話 1
私は最下層のオメガ。けれど、月の女神様自らが、私こそがアルファであるカイネ様の「運命の番」だと告げた。
一年もの間、私たちの愛はおとぎ話そのものだと信じきっていた。
そしてこの八ヶ月間、私のお腹の中には、彼の息子であり、世継ぎとなる子が宿っていると、そう思っていた。
あの日、あの羊皮紙を見つけるまでは。
私と出会う一年も前に、彼は自ら世継ぎを成せぬ身体になるための、血の儀式を執り行っていた。
すべては、別の女のために。
私が宝物のように大切にしていた恋物語は、すべてが嘘だった。
彼と彼の戦士たちは、私のお腹の子の父親が誰なのか、賭けの対象にしていた。
彼らは、凍えるような寒い夜には、私を慰みものにして笑っていた。
彼は私に薬を盛り、彼の真実の愛する人、セイラに、楽しみのために私の膨らんだお腹を蹴らせた。
そして、意識を失った私の体を、褒美として部下たちに与えた。
私の運命の恋、約束されたはずの未来。
それは、彼らが楽しむためだけに弄んだ、吐き気のするような、歪んだゲームに過ぎなかった。
踏みにじられ、心も体もズタズタに引き裂かれ、横たわる私の心は、ただ壊れただけではなかった。
砕け散り、氷のように凍てついた。
だから私は、禁忌の薬草を飲み干した。私の中に宿る命を、この手で終わらせるために。
これは、絶望からくる行動ではない。
私の戦争の、始まりの合図だった。
第1章
エララ POV:
震える指先の下で、古い羊皮紙が脆く乾いた感触を伝えてくる。インクは、乾いた血のような色にまで褪せていた。
それは、アルファ・カイネの私室の書斎机、その隠し底にしまい込まれていた。城の使用人たちが彼の癇癪を恐れるあまり、私が掃除を申し出なければ、決して見つけることのなかった場所。
私の目は、群れの呪術師が書いたであろう、優雅で細長い文字を追った。
「血の契約の儀式。黒月の群れのアルファ・カイネに執行。月の女神の気まぐれより彼の血統を断絶させ、その生命の本質を、彼が選びし者、セイラに結びつけるため。執行より一年経過。追伸:儀式の副作用として、アルファは子を成せぬ身体となる」
文字が目の前で滲み、意味を結ぼうとしない。
まるで凍った湖に突き落とされたかのような、全身の血の気が引いていく強烈な悪寒が私を襲った。
私の手は無意識に、自分のお腹へと伸びる。
そこには、私たちの子――彼の子が、八ヶ月もの間、育っていた。
膨らんだお腹の重みは、私たちが共に歩むと信じていた未来を、絶えず思い出させるものだった。
彼の番、彼のルナとしての未来を。
月の女神様ご自身が、そうお命じになったのだ。
一年半前、初めて彼に会った瞬間、私の世界は根底から覆された。
彼の香り――嵐が吹き荒れる針葉樹林と、湿った土の匂い――が、私の魂そのものを呼び覚ました。
心臓は肋骨を激しく打ち鳴らし、私がずっと理解できずにいた内なる狼が、ただ一言、独占欲に満ちた言葉を叫んだのだ。
「私のもの」
彼もまた、それを感じていた。彼の瞳を見ればわかった。
彼はアルファで、私は最下層のオメガ。けれど、女神様の意志は絶対だった。
彼は私を受け入れ、私に印を刻んだ。
だが、この羊皮紙は……この羊皮紙は、彼が一年も前に、子を成せぬ身体になったと告げている。
私と出会うよりも前に。セイラのために。
パニックが喉を締め上げる。
これは間違いだ。何かの誤解だ。
彼に聞かなければ。これが嘘だと彼が告げるときの、その顔を見なければ。
私は羊皮紙を机の上に置いたまま、書斎を飛び出した。
裸足の足が、ゴシック様式の城の冷たい石の床を音もなく駆ける。
古代の狼の戦いを描いた重厚なタペストリーが、まるで私を見ているかのようだった。その織り込まれた瞳は、非難に満ちているように見えた。
私は大広間へと急いだ。カイネが最も信頼する戦士たちと評議を開く、あの部屋へ。
巨大な樫の扉は閉ざされていたが、中から低い声と笑い声が響いてくるのが聞こえた。
いつもなら私を安心させてくれるその音が、今は胸をえぐるような不吉な予感で私を満たしていた。
