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この十年、私は後見人である一条蓮(いちじょう れん)に、ずっと密かに恋をしていた。

家族が崩壊した後、私を引き取り、育ててくれた彼。

彼こそが、私の世界のすべてだった。

十八歳の誕生日。

私はありったけの勇気を振り絞って、彼に愛を告白した。

けれど、返ってきたのは、見たこともないほどの彼の激昂だった。

彼は私の誕生日ケーキを床に叩きつけ、こう怒鳴りつけたのだ。

「正気か? 俺は君の後見人なんだぞ!」

そして、私が一年かけて描いた告白の絵を、無慈悲にも引き裂いた。

そのわずか数日後、彼は婚約者の詩織(しおり)さんを家に連れてきた。

「大人になるまで待っている」と約束してくれた人も、「君は俺の一番星だ」と言ってくれた人も、もうどこにもいなかった。

十年間の絶望的で燃えるような恋心は、私自身を焼き尽くすだけで終わった。

私を守ってくれるはずだった人は、誰よりも私を傷つける人になってしまった。

手の中にある慶應大学の合格通知書を見つめる。

もう、ここを出ていかなければ。

どれだけ痛くても、この心から、彼を消し去らなければならない。

私はスマホを手に取り、父の番号をタップした。

「お父さん」

声が、嗄れていた。

「決めたの。私、お父さんのいる東京へ行く」

第1章

一条蓮を諦める十八日目は、スマホのロック画面の写真を消すことから始まった。

それは、私がこっそり撮った一枚だった。

午後の陽だまりの中、ソファに座る蓮さん。

膝の上には経済誌が置かれ、彼は私を見て、ほんのわずかに、気づくか気づかないかくらいの笑みを浮かべていた。

八歳から十八歳までの丸十年。

この人こそが、私の世界の太陽だった。

私の喜びも、怒りも、悲しみも、世界のすべてが彼を中心に回っていた。

でも今、私はその太陽を、自分の手で消し去ろうとしている。

画面が、真っ暗になった。

何も残らない、ただの黒。

小野寺美咲(おのでら みさき)は、震える指でスマホを置き、テーブルの上のミルクを手に取った。

もう冷たくなっている。

一気に飲み干すと、冷たい液体が喉を滑り落ちていく。

それでも、胸の奥で燃えるような痛みは抑えられなかった。

もう一度スマホを手に取り、ずっと連絡していなかった番号にかける。

すぐに繋がった。

電話の向こうから、男性の優しい声が聞こえる。

『美咲かい?』

「お父さん」

私は少し嗄れた声で呼びかけた。

「合格通知が来たの。慶應に」

父は一瞬黙り、それから隠しきれない喜びの声で言った。

『すごいじゃないか! 美咲、おめでとう。美術史学科だろう? 君がずっと行きたがっていた』

「うん」

『それで、決心はついたのかい? 東京に来るって』

「決めた」

私はスマホを握りしめる手に力を込めた。

「お父さんと一緒に暮らしたい」

この場所から逃げ出したかった。

一条蓮から、逃げ出したかった。

父は私の声に含まれた感情を察したようだった。

小さくため息をつく。

『蓮くんのことかい? また何か辛いことでも言われたのか?』

「ううん」

私は嘘をつき、努めて明るい声を出した。

「彼、婚約するの。被後見人の私がいつまでも彼の家に住んでるなんて、おかしいでしょ。それに、私ももう大人だし。自立しなくちゃ」

重い沈黙が流れた。

しばらくして、父の心からの痛みが伝わってくるような声が、電話の向こうから聞こえてきた。

『可哀想な美咲。今までずっと、俺のせいで……あんな家に住まわせて、辛い思いをさせたな。来てくれるなら、それが一番だ。これからは、父さんがお前を守ってやる』

そして、こう付け加えた。

『うちの会社の経営も、もう立て直した。もう誰かに頼る必要はない。父さんが、お前を支えてやれる』

その言葉の温かさに、私の目の奥がツンとした。

鼻をすすり、涙をこらえる。

「うん」

電話を切った後、鏡に映る自分を見た。

目は赤く腫れ上がっている。

十年。

決して私のものにはならない人を、丸十年も愛し続けた。

もう、行かなくちゃ。

