話 1
運命の番(つがい)であるアルファ、リアムは、私たちの愛を「月の女神に祝福されたおとぎ話」だと言った。
でも、おとぎ話なんて、すべて嘘っぱちだ。彼には妊娠した愛人がいて、公の場で彼女を「俺の女王(クイーン)」と呼んでいたのだから。
その女は、リアムが私に贈った神聖な「番いの首飾り」を身に着けた自撮り写真を送りつけてきた。群れの仲間たちは、彼の本当の跡継ぎが生まれれば、私は用済みの「血統の問題児」として処理されるだけだと囁き合った。
だから、私たちの記念日に、私は彼に贈り物を渡した。
箱の中身は、離婚届と、私からの公式な「離縁状」。
そして私は、姿を消した。
第1章
マヤ POV:
首筋に触れるネックレスが、氷のように冷たかった。
リアムが「月の女神の涙」と呼んだそれは、夜空をそのまま閉じ込めたかのような、深く青いティアドロップ型のサファイアだった。
「番い」の儀式の日、彼は感情に震える声で私の首にそれをかけ、こう宣言した。「君は俺のものだ」と。誰もがただの人間だと思っていた孤児の私こそ、女神が彼に与えた最大の奇跡なのだと。
初めて会ったときの記憶が、不意に蘇る。もう存在しないはずの腕が、まだ疼くように。彼を見た瞬間、私の世界はぐらりと傾いた。
真冬の嵐が、鬱蒼とした針葉樹林を薙ぎ倒すような香りが感覚を支配し、膝から力が抜けていく。
心臓が肋骨を内側から激しく打ち鳴らし、原始的なリズムを刻んだ。そして私の中で、それまで一度も聞いたことのなかった声――眠っていた私自身の狼の声が、たった一言、所有欲に満ちた言葉を叫んだのだ。
――私のものだ!
世界にとって、私たちはまさにおとぎ話だった。
でも、おとぎ話なんて、すべて嘘っぱちだ。
宝石を親指でなぞりながら、私はクローゼットの床板の下に隠した二台目の携帯に目をやった。彼が追跡できない、安物のプリペイド携帯。彼がその存在すら知らない、人間用のデバイス。
「精神感応(マインドリンク)」。それは「番い」となった者たちの魂を直接つなぐ、神聖で無防備な架け橋。思考や感情が絶え間なく流れ込み、ルナが常にアルファの心を知るための絶対的な信頼の証のはずだった。
けれど、リアムとの間には壁があった。決して突き破ることのできない、滑らかで、丁寧な壁が。彼はそれを、アルファとしての非情な仕事から、人間として育った私の「繊細な心」を守るためだと言った。
今ならわかる。それは、彼に染みついた別の女の匂いを隠すためだったのだ。その匂いはいつも微かで、必死に洗い流されていたけれど、私の狼――十八歳の誕生日に爆発的に目覚めた私の一部――は、それを嗅ぎ分けることができた。安っぽいチェリーブロッサムの香水と、焦燥感の匂い。
アヴァ・新堂の匂いだ。
証拠は、幻視や彼の失言からではなかった。けばけばしく点滅するSNSアプリの画面からだった。私たちの金狼院(きんろういん)一族の中でも人気のインフルエンサーであるアヴァが、ライブ配信をしていた。彼女はスマホに向かって瞬きを繰り返し、フォロワーからのプレゼントに感謝していた。
その時、画面を横切ったユーザーネームが、彼女に数十万円もするバーチャルな「王冠」を贈った。
EmpireWolf。
「あら、私のアルファ」
彼女は勝ち誇った笑みを浮かべ、猫なで声で言った。
「ありがとう。本当に、女王様(クイーン)の扱いをよく分かってる」
全身の血が凍りついた。私の女王(クイーン)。
その数週間後、私は定期検診のために群れのクリニックにいた。私の「特異な血統の脆弱性」を監視するための、リアムが課した儀式の一つだ。待合室にいると、アヴァが産科病棟から出てきた。彼女は、少し膨らんだお腹に所有者のように手を当てていた。
だが、私の息を止めたのは、そのお腹ではなかった。彼女の手首にはめられたブレスレット。銀と月長石でできた繊細なチェーン。金狼院家に代々ルナからルナへと受け継がれてきた古い家宝。リアムが、私たちの公式な記念日のために「修復中」だと言っていた、あのブレスレットだった。