冷たい木製の扉に、耳を押し当てる。
「……まだ気づいてないとは信じられんな」ベータであるカラスバ、カイネの右腕の声が響いた。「八ヶ月にもなって、まだ腹の子がお前のガキだと思ってるんだからな、アルファ」
残酷な笑いの波が続いた。
「セイラ様のために純潔を誓ったんだからな」別の戦士が口を挟んだ。「だが女神様は、呪いのように番をお与えになった。まあ、せめてもの慰みにはなったわけだ。忠実な部下たちが寒い夜を分かち合う、温かい寝床としてな」
全身の血が氷に変わった。胸の中で息が詰まる。
違う。そんなはずはない。
その時、カイネの声が聞こえた。軍隊を指揮し、私の魂を慰めることもできた、あの声が。
だが、今のその声に温かみはなかった。冷たく、硬い残酷さだけがあった。
「好きに信じさせておけ」彼が唸るように言った。分厚い扉越しにさえ、彼のアルファの命令――絶対服従命令――のかすかな圧力を感じる。それはすべてのアルファが持つ生来の力で、下位の狼が魔法のように逆らえなくなる声の命令だ。「所詮はオメガだ。何ができる?たとえ真実を知ったところで、私生児を孕んだ価値のないオメガに、ここで何の力もない」
新たな爆笑の波が扉に叩きつけられ、その振動が骨の髄まで響くのを感じた。
「そのガキの父親が俺である方に、100万賭けよう」カラスバが、闇に満ちた愉悦の声で宣言した。「このゲームを始めたのは、何を隠そうこの俺だからな」
「その賭け、乗った!」リュウセイという別の戦士が叫んだ。「俺が一番、回数重ねてるんだからな!」
吐き気を催すような思考が、テレパシーの囁きが、私の意識の端に滑り込んできた。
部屋にいる他の戦士たちに向けた、カラスバからの念話だった。
念話は、狩りや戦いで群れを一つにするための神聖な繋がりのはずだった。
彼らはそれを、酒場のゴシップのように使っていた。
「先月は三回試したぜ」カラスバの精神的な声が、誇らしげに自慢した。「蜜と絶望の味がする。たまらないぜ」
私の中で、何かが砕け散った。
私が人生を懸けて築き上げてきた、美しく運命づけられた恋物語が、塵と灰になって崩れ落ちていく。
すべてが嘘だったのだ。
愛情のこもった眼差しも、優しい愛撫も、群れのアルファとルナとして共に歩む未来の約束も。
すべてが、吐き気のするような、歪んだゲームだった。
私は扉からよろめきながら後ずさる。声にならない悲鳴が喉に詰まる。
逃げなければ。
「待て」
カイネの命令のかすかな響きが、私の気配を感じ取った彼の反射的な思考として、心をかすめた。
だが初めて、その命令には力がなかった。
それは盾となって立ち塞がるのではなく、ただの潮流だった。
純粋で、圧倒的な心痛と裏切りの奔流が、彼の命令をまるで無かったかのように洗い流していく。
私が決して知ることのなかった内なる強さが、魂が砕かれるその瞬間に、生まれたのだ。
私は向きを変え、逃げ出した。どこへ向かっているのかもわからず、ただこの息の詰まる城壁から逃れなければならないということだけを理解していた。
肺が焼けつくように痛み、足がもつれて動かなくなるまで走り続け、群れの縄張りの端にある暗い森の中で、私は崩れ落ちた。
永遠とも思える時間が過ぎた後、冷たい静寂が私を包み込んだ。
涙は止まり、震えも収まった。
そこにはただ、かつて私の心臓があった場所に、空虚な空間が広がっているだけだった。
私は、自分が何をすべきかわかっていた。
私は、カイネが禁断の魔術を使ったとして追放した、年老いた巫女の小屋を見つけ出した。
彼女は私の膨らんだお腹と、死んだような私の目を見て、何も問わなかった。
「月影草が欲しい」私は平坦で感情のない声で言った。
彼女はゆっくりと頷き、その古びた瞳に哀れみの光を宿した。「痛むだろう。そして、もう後戻りはできない」
「それでいい」私は言った。
ハーブの入った小さな黒い袋を手に握りしめ、私は城へと、アルファと共有していた豪華なスイートルームへと戻った。