どれだけ痛くても、一条蓮を、この心から少しずつ、引き剥がしていかなければ。

深呼吸をして、部屋を出る。

廊下の突き当たりにある書斎の明かりがついていた。

蓮さんはまだ仕事をしている。

一瞬ためらったけれど、私は慶應の合格通知書を握りしめて、そちらへ歩き出した。

彼に、伝えなければ。

半開きになったドアの前で立ち止まる。

隙間から、中の男性の姿が見えた。

シンプルなグレーのシャツを着て、背筋を伸ばし、真剣な表情をしている。

ランプの光が彼のシャープな横顔に柔らかな陰影を落とし、まるで作り物のように整った顔立ちを際立たせていた。

高い鼻筋には金縁の眼鏡がかけられ、その冷たい雰囲気に、洗練された知的な魅力を添えている。

この人が、一条蓮。

父のかつての弟子で、うちの会社が傾いた時も、最後まで忠誠を誓ってくれた優秀な若者。

両親が離婚し、母が国を去った時、どん底にいた父が、私の法定後見人になってほしいと頼んだ人。

私を育ててくれた人。

血の繋がりのない、後見人。

そして、私が十年もの間、密かに愛してきた人。

「蓮さん」

私はかろうじて聞き取れるほどの小さな声で呼びかけた。

蓮さんは顔を上げ、私を見るとわずかに眉をひそめた。

「何だ?」

その声は、いつものように冷たく、よそよそしい。

私の心臓が、きゅっと縮こまる。

何かを言おうとしたその時、デスクの上の彼のスマホが、軽やかな音を立てて鳴った。

発信者名を見た瞬間、彼の冷たい表情が溶けていく。

今まで見たこともないような優しさが、その瞳に咲いた。

「詩織」

彼は低く、柔らかな声で言った。

婚約者の、橘詩織さんだ。

「会場? 君が決めていいよ、俺はどこでも。費用のことは気にするな」

彼は電話の相手の話に耳を傾け、その口元には甘やかすような笑みが浮かんでいる。

「君が気に入れば、それが一番だから」

私はドアの前で凍りついたまま、手足が氷のように冷たくなっていくのを感じた。

手の中の合格通知書が、まるで鉛のように重い。

ふと、二ヶ月前の十八歳の誕生日を思い出した。

私は勇気を振り絞って、一年かけて描いた『秘めごと』というタイトルの絵を彼に贈った。

絵の中では、一人の少女が、男の人の背中を追いかけている。

その瞳は、愛で満ちていた。

それが、私の告白だった。

蓮さんの反応は、今まで見たこともないほどの激しい怒りだった。

彼はテーブルの上のプレゼントをすべて払い落とし、ケーキは床に叩きつけられた。

「小野寺美咲!」

彼は怒りで目を赤く染め、怒鳴った。

「正気か? 俺は君の後見人なんだぞ!」

私は涙を流しながら、必死に言い返した。

「でも、血は繋がってない! お父さんはあなたを信頼してた! それに、いつも私を甘やかしてくれたじゃない……後見人が被後見人にする態度じゃないわ!」

彼は鼻で笑った。

その美しい顔が、残酷に歪む。

「家族愛と恋愛の区別もつかないのか? 君にかけた教育費が無駄だったな」

そう言って、彼は私の絵を、私の『秘めごと』を、容赦なく引き裂いた。

そして、一度も振り返ることなく立ち去り、私はめちゃくちゃになった誕生日の残骸の中に、一人取り残された。

泣きながら破片を拾い集め、丁寧にテープで貼り合わせた。

でも、その絵は、私の心と同じように、傷だらけになってしまった。

それでも、私は諦めきれなかった。

もっと良い子になれば、彼と同じ慶應に入れば、きっと彼も私を見てくれるはずだと信じていた。

けれど、卒業式の直後、彼は橘詩織さんを家に連れてきた。

彼は笑顔で紹介した。

「美咲、紹介するよ。俺の婚約者の詩織だ」

その瞬間、私は悟った。

本当に、終わったのだと。

この十年間の、必死で燃えるような恋は、私自身を焼き尽くすだけで終わった。

今、私は、この火を自分の手で消さなければならない。

この心から、彼を追い出さなければ。

2

蓮さんはまだ電話中で、その声は優しく、辛抱強く、詩織さんと婚約パーティーの詳細を話し合っていた。

美咲はドアのそばで静かに立ち、かつては自分の世界のすべてだったその声を聞いていた。

言おうとしていた言葉を、そっと飲み込む。

彼に伝えて、何になるというのだろう?

