1

 まとわりつく血煙の中、赤黒い刃が閃く。

 ゼェハァと荒い呼吸‥‥片っ端から斬って斬って斬りまくる。

 意思に関係なく、身体が動いてる!?

<吾妹ハ、何処ダ‥‥?>

 俺の口から、知らない声が発せられた。

 ワギモって、古典表現で恋人を指す言葉だな。

 逃げ出そうとした足を掴まれる。

 血塗れな手の群れが迫りくる。

<全テヲ捨テ、頂点ヲ目指スモ、マタ一興>

 再び、赤黒い刃が閃く。

 亡者共の手を斬り払う不快感は、やがて快感に塗り潰されていく。

 暗闇と血煙の戦場を駆け回り、斬って斬って斬りまくる‥‥。

≪ZuSha‥‥ZaShu‥‥≫

「「僕‥‥? 拙者‥‥? 俺‥‥?」」

 他の誰かとシンクロするような感覚。

 斬る度に、大切な何かが消えていき、塗り替えられていく。

 斬って斬って斬ってきってきってキッテキッテ斬ってきってキッテキッテ斬って

 キッテキッテキッテ斬って斬って斬ってきってきってキッテキッテ斬ってきって

 キッテキッテ斬ってキッテキッテキッテ斬って斬って斬ってきってきってキッテ

 キッテ斬ってきってキッテキッテ斬ってキッテキッテキッテ斬って斬って斬って

 きってきってキッテキッテ斬ってきってキッテキッテ斬ってキッテキッテキッテ

<良イゾ、良イゾ‥‥、砕ケヌ身体。思ウ存分斬レル>

 オマエは誰だッ!

 俺の名は‥‥。

2

ゴインッと鈍い音が響いた。

「‥‥ぬぅお?!」

 突然の衝撃に思わず声が漏れる。

 バッと体を起す。

 盆を持った幼女と目が合う‥‥睨まれた。

「それ弛んでるぞ、しっかり結んでおけ」

 カウンターから声。

 背刀に手を遣る。

 それには、抜き身のまま、やけに古い包帯が巻かれている。

 柄の結び目が解け掛けている‥‥俺は、それを結び直した。

 カズ‥‥それが俺の名前だ。

 高校中退した俺は、意気揚々と夢に向かって走り出した所で、交通事故に遭ったんだ。

 そして、意識が戻った時には、機械の身体に生まれ変わっていた。

 人体改造によって一命を取り留めた‥‥という訳では無かった。

 何の冗談だか知らないが、巷で流行りの異世界転生というのを体験してしまったらしい。

 事故の後遺症なのか、俺には過去の記憶が無い。

 親族、交友関係も分からず、漠然と日本人だった事と、断片的なカズという名前の一部しか覚えてない。

 この身体に元の持ち主が居るのかも不明だ。

 意識が覚醒した時には、最初からティーンエイジャーで、この異世界での記憶も無いのだ。

3

俺の現在地‥‥異世界の名も無き大陸にある、カイザードという名の新興帝国。

 叡智王を冠し、一代にして軍事帝国を築き上げた傑物[魔導皇帝アル・カイザード]よって支配されている。

 主に中世ヨーロッパやギリシャ神殿のような石材建築、所々に和風の木造建築。

 そして、未来の研究所のような鉄材建築が入り混じった和洋折衷の街並み。

 様々な人型種族が棲んでいて、コミュニケーション可能な種族の総称として[人間]という代名詞が使われている。

 四方を風水的に守護された地形の帝都は、堅固な城塞都市だ。

 周辺の領土は、農地開拓が進んでいる。

 それに加え、そこかしこに迷宮が点在していて、迷宮を中心に集落が存在する。

 そこでは犯罪者すれすれのアウトロー[最底辺者=ボトマー]達が、剣や魔法を駆使して、迷宮探索で生計を立てている。

 帝都のメインストリートから離れ、入り組んだ路地の先。

 人通りの少ないアーケード商店街の片隅に、ひっそりと存在する建物のひとつ。

 六角形を組み合わせたデザインに[ハニカム]と書かれている看板が出ている。

 時は、カイザード帝国暦十年、弥月25日・風曜。季節は初春だ。

 先ほどから降り始めた激しい雷雨。

 いつもは日光を燦々と取り入れる天窓を強い雨が叩き、暗めの店内。

 木製の丸テーブルと椅子が並び、奥には複数の個室扉と二階への階段。

 あらくれ者が集まる[ボトマーズギルド]と呼ばれる酒場兼宿屋。

 客は、俺独り‥‥再び、カウンターで突っ伏した。

 初めて鏡で自身を見た時にも思ったが、なかなか奇抜な姿をしている。

 それもそのはず、俺は[カラス]という種族に転生していた。

 まず、全身が濃い灰色、ほぼ黒と言って差し支えない。

 黒っぽい三角帽子からは、手入れの行き届いていない伸び放題の黒髪が覗く。

 気怠そうな着流し姿。

 心なしか、周囲の雰囲気まで、どんより重い。

 俺の周囲だけ、暗いモノトーン調になってやがる。

 そして、着流しから複数本ハミ出した謎の物体がデローンと床に垂れている。

 それには、整然と並ぶ吸盤模様。

 黒い鳥のカラスが一瞬浮かぶが、俺は[カラス賊]。

 この賊は誤植ではない。

 漢字に変換してみれば、その種族性が見えてくる。

 [水の民カラス賊]と呼ばれ、水辺を縄張りとする水賊種族。

 体色は主に白や緑が多いらしい。

 ある海洋生物を彷彿とさせる容姿‥‥烏賊から進化した人型種族って何だよって話さ。

 そこで稲光、俺の体が鈍く光を反射した。

 遅れてゴロゴロと雷鳴。

 俺のボディは生身ではなく、長身痩躯のサイボーグ。

 頭部だけが生身だったって訳よ。

 眩しくて、反対を向いた。

 眠そうな、丸く少し垂れ気味の目と腑抜けた顔をしてる事だろう。

 抜き身のまま、包帯を巻いた刀を二本。

 クロスして背負っている。

 俺の年齢は、現在18歳らしい。

 だが、溌剌とした若さは感じられないだろうぜ。

 転生当初、傭兵として最強の剣豪になるべく武者修行していた頃の面影は、もう無い。

 人相風体を一言で表すならば[怪人イカ男]‥‥これがピッタリ当てはまるのさ。

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イカした恋とイカレた妖刀の冒険譚

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