だが、扉にたどり着いた時、何かがおかしいことに気づいた。
血の結界――住人の生命力に紐付けられた魔法の錠――の、複雑な銀の線が変わっていた。
私の血の印が、消えていた。
私が触れる前に、扉がひとりでに開いた。
そこに立っていたのは、セイラだった。彼の最愛の義理の妹。
彼女は、きらめく銀色のガウンを身につけていた。
それは、私のため、子供が生まれた後の私のルナの叙任式のために仕立てられたものだった。
彼女の後ろの影の中に、カイネが立っていた。その顔は、冷たい無関心という、読み取れない仮面で覆われていた。
「防御の結界は更新した」彼の声には、いかなる感情もなかった。「結界は今、セイラの血統に紐付けられている。ここが、これからは彼女の家だ」
話 2
エララ POV:
その夜遅く、私が放り込まれた狭く冷たい客室の扉が、きしむ音を立てて開いた。
カイネがそこに立っていた。廊下の松明の光に、そのシルエットが浮かび上がっている。
彼の手には、湯気の立つ椀があった。
「これを飲め」彼は言った。それは要求ではなかった。アルファの命令が、重く、抑圧的に彼の声に宿っていた。「呪術師からの滋養強壮の薬だ。腹の子を養うためのな」
「子」という言葉が、彼の舌の上で一滴の毒のように響いた。
私は、その黒く濁った液体を見つめた。胃がむかつく。
「いらない」私はかすれた声で囁いた。
彼の端正な顔に、苛立ちの光がよぎった。
彼は部屋に大股で入ってきた。松と嵐の香りが狭い空間を満たし、私を窒息させる。
かつて私が愛した香り、安全と故郷を意味した香り。
今では、ただ嘘の匂いがするだけだった。
「飲めと言ったんだ」
彼は私の顎を掴んだ。その握力は鉄のようだ。
顔を背けようとしたが、彼はあまりにも強かった。
彼は私の頭を後ろに傾け、椀の縁を私の唇に無理やり押し付けた。
熱く、苦い液体が口の中に流れ込み、舌を火傷させる。
彼が中身をすべて喉に流し込むと、私はむせび、反射的に飲み込んでしまった。
彼は私を解放し、私は咳き込みながら、薄いマットレスの上に崩れ落ちた。
「いい子だ」彼の声には、私の肌を粟立たせるような満足感が滲んでいた。
彼は空の椀を床に置き、一言も言わずに去っていった。
奇妙で重たい眠気が、ほとんどすぐに私の手足にまとわりつき始めた。
思考はぼやけ、まぶたは信じられないほど重くなる。
それに抗おうとしたが、薬の効き目はあまりにも強力だった。
彼が入ってくる前に、マットレスの端に小さな平たい記憶水晶を隠すことができたのは、幸いだった。それが、私の最後の意識的な思考だった。
次に目を開けたとき、部屋の唯一の、鉄格子のはまった窓から、青白い朝の光が差し込んでいた。
体は、深く、馴染みのない痛みで軋んでいた。
身を起こすと、冷たい恐怖が胃の腑に沈殿した。
震える手でマットレスの下に手を伸ばし、記憶水晶を取り出す。
それは魔法をかけられた水晶で、周囲の光景や音を吸収し、再生することができる。
スパイや猜疑心の強い領主が使う道具。
今、それが私の唯一の証人だった。
私はそれを手のひらに握りしめ、目を閉じ、意識を集中させた。
映像が、私の心に洪水のように流れ込んできた。
ベッドで眠る私自身の姿が見える。
扉が開き、カイネが、そしてセイラが入ってくるのが見えた。
彼女はベッドの脇に滑るように近づき、残酷な笑みを唇に浮かべていた。
「完全に落ちてる?」セイラの声は、甘く、毒を含んだ蜜のようだった。
「戦士一人を倒せるほどの量だ」カイネが、巨大な胸の前で腕を組みながら断言した。彼は、完全な侮蔑の眼差しで私を見下ろしていた。「何も感じない。何も覚えていないだろう」
彼はセイラに身を寄せ、共謀者のように声を潜めた。「これはお前のためのものだ、愛しい人よ。こいつがお前にしたことへの報いだ。お前を故郷から追い出したことへのな」
私の心は絶叫した。「違う!彼女は自分から出て行ったのに!」