私はただの被後見人、彼の責任。

どの大学に行こうが、どこへ行こうが……彼は気にしないだろう。

美咲は踵を返し、中の甘い雰囲気を邪魔しないように、そっと歩き去った。

自室に戻り、十年暮らした部屋を見渡す。

あと十五日。

十五日後には、私はこの場所を完全に離れる。

視線が、ナイトスタンドの小さなランプに落ちた。

チンチラの形をした、十歳の誕生日に蓮さんからもらったプレゼント。

その光は、温かく、柔らかな黄色だった。

彼はその時、こう言った。

「美咲、これからは俺がこのチンチラみたいに、ずっと君を守ってあげる」

彼は、私の守護者だった。

でも、それもすべて過去のこと。

手を伸ばし、ランプのスイッチを切る。

部屋は、深い闇に包まれた。

荷造りを始めよう。

クローゼットの奥から埃をかぶった古いスーツケースを引き出し、飾り棚を開けた。

中には、蓮さんがこれまでくれたプレゼントがすべて入っている。

小さな有名な工房で、彼が何時間も並んで手に入れてくれたお守り。

彼が私のために特別に調合してくれた、オーダーメイドの香水。

一つ、また一つと、スーツケースに詰めていく。

物を入れるたびに、心が少しずつ空っぽになっていくような気がした。

まるで、心に穴が開いていくみたいに。

寂寥感を押し殺し、飾り棚の一番下の引き出しを開ける。

中には、色褪せて黄ばんだノートがあった。

私の日記だ。

最初の数ページは、子供っぽい字で埋め尽くされている。

両親の離婚後の荒れた子供時代や、クラスメイトからのいじめについて記録されていた。

一度、蓮さんが偶然これを見てしまったことがある。

その時は何も言わなかったけれど、その夜、彼は私の部屋に来て、ベッドのそばに座った。

彼は優しく私の髪を撫で、こう言った。

「美咲、君は俺の目には、一番輝く星だよ」

後で知ったことだが、彼は私の学校へ行き、いじめていた子たちに警告してくれたらしい。

それ以来、誰も私にちょっかいを出さなくなった。

彼は、私の子供時代を、密かに守ってくれていたのだ。

成長するにつれて、日記の字は整然となり、書かれている内容はすべて彼のことになった。

彼が大きな賞を取った時、「君は俺の勲章だ」と言ってくれたこと。

彼が私に薔薇をくれて、「大人になるまで待っている」と言ってくれたこと。

最後の一ページをめくる。

それは、私が高校二年生の時に、彼が書いてくれたメッセージだった。

『一生懸命勉強して、慶應に入れ。卒業したら、俺の会社で働けばいい。ずっと面倒を見てやるから』

一筋の涙が静かに落ち、ページのインクを滲ませた。

私は急いで目を拭い、表情を硬くする。

日記を、一枚、また一枚と破り始めた。

破るたびに、彼との過去の一部が消えていく。

最後の一枚を破り終えると、すべての破片をスーツケースに投げ込み、ジッパーを閉めた。

その時、階下から物音が聞こえた。

部屋を出ると、リビングに橘詩織さんが立っていた。

スーツケースを引いている。

蓮さんが、彼女を後ろから抱きしめていた。

「来たんだね」

蓮さんの声は、柔らかい。

詩織さんは階段の上の私に気づくと、微笑んでこちらへ歩いてきた。

「美咲ちゃん、プレゼントを持ってきたの」

彼女はスーツケースを開け、繊細な箱を取り出した。

中には、フルーツが乗った美しいマンゴームースのケーキが入っていた。

美咲の笑顔が、こわばる。

私は、マンゴーに重度のアレルギーがある。

昔、新人の家政婦さんがマンゴーピューレの入ったデザートを出して、恐ろしいアレルギー反応を起こし、救急搬送されたことがあった。

蓮さんはその場で家政婦さんを解雇し、それ以来、キッチンではマンゴーを一切禁止にしていた。

彼はかつて、私の好みも、弱点も、すべて覚えていてくれた。

「美咲」

詩織さんの後ろから、蓮さんの声がした。

その声には、わずかな不満の色が混じっている。

「詩織が君のために選んでくれたんだ。受け取りなさい」

美咲は蓮さんを見た。

