2

翌朝、佳耶は自分自身を消し始めた。

雅臣に仕えた女だけではない。

樹の記憶に縛られていた女も。

過去の亡霊に汚されていない、きれいな断絶、新しい人生が必要だった。

彼女はまず、写真から始めた。

それは、ナイトスタンドの引き出しにしまわれた、樹の小さな額入りの写真だった。

彼の笑顔は温かく、その瞳はとっくに消えてしまった光に満ちていた。

この五年、この写真が彼女の錨だった。

耐え忍ぶ理由だった。

彼女の手は、それを手に取ると震えた。

彼の顔を見つめ、一つ一つのしわ、細部まで記憶に刻み込む。

そして、写真を額から滑り出させた。

破り捨てるのは、情熱や怒りの行為だっただろう。

彼女が感じていたのは、下された決断の、冷たく静かな落ち着きだった。

彼女はライターを取り出した。

炎が写真の角を捉えた。

それは丸まり、茶色く、そして黒く変わっていった。

樹の笑顔が歪み、そして灰の中に消えていった。

彼女は灰を、小さな空の宝石箱に落とした。

樹が彼女にくれた箱。

蓋を閉めると、静かな部屋にカチリという小さな音が響いた。

埋葬だった。

次に、彼女はクローゼットへ向かった。

そこは、雅臣が認めた服で満たされていた。

シンプルで、暗い色の、プロフェッショナルな服装。

有能な秘書、茅野佳耶の制服。

彼女はそれらをすべて取り出し、きれいに畳んで段ボール箱に入れた。

寄付するつもりだった。

もはや存在しない人間に属するものだったから。

彼女のスマホが震えた。

詩織からのメッセージ。

写真だった。

詩織の指にはめられた、見事なダイヤモンドの指輪のクローズアップ。

彼女の手は雅臣の手と絡み合っていた。

キャプションにはこう書かれていた。

「彼って最高のセンスしてるでしょ?私たちの未来が待ちきれないわ」

佳耶は画面を見つめた。その顔は無表情だった。

これで傷つくはずの彼女の一部は、もう死んでいた。

彼女は返信せずにメッセージを削除した。

その日の午後、雅臣が彼女を呼び出した。

彼は自宅のジムで、重いサンドバッグを打ちながら、額に汗を光らせていた。

彼女が入ってきても、彼は止めなかった。

「パーティーでお前が選んだケータリング業者、詩織が気に入らないそうだ」

彼は息を切らしながら言った。

「メニューがつまらないんだと」

「そうですか」

佳耶は言った。

「『レトワール』の料理がいいそうだ。手配しろ」

『レトワール』は、都内で最も格式の高いレストランだった。

そして、樹が彼女を初めての記念日に連れて行ってくれた場所でもあった。

雅臣はそれを知っていた。

彼もそこにいたのだから。

兄のデートに付き合わされた、不機嫌な十代の少年として。

その記憶が、部屋の中の亡霊となった。

笑いながら、彼女にグラスを掲げる樹。

*俺たちに乾杯*。

今、雅臣はその記憶を、彼の婚約パーティーの皿の上に盛り付けようとしていた。

それは、最後の、意図的な抹消行為だった。

彼女の過去でさえ、彼女自身のものではないという宣言。

それは彼に属し、彼の都合で再利用されたり、捨てられたりするものなのだ。

彼はパンチをやめ、タオルで顔を拭いながら彼女の方を向いた。

彼は彼女の顔に浮かんだ痛みのちらつきを見て、奇妙な、歓迎されざる罪悪感が彼の腹の底でねじれた。

彼はそれが理解できなかった。

それを押し殺し、飼っていた犬でさえ、しばらくすれば何かしらの感情が湧くものだ、と自分に言い聞かせた。

彼は水のボトルを手に取り、蓋をひねって開け、深く飲んだ。

そして、それを彼女に差し出した。

「ほら」

彼の声は平坦だった。

「顔色が悪いぞ。飲め」

それは彼がいつも飲んでいるのと同じブランドの水だった。

かつて彼が激怒して彼女の頭に投げつけ、一週間化粧で隠さなければならないほどの痣を残したのと同じブランド。

彼女はボトルを受け取った。

指が冷たいプラスチックを握りしめる。

彼女は彼の視線を受け止めた。彼女自身の瞳は空っぽだった。