「こいつには、この私生児を産むまで孕ませておく」カイネは続けた。彼の計画が、冷たく静かな部屋で明らかにされていく。「そして出産した時、血統の審判を要求する。群れの全員が、この子が俺の子ではないことを知るだろう。皆が、こいつが浮気者の売女だと知るのだ。その時、俺はこいつをローグとして追放し、お前が俺の隣、俺のルナとして、正当な場所を取り戻す」
セイラの笑みが広がった。
彼女は手を伸ばし、私の膨らんだお腹を、悪意に満ちた侮蔑的な一撃で蹴りつけた。
眠っている私の体がびくりと震えるのが見えたが、私は目覚めなかった。
「こいつは、私のものになるはずだった人生を奪った」セイラは、低く、毒に満ちた声で吐き捨てた。「その報いを受けさせてやる。でも、息はさせておいて。ゲームが早く終わりすぎたらつまらないもの」
カイネはそれから、扉に向かって手を振った。
私がぼんやりと見覚えのある、下級の戦士が部屋に忍び込んできた。その目は、恐怖と欲望が入り混じった色で大きく見開かれていた。
彼はアルファと、ベッドで意識を失っている私の姿を交互に見た。
「一時間、こいつはお前のものだ」カイネは平坦な声で言った。「お前の忠誠への褒美だ」
映像は、そこで終わった。
私の体は、声にならない、暴力的な嗚咽で震えた。
それは悲しみの音ではなかった。
純粋で、希釈されていない怒りの音だった。
体の痛み、この陵辱……すべてが、現実だった。
記憶水晶が、私の痺れた指から滑り落ち、床にカタリと音を立てた。
涙が、熱く、激しく顔を伝う。
それは失われた愛への悲しみの涙ではなかった。
私がどれほど愚かだったかに対する、怒りの涙だった。
私の手は、袖に隠していた小さな革袋を探り当てた。
私はそれを、着実で、意図的な動きで取り出した。
震える手で巾着の紐を解き、月影草の黒く砕かれた葉を手のひらにこぼした。
私はためらわなかった。
苦い薬草を口に放り込み、ベッドのそばの水差しから古くなった水を一すくいすると、それを飲み下した。
鋭く、即座の痙攣の波が、私の腹部を襲った。
私は悲鳴を上げないように唇を噛みしめ、自分の血の鉄錆びた味が口の中に広がった。
これは絶望の果ての行動ではない。
私の戦争の、始まりの合図だ。
話 3
エララ POV:
痙攣は波のようにやってきて、腹の奥深くをえぐるような苦痛をもたらした。
動かなければ。薬草が完全に私を無力化する前に、行動しなければ。
カイネは上の階でセイラと一緒にいる。間違いなく、彼らのささやかな勝利を祝っているのだろう。
私は客室をそっと抜け出し、静かで反響する廊下を彼の書斎へと向かった。
部屋は、私が去った時とまったく同じだった。
彼の巨大な樫の机の上には、念話通信機が置かれていた。
それは美しく、そして恐ろしいものだった――磨かれた黒曜石の箱に、銀のルーン文字がはめ込まれ、淡い青色の光を放っている。
それは群れの通信の心臓部であり、アルファが広大な距離を越えて彼の思考や命令を送ることを可能にしていた。
それは何層もの魔法のセキュリティで保護されていた。
第一層は単純なルーン文字のパターン。しかし、第二層は血の結界で、アルファか、彼がその本質を装置の基盤に織り込んだ者しか通過できない。
番。あるいは、どうやら、大切にされている妹でもいいらしい。
かつて、私が愛情と勘違いした瞬間に、彼が私に言ったことを思い出した。
彼は自慢げに、私の髪を撫でながら言ったのだ。彼の力よりも神聖なものは、セイラだけだと。
「彼女の誕生日が、俺の秘密を守っている」と彼は囁いた。「真の忠誠心の証としてな」
彼は私が覚えているほど賢いとは思っていなかったのだろう。
私の指が、彼女の生まれた日の空の星に対応するルーン文字の配列をなぞった。
カチリと小さな音がした。
第二層の血の結界が解けた。
侵入成功。
私の精神が手を伸ばし、装置と繋がる。
公式な群れの業務、国境警備隊の報告……通信のチャンネルをふるいにかけ、そして、それを見つけた。
暗号化されたプライベートチャンネル。
その名前に、胃が締め付けられた。
