話 2
東雲 暁詩 POV:
「嫌よ」
その言葉は静かだったが、私たちの間に重く、そして決定的に響いた。
東雲家の誰もが、私が腎臓を提供すると期待していた。
それが私の義務であり、贖罪だと考えていた。
私に腎臓が一つしか残っていないことを、彼らは知らなかった。
その秘密は、私の腹の底で冷たく硬い石になっていた。
私が父の命を密かに救い、その手柄も、栄光も、それに伴うすべての愛も、杏奈に盗まれて以来、五年もの間、たった一人で抱えてきた真実だった。
樹の顔が歪んだ。
まだ怒りではない。
それは深く、深刻な失望。最後の希望が今まさに消え去った男の顔だった。
家族の反応は、それよりずっと容赦なかった。
「お前が断ったと樹君から聞いたわ。私たちがどれだけお前に尽くしてきたと思ってるの!」
母が金切り声を上げた。普段は冷静なその顔が、怒りで歪んでいた。
「杏奈はお父様の命を救ったのよ!自分の体の一部を差し出して!それなのに、お前はあの子に同じこともしてやれないの?この恩知らずで、自分勝手な子!」
真実を伝えようと口を開きかけたが、彼らは聞く耳を持たなかった。
父は険しい顔で母の隣に立っていた。
彼の体内で今も機能している、私が彼に与えた腎臓は、彼らが見ようとしない犠牲の、静かな証だった。
「出ていけ」
父が言った。その声は平坦で、温かみの欠片もなかった。
「家族の一員でいる気がないなら、この家にいる資格はない」
私は追い出された。
まただ。
その夜遅く、樹が空っぽのアパートの階段で私を見つけた。
夜の冷気が骨身に染みたが、ほとんど感じなかった。
私はもう、麻痺していた。
「選べ、暁詩」
彼は疲れ果てた声で言った。
もはや約束も、愛の告白もなかった。
ただ、生々しく醜い最後通牒だけがあった。
「妹か、お前か」
奇妙なほどの穏やかな感覚が、私を包み込んだ。
私は死にかけている。
私の体を静かに蝕んできた珍しい変性疾患は、進行を早めていた。
医者からは数ヶ月、もって一年だと。
もう、どうだっていいじゃないか。
「わかった」
私は、自分の未来と同じくらい空っぽな声で言った。
「そうするわ」
樹の頭が勢いよく上がった。
驚き、そして圧倒的な安堵の波が彼の表情を洗い流した。
「本当か?暁詩、本気で言ってるのか?」
彼は婚約破棄の書類を粉々に引き裂き、私たちの壊れた約束の紙吹雪を地面に舞わせた。
「行こう」
彼は私を立ち上がらせながら、切迫した様子で言った。
「病院へ。今すぐ」
両親は既に病院にいて、歩哨のように杏奈のベッドの周りをうろついていた。
私を見ると、彼らの顔には疑念と必死の希望が入り混じっていた。
「同意書にサインしろ」
父がクリップボードを私に突きつけながら要求した。
彼の指は震えていた。
彼は私を信用していなかった。
私が土壇場で裏切ると思っていたのだ。
私は一言も読まずに自分の名前をサインした。
その時になってようやく、彼らの肩から緊張が解け始めた。
「ようやく大人になったな、暁詩」
父は、ぎこちなく、見慣れない愛情を込めて私の肩を叩いた。
「正しいことをするんだ。心配するな、お母様と弁護士にはもう話してある。遺産のほとんどは、もちろん犠牲になった杏奈のものになるが、お前のこともちゃんと面倒見るから」
「いらないわ」
私は静かに言った。
「全部、あの子にあげて」
母は鼻で笑った。
「馬鹿なこと言わないで。何を言ってるの?」
私は答えなかった。
めまいの波が押し寄せ、明るく照らされた病院の廊下の輪郭がぼやけた。
私の心は五年前、別の病院、別の手術へと飛んだ。
杏奈が私の朝のコーヒーに薬を盛り、父の移植手術の日に寝過ごさせたあの日。
彼女が私の代わりに行った、と彼らは言った。
彼女は英雄として現れ、腹部には手術でわざと作られた、見せかけの傷跡をその犠牲の証としていた。
数時間後、私が予約されていた安っぽいビジネスホテルの一室で、ぼんやりと混乱しながら目を覚ましたときには、物語は既に固まっていた。
私は、死にゆく父を最も必要とするときに見捨てた、自己中心的な娘だった。
彼女は、何年にもわたって、じわじわと、陰湿に、彼らを私に敵対させた。
私が差し伸べたどんな小さな親切も、注目を集めるための策略だと捻じ曲げられた。
どんな功績も、過小評価された。
私は自分の家族の中で幽霊となり、決して起こらなかった裏切りを常に思い出させる、失望の存在となった。
そして今、彼らは皆、彼女の周りに集まっている。
母は彼女の髪を撫で、父は彼女の手を握り、樹は、私の樹は、かつては私だけに向けられていた優しさで彼女を見つめている。
私は部屋の隅に一人で立っていた。