決定的な確証は、一族の晩餐会で得られた。リアムのベータであるマーク・陳が、わざとらしく呂律を回しながらグラスを掲げた。
「我らがアルファに」
マークはしたり顔で言った。
「ご自身の……資産をうまく処理する術を知るお方に。真のアルファとは、務めと愉しみの両立ができるものだ」
何人かの戦士たちがくすくすと笑い、私と、アヴァのために空けられた席とを、面白そうに交互に見ていた。みんな知っていたのだ。彼らは皆、この茶番に加担していて、私だけが笑いものだった。
彼に恋をした瞬間を思い返す。初めての「変身」の夜、骨が砕け、再構成される苦痛の中で、彼は私を抱きしめてくれた。彼の力強いアルファの存在は、私の砕かれた魂を癒す軟膏のようだった。「君は俺が守る」と囁きながら。
はぐれ狼(ローグ)の銀を塗った短剣に斬られ、呪われた金属が血管を焼き、狼の治癒力を妨げた時、彼は長老たちに逆らってまで、自らの掌を切り裂き、命を与える心臓の血を私の唇に流し込んで救ってくれた。
彼は私を救ってくれたんじゃない。
ただ、手懐けていただけだったのだ。
目を閉じると、儀式での誓いの言葉が心に響く。月の女神の前で交わした約束。「もしあなたが私に嘘をついたら、リアム・金狼院」私は彼の手を取り、そう囁いた。「この絆の心を壊すような、本当の嘘をついたら、私は月の女神に私たちの繋がりを断ち切ってくれるよう願います。そして、あなたの人生から、まるで存在しなかったかのように消え去ります」
カッと目を見開く。決心はついた。
私はプリペイド携帯を手に取り、記憶していた番号に電話をかけた。電話の向こうの声は、電子的に歪められていた。
「フェニックスだ」
「こちらナイチンゲール」
私は落ち着いた声で言った。
「計画を発動する。金狼院一族の次期ルナ、マヤ・金狼院を消してほしい」
一時間後、リアムが帰ってきた。彼の体からは、松と冬の香り、そして、微かに残る別の女の匂いがした。
「はぐれ狼(ローグ)との小競り合いがあった」
彼は低い、疲れた声で言った。私と目を合わせようとはしない。彼は私の化粧台にあるものと同じベルベットの箱を開けた。中には「月の女神の涙」が入っていた。「記念日のために、長老たちに改めて魔法をかけてもらった。君を守るためだ」
嘘。完璧で、美しい嘘。
私は脆い微笑みを浮かべた。その夜、彼が眠っている間に、私は同じ形の空箱を用意した。その中に、二つの書類を入れた。一つは、人間の裁判所に提出するための、署名済みの離婚届。もう一つは、私たちの一族の古いインクで書かれた、正式な「離縁状」。
この紙は、彼にとってはただの象徴に過ぎない。
本当の離縁には、彼の顔を見て古代の言葉を告げる必要があることを知っていた。その最後の、耐え難い儀式をやり遂げる力があるかどうか、私には分からなかった。でも、これは……これが最初の一撃になる。
翌朝、私はそれを彼に手渡した。
「記念日おめでとう、愛しい人」
私は甘い声で言った。
「二週間は開けないでね。サプライズにしたいから」
話 2
マヤ POV:
リアムはどんな問題も、金で解決しようとする。真実から目をくらませるほど壮大な見世物を作り出すことで。だから彼は、アルファの特権を使って、その日のUSJを丸一日貸し切りにした。私だけのために。誰もいないテーマパークが、ただ待っている。どんな女の子でもうっとりするような、壮大でロマンチックなジェスチャー。
二年前の私なら、それで落ちていただろう。
今日、私の心は胸の中で氷の塊と化していた。私は微笑み、笑い、誰もいないホグズミード村の通りを歩きながら、彼に手を握らせた。すべては演技。最後の幕。頭の中では、「フェニックス計画」のチェックリストを何度も確認していた。新しい身分証、確保済み。資金、送金済み。脱出ルート、確認済み。
「ほら。こっちの方がいいだろ?」