「ルナの贈り物」
チャンネルを開いた。
カイネの最も精鋭な戦士たちの精神的なおしゃべりが、私の頭の中に流れ込んできた。
下品な思考と卑劣な自慢話の汚水溜めだった。
チャンネルのトップには、文書がピン留めされていた。
それは、カイネ自身の精神的な筆跡で几帳面に作成されたスケジュールで、「ルナの夜伽当番表」と題されていた。
そこには彼の戦士たちの名前が、月の満ち欠けと照らし合わせてリストアップされていた。
「次の満月は俺の番だ」リュウセイという戦士が、期待に満ちた精神的な声で思った。「今度は抵抗するかな。抵抗されるのが好きなんだ」
「しないさ」ベータのカラスバが投影した。「アルファの薬で、おとなしくなってる。ただの温かい、空っぽの器だ。俺たちの快楽のためのな」
息が喉に詰まった。吐き気の波を感じたが、それと共に奇妙で冷たい力が湧き上がってきた。
痛みを焼き尽くし、氷のような決意だけを残す、白く熱い炎。
その時、新しいメッセージがチャンネルを横切って点滅した。
セイラからだった。
彼女は魔力による映像を送ってきた――精神に直接再生される、動く映像だ。
それは、昨夜の私だった。
薬で目はうつろになり、体はカイネが呼び出した下級戦士に弄ばれるまま、抵抗もせずに従順だった。
その恐ろしい映像の下に、セイラはキャプションを加えていた。
「お利口なワンちゃんね」
私の悲しみのダムがついに決壊したが、溢れ出たのは悲しみではなかった。
力だった。
何かが、古く、力強いものが、私の中でぷつりと切れた。
私の魂の奥底で眠っていた、白い毛皮と氷河の怒りを持つ獣が、咆哮を上げて目覚めた。
この力、この明晰さが、私の中を駆け巡った。
集中した思考で、私はすべてをコピーし始めた――チャットログ全体、夜伽当表、セイラの卑劣な映像――通信機からそれを吸い上げ、私の記憶水晶に注ぎ込んだ。
最後のデータが転送されたちょうどその時、足音が聞こえた。
私は箱の蓋をバタンと閉め、記憶水晶を袖の中に押し込んだ。
カイネが書斎に駆け込んできた。
彼は私の腕を掴み、その指が私の肉に食い込んだ。
「ここで何をしている?」彼は唸った。
「私……ただ本を探して……」私はどもった。腹部の痛みが激しくなる。私はうめき声を上げて身をかがめた。
彼は私を、嫌悪に満ちた目で見つめた。「哀れな。立て。俺と来い」
「どこへ?」私は痛みをこらえながら、歯を食いしばって言った。
「セイラの帰還を祝う祝宴だ」彼は私を無理やり立たせながら言った。「群れの全員が彼女の帰還を歓迎するために集まる。そしてお前は、何年も前に彼女を追い出したことを、皆にどれだけ申し訳なく思っているかを示すためにそこにいるんだ」
彼は私を部屋から引きずり出し、馬車に無理やり乗せた。
大広間までの短い道のりは拷問だった。
揺れるたびに、新たな苦痛の波が私を襲った。
到着すると、広間は黒月の群れの全員で埋め尽くされていた。
何百もの狼たちが、私の破滅を画策した女の帰還を祝っている。
カイネが私を人混みの中を引きずっていくと、彼らの視線が私に突き刺さるのを感じた。
チャットグループの戦士たちは、いやらしく、独占欲に満ちた笑みを浮かべて私を見ていた。
他の群れのメンバーは、哀れみと軽蔑の目で私を見ていた。
私はアルファの番で、彼の世継ぎを妊娠しているはずなのに、彼らは皆、真実を知っていた。
私はただのおもちゃなのだ。
私は引き離そうとし、逃げようとし、隠れようとした。「帰りたい」私はかろうじて囁くような声で懇願した。
カイネの握力が強まった。
彼は私をくるりと自分の方に向けさせた。その顔は冷たい怒りの仮面だった。
「ここにいろ」彼は低く、危険な声で命じた。「ここに立って、セイラの健康を祝して乾杯するんだ。そして、お前が彼女に与えた苦痛に対する、贖罪の杯を飲むんだ」
彼は、濃い赤ワインで満たされた銀のゴブレットを私の手に押し付けた。彼のアルファの命令の力が私にのしかかり、服従を要求する。「飲め。今すぐだ」