話 2
僕は恋をしたことが無い。
特に好きなアイドルとか女優もいない。
高校進学に当たっての目標は、初恋して彼女を作り、青春を謳歌する事!
ついでに、親孝行のため卓球部に入る予定。
両親とも卓球部上がりで、卓球繋がりから恋愛結婚。
僕にも中学に入る時、卓球部に入ってほしいと頼まれたが、反抗期だった僕は趣味の囲碁将棋部に入部した。
高校進学が決まって、反抗期も終わったのか『高校からでも良いから卓球を始めてほしい』と両親に再度頼まれ、親孝行精神に目覚めた僕は卓球部に入る予定にしたんだ。
貯めていた小遣いをはたいて美容院に行き、バッチリ髪型をキメて高校デビューだぜ!
「キミ、絶対モテるよ。私が保証する! また来てね☆」
理容師のおねーさんの太鼓判もあって、自信満々!
入学式で、ザッと新入生を見回してみたが、髪型をバッチリキメてる男子は居ない。
勝った! モテ期到来の予感!
校長の長ったらしい話にウンザリしつつも入学式が終わり、キャンパスには新入部員を獲得しようと、たくさんの部活動が縁日の屋台のようにアピールしていた。
4月7日・月曜・晴れ。
桜は、もうほとんど散ってしまっている時期だけど、柔らかで暖かい日差しが心地良い。
今日は入学式だから、上級生は休みだ。
ま、親孝行のためにも卓球部に入る約束したからな。
卓球部、卓球部‥‥と、あった。
すでに新入生が数人並んでるな。
卓球って人気あるんだろうか?
室内競技で運動音痴な僕でも簡単に出来そうだよな。
「はい、次!」
あ、いつの間にか僕の番だ。
って、受付の女子、メッチャ可愛い!‥‥セーラー服も似合ってる。
何より目を引くのは巨乳。
そりゃ、僕も男だからな‥‥嫌いじゃない。
というか‥‥好きだ。当たり前だよな。
こんな人と初恋できたらいいかもなぁ‥‥。
もしかして、この先輩目当てで並んでたのかも知れないな。
「ボケッとすんな! 次、名前は!」
って、可愛いけど口わりーし、キツイな。
「あ、実矢乃真和です」
「卓球経験は?」
「無いです」
「他のスポーツの経験は?」
「無いです」
「はぁ‥‥なんで【ウチの卓球部】に来たの?」
溜息を吐かれてしまった。
ウチの卓球部って‥‥何か特別なのか?
公立高校だけどな。
「両親が卓球やってて、親孝行に卓球をしようかと‥‥」
「ふーん、親孝行とは殊勝じゃない。でもアンタ、卓球ナメてるでしょ。顔に書いてあるわ!」
なんだよ、いきなり決めつけて‥‥なんかムカツク先輩だなぁ。
「あー。まあ、お遊びみたいなもんですよね?」
つい、カチンと来て挑発的な言葉が出た。
僕の悪い癖だ。
「‥‥今、なんつったッ!?」
なんか、ゴゴゴ‥‥って音を立てそうなくらい怖いオーラを放ってる。
「え‥‥っと、卓球ってお遊びみたいなもんですよね‥‥ですか?」
「マジで言ってんのかコラ! 喧嘩売ってるなら買うぞッ!」
ちょ、マジ怖ぇ‥‥可愛いけど目付きが尋常じゃない。
「え。いや、そんなつもりは‥‥」
「卓球は立派なスポーツよ! オリンピック種目にもなってる。そんな事も知らないのッ!?」
「あ、ごめんなさい‥‥」
「それに、なんだその頭! カッコつけてるつもりか!? 卓球は、チャライ気持ちで出来るほど甘いスポーツじゃないッ!」
「あぅ‥‥」
完全に気圧されて言葉が出ない。
「どうしても入部したいなら、明日丸坊主にして来い! そしたら仮入部を認めてやる」