彼は私の耳元で囁いた。彼の温かい息が耳にかかる。
「君と僕だけ。群れの仕事も、邪魔者もいない」
若いカップルが、恐る恐る私たちに近づいてきた。彼らの匂いから、提携している小さな群れの人狼だとわかる。二人の目は、畏敬の念で大きく見開かれていた。
「アルファ・金狼院?ルナ・マヤ?」
若い男の方がどもりながら言った。
「お邪魔して申し訳ありません。でも…もしよろしければ、写真を一枚お願いできませんか?お二人の物語は…僕たちみんなに希望を与えてくれるんです。女神様が不思議な方法で働かれることの証明です」
リアムの腕が私の腰に強く巻き付き、写真のために私を抱き寄せたのを感じた。若い女狼がスマホを構える中、私は無理に笑顔を作った。でも、私の意識はすべて、その匂いに集中していた。リアムの支配的な松と冷たい山々の空気の香りの下に、アヴァのむせ返るような甘い匂いがまとわりついていた。完全には洗い流せていない。彼の高価なカシミアのセーターの繊維に染みつき、裏切りの亡霊が私の頬に押し付けられている。彼の近くにいると感じるはずの、魂の奥深くまで染み渡るような温かさの代わりに、吐き気の波が押し寄せてきた。それは「発情期(ヒート)」の倒錯。番いの温もりが私の血を燃え上がらせるはずの場所に、幻の冷たさが広がっていた。気分が悪かった。
「もちろん」
リアムは、世間に向ける蜂蜜のように滑らかな声で言った。彼は完璧で、慈悲深いアルファだった。
私たちが歩き出すと、彼の目がどこか遠くを見ていることに気づいた。彼はこめかみに触れていた。精神感応(マインドリンク)を使っている合図だ。精神感応は、人狼同士のプライベートなテレパシー会話だ。アルファとその選ばれたルナの間では、それは開かれた扉、思考を共有する空間であるべきだった。何ヶ月もの間、彼のそれは私に対して閉ざされていた。
「大丈夫?」
私は自分の役を演じながら尋ねた。
「マークからの報告だ」
彼は私たちのリンクを通して返信してきた。その思考はぶっきらぼうで形式的だった。彼の口調は、魂の奥深くでの親密さのためにあるべき神聖なチャンネルを、業務連絡のために使うという冒涜だった。
「国境警備だ。君が心配するようなことじゃない」
嘘。彼の高級サングラスの反射にそれが見えた。彼は遠い国境のことなど考えていない。彼はスマホのフィードをスクロールしていた。アヴァ・新堂のインスタグラムのページを。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
私は彼の手を振りほどきながら言った。
「すぐ戻るから」
私はお手洗いには行かなかった。空っぽのお土産屋に駆け込み、プリペイド携帯を取り出して、同じアプリを開いた。アヴァがライブ配信をしていた。パークの中から。
「みんな、信じられないと思うけど」
彼女はそう言って、豪華で誰もいないVIPラウンジをカメラで映し出した。一時間前にリアムと私がいた、まさにその場所だ。
「私のミステリー・アルファって、本当に最高。今日は私のためにVIP体験を丸ごと予約してくれたの。すごく甘やかしてくれる」
指が震えた。彼は私たちを天秤にかけていた。同じ日に、同じパークで。その傲慢さには息を呑む。
バーチャルギフトの嵐が彼女の画面を埋め尽くした。一つの名前が、何度も何度も際立っていた。EmpireWolf。彼は私のすぐ隣に立ちながら、彼女にギフトを送っていたのだ。
そして、最後の一撃。ライブチャットに、EmpireWolfの認証済みアカウントからのコメントが現れた。彼女の何千人ものフォロワー全員が見ている前で。
「俺の女王(クイーン)だけが、最高に値する」
スマホが手から滑り落ちそうになった。世界がその六文字に収束していく。秘密でも、囁きでもない。公の宣言。彼女への。私の女王(クイーン)。その言葉は、静かで空っぽの店内に響き渡り、かつての私という少女への死刑宣告となった。そして私の奥深くで、彼の血統よりもはるかに古く、力強い血筋の、古代の冷たい怒りが目覚め始めていた。
