話 2
浅田梓紗 POV:
嫉妬?
私が?
私は, この男のために, どれだけの時間を無駄にしてきただろう.
私の愛は, 彼にとって, ただの道具でしかなかったのだ.
「あなたは, 私の心を踏みにじった」
私の声は, 震えていた.
怒りではなく, 悲しみで.
結実が, 海翔の腕にしがみついた.
「梓紗さん, もう諦めてください」
彼女は, 勝利に酔いしれた顔で言った.
「海翔は, もうあなたのものじゃないわ」
私は, その言葉に何も感じなかった.
ただ, 早くこの場を立ち去りたいと願った.
海翔は, 私の手首を掴んだ.
「梓紗, 君は僕の婚約者だ! 彼女の連絡先を消せ! 」
彼の目は, 狂気じみていた.
私は, ため息をついた.
こんな男と結婚するはずだったなんて.
私は, 彼の要求通りに携帯を取り出し, 結実の連絡先を削除した.
彼らが, これ以上私の人生を汚すのはうんざりだった.
「これで満足? 」
私は尋ねた.
海翔は, 私の顔をじっと見つめた.
「梓紗, 君は僕を愛しているはずだ」
彼は, 自分に言い聞かせるように言った.
「僕たちは, 明日から一緒に暮らそう」
その言葉に, 結実の顔が輝いた.
「海翔! 本当に! ? 」
彼女は, 喜びを隠せないようだった.
私は, 彼らの戯言に耳を傾ける気力もなかった.
もう, 私は独りではない.
この世には, 私を傷つける者も, 私を裏切る者もいない.
私は, 再び森山さんに連絡を取った.
「あの物件, すぐにでも売却を進めてほしいの」
私の声は, 決意に満ちていた.
森山さんは, 私の言葉に驚いたようだったが, すぐに承諾してくれた.
私の持つ莫大な不動産資産は, 驚くほどの速さで売却された.
現金化された資金は, 全て海外の口座に送金された.
私がこの国を離れる準備は, 着々と進められていた.
海翔は, 私が彼の言葉に従って, 彼のもとに戻ってくると思っていたのだろう.
彼は, 私を完全に無視した.
しかし, それは私にとって, 何の苦痛でもなかった.
むしろ, 彼がいなくなることで, 私の心は解放されていった.
出発の日.
私は, スーツケースに荷物を詰めていた.
母が遺した, ガラス細工のオルゴール.
父と母と, 三人で写った家族写真.
それだけが, 私の心の支えだった.
「梓紗! 」
突然, ドアが乱暴に開かれた.
海翔が, 息を切らせて立っていた.
彼の目には, 怒りと焦りが混じっていた.
「何をしているんだ! ? 」
彼は叫んだ.
「僕を裏切るつもりか! ? 」
私は, 彼の言葉に何も感じなかった.
「裏切ったのは, あなたでしょう? 」
私の声は, 冷たかった.
海翔は, 私の言葉に激昂した.
「この家は, 僕のものだ! 君は僕から何も奪えない! 」
彼は, 私に詰め寄った.
私は, 冷静に彼を見つめた.
「この家は, もう私の名義じゃないわ」
私の言葉に, 海翔の顔から血の気が引いた.
彼は, 私が彼から全てを奪い去ったことに気づいたのだ.
「嘘だ! そんなはずは…」
彼は呟いた.
「あなたが欲しがっていたものが, これだったの? 」
私は, 母のオルゴールを手に取った.
「これを見ても, 何も感じないのね」
海翔は, 私の手からオルゴールを奪い取った.
「こんなガラクタ, 何の価値があるんだ! 」
彼は, オルゴールを床に叩きつけた.
ガラスの破片が飛び散り, オルゴールの優しい音色が途切れた.
私の心臓が, 締め付けられるように痛んだ.
母の形見が, 彼の手で壊された.
「やめて! 」
私は叫んだ.
彼の暴挙に, 私の神経系の持病が反応した.
激しい光と音, そして, 心の痛み.
全身が, けいれんし始めた.
海翔は, 私の苦しみを嘲笑うかのように, 薬の瓶を手に取った.
「この薬が欲しいなら, 僕の言うことを聞くんだ」
彼は, 冷酷な目で私を見下ろした.
「この不動産の譲渡契約書に, サインしろ」
彼の言葉は, 私の耳には届かなかった.