「え?! 髪型と卓球って関係あるんスか?」
「高校球児を見ろ。スポーツに賭ける高校生は、丸坊主って相場が決まってんのよ! 嫌なら帰れッ!」
「え、いや。全員が丸坊主じゃないッスよね? さっきまで受付してたヤツらだって普通の髪型でしたし‥‥」
「グダグダ言うな! オマエには丸坊主にするくらいの覚悟がなきゃ、卓球なんて出来ないってんのよッ!」
マジかよ‥‥せっかく美容院に行ってキメきたのに、丸坊主とか有り得ないぜ。
やめやめ、両親には悪いけど、卓球部は無理だな。
「帰ります‥‥」
踵を返した僕に。
「フン、根性ナシが」
と、捨て台詞を吐いた女先輩。
ムカツク‥‥いくらなんでも横暴過ぎるよな。
話 3
他の部活を覗く気分にもなれず、そのまま僕は帰宅した。
30年ローンで二階建ての一軒家‥‥一人っ子。
二階の自室で入学資料の入ったカバンを放り出し、学ランをハンガーにかけて、セミダブルのベッドに大の字で寝転がる。
ほとんど使っていない勉強机と古いノートパソコン、高校教材。
漫画やラノベ中心の小さい本棚‥‥中学の教科書は捨てた。
あとはテレビ、ブルーレイレコーダー、ゲーム機、将棋盤、囲碁、エアコン。
壁紙は白で、グリーンの遮光カーテン。
スマホを確認してSNSやメールの返事を出す。
そのまま、ウトウトし始めた所で。
「真和ー、御飯よー」
母さんの呼び声に目を覚ます。
「はーい」
階段を降りてダイニングへ。
「おう、真和。これ、入学祝いだ」
「親父、今日は早いな‥‥ありがとう。開けてもいい?」
「もちろんだ」
プレゼントの包装紙を剥がすと‥‥。
「あー‥‥卓球の‥‥ラケット、だよね。これ」
「おう。ペンとシェーク両方買ってきたから、使いやすい方を使うといい。ラバーも結構イイヤツなんだぞ」
「お母さんからは‥‥はい、これ」
ニコニコ笑顔の両親に嫌な予感しかしない‥‥。
「あ、開けるね‥‥」
恐る恐る包装紙を剥がすと‥‥卓球のラケットの絵が描かれた箱。
中身は‥‥やっぱりピンポン球だった。
「ピン球ってのは消耗品だが、1個100円前後するんだぞ」
10ダース=120個‥‥1万2千円!?
「試合用の球になると300円以上するな」
マジかよ!?
めっちゃ言い出しにくいじゃねーか。
‥‥でも、ここは、キッパリ言わないとな。
「親父、母さん‥‥ごめん。僕、卓球部には入らない事にしたんだ‥‥」
「なんでだ!? 入るって約束してくれたじゃないか」
「そうよ。お母さんも真和と卓球するの楽しみなのよ?」
「なんか仮入部の受付で、丸坊主にして来いって言われてさ‥‥せっかく美容院に行って髪型キメたんだぜ? ごめんな」
椅子に座ったままだけど、テーブルに手をついて頭を下げた。
「うーん、そういう事なら仕方ないかしらねぇ‥‥?」
困ったように親父を見る母さん。
「いや、そんな理由じゃ納得できんな。俺が抗議に行ってやる!」
「貴方、短気を起こして喧嘩はしないでね?」
親父は気が短い所があって、怒ると怖い。
基本的には所謂『いい人』なんだけどな。
「分かってる。明日は早退して、学校に抗議に行ってやるから、真和は校門で待ってろ、な?」
「ん‥‥うん」
とりあえず、頷くと。
「さあさ、御飯が冷めちゃうわ。頂きましょう♪」
「おう!」
「いただきます」
こうして、僕の高校生活が始まった。