話 3
マヤ POV:
リアムが私を見つけた時、私は誰もいないダイアゴン横丁のセットの真ん中で凍りついていた。彼は後ろから私を腕に抱き、肩に顎を乗せた。
「ここにいたのか」
彼の深い声が私を震わせた。彼は私の首筋に鼻をこすりつけた。彼の力強いアルファの香り、冬の空気と松の香りが混じり合った、私を落ち着かせ、所有権を主張するための香り。でも、それは汚されていた。
「緊張しているみたいだね。圧倒されちゃったかな?」
彼がたった今しでかしたことに全く気づいていないその様子は、驚異的ですらあった。私は彼の腕の中で向き直り、表情を平静に保つよう努めた。
「考えてたの」
私は静かな声で言った。私は彼を試すことにした。最後にもう一度だけ。
「リアム、月の女神は、運命の番(つがい)を裏切ったアルファに何をすると思う?」
彼のハンサムな顔が硬くなった。彼のアルファの血統の証である金色の瞳が、正義の怒りに燃えた。
「そんなクズは呪われるだろうな」
彼は絶対的な口調で言った。
「彼の狼は彼に牙を剥く。女神の最も神聖な贈り物を裏切った罰として、内側から魂を食い尽くすだろう。絆そのものが、快楽ではなく、苦痛を伝える導管になる。我々の種族に対する最高度の反逆罪だ」
その偽善はあまりにも深く、あまりにも完璧で、冷たい静けさが私を包み込んだ。彼はただの嘘つきではない。自分自身の正義を信じ込んでいる怪物だ。
ちょうどその時、彼の目が一瞬、焦点を失った。精神感応(マインドリンク)だ。彼の表情は、演技じみた献身から、本物の切迫感へと変わった。
「すまない、愛しい人」
彼は引き締まった声で言った。
「マークからだ。強力なはぐれ狼(ローグ)が、我々の領土のすぐそばで目撃された。行かなければ。今すぐに」
彼は私に素早く、力強いキスをした。私たちには決して訪れない「後で」の約束。彼は長い脚で地面を蹴り、走り去った。群れを守るために駆けつける、完璧なアルファ。
でも、私は彼がどこへ向かっているのか知っていた。
私は群れのシャトルには戻らなかった。パークの正面玄関から出て、人間のタクシーを拾い、こう言った。
「あの黒い防弾仕様のSUVを追ってください」
運転手は奇妙な顔をしたが、言われた通りにした。リアムの車は領土の境界線には向かわなかった。まっすぐ都心へと向かい、洗練された近代的なマンションの前で停まった。その物件が、金狼院一族の広大な不動産ポートフォリオの一部であることを私は知っていた。
私は運転手に、通りの向かいに停めて待つように言った。長く待つ必要はなかった。
十分後、リアムとアヴァが建物から出てきた。二人は笑っていた。彼はさりげなく彼女の肩に腕を回していた。彼女は彼を見上げ、その顔は勝利に輝いていた。
彼は大通りからは見えないが、私の視線からは丸見えの車の側面に彼女を追い詰めた。彼の手が彼女の髪に絡みつき、彼は彼女にキスをした。それは優しくも愛情深くもない。深く、独占的で、飢えたキス。公然の所有宣言だった。
そして二人はSUVの後部座席に乗り込んだ。スモークガラスが彼らを視界から隠したが、やがて車は一定の、紛れもないリズムで揺れ始めた。
私は黄色いタクシーの後部座席に座り、私の結婚の象徴である、力強いアルファ、リアム・金狼院が、白昼堂々、妊娠中の愛人を抱くのを見ていた。私たちが互いの魂を誓い合った神聖で純粋な儀式が、遠い、笑えるような夢のように感じられた。私の内なる狼、純粋な本能と忠誠心の生き物は、心の奥で低く、殺意に満ちた唸り声を上げていた。外に出たがっていた。引き裂き、ずたずたにしたがっていた。
運転手は、番いのことも、アルファのことも、壊れた誓いのことも何も知らない、親切そうな顔をした人間の男性で、黙ってティッシュの箱を後部座席に差し出してくれた。でも、私は泣かなかった。私の心は、石に変わってしまったようだった。