彼の顔に欲望のちらつきがよぎり、すぐに軽蔑の笑みで覆い隠された。

彼はそれを感じたことが嫌だった。この女、彼の部下が、彼に影響を与えることができることが嫌だった。

それは彼が許容できない弱さだった。

「勘違いするなよ」

彼は軽蔑を込めた声で、だるそうに言った。

「俺が酔ってた時にお前がベッドに這い込んできたあの夜のこと、覚えてるからな。少し親切にしたからって、二度目があると思うなよ。恥知らずめ」

彼女はキャップを外し、飲んだ。

水は冷たく、無味だった。

それは彼女の喉を滑り落ち、空虚な洗礼のようだった。

彼を訂正しようとは思わなかった。

あの夜、酔って彼女の部屋に迷い込み、暗闇の中で彼女を誰かと間違え、無理やり体を重ねてきたのは彼の方だったと、思い出させることもしなかった。

彼女は凍りついていた。兄への約束と、彼の行動の衝撃との間で板挟みになり、暗闇の中の彼の顔が樹にとてもよく似ていた。

朝、彼は謝罪しなかった。

彼は激怒し、彼女を恥知らずな女だと非難した。

一度説明しようとしたが、彼は信じなかった。

今、彼の偽りの記憶は、彼女が喜んで断ち切るもう一つの鎖に過ぎなかった。

それは、彼女が必要としていた最後の確認だった。

救うべきものは何も残っていなかった。

しがみつくべきものも、何も。

3

婚約パーティーまでの数週間は、ゆっくりとした、身を削るような拷問だった。

佳耶は自動人形のように日々を過ごした。

すべての仕事、すべての電話が、彼女自身の灰の上に築かれつつある人生を思い出させた。

彼女は業者や花屋、音楽家と絶えず連絡を取り合い、雅臣と詩織の祝宴の詳細について、穏やかでプロフェッショナルな単調な声で話し合った。

一つ一つの会話が、小さく鋭い切り傷のようだった。

詩織はそれを確実なものにした。

彼女は一日に何度も佳耶に電話をかけ、その声はシロップのように甘い毒だった。

「佳耶さん、あなた。考えてみたんだけど、芍薬が欲しいの。芍薬だけ。あの、絶妙なブラッシュピンクの色のやつ」

「花屋さんによると、季節外れで入手が難しいとのことです」

「あら、じゃあ何とかしてちょうだい。雅臣はあなたに問題を解決するためにお金を払ってるのよ。問題が存在すると報告するためじゃないわ」

雅臣が近くにいるとき、電話はいつもスピーカーフォンだった。

佳耶は背景にある彼の無言の承認を聞き取ることができた。

公の場での見せつけは、さらにひどかった。

ある晩、雅臣は取引先を招いて夕食会を開いた。

詩織は彼の隣で、新しいダイヤモンドのネックレスを輝かせていた。

「雅臣様は本当に私に良くしてくださるの」

彼女はテーブルに向かって宣言し、所有欲を示すように彼に腕を絡ませた。

「私が何を好きか、私が気づく前に分かってくださるのよ」

彼女は、壁際に立ってワイングラスを補充したり、メモを取ったりする準備をしていた佳耶をまっすぐに見た。

「そうでしょ、佳耶さん?あなたは長いこと彼のそばにいたんだから。彼がどれだけ私を溺愛しているか、知っているはずよね」

それは所有権の宣言だった。

部屋にいる全員に、特に佳耶に、彼女の居場所を思い出させるための。

彼女は備品。

詩織は女王。

後で、佳耶がコーヒーを出していると、長年家族と付き合いのある客の一人が彼女に話しかけた。

「君はまだここにいるんだね、佳耶さん。雅臣は君のような忠実な人がいて幸運だ」

彼女が返事をする前に、詩織が笑った。

神経に障る、軽やかで鈴のような音。

「あら、彼女は忠実以上よ。献身的だわ」

詩織の目は悪意に輝いていた。

「時々思うの。彼女は普通の秘書以上に雅臣に執着してるんじゃないかって。ちょっと…強すぎるのよね」

その含みは明らかだった。

彼女は佳耶を、必死で、取り憑かれた取り巻きのように描いていた。

それを聞きつけた雅臣が歩み寄ってきた。

彼は詩織の肩に手を置き、守るような仕草をした。

彼は佳耶を見た。その表情は疲れた失望に満ちていたが、軽蔑の笑みでそれを覆い隠す前に、一瞬の哀れみが彼の瞳をよぎった。