私の意識は, 薄れかけていた.
私が生きるために, この男の要求を飲むしかないのか.
話 3
浅田梓紗 POV:
私は, 震える手でペンを握った.
この男に, 私の全てを奪われる.
屈辱だった.
しかし, 生きるためには, 他に選択肢はなかった.
私の目の前で, 海翔は満足そうに笑った.
「よくやった」
彼は, 私の頭を撫でた.
その偽りの優しさに, 私は吐き気がした.
私は, 床に散らばったオルゴールの破片を拾い集めた.
母が大切にしていたもの.
私にとって, かけがえのないもの.
母は, 私が生まれてすぐに難病を患った.
その病気は, 遺伝性のものだった.
私が, その病気を引き継いでしまったのだ.
父は, 母の病気に苦しんだ.
彼もまた, 母の死に打ちひしがれた.
私の病気を治すために, 彼は必死に働いた.
しかし, 過労がたたり, 父もまた, この世を去ってしまった.
父は, 私を海翔に託した.
彼は, 海翔が私を支え, 守ってくれると信じていたのだ.
「こんなガラクタ, まだ拾っているのか? 」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
彼は, 私の手の中のオルゴールを嘲笑った.
「これには, 特別な意味があるのよ」
私は言った.
「母が, 私に遺してくれたものだから」
海翔は, 一瞬, 驚いたような顔をした.
しかし, すぐに冷笑に戻った.
「まさか, まだそんなものに執着しているのか」
彼は, 私の手からオルゴールを奪い取ろうとした.
私は, 彼の手を振り払った.
「もう触らないで」
私の声は, 冷たかった.
海翔は, 私の態度に苛立ったようだった.
彼は, 私を寝室へと引きずり込んだ.
「何をしても, 無駄だ」
彼は言った.
「君は, 僕のものだ」
私は, 彼の言葉に鳥肌が立った.
彼の触れる手が, 私を汚しているように感じた.
「やめて! 」
私は叫んだ.
しかし, 彼は私の言葉に耳を傾けなかった.
「明日, この譲渡契約書にサインしてもらう」
彼は言った.
「そうすれば, 君の病気も治してやる」
彼は, 壊されたオルゴールを修復する代わりに, 私にサインを強要した.
私は, もう抵抗する気力もなかった.
ただ, 彼の言う通りにペンを握った.
「愚かな男ね」
私は, 心の中で呟いた.
彼は, 私が既に全ての資産を海外に移管していることに気づいていない.
私がサインした譲渡契約書は, ただの紙切れに過ぎない.
彼が欲しいのは, 私の財産.
しかし, 私は, 彼に何も与えない.
彼は, 私を愛していると嘯いた.
しかし, その言葉は, 全て嘘だった.
「何を考えているんだ? 」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
彼の目には, 欲望の色がはっきりと見て取れた.
「君は, 僕と結婚するんだ」
彼は言った.
「そうすれば, 全て解決する」
私は, 彼の言葉に吐き気がした.
「あなたが欲しいのは, 私の財産だけでしょう? 」
私は尋ねた.
海翔の顔が, 怒りで歪んだ.
「僕が君を愛しているのは, 当たり前だろう! 」
彼は叫んだ.
しかし, 彼の言葉には, 何の感情もこもっていなかった.
彼は, 私を抱きしめた.
その温もりは, 私にとって, ただの不快感でしかなかった.
「君が僕を怒らせたからだ」
彼は言った.
「君が僕の言うことを聞かないからだ」
私は, もう何も感じなかった.
彼の言葉は, 私の心を通り過ぎていった.
過去の記憶が, 私の脳裏を駆け巡った.
彼が, 私に優しく接していた頃の記憶.
あの頃の彼は, どこへ行ってしまったのだろう.
いや, 最初から, あの頃の彼など存在しなかったのだ.
彼は, 最初から, 私の財産を狙っていた.
私の病気を, 利用していたのだ.
「梓紗, 僕の言うことを聞くんだ」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
「さもないと, どうなるか, 分かっているだろう? 」
彼の言葉は, 私を奈落の底へと突き落とした.
私は, 彼の支配から逃れる術はないのだろうか.
私は, 必死に抵抗した.
「やめて! 私を解放して! 」
私は叫んだ.
しかし, 彼の力は, 私よりも強かった.