部外者であり、目的を達成するための手段。
彼らは私を見ていない。
彼らはただ、私が運ぶ臓器、彼らが心から愛する娘を救うための鍵しか見ていなかった。
話 3
東雲 暁詩 POV:
目の奥が、抑えることを覚えたいつもの痛みで熱くなった。
私は踵を返した。
彼らの小さな家族の輪が放つ、息の詰まるような温かさに窒息させられる前に、逃げ出したかった。
「暁詩、待って」
樹だった。
彼はドアの前で私を止め、その表情は読み取れなかった。
「杏奈がお前の研究論文を必要としてる」
彼は目を合わせずに言った。
「変性細胞の再生に関するやつだ。卒業論文の締め切りが近いんだが、あいつの体調じゃ…仕上げられない」
苦く、酸っぱい味が口の中に広がった。
腎臓だけじゃなかった。
婚約者だけじゃなかった。
彼らは私の頭脳も欲しがっていた。
物心ついた頃から、私は杏奈のゴーストライターだった。
彼女のエッセイを書き、プロジェクトをこなし、オンライン試験さえも私が受けた。
彼女は奨学金、称賛、誇らしげな両親からの賛辞といった報酬を享受し、私は見えない存在のままだった。
盗作は、私の業績の上に築かれた彼女の学歴全体の土台だった。
「お願いだ、暁詩」
母が駆け寄ってきて、そう口を挟んだ。
彼女は私の腕に手を置いた。その感触は、懇願と命令が奇妙に混じり合っていた。
「ただの論文じゃない。あなたの妹は、これまで本当に大変な思いをしてきたのよ。名誉卒業する資格はあの子にあるわ。それくらい、あなたにできる最低限のことでしょう」
最低限のこと。
私の命を差し出した後で。
私は無理に笑った。脆く、ひび割れたような笑顔だった。
「もちろん。杏奈のためなら、何でも」
もう一つ犠牲が増えたところで、何だというのだろう。
私はもうすぐいなくなる。
その時、支えを失った彼女はどうなるのだろうか。
その考えが、暗く、厳しい満足感をほんの少しだけもたらした。
「ありがとう」
樹が安堵のため息をつき、肩の力が抜けた。
彼はポケットからUSBメモリを取り出した。
私のUSBメモリ。
私の生涯の研究成果がすべて入っているものだ。
彼が私のアパートから盗んだに違いない。
彼らは、すべてを計画していたのだ。
枕の玉座に座る杏奈は、私に小さく、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
それは私がよく知っている表情だった。
勝者の顔だ。
樹は彼女のそばに戻り、身をかがめてその額にキスをした。
その仕草はあまりに親密で、優しさに満ちていて、まるで物理的な一撃のように感じられた。
熱く、猛烈な怒りが胃の中で渦を巻き、叫び出し、この無菌室をめちゃくちゃに引き裂きたいほどの衝動に駆られた。
だが私は、これまで他のすべての不正義、すべての侮辱、すべての奪われた人生の一部を飲み込んできたように、それも飲み込んだ。
私が部屋からそっと抜け出したことに、誰も気づかなかった。
彼らにとって、私は既に幽霊だったのだ。
アパートに戻り、私は掃除を始めた。
本を段ボールに詰め、古い写真を捨て、ベッドからシーツを剥いだ。
自分の痕跡をすべて消し去り、彼らが悼む、あるいはもっとありそうなことに、都合よく忘れるためのものを何も残したくなかった。
鋭い、刺すような痛みが腰を走り、私は息を呑んで壁に手をついた。
私の体は、今や急速に衰弱していた。
疲労は、振り払うことのできない重いマントのようだった。
私は本当に死ぬんだ。
その考えは、もはや恐ろしくはなかった。
ただの事実だった。
突然、ドアを激しく叩く音がして、私は飛び上がった。
ドアを開けると、そこに立っていたのは樹だった。その顔は冷たい怒りの仮面のようだった。
彼の後ろには両親が、そしてその間には、母の肩に顔をうずめてヒステリックに泣きじゃくる杏奈がいた。
「どうしてこんなことをした!」
樹は怒鳴りつけ、私を突き飛ばしてアパートに入ってきた。
彼はスマホを私の顔に突きつけた。
画面には学術系の掲示板が表示されており、杏奈の名前で私の論文が投稿され、コメント欄は罵詈雑言で埋め尽くされていた。
「お前の指導教官に言ったんだろ」
彼は怒りに震える声で非難した。
「あいつが盗作したって、みんなに言いふらしたんだ。お前は杏奈を破滅させるつもりか!」
杏奈の泣き声はさらに大きくなった。
「私が詐欺師だってネットに書いたのよ」
彼女は泣き叫んだ。
「嘘つきだって!もうみんなに嫌われちゃった!」
「心配しないで、可愛い子」
母は杏奈の頭越しに私を睨みつけながら、優しく言った。
「あの子に謝らせるから。ちゃんと元通りにさせるから」