まるで、厄介な子供を扱っているかのように。

「佳耶」

彼の声は低かったが、静かな部屋に響き渡った。

「客を不快にさせるな。自分の立場をわきまえろ」

彼は詩織を彼女から守っていた。

彼は公然と彼女を辱め、詩織の毒に満ちた物語を肯定していた。

彼は彼女を妄想的で、病んでいると呼んでいた。

その言葉が彼女の頭の中で響いた。

*自分の立場をわきまえろ*。

彼女の境界線は、ドアだった。

そして彼女は、そのドアを永遠に通り抜ける寸前まで来ていた。

最後の打撃は、パーティーの前夜にやってきた。

佳耶はホテルの大宴会場で、最終的な設営を監督していた。

部屋はブラッシュピンクの芍薬の海だった。

それは美しかった。

そして、息が詰まるようだった。

雅臣と詩織が、仕事の出来栄えを点検するためにやってきた。

詩織は喜んで手を叩いた。

「まあ、雅様、完璧よ!私が夢見ていたすべてだわ!」

彼女はつま先立ちで彼にキスをした。

それは、たった一人の観客のための、長く情熱的なキスだった。

しかし、雅臣の目は詩織の肩越しに、佳耶を探していた。

彼は彼女の反応を見たかった。彼女が隠しているに違いない痛みを見たかった。

彼は彼女の穏やかな表情が嫌いだった。それを壊し、彼が当然の権利として感じる生の感情を見たかった。

佳耶は目をそらし、テーブルセッティングに視線を落とした。

雅臣は詩織から離れ、満足げな笑みを浮かべた。

彼は佳耶の方へ歩み寄った。

一瞬、彼女は彼が感謝の言葉を口にするかもしれないと思った。

彼女がした仕事に対する、簡単な acknowledgement。

代わりに、彼はカスタムプリントされたナプキンの一枚を手に取った。

それには彼らのイニシャル、G & Cがエンボス加工されていた。

「いい仕事だ」

彼は、彼女が有能であることに驚いたかのように、わずかに驚きの色を浮かべて言った。

それから彼は豪華な部屋を見回し、満足げな表情を浮かべた。

「これが、本物の祝宴というものだ」

彼はそれを何かと比較していた。

この数年間、彼女が彼のために祝おうとした、静かな誕生日やささやかな勝利のすべてと。

彼女が買ったシンプルなケーキ、彼女が選んだ心のこもった贈り物、そのすべてを彼は無視したり、軽蔑したりした。

彼は彼女を傷つけようとしていた。彼が見たくてたまらない嫉妬心を彼女に示させようとしていた。

彼は彼女が壊れ、まだ気にかけていることを証明してほしかった。

この見世物は本物。

彼女の静かで、着実な気遣いは、無だった。

彼女は、彼が詩織の元へ戻り、その腰に腕を回すのを見ていた。

彼は彼女の耳に何かを囁き、詩織は勝利に満ちて頭を後ろに反らして笑った。

彼らは完璧な幸福の絵だった。

佳耶の痛みで描かれた絵。

彼女は無理やり彼らに向かって歩いた。

「明日の準備はすべて整いました」

彼女の声は落ち着いていた。

「他に何もなければ、失礼します」

「もちろんよ」

詩織は甘く微笑んで言った。

「疲れたでしょう。一生懸命働いてくれてありがとう、佳耶さん」

それは解雇通知だった。

女王が召使いに感謝する。

佳耶は頷き、歩き去った。

振り返らなかった。

できなかった。

これが、地獄での最後の夜だったから。

彼女が去っていくのを見ながら、突然、鋭いパニック感が雅臣の心を掴んだ。

彼女が永遠に去っていくという、不合理な恐怖。

馬鹿げている。彼女は彼を愛している。決して去るはずがない。

彼はその感情を押し殺し、詩織が彼を甘ったるい抱擁に引き込むのに任せた。

彼は城戸雅臣だ。彼の未来は力のある令嬢と共にあり、恋に病んだ秘書ではない。

彼は彼女を必要としていない。

自分自身に彼女を必要とさせるわけにはいかない。

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影の恋人から、私だけの私へ

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