彼の表情は、それが当然だと言っているようだった。

胸が、鈍い痛みに襲われる。

彼は私への愛情を取り戻しただけでなく、私の弱点さえも忘れてしまったのだ。

深呼吸をして、箱を受け取り、無理に笑顔を作る。

「ありがとうございます、詩織さん。綺麗ですね」

でも、もうどうでもよかった。

むしろ、彼らに感謝すべきかもしれない。

彼らが、私のここを去る決意を、さらに固くさせてくれたのだから。

3

その夜、詩織さんは泊まっていった。

美咲はベッドに横たわっていたが、薄い壁は隣の部屋から聞こえてくる曖昧な音を遮断できなかった。

眠れるはずもなかった。

起き上がってベランダへ出て、煙草に火をつけた。

ずっと前に、こっそり覚えたものだ。

苦い味が口の中に広がる。

まるで、心の中の苦さそのものだった。

翌朝、目の下に濃い隈を作って階下へ降りた。

すっきりとした顔で輝いている詩織さんが、私をソファに引き寄せた。

「美咲ちゃん、もうすぐ蓮の誕生日なの。どんなパーティーがいいと思う? 海辺のテーマとか?」

詩織さんの首筋、襟元から覗く微かな赤い痕。

それが、私の目を突き刺すようだった。

ある日の夕方、蓮さんと一緒に浜辺を歩いたことを思い出す。

私は彼に、海が好きだと伝えた。

彼は、これからの彼の誕生日は、毎年海で祝おうと約束してくれた。

あの頃、彼の瞳には私しか映っていなかった。

今では、彼は私を疫病神のように避けている。

私の好きなものも、嫌いなものも、すべて忘れてしまった。

美咲が口を開こうとした瞬間、キッチンから蓮さんが割り込んできた。

「俺のことが知りたいなら、直接俺に聞け」

詩織さんはふざけて唇を尖らせた。

「だって、美咲ちゃんの方があなたのことをよく知ってると思ったから」

美咲は無理に笑った。胸が痛む。

「私は、彼のことをそんなに詳しくありません」

立ち上がってその場を去ろうとすると、心の中の苦さが溢れ出しそうだった。

「こんなに早くどこへ行くんだ?」

蓮さんの声が、突然冷たくなった。

美咲の心臓が震える。

「ビザの申請に行く約束があるんです」

詩織さんは驚いた顔をした。

「ビザ? 旅行に行くの? 彼氏と?」

蓮さんは眉をひそめ、その口調は disapproval で鋭かった。

「美咲、大学生活が落ち着くまでは、誰とも付き合ってほしくない」

彼の冷たい非難が、私の心を打つ。

説明する気力さえなかった。

詩織さんが笑顔で場を和ませる。

「まあ、蓮、そんなに厳しくしないで。美咲ちゃんももう大人なんだから。恋をするのは普通のことよ」

蓮さんと詩織さんは、手をつないで一緒に出て行った。

美咲はリビングに立ち尽くし、その手はゆっくりと拳を握りしめていた。

私にはたった一度しかない十八歳を、すべて彼に捧げた。

私の青春を、報われない恋の沼に埋もれさせるわけにはいかない。

家を出ると、小雨が降っていて、空気が冷たかった。

雨の日には、蓮さんがいつも傘をさして送り迎えしてくれたことを思い出す。

彼は、私が嵐の中の避難港だと言っていた。

一人で歩くことに慣れなければ、と自分に言い聞かせる。

傘を開き、雨の中へと歩き出した。

ビザを取得した後、タクシーを呼ぼうとした時、無意識に特別通知に設定していた蓮さんのプロフィールをクリックしてしまった。

彼はちょうど新しい投稿をしていた。

『雨の日は、公式発表にぴったりだ』

添えられていたのは、彼と詩織さんのウェディング写真だった。

彼は微笑んでいて、その瞳は優しさに満ちていた。

コメント欄は、祝福の言葉で溢れていた。

胸の左側が、もういつものように痛むことはなかった。

麻痺していた。

私は冷静にコメントを打ち込んだ。

『お似合いの二人ですね』

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禁断の愛:守護者の憤怒

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