 俺たちにとって最良の選択肢は、この重要な時期を待つことだ。 そして、若い世代のメンバーの一人が2か月後の試験に合格し、イルメン宗派の弟子になれば、もう少し援助が得られるだろう」
「はい、長老様! ニコラス、ブレイク、レオに、できる限り多くのリソースを提供する必要があります。 そのうちの1人がテストに合格すれば、俺たちは大きな安心を得られるでしょう」
「よろしい! そんな小さな問題は忘れて、俺たちの領域に集中しよう。 この3人の天才だけが俺たちの注目に値する。 彼らはチュー氏族の未来だ」
それから3人の長老たちは瞑